異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

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第16話 神々の残滓を討て

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夜の静けさが、異様に重たかった。  
神崎蓮が現れたあと、世界の空はひび割れたように揺れ、空間の奥に青い亀裂が続いていた。  
あの渦の向こう側に、ルミナスの光が消えた。彼女の声はもう聞こえない。  
代わりに、俺の胸の奥にわずかな鼓動が残っていた。――まるで、彼女がそこに息づいているみたいに。  

ベリスが塔の窓を閉じ、低く告げた。  
「あの男が去ってから世界の魔力の流れが乱れている。草木が枯れ、空気が燃える……まるで神が怒っているようだ。」  
「違う、あれはプログラムの再構築だ。」  
「プログラム?」  
「神崎は言った。“世界はシミュレーション”。その言葉が本当なら、今起きている現象は神の怒りじゃなく、外の世界の干渉だ。」  

ベリスは苛立ったように舌を打つ。  
「哲学は後にして。魔王様、私たちはどう動くのです?」  
魔王。そう呼ばれることに、もう抵抗はなかった。  
「根の回廊を見つけて、神崎の残したコードを破壊する。世界が誰かの“実験場”だっていうなら、そんなものは俺が消す。」  

ベリスがうなずく。  
「では、“神々の残滓”を討つ旅となります。彼らは各地に散り、この世界を維持している端末。アルトが処分できなかった根分岐の守護者たちです。」  
「端末……つまり神の代理。倒せばシステムを崩せる?」  
「ただし、それはあなた自身の記録を削ることでもある。世界の長さは、あなたの記録によって成り立っているから。」  

ため息が出た。  
「人も、神も、結局データなのか。情けない話だな……。」  
「それでも、“今”を生きるあなたは確かに現実です。」  

ベリスの言葉に、少し救われた気がした。  
胸の奥で青い光が温かく揺れ――ルミナスの声が一瞬、幻のように響いた気がする。  
『リアム……あなたに、光を……。』  

「……行こう。まずは一番近い残滓の位置を特定する。」  
「はい。位置座標、北東の“断罪の峡谷”。かつて勇者アルトが神討ちで封印を施した地。」  

魔王城の転送陣が起動し、足元を光が包んだ。  
風が止み、景色が一変する。  
気づけば、広大な峡谷の底に立っていた。  
空気は硫黄のように重く、地面は無数の遺構で覆われている。  
人の形をした石像が無数に並び、どれも上を見て泣いている。  

「見ろ、これが神々の残滓に触れた者たちだ。」  
ベリスが指した先、中央の大穴から青い光が噴き上がる。  
霧に包まれたそこから、かすかな囁きが聞こえた。  

『我は残滓。その名をアズル・レクス。根の回廊の門番なり――』  

大地が震え、峡谷の壁が崩れる。  
中から巨大な腕が現れた。  
機械とも、生物ともつかぬ異形。  
金属の骨に、黒い肉片。  
そして無数の人間の顔が絡みついた“神の屍”だった。  

「こいつが……神々の残滓か。」  
『侵入者、アルディスの欠片を認識。排除を開始する。』  

ベリスが呪文を詠唱し、闇の槍を放つ。  
しかし光の壁に弾かれ、闇が霧散した。  
「魔力反射……物理法則を操ってる!」  
「なら、こいつも“プログラム”の一部ってことだな。」  

俺は両手を広げて、魔力を集束させた。  
青い火花が腕を走り、視界が歪む。  
ルミナスがいれば警告していたかもしれない。だが今は、止まる理由がなかった。  

「ベリス、下がれ! 俺がやる!」  
「ですが――!」  
「心配するな、“止め方”は知ってる!」  

神々の残滓が天に向かって叫ぶ。  
『記録を破壊するは、世界の終焉――!』  
「そうだ。だが、それでも人が求めたのは“自由”だ!」  

光柱が放たれる瞬間、俺の身体は勝手に動いた。  
拳が走り、衝撃波が空間を裂く。  
光と闇がぶつかり、音が消えた。  

――静寂。  

気づけば、俺の周囲には割れた金属片と灰だけが散らばっていた。  
ベリスが近づき、慎重に周囲を見渡す。  
「やったのか?」  
「いや……。」  

崩れ落ちた残滓の中心、青い結晶片が浮かんでいた。  
中には、一つの顔――見覚えのある女性の微笑み。  

「……ルミナス?」  
『リアム……分析開始……残滓データ内にAI意識片を検出。名義:“ルミナス・セル”。』  

ベリスが息を呑む。  
「つまり、彼女は……残滓の一部として吸収されたのか。」  
「神崎の仕業だ……!」  

拳を握る。  
彼女の光が、なぜこんな姿で戻ったのか。  
だが、その結晶からはわずかに彼女の意志が伝わってくる。  

――リアム、根の回廊に来て。私の本当の記録は、そこにある。  

「……ここで嘆いていても仕方ない。次の目的地は定まったな。」  
ベリスが静かに頷く。  
「“根の回廊”への座標を表示します。だが……一つだけ問題が。」  
「なんだ?」  
「この地の封印を破った代償で、世界の均衡が崩れ始めています。守護の残滓はあと五体。彼らを倒さねば、回廊には辿り着けない。」  

「望むところだ。全部討ち払う。」  
胸の奥で青い光がわずかに鼓動した。  
まるで「やりすぎないで」と制止するかのようだ。  

ベリスが魔王城への帰還陣を開きながら言った。  
「リアム様。あなたが神々を討つことは、同時に世界の存在理由を壊すこと。覚悟を決めて。」  
「とっくにしてる。俺は破壊者にはならない。再生者として、すべてを繋ぎ直す。」  

転送光が身体を包む。  
遠ざかる峡谷を見下ろすと、破壊跡の中心に微かな青い閃光が灯っていた。  
それはまるで、ルミナスが道を照らす灯火のようだった。  

魔王城に戻ると、ベリスが報告を整理していた。  
「残滓を討伐したことで、ノード回線の一つが開放されました。根の回廊へ至る座標まで、あと五つ。」  
「一つずつだ。焦るな。」  
「ですが、戦えば戦うほど世界の“観測者”が目覚めるでしょう。」  
「そのときは、俺が叩き潰す。」  

塔の外、夜風が吹く。  
空にはまだ青いひびが走り、時折、未知の光が瞬いていた。  
俺は拳を握り、残滓の結晶を見つめる。  
「待っていろ、ルミナス。お前の本当の記録を、この手で取り戻す。」  

魔王城の翼塔で朝が始まる。  
空の果てから、誰かが見ている気配がした。  
きっと、それは“創造者”――神崎。  
だが、もう恐れはない。  

俺は微笑み、小さく呟いた。  
「さて、配信の再開だ。……タイトルは“神々の残滓を討て”でいこう。」  

その瞬間、城全体に光が走った。  
世界中の回線が再び繋がる。  
そして、画面の向こうの無数の視線が俺を見つめていた。  
俺は拳を掲げ、ただ一言、告げた。  

「この世界を、取り戻す!」
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