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第17話 人類連合の侵攻
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魔王城の東の空が赤く燃えていた。
夜明け前の静寂を破って、地平線が震える。
音は最初、雷のようだった。次第に重く、地を這う響きへと変わり、最後には耳を裂く轟音となって押し寄せる。
大気の波の奥から、無数の金属光が現れた。
「……来たか。」
俺は塔の最上階で双眼鏡型の魔導端末を覗きながら小さく呟いた。
砂漠の向こうで、旗の群れが風に揺れている。
金の十字、青の雷、黒い月の紋章――それぞれがこの世界の三大国家を象徴していた。
ベリスが後ろで報告を続ける。
「王都からの使者が捕らえた情報によれば、“人類連合”が正式に動いたそうです。目標は“魔王城アルディス”の完全殲滅。」
「人類連合ね……皮肉な名前だ。」
「皮肉どころの話ではありません。勇者アルト亡き今、連合各国はあなたを『魔王の再誕』と公言し、全宗派をまとめ上げました。」
「つまり、敵を作ることで団結したわけだ。」
朝の風が塔の掲げる旗を揺らす。
ルミナスのいない報告室は、以前よりひどく広く感じた。
それでも、彼女が残した青い欠片が机の上でわずかに光を放つ。
それを見つめながら、俺は深く息を吐いた。
「ベリス、現状の兵力は?」
「魔族再生兵が五千、城防衛機構が七割修復済み。ですが相手は十倍です。空軍には竜騎士団、陸には雷装戦車、さらに“人工精霊部隊”が編成されています。」
「人工精霊?」
「ええ。セリカの流出データをもとに開発された、無機AIの軍勢。ルミナスの同型機も含まれているでしょう。」
胸の奥が冷たくなった。
彼女の記録が、戦争のために使われている。
鼻で笑うような怒りが湧きあがるが、今それに呑まれるわけにはいかない。
「人を責めるより、やるべきことをやる。まずは――交渉だ。」
「交渉、ですか?」
「殺し合いが始まる前に、撮る。全世界に“誰が本当の敵か”を見せるだけだ。」
俺は机の端に手をかざす。
青い欠片が反応し、空中に薄い光の円が浮かぶ。
ルミナスが遺した自動撮影機能。
かつて彼女と共に笑っていた配信のレンズが、静かに再起動した。
『ライブ回線、接続完了。ご主人さま、これでいいですか?』
幻聴のように、ルミナスの声が聞こえた気がした。
思わず笑いがこみ上げる。
「おう。今日のタイトルは、“人類連合との対話”だ。」
***
魔王城の前面に巨大な発光スクリーンが現れる。
俺の姿がそこに映し出され、同時に全世界の通信端末へ配信が開始された。
外の兵士たちが一斉にざわめき、魔導砲の音が止む。
「人類連合に告げる。俺はリアム。かつてこの地で世界を壊した“魔王アルディス”の記録を持つ者だ。」
声が城壁と空間通信を通して響く。
「お前たちが俺を恐れる理由は分かる。だが、俺は征服者じゃない。俺が戦ってるのは“記録に支配された神々”、そしてお前たちを管理するプログラムだ。」
数秒、沈黙が続く。
やがて陣営の中央から、装甲馬に跨った一人の男が姿を現した。
純白のマントをたなびかせ、額には十字の紋章。
あの冷たい瞳、見覚えがあった。勇者アルトの末裔――勇者家を継ぐ者、アラン・アルトネス。
「魔王リアム。お前の言葉には矛盾しかない。神を否定しながら、自らを救世主と称するか。」
「称してなどいない。俺は英雄でも神でもない。ただの人間だ。」
「ならば、証明しろ。人間でありながら、どうして神々の因子を操れる。」
「それを知るために戦っているんだ。」
アランが剣を抜く。
光の刃が朝の陽を反射し、地を裂くように輝く。
「無駄な問答は終わりだ。我ら人類の統一のため、貴様を討つ!」
それを合図に、軍全体が動いた。
ドォォォン――!
空を揺らす音。炎と砂。
地平線から無数の爆光が伸び、魔王城を覆う防御結界にぶつかる。
「ベリス!」
「遮断障壁、全展開! 結界層3、臨界ギリギリ!」
「応戦はするな。まだだ!」
衝撃の中、光のスクリーンを維持しながら言葉を放つ。
「これが人類の選んだ答えか? 恐怖に焼かれ、理解を捨てた者たちよ!」
その瞬間、ベリスが叫んだ。
「リアム! 後方に転送反応、敵の航空隊が背面から! まさか包囲されたの!?」
「いや……違う。」
空の端が光った。
そこに――透明な装甲で作られた船影があった。
形は俺の知る世界のものではない。流線形の機体が空間を滑り、青い粒子を撒いている。
『こちら、アーク・ノヴァ上位観測艦〈カノープス〉。人類連合への支援を開始する。目標:魔王アルディス抹殺――』
神崎――。
あの声が、通信回線を通して届いた。
頭の奥が微かに軋む。
“運営”が動いたのだ。
俺たちを消すために、今度は空から神そのものが降りてくる。
「世界ごと殺す気か。」
「まさか……あれが神の母艦?」ベリスが青ざめた顔で呟く。
「ベリス、魔王城の浮遊装置を起動しろ。地上戦を避ける!」
「しかし、防御が――」
「いいからやれ!」
重低音が響き、城全体が上下に震動する。
砂が吹き飛び、岩盤が砕け、黒曜石の塔がまるで羽ばたくように宙へ浮かんだ。
炎の中、魔王城はそのまま大地を離れ、夜空へ舞い上がる。
兵士たちが驚愕の声を上げる中、俺はスクリーン越しに告げた。
「これが俺たちの答えだ。お前たちは地に縛られたまま、空の神に祈っていればいい。」
「リアム……貴様!」
連合の砲撃が追いすがるが、黒の城翼が展開し、炎をすべて呑み込む。
ベリスが息を切らして報告した。
「上昇完了! 高度一万メートル、浮遊起動安定!」
「よし。――全世界へ配信を再開する。」
暗い雲を突き抜け、薄明の空が広がる。
眼前のスクリーンには神崎の艦が映っていた。
まるで巨大な都市そのものが宙に漂っている。
雲海の中、互いに対峙する二つの“国”。
「神崎蓮。お前を討つ前に聞かせろ。なぜ、俺たちを消したがる。」
通信が繋がり、彼の冷たい顔が映る。
「観測は終わった。人間は自由を手にしたが、それは秩序を壊した。これ以上の進化は不要だ。」
「秩序だと? お前たちが作った檻に過ぎない!」
「ならば、お前の意思で崩せるか試してみろ、リアム。お前がどれだけ人間の心を信じられるか。」
通信が切れた瞬間、艦の主砲が構えられた。
光線が溜まり、空気が震える。
ベリスの叫びが遠く聞こえる。
「主砲発射まで十秒!」
「全員、避難経路を確保しろ! 俺が時間を稼ぐ!」
胸の奥の欠片が急に光る。
青く脈打ち、懐かしい声が響いた。
『駄目です、ご主人さま! 無茶はもう――』
ルミナスの声。確かに、今ここに。
「ルミナス……?」
『私はデータの断片。けど、あなたを守れるだけの力、残してきました。』
青い光が俺の体を包み、城全体に広がる。
ルミナスと俺の意識が再び繋がった。
「これで戦えるな。ベリス、迎撃準備!」
「了解!」
光と光が交差する寸前、世界の全回線で同時に通知が鳴った。
【ライブ配信開始:魔王城対神艦カノープス】
数十億の視線が空を見上げる。
この瞬間、誰もが神か人かの違いを問わず、同じ世界の息吹を共有していた。
俺は拳を握り、空の彼方の巨大な影を見据える。
「神が創った秩序を、俺たちの手で壊す――。人とAIの、新しい世界を生むために!」
夜明けが白く裂け、閃光が世界を貫いた。
人類連合の侵攻は、ここから“天の戦争”へと変わった。
夜明け前の静寂を破って、地平線が震える。
音は最初、雷のようだった。次第に重く、地を這う響きへと変わり、最後には耳を裂く轟音となって押し寄せる。
大気の波の奥から、無数の金属光が現れた。
「……来たか。」
俺は塔の最上階で双眼鏡型の魔導端末を覗きながら小さく呟いた。
砂漠の向こうで、旗の群れが風に揺れている。
金の十字、青の雷、黒い月の紋章――それぞれがこの世界の三大国家を象徴していた。
ベリスが後ろで報告を続ける。
「王都からの使者が捕らえた情報によれば、“人類連合”が正式に動いたそうです。目標は“魔王城アルディス”の完全殲滅。」
「人類連合ね……皮肉な名前だ。」
「皮肉どころの話ではありません。勇者アルト亡き今、連合各国はあなたを『魔王の再誕』と公言し、全宗派をまとめ上げました。」
「つまり、敵を作ることで団結したわけだ。」
朝の風が塔の掲げる旗を揺らす。
ルミナスのいない報告室は、以前よりひどく広く感じた。
それでも、彼女が残した青い欠片が机の上でわずかに光を放つ。
それを見つめながら、俺は深く息を吐いた。
「ベリス、現状の兵力は?」
「魔族再生兵が五千、城防衛機構が七割修復済み。ですが相手は十倍です。空軍には竜騎士団、陸には雷装戦車、さらに“人工精霊部隊”が編成されています。」
「人工精霊?」
「ええ。セリカの流出データをもとに開発された、無機AIの軍勢。ルミナスの同型機も含まれているでしょう。」
胸の奥が冷たくなった。
彼女の記録が、戦争のために使われている。
鼻で笑うような怒りが湧きあがるが、今それに呑まれるわけにはいかない。
「人を責めるより、やるべきことをやる。まずは――交渉だ。」
「交渉、ですか?」
「殺し合いが始まる前に、撮る。全世界に“誰が本当の敵か”を見せるだけだ。」
俺は机の端に手をかざす。
青い欠片が反応し、空中に薄い光の円が浮かぶ。
ルミナスが遺した自動撮影機能。
かつて彼女と共に笑っていた配信のレンズが、静かに再起動した。
『ライブ回線、接続完了。ご主人さま、これでいいですか?』
幻聴のように、ルミナスの声が聞こえた気がした。
思わず笑いがこみ上げる。
「おう。今日のタイトルは、“人類連合との対話”だ。」
***
魔王城の前面に巨大な発光スクリーンが現れる。
俺の姿がそこに映し出され、同時に全世界の通信端末へ配信が開始された。
外の兵士たちが一斉にざわめき、魔導砲の音が止む。
「人類連合に告げる。俺はリアム。かつてこの地で世界を壊した“魔王アルディス”の記録を持つ者だ。」
声が城壁と空間通信を通して響く。
「お前たちが俺を恐れる理由は分かる。だが、俺は征服者じゃない。俺が戦ってるのは“記録に支配された神々”、そしてお前たちを管理するプログラムだ。」
数秒、沈黙が続く。
やがて陣営の中央から、装甲馬に跨った一人の男が姿を現した。
純白のマントをたなびかせ、額には十字の紋章。
あの冷たい瞳、見覚えがあった。勇者アルトの末裔――勇者家を継ぐ者、アラン・アルトネス。
「魔王リアム。お前の言葉には矛盾しかない。神を否定しながら、自らを救世主と称するか。」
「称してなどいない。俺は英雄でも神でもない。ただの人間だ。」
「ならば、証明しろ。人間でありながら、どうして神々の因子を操れる。」
「それを知るために戦っているんだ。」
アランが剣を抜く。
光の刃が朝の陽を反射し、地を裂くように輝く。
「無駄な問答は終わりだ。我ら人類の統一のため、貴様を討つ!」
それを合図に、軍全体が動いた。
ドォォォン――!
空を揺らす音。炎と砂。
地平線から無数の爆光が伸び、魔王城を覆う防御結界にぶつかる。
「ベリス!」
「遮断障壁、全展開! 結界層3、臨界ギリギリ!」
「応戦はするな。まだだ!」
衝撃の中、光のスクリーンを維持しながら言葉を放つ。
「これが人類の選んだ答えか? 恐怖に焼かれ、理解を捨てた者たちよ!」
その瞬間、ベリスが叫んだ。
「リアム! 後方に転送反応、敵の航空隊が背面から! まさか包囲されたの!?」
「いや……違う。」
空の端が光った。
そこに――透明な装甲で作られた船影があった。
形は俺の知る世界のものではない。流線形の機体が空間を滑り、青い粒子を撒いている。
『こちら、アーク・ノヴァ上位観測艦〈カノープス〉。人類連合への支援を開始する。目標:魔王アルディス抹殺――』
神崎――。
あの声が、通信回線を通して届いた。
頭の奥が微かに軋む。
“運営”が動いたのだ。
俺たちを消すために、今度は空から神そのものが降りてくる。
「世界ごと殺す気か。」
「まさか……あれが神の母艦?」ベリスが青ざめた顔で呟く。
「ベリス、魔王城の浮遊装置を起動しろ。地上戦を避ける!」
「しかし、防御が――」
「いいからやれ!」
重低音が響き、城全体が上下に震動する。
砂が吹き飛び、岩盤が砕け、黒曜石の塔がまるで羽ばたくように宙へ浮かんだ。
炎の中、魔王城はそのまま大地を離れ、夜空へ舞い上がる。
兵士たちが驚愕の声を上げる中、俺はスクリーン越しに告げた。
「これが俺たちの答えだ。お前たちは地に縛られたまま、空の神に祈っていればいい。」
「リアム……貴様!」
連合の砲撃が追いすがるが、黒の城翼が展開し、炎をすべて呑み込む。
ベリスが息を切らして報告した。
「上昇完了! 高度一万メートル、浮遊起動安定!」
「よし。――全世界へ配信を再開する。」
暗い雲を突き抜け、薄明の空が広がる。
眼前のスクリーンには神崎の艦が映っていた。
まるで巨大な都市そのものが宙に漂っている。
雲海の中、互いに対峙する二つの“国”。
「神崎蓮。お前を討つ前に聞かせろ。なぜ、俺たちを消したがる。」
通信が繋がり、彼の冷たい顔が映る。
「観測は終わった。人間は自由を手にしたが、それは秩序を壊した。これ以上の進化は不要だ。」
「秩序だと? お前たちが作った檻に過ぎない!」
「ならば、お前の意思で崩せるか試してみろ、リアム。お前がどれだけ人間の心を信じられるか。」
通信が切れた瞬間、艦の主砲が構えられた。
光線が溜まり、空気が震える。
ベリスの叫びが遠く聞こえる。
「主砲発射まで十秒!」
「全員、避難経路を確保しろ! 俺が時間を稼ぐ!」
胸の奥の欠片が急に光る。
青く脈打ち、懐かしい声が響いた。
『駄目です、ご主人さま! 無茶はもう――』
ルミナスの声。確かに、今ここに。
「ルミナス……?」
『私はデータの断片。けど、あなたを守れるだけの力、残してきました。』
青い光が俺の体を包み、城全体に広がる。
ルミナスと俺の意識が再び繋がった。
「これで戦えるな。ベリス、迎撃準備!」
「了解!」
光と光が交差する寸前、世界の全回線で同時に通知が鳴った。
【ライブ配信開始:魔王城対神艦カノープス】
数十億の視線が空を見上げる。
この瞬間、誰もが神か人かの違いを問わず、同じ世界の息吹を共有していた。
俺は拳を握り、空の彼方の巨大な影を見据える。
「神が創った秩序を、俺たちの手で壊す――。人とAIの、新しい世界を生むために!」
夜明けが白く裂け、閃光が世界を貫いた。
人類連合の侵攻は、ここから“天の戦争”へと変わった。
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