異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

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第5話 追放の勇者

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翌朝、村の広場に向かうと、村人たちの視線がいつもと違う色をしていた。  
恐怖ではない。敬意とも違う。どこかざわつくような、落ち着かない気配。  

「リアム様、王都から使者が」  
「王都?」  
「勇者の使いだそうです」  

胸騒ぎがした。その言葉の裏には、ひとつの単語が確実に潜んでいる予感がした。  
勇者。  
誰もが英雄と呼ぶ存在。けれど昨日、俺が配信した“魔峰ウサギ捕獲”は、どうやらとんでもないところまで届いていたらしい。  

ルミナスが呑気に回転する。  
『王都関係者からメール……いえ、“魔導通信文”が届いています! タイトルは“王国勇者部隊からの要請”です!』  
「魔導通信文ってお前、どういうチャンネルで受け取ってんだよ……」  
『ネットワークが勝手に同期しました!』  

やれやれと思いながらも、村の入り口へ。  
そこには磨き上げた鎧を着た男が馬に跨り、俺を見つけると低い声を出した。  

「君が……配信の勇者リアムか」  
「違う。俺はただの村人だ」  
「そう謙遜するな。王国では君の活躍が日々放映されている。国王陛下も興味を持っておられる」  

ルミナスが横で興奮して点滅している。  
『王都公式コラボのお声かけ!? ご主人さま、これ受けるべきです!』  
「そんな軽い話じゃ──」  

勇者の使いは、言葉を遮るように巻物を差し出した。  
「ここに正式な招待状がある。だが……気をつけろ。王国の勇者は今、君を敵視している」  

「……はい?」  

「彼は“光の勇者アルト”と呼ばれる者だ。十年前、世界を救った英雄だが、今では己の信仰心に囚われ、他者の力を“異端”と見なすようになっている。君の配信を見て怒り狂っているのだ。“偽勇者”だと」  

ルミナスの光が一瞬暗くなった。  
『まさか、バズりすぎの副作用ですね……これは。』  
「お前、他人事みたいに言うなっての」  

そのとき、ルミナスのモニターに異常通知が浮かんだ。  
『王都配信管理局より、緊急停止申請。ご主人さまのチャンネルに対し“虚偽英雄行為”の疑いで審査要請です!』  

「……うわ。また炎上系の展開かよ!」  

使者の男は真面目に言葉を重ねた。  
「王都では勇者アルトによる告発動画が流れている。『自称村人リアムは禁忌の精霊魔導を使って人心を惑わせている』と……」  

ルミナスが目を丸くしたような音を出す。  
『炎上タグ“偽勇者”急上昇中です! コメントも荒れてます!』  

【本物の勇者に喧嘩売った村人】  
【リアムって何者?力の出どころは?】  
【千年前の魔王の転生体説】  
【やば、これは燃える展開】  

「……こうして見ると、コメントって残酷だな」  
『でも、信じて応援してくれる人もいます。ご主人さま、退会しなくていいです、戦いましょう!』  

「いや、俺、戦うつもりとかないからな」  

そう言いながらも心の奥で、何かが熱く動いた。  
“勇者”を名乗る誰かが、人を裁き、自分が正義であると宣言する。  
胸の奥で、昨日のミリアの言葉が蘇る。  
――あなた、まだ本当の“力”に気づいていないでしょ。  

もしかしたら俺は本当に、何かを変える力を持っているのかもしれない。  

村に戻ろうとしたとき、空の方で鳥の群れがざわめいた。  
次の瞬間、光の柱が天から降り注いだ。中心に立つ金髪の男が、空中に足を踏み出す。  
聖光をまとった長剣、白銀の鎧、背中で舞いあがる羽――まさに“勇者”のテンプレートだった。  

「貴様がリアムか」  
声が響くだけで圧迫感がある。  

「俺に何か用ですか、勇者さん」  
「用だと? 貴様のような偽りの者が大衆を惑わせ、神の名を穢す。捕縛させてもらう」  

ルミナスが焦燥の声を上げた。  
『マズいです! 王都がこの映像を中継しています! 生放送中に襲撃なんて……!』  

「ルミナス、切れ!」  
『無理です、強制転送が走っています!』  

つまり、このやり取りは全世界に流れている。  

勇者アルトが剣を振るう。空気が裂け、地面が白く焦げた。  
「光よ、我に従え!」  
光線が走り、木々を焼き払う。  

反射的に俺は腕を上げた。痛みはなかった。  
代わりに、見たことのない魔法陣が空中に展開された。  

『ご主人さま!? それ、発動反応が千年前の魔法体系です!』  
「知らねえよ!」  

光を弾くように陣が輝き、アルトの攻撃を跳ね返した。勇者が驚愕に顔を歪める。  

「貴様……その紋章、まさか“闇王”の……!」  

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなった。  
力が勝手に体の奥で脈動し、世界がスローモーションになる。  
気がつくと、アルトの背後に俺は立っていた。何が起きたのか自分でもわからない。  

「え……?」  

勇者は一歩退き、剣を構え直す。俺の手が彼の肩に触れた瞬間、光の鎧が粉々に砕け、衝撃波が走った。  

見上げると、空にひとすじのひびが広がっている。まるで空間そのものが割れたように。  
アルトはうめき声を上げて後退し、黒い霧のようなものに包まれて消えた。  

『転送……撤退しました! 王都の通信が遮断されました!』  

静寂。  
村人たちも息を呑んで俺を見ていた。誰も言葉を発せない。  

ルミナスが慎重なトーンでつぶやく。  
『配信は……まだ続いています。全世界で同時視聴百万人超え。リアムさん、今……“本物の最強”認定されました。』  

俺はため息をつき、畑の土を握った。  
「最強……ね。そんなもの、望んだわけじゃないんだが」  

『でも、ご主人さま。炎上は鎮火しました。“勇者を退けた男”として称賛コメントばかりです!』  

その中の一つが目に入った。  

【正義を名乗る偽勇者より、リアムの方がよっぽど勇者】  

少しだけ笑みがこぼれた。だが心の奥では、一抹の不安が消えない。  
力を使えば使うほど、この世界がざわめく。  
それは“誰か”が起き上がる前触れのような気がした。  

ルミナスが言う。  
『ご主人さま、王都に記録を確認しに行きましょう。この力の出どころ、私も知っておく必要があります』  

「……ああ。もう逃げても遅い気がするしな」  

配信画面のコメント欄がまだ流れ続けていた。  

【次の配信、王都編!?】  
【バトルもっと見たい!】  
【リアム、がんばれ!】  

俺は小さくため息をつきながら、ルミナスを肩に乗せた。  
「じゃあ次は、王都配信だ。勇者を怒らせたついでに、真実もぶっ壊してやるか」  

その決意とともに、画面の視聴数がさらに跳ね上がっていく。  
配信は止まらない。世界が目を覚ます、ほんの序章だった。
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