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第18話 晩餐会で告げる逆転の宣言
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第18話 晩餐会で告げる逆転の宣言
翌朝、アルディナの空に王都軍の旗が翻った。
群を成す兵士たちが丘陵地帯を越えて進軍し、槍と旗が朝日に輝く。
その行列の先頭に立つのは、金の鎧を纏った将軍――王国第二師団長ガレス・ヴォルファード。
冷徹な戦術家として知られ、反逆者には一切の情けをかけない男だった。
一方で王女セレスティアは、純白の馬に乗り、その軍の中心にいた。
まるで神の裁きを下す天使のようだが、その瞳の奥には微かな揺らぎが見える。
彼女の内心が揺れていることを、俺は遠くから感じ取っていた。
丘の上、竜隊を中心に防衛線を築いた村人たちが準備を進めている。
鍛冶屋ヴァルドが盾の最終調整を終え、レオンが陣をまとめて指示を出していた。
空からはアルディネアが周囲を警戒し、その金の瞳で王都軍の動きを見下ろしている。
『どうする、アレン。奴らは完全に戦の構えだ。お前が命じれば、一撃で殲滅も可能。』
「……いや、ここで血を流すわけにはいかない。」
『まだ、あの女を信じるか。』
「信じるというより、利用する。
セレスティアがたとえ傲慢でも、王都の連中よりは人の心を理解している。
なら――話す機会を自ら作るしかない。」
そう言う俺に、アルディネアが鼻を鳴らした。
『ふん、人とは愚かで面倒な生き物だ。だが、見届けよう。』
***
日が西に傾き始めたころ、俺は決断した。
軍勢を前にして力ずくで退かせるより、彼らの中心を動かすこと。
そのために俺は、王都陣営に使者を送った。内容はただひとつ。
――「今日は血を流すな。
代わりに晩餐の席を設ける。
この地の真の姿を、自らの目で見てから決めろ。」
奇妙な要請に王都側は混乱したようだが、セレスティアは沈黙ののち頷いたと伝え聞く。
その夜、開かれる“晩餐会”こそ、俺の逆転の舞台だった。
***
夜。
アルディナの村広場には長い木製のテーブルが並べられ、照明代わりの光石が柔らかく輝いていた。
竜隊の者たちと村の料理人が総力を尽くし、手作りの食事を並べる。
そこに、王都からの使者と将軍、そしてセレスティアが姿を現した。
「これが……辺境の宴ですか。」
ガレス将軍が眉をひそめた。
だが村人たちは怯むことなく、精一杯のもてなしをしている。
温泉で蒸した野菜、竜光布で包んだ果実、祭り用の酒――どれも誇れる地の恵みだ。
「王都の冷めた料理より、よほど温かいと思うが。」
と俺が言うと、将軍が口を尖らせた。
「余計な皮肉はやめていただこう。陛下の名を預かる立場だ。」
その空気をやわらげるように、セレスティアが席に着いた。
「少しぐらい良いじゃない。
私だって、ここまで来たのは血を流すためじゃないのだから。」
「なら、少しは本音を聞かせてくれ。
“王の命令”としてではなく、セレスティア個人の言葉として。」
俺の視線を受けて、彼女はしばらく黙っていた。
やがて杯に口をつけ、ため息をつく。
「あなたは昔からそうね。真っすぐすぎて、時々痛い。
……でも、正直に言えば、私は戦いたくない。
この地を見た瞬間に分かったの。ここには“生”がある。
王都が百年経っても作れない、人々の結びつきが。」
「なら止めてみせろ。王の兵たちを。」
「立場上、わたしにはそれができないの。
だから、あなたが“服従”を選べば全て丸く収まる。」
「また同じ話か。」
「聞きなさい、アレン!」
苛立った声が夜に響いた。
「あなたは知らないのよ、王都の現実を!
貴族たちは改革を恐れている。あなたの存在は危険分子とみなされているの。
でも、私が手を差し伸べれば、あなたは“保護”の名のもとに救える!」
「救う? 鎖をつけて?」
沈黙が走った。
燃える火の粉が宙に舞い、空気が重く沈む。
「セレスティア、王国が腐っているのは知っているだろう。
俺はあの場所で、生まれて初めて“人の命”が取引される姿を見た。
金と血と偽り、それが王都の正体だ。
だが、ここは違う。
誰もが互いを認め合いながら生きている。
あの日の俺の理想が、今は現実になってる。
……だから、この土地を渡す気はない。」
「愚か者。」
「そうだ、俺は愚か者だ。
だが、俺たちはその愚かさでこの土地を守ってきた。」
ガレス将軍が苛立ちを隠さず立ち上がる。
「話はもう十分だ。辺境軍を解散し、竜を引き渡せ。それが陛下のご命令。
さもなくば、明朝ここを制圧する。」
「制圧か。では問う、ガレス殿。
この地で生きる三千の民を殺して、それでお前の名誉は満たされるのか?」
「……貴様。」
「戦場で名を上げたお前なら分かるはずだ。
価値のない殺戮は、最も浅ましい敗北だと。」
将軍は奥歯を噛みしめ、声を失った。
代わりにセレスティアが立ち上がる。
「あなたは何がしたいの? ここで私たちに膝をつかせたいの?
それとも自分が正しいと叫ぶだけの聖人様を気取るの?」
俺は静かに杯を置き、深呼吸をした。
「いや、俺はただ、“自由な国”を示したいだけだ。
誰かに許可をもらわずとも、人が生きて笑っていける場所を。
その象徴として、俺は今ここで宣言する。」
立ち上がる。
村人たちの視線が集まり、火が風に揺れた。
「アルディナ領は、この日をもって王国の支配を離脱する。
我らは“自由自治の盟域”として、新たな道を歩む。」
その言葉が響いた瞬間、広場全体がざわめいた。
王都兵たちはざわざわと動揺し、村人たちは泣きながら拍手を送る。
セレスティアは息をのんだまま立ち尽くした。
顔色が変わる。怒り、動揺、そして恐怖が入り混じっているようだった。
「バカな……正式な独立宣言だと? それは反逆よ!」
「反逆ならば、俺は喜んで名乗ろう。」
俺は静かに笑った。
「王国は変わらない。なら、俺たちが新しい“王国”になるだけだ。」
***
沈黙。
焚き火がはぜ、夜風が吹き抜ける。
セレスティアはしばらく何も言わなかった。
やがて、ゆっくりと視線を落とし、わずかに肩を震わせる。
「……貴方、昔と同じね。
私が何を言おうと、絶対に折れない。」
「お前もだ。強い女だよ、セレスティア。」
彼女が顔を上げた。
その瞳に宿るのは怒りではない、複雑な情だった。
「無事でいなさい。……次に会う時、私は“敵”として来る。」
馬車の轍が遠ざかっていく。
彼女の背後、夜空には暗雲が広がっていた。
嵐の前の静けさ――。
アルディネアが空を旋回しながら、一言低く呟く。
『宣戦布告だな。だが見事だ、人の子。あの女の心に爪を残した。』
「彼女と戦うのは本意じゃない。だが、退く気もない。」
『ならば進め。次に王国が動けば全面戦争だ。』
「分かってる。だけど、これで形はできた。
この晩餐が、ただの宴では終わらない――
“自由の宴”として刻まれる日が来る。」
夜明け前の月が沈み、朝焼けが空を染める。
その光の下で、アルディナの旗が初めてはためいた。
それは王への反逆の証であり、人々の自由への宣言だった。
翌朝、アルディナの空に王都軍の旗が翻った。
群を成す兵士たちが丘陵地帯を越えて進軍し、槍と旗が朝日に輝く。
その行列の先頭に立つのは、金の鎧を纏った将軍――王国第二師団長ガレス・ヴォルファード。
冷徹な戦術家として知られ、反逆者には一切の情けをかけない男だった。
一方で王女セレスティアは、純白の馬に乗り、その軍の中心にいた。
まるで神の裁きを下す天使のようだが、その瞳の奥には微かな揺らぎが見える。
彼女の内心が揺れていることを、俺は遠くから感じ取っていた。
丘の上、竜隊を中心に防衛線を築いた村人たちが準備を進めている。
鍛冶屋ヴァルドが盾の最終調整を終え、レオンが陣をまとめて指示を出していた。
空からはアルディネアが周囲を警戒し、その金の瞳で王都軍の動きを見下ろしている。
『どうする、アレン。奴らは完全に戦の構えだ。お前が命じれば、一撃で殲滅も可能。』
「……いや、ここで血を流すわけにはいかない。」
『まだ、あの女を信じるか。』
「信じるというより、利用する。
セレスティアがたとえ傲慢でも、王都の連中よりは人の心を理解している。
なら――話す機会を自ら作るしかない。」
そう言う俺に、アルディネアが鼻を鳴らした。
『ふん、人とは愚かで面倒な生き物だ。だが、見届けよう。』
***
日が西に傾き始めたころ、俺は決断した。
軍勢を前にして力ずくで退かせるより、彼らの中心を動かすこと。
そのために俺は、王都陣営に使者を送った。内容はただひとつ。
――「今日は血を流すな。
代わりに晩餐の席を設ける。
この地の真の姿を、自らの目で見てから決めろ。」
奇妙な要請に王都側は混乱したようだが、セレスティアは沈黙ののち頷いたと伝え聞く。
その夜、開かれる“晩餐会”こそ、俺の逆転の舞台だった。
***
夜。
アルディナの村広場には長い木製のテーブルが並べられ、照明代わりの光石が柔らかく輝いていた。
竜隊の者たちと村の料理人が総力を尽くし、手作りの食事を並べる。
そこに、王都からの使者と将軍、そしてセレスティアが姿を現した。
「これが……辺境の宴ですか。」
ガレス将軍が眉をひそめた。
だが村人たちは怯むことなく、精一杯のもてなしをしている。
温泉で蒸した野菜、竜光布で包んだ果実、祭り用の酒――どれも誇れる地の恵みだ。
「王都の冷めた料理より、よほど温かいと思うが。」
と俺が言うと、将軍が口を尖らせた。
「余計な皮肉はやめていただこう。陛下の名を預かる立場だ。」
その空気をやわらげるように、セレスティアが席に着いた。
「少しぐらい良いじゃない。
私だって、ここまで来たのは血を流すためじゃないのだから。」
「なら、少しは本音を聞かせてくれ。
“王の命令”としてではなく、セレスティア個人の言葉として。」
俺の視線を受けて、彼女はしばらく黙っていた。
やがて杯に口をつけ、ため息をつく。
「あなたは昔からそうね。真っすぐすぎて、時々痛い。
……でも、正直に言えば、私は戦いたくない。
この地を見た瞬間に分かったの。ここには“生”がある。
王都が百年経っても作れない、人々の結びつきが。」
「なら止めてみせろ。王の兵たちを。」
「立場上、わたしにはそれができないの。
だから、あなたが“服従”を選べば全て丸く収まる。」
「また同じ話か。」
「聞きなさい、アレン!」
苛立った声が夜に響いた。
「あなたは知らないのよ、王都の現実を!
貴族たちは改革を恐れている。あなたの存在は危険分子とみなされているの。
でも、私が手を差し伸べれば、あなたは“保護”の名のもとに救える!」
「救う? 鎖をつけて?」
沈黙が走った。
燃える火の粉が宙に舞い、空気が重く沈む。
「セレスティア、王国が腐っているのは知っているだろう。
俺はあの場所で、生まれて初めて“人の命”が取引される姿を見た。
金と血と偽り、それが王都の正体だ。
だが、ここは違う。
誰もが互いを認め合いながら生きている。
あの日の俺の理想が、今は現実になってる。
……だから、この土地を渡す気はない。」
「愚か者。」
「そうだ、俺は愚か者だ。
だが、俺たちはその愚かさでこの土地を守ってきた。」
ガレス将軍が苛立ちを隠さず立ち上がる。
「話はもう十分だ。辺境軍を解散し、竜を引き渡せ。それが陛下のご命令。
さもなくば、明朝ここを制圧する。」
「制圧か。では問う、ガレス殿。
この地で生きる三千の民を殺して、それでお前の名誉は満たされるのか?」
「……貴様。」
「戦場で名を上げたお前なら分かるはずだ。
価値のない殺戮は、最も浅ましい敗北だと。」
将軍は奥歯を噛みしめ、声を失った。
代わりにセレスティアが立ち上がる。
「あなたは何がしたいの? ここで私たちに膝をつかせたいの?
それとも自分が正しいと叫ぶだけの聖人様を気取るの?」
俺は静かに杯を置き、深呼吸をした。
「いや、俺はただ、“自由な国”を示したいだけだ。
誰かに許可をもらわずとも、人が生きて笑っていける場所を。
その象徴として、俺は今ここで宣言する。」
立ち上がる。
村人たちの視線が集まり、火が風に揺れた。
「アルディナ領は、この日をもって王国の支配を離脱する。
我らは“自由自治の盟域”として、新たな道を歩む。」
その言葉が響いた瞬間、広場全体がざわめいた。
王都兵たちはざわざわと動揺し、村人たちは泣きながら拍手を送る。
セレスティアは息をのんだまま立ち尽くした。
顔色が変わる。怒り、動揺、そして恐怖が入り混じっているようだった。
「バカな……正式な独立宣言だと? それは反逆よ!」
「反逆ならば、俺は喜んで名乗ろう。」
俺は静かに笑った。
「王国は変わらない。なら、俺たちが新しい“王国”になるだけだ。」
***
沈黙。
焚き火がはぜ、夜風が吹き抜ける。
セレスティアはしばらく何も言わなかった。
やがて、ゆっくりと視線を落とし、わずかに肩を震わせる。
「……貴方、昔と同じね。
私が何を言おうと、絶対に折れない。」
「お前もだ。強い女だよ、セレスティア。」
彼女が顔を上げた。
その瞳に宿るのは怒りではない、複雑な情だった。
「無事でいなさい。……次に会う時、私は“敵”として来る。」
馬車の轍が遠ざかっていく。
彼女の背後、夜空には暗雲が広がっていた。
嵐の前の静けさ――。
アルディネアが空を旋回しながら、一言低く呟く。
『宣戦布告だな。だが見事だ、人の子。あの女の心に爪を残した。』
「彼女と戦うのは本意じゃない。だが、退く気もない。」
『ならば進め。次に王国が動けば全面戦争だ。』
「分かってる。だけど、これで形はできた。
この晩餐が、ただの宴では終わらない――
“自由の宴”として刻まれる日が来る。」
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