異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

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第12話 勇者の血統、覚醒す

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崩壊した王都の影に、まだ煙が残っていた。  
青空は戻りつつあるが、風が吹くたびに灰が舞う。  
人々は再び集まり、壊れた街を修復し始めていた。  
それでも街の空気には、言葉にならない不安が満ちている。  

「アルトはいなくなったのに、どうしてだ?」  
ふと呟いた俺に、レアがゆっくり答えた。  
「人は恐怖を知ってしまったからよ。見えない“力”を信じるようになった分、同じ力を恐れているの。」  

ルミナスが小さく光って言う。  
『ご主人さまの影響もあります。神も王も失った今、世界中の人々は“誰が次に導くのか”を探しているんです。』  
「導くつもりなんか、俺にはないのにな。」  

丘を降りていくと、王都再建のために設けられた臨時の集会所が見えた。  
木製のやぐらの上に立って指揮をとるのは、ギース元団長。  
彼はあの戦いの後、聖騎士団を新たに“再生騎士団”として立て直し、民衆救援に尽力していた。  

「リアム殿!」  
ギースがこちらに気づき、片膝をついて頭を垂れた。  
「あなたのおかげで、王都は滅びずに済んだ。団員たちも洗脳から解放され、再び人として立つことができた。」  
「頭を上げてくれ。俺は何もしてない。ただ壊れたものを止めただけだ。」  

ギースは立ち上がり、苦笑するように息をついた。  
「そう謙遜されるな。あなたは今や民から“再生の勇者”と呼ばれている。」  
「勇者、ね……その言葉はもう重すぎる。」  

周囲の市民たちがざわめく。  
「リアム様だ」「救世の配信者」「英雄さま!」  
正面の仮設スクリーンには、ルミナスが編集した記録映像が流れていた。  
塔の崩壊、アルトとの戦い、人々を救う姿――どれも“勇者”のイメージを強めるものばかりだ。  

『ご主人さま、視聴率が下がりません。世界全体でまだ注目の的です!』  
「……お前が煽ったんだろ、ルミナス。」  
『みんなの希望をつなぐためですよ!』  

そんなやり取りに笑った直後、広場の中心から不自然な風が吹き抜けた。  
視界が揺らぎ、辺りの魔力がざわつく。  
ルミナスが急に警戒音を鳴らす。  
『ご主人さま、強力な波動反応! ……この反応、勇者アルトの魔力波と酷似しています!』  

「馬鹿な、アルトは――」  

叫ぶ前に、広場の石畳が爆ぜた。  
爆風。悲鳴が響く。  
煙の向こうに、ひとりの男が立っていた。  

銀の鎧に、黒く変色した剣。顔の半分には呪印のような傷が走っている。  
「……アルト?」  
違う。だが、その面影が確かに残っている。  
男は焦点の定まらない目でこちらを見た。  

「俺の、兄さん……?」  

レアが驚愕の声を上げる。  
「まさか……アルトの血縁者!? 記録にはそんな話――」  

男は膝をつき、喉の奥から苦しげな声を絞り出した。  
「アルトは……俺の双子だ……。封印されていた俺の意識を、あの男は神核炉で複写した……。」  

ルミナスが即座に照合する。  
『魔力波、アルトの基礎値の七十五パーセント! 生体コアから転写されたクローン個体です!』  

男の体が震え、黒い靄が立ち上る。  
その瞳が一瞬だけ赤く光り、周囲の空気が震えた。  
「兄の残滓が……俺を侵食していく。逃げろ……抑えきれない!」  

次の瞬間、彼の体から黒い翼が生えた。  
魔力暴走。  
周囲の騎士団が結界を展開するが、押し返される。  

「ルミナス、どうする!」  
『強制鎮静か、もしくは同調融合のどちらかです! でも同調率が高すぎます、ご主人さまが呑まれる可能性が!』  
「やってみる!」  

俺は手を握り、暴走する彼――“クローン・アルト”の胸元に光を突き立てた。  
急激な熱が腕を走る。  
頭の奥で大量の記憶が流れ込んできた。  
戦争、炎、崩壊、そしてアルトが泣いていた記憶。  

『データ流入! 共鳴開始! リアムの意識が……!』  

「止まれっ……! お前はアルトじゃない! お前はお前だ!」  

周囲の風が一気に消えた。  
男の動きが止まり、黒い靄がゆっくり消えていく。  
瞳が澄み始め、わずかに笑った。  

「……リアム、か? あぁ……やっと……会えた気がする。」  
「お前……」  
「俺は、兄の記憶と一緒に、生まれてきた。だが、兄は……願っていた。“誰かが世界を救ってくれ”と。」  
「……それが、俺?」  
「そうだ。兄さんは、最期に自分の記憶を“希望”として残した。俺はそれを伝えるために存在しただけだ。」  

光が彼の体を包み、ゆっくりと空へ溶けていく。  
「ありがとう……お前なら、きっとこの世界を――」  

指先が消え、最後の言葉は風に溶けた。  

静かな沈黙が街を包む。  
ルミナスが小さな声で言った。  
『……彼の意識は完全に消失しました。でも、内部データの一部が残ってます。“アルトの記憶核”。解析すれば、神核炉の真の構造が分かるかもしれません。』  

「真の構造?」  
『ええ。第二動力層のさらに奥――世界の基礎プログラム、“根の回廊”に繋がる道があります。』  
「根の回廊……?」  
レアが息をのむ。  
「王家の記録にも一度だけ出てくるわ。星を創った存在が眠る場所。そこに触れれば、世界の法則すら操れると言われている。」  

俺は空を見上げた。  
夕陽が落ちる王都の空に、光の雲が溶け込む。  
「……終わったと思ってたのに、また始まりか。」  
『配信をどうしますか? この情報を流したら、また混乱が広がります。』  
「それでも隠すわけにはいかない。真実を見せなきゃ、世界はまた同じ過ちを繰り返す。」  

ルミナスが頷くように光を震わせた。  
『了解しました。世界全域に配信回線を開きます。タイトルは……“勇者の血、再び”で。』  

「正直センスないけど、まぁいい。」  
俺がそう言うと、レアがくすりと笑った。  
「あなたらしいわ。飾らない、でもまっすぐ。」  

静かに夜が降り始める。  
街の灯が一つ、また一つとともり、人々の笑い声が聞こえるようになってきた。  
ルミナスが淡い声で囁く。  
『ご主人さま……あなたが“勇者”と呼ばれるのも、そう悪くない気がしてきました。』  
「やめろ、照れるだろ。」  

丘の上に再び風が吹いた。  
その風が、どこか遠くの大地から響く声を運んできた気がした。  

“次は、根まで辿り着け。真実はそこにある。”  

俺たちは顔を見合わせ、頷いた。  
新しい戦いが、もう始まっている。
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