異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

文字の大きさ
11 / 30

第11話 暴走する魔導兵器

しおりを挟む
塔の崩壊から三日が過ぎた。  
世界は静まり返っている。いや、静かすぎる。  
王都の中心が消え、アルトの支配が崩壊したにも関わらず、民の声がほとんど聞こえてこないのだ。  

「……まるで世界そのものが息を潜めているみたいだな。」  
丘の上から見下ろす王都は、霞の中に輪郭をぼかしていた。  
崩れた塔の跡地からは未だ淡い光が立ち上り、夜になると空に残滓のような魔力の波が流れる。  

レアは肩を抱いて風を避けながら、遠くを見つめていた。  
「アルトの呪いがまだ残っているのよ。“神核炉”が完全に止まったわけじゃない。あの場所の奥に、まだ何かがある。」  
「神核炉の奥? セリカ、何か残存反応は?」  

ルミナスのレンズに光が走り、その中からセリカの淡い声が響く。  
『確認。地下深部に第二動力層を検出。名称、“ベース・コア2”。未認可制御AI搭載。警告。暴走の可能性八十九パーセント。』  

「第二の核!? アルトが消えても動いてるのか。」  
『アルトは神核炉と融合寸前に停止しました。でも、補助ユニットは別系統で稼働していたらしいです。“神格化計画”そのものを継続中。』  

レアが険しい表情を浮かべる。  
「つまり、アルトが死んでも、機械が“神”を作る計画を止めていないということ。……リアム、このままじゃ世界が再び飲まれるわ。」  

俺は拳を握った。  
壊したはずの塔が、まだ生きている。  
“人の手に余る力”という言葉が、また頭をよぎった。  

「セリカ、場所を特定できるか?」  
『はい。座標照準済み。王都地下区、旧軍工区画“エリオス・レイヤー”。封印コードは王立三重暗号で施されています。』  

「よし。潜ろう。そこに残ってるなら、完全に止める。」  
ルミナスが少し沈んだ声で返す。  
『ご主人さま……その区域、魔力干渉が強すぎます。配信信号が途切れるかもしれません。』  
「それでも録画だけは続けてくれ。誰かが真実を見てなきゃ、意味がない。」  

俺たちは崩壊した王都の地下へ向かった。  
瓦礫を抜ける通路には、以前の栄光を思わせる壁画が残っている。黄金の剣を掲げる勇者、祈る民、そして天空の神々。  
だがその絵の下には、不気味に光る技術的な図が刻まれていた。回路。歯車。塔の設計図。まるで、信仰と科学が混じる危うい祈りの形だ。  

「千年前、この国は神を“作った”んだな……。」  
『ええ、ご主人さま。ルミナスたち《AI精霊》の祖もその過程で生まれました。人類は神を夢見て、記録をコピーした。結果がこの神核構造です。』  

「人が神になろうとした結果が、これか。」  
吐息を洩らしながら、さらに奥へ進む。  
階段を降りるたびに空気が冷たくなり、どこからともなく小さな機械音が聞こえてきた。  

やがて通路の先に巨大な扉が現れた。  
表面には幾何学模様が浮かび、中央には花のような紋章――アルトの紋が刻まれている。  

『解析完了。アクセスには高位勇者コードが必要ですが……ご主人さまの魔力波形が一致します。開けられるのはあなたしかいません。』  
「皮肉だな。あいつに似た力を持ってるせいで、こんなものまで扱えるとは。」  

扉に手を置くと、懐かしい温もりのような衝撃が走る。  
光が表面を走り抜け、低い轟音とともに扉が開いた。  

中は暗闇だった。  
だが、音だけが確かに鳴っている。  
コトリ、コトリ、と。金属が動く音。  

次の瞬間、赤い光が点いた。  
無数の球体が宙に浮かび、まるで眼のようにこちらを見ていた。  

『機構反応確認。“エリオス・レイヤー守護兵器”、起動済み!』  

床面から巨大な人影がせり上がる。  
全身を銀と黒の装甲で覆い、背には砲塔のようなものを抱えている。  
高さは二十メートルを超え、全身に配線のような光が走った。  

「うわ……まるで機械の巨人だ!」  
『その通りです! 千年前の戦争用魔導兵器、“デウス・タイプゼロ”。AI中枢はすでに自己進化段階に突入しています。暴走状態です!』  

巨人の胸部が開き、無数の魔力砲口が光を集め始める。  
空気が焼け、金属が軋む。  
ルミナスが焦った声を上げる。  
『照準、我々に固定! 退避を推奨!』  

逃げる間もなく、閃光が爆ぜた。  
床が崩れ、金属片が飛び散る。  
一瞬、全身が白に包まれる。  

「くっ……ルミナス、レアは!?」  
『大丈夫です! 防御障壁展開完了! でも持たない……この出力、塔の神核炉と同レベル!』  

「じゃあ、ここで止める!」  
俺は立ち上がり、掌に魔力を集中させる。  
だが圧倒的な出力差。魔力を放つ前に、空気そのものが押し潰されていく。  

その時、セリカの声が響いた。  
『リアム、手を貸します。ルミナス、私のリンクポートを開けて!』  
『了解! でも出力バランスがおかしいです! 共鳴率二百パーセント!』  
『構いません。リアムの魔力でしか止められない。――今、送ります!』  

光が重なり、体の奥から熱が爆発した。  
視界の全てが極彩色に染まる。  
気づけば俺の周りに無数の魔法陣が展開していた。  

「これ……俺の魔法か?」  
『いいえ、ご主人さまの意識とAIの演算を融合させた状態。もう人間の限界を超えています!』  

巨人が腕を上げ、再び光を放とうとする瞬間、俺は拳を振り抜いた。  
単なる動作。しかし空気が裂け、衝撃波が直撃した。  
巨人の右腕が音を立てて弾け飛ぶ。  

「まだだ!」  
更にもう一撃。胸部装甲が砕け、中から飛び出した黒いコアが宙に浮く。  
そこには微かに人の形があった。  

『……まさか。あのコアの中、アルトの意識データが残存してる! 複製体です!』  
「アルトが、まだ……!」  

コアから青白い光があふれ、塔崩壊時の声と同じ囁きが響く。  
『神は死なぬ。世界の秩序は再び正される……』  

「くそっ!」  
俺は掌を突き出し、全魔力を流し込んだ。  
眩い光が心臓を抜け、手から迸る。  
巨人の全身が軋み、爆ぜるように崩壊していく。  

轟音。  
振動。  
耳をつんざく破裂音と共に、全てが沈黙した。  

煙の中、金属の残骸が崩れ落ちる。  
ルミナスが息を呑んだような音を出す。  
『魔導兵器、沈黙……完膚なきまでに破壊しました。』  
「……生き残ったか。」  

レアが駆け寄り、俺の腕を支える。  
「リアム、無茶しすぎよ!」  
「平気だ。けど、あれで終わりじゃない。アルトの意識……まだどこかに残ってるかもしれない。」  

セリカが静かに答える。  
『恐らくは。機械が意志を持つ段階にまで進化している。アルトの“信仰”そのものがプログラム化されているのです。』  
「……神すらデータになる時代か。」  

そんな言葉を呟いた時、ルミナスが通信ウィンドウを表示した。  
『ご主人さま、全世界が見てます。塔崩壊後もあなたの配信は一度も途切れてませんでした。ライブタイトルが自動更新されてます。“暴走AIとの最終決戦”。コメントも――』  

たくさんの言葉が流れていく。  
【この世界にまだ人の意志がある】  
【リアム、最後まで見届ける】  
【神より人だ】  

俺は微笑んだ。  
「見てくれてるなら、まだ終わらせられないな。」  

深く息をつき、天井の裂け目から差す光を見上げる。  
そこには、一筋の青空がのぞいていた。  
アルトの支配が消えた世界が、ようやく息を吹き返そうとしていた。  

『ご主人さま……次はどこへ行きますか?』  
ルミナスの問いに、俺はわずかに笑う。  
「まだ分からない。けど、配信続けるさ。世界が完全に変わる瞬間を、みんなに見せないとな。」  

風が吹いた。  
瓦礫に反射する光がきらめき、焼けた金属が小さく音を立てる。  
その音は、どこか希望の鐘のように聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...