落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第16話 元仲間ギルドからの勧誘

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ヴァリド火口から戻った翌朝、創星の炉の前には王都中の記者や見物人が押し寄せていた。  
「本当に火霊王を鎮めたんですか!?」  
「レオンさん、次の製品はいつ発表するんですか!?」  
「その紋章、見せてくださいよ!」  

押し寄せる声と目に、ティナは完全に固まっていた。  
エルナが呆れ気味に皿を引っ込める。  
「まるで人気俳優の取材だね……」  
「こんなに注目されるの、落ち着かない……」ティナが小声で呟く。  

炉の奥にいたレオンは、顔をしかめながら外に出た。  
「おい、騒ぐな! 俺たちは職人だ。仕事場を荒らすな!」  
一喝でその場が静まる。  
だがすぐに別のざわめき。通りの向こうから、赤い紋章を掲げた一団が近づいて来た。  

「……紅錆の炉だ。」ガルドの声が低くなる。  
「まさか、今度は正面からか」  

男たちの先頭にいたのはカルドだった。  
かつての仲間であり、レオンを追放した職人――皮肉にも同じ鍛冶師。  
カルドの口元には、昔と変わらぬ挑発的な笑みが浮かんでいた。  

「久しぶりだな、レオン。ずいぶんと派手になったじゃないか」  
「お前からの挨拶とは、意外だな」  
「そりゃあ、かつての同僚が王都の話題をさらってるとなれば、黙ってるわけにいかないさ。……今日は敵対しに来たんじゃない」  

カルドが懐から書状を取り出し、机に置く。封蝋は王都職人同盟の紋。  
「王都同盟が“合併提案”を出している。お前たち創星の炉と、俺たち紅錆の炉を一つの連名ギルドとしてまとめたいらしい」  
ガルドが顔をしかめる。  
「合併? 名目上は再編じゃろうが、実際は吸収じゃろうが」  
カルドは肩をすくめた。  
「正確には代表を入れ替え、統合名“王錆(キングラス)”として活動する。出資者の大半は紅錆側だ。待遇は悪くないはずだ」  

火花が弾ける前触れのように、レオンの声が低く響いた。  
「つまり、俺たちに“看板だけよこせ”というわけか」  
「勘のいい奴は嫌われるぞ。お前の功績で王都から引き出せた評判を、もっと大きく使ってやろうって話だ」  

ティナが立ち上がる。  
「馬鹿にしないでください! やっとここまで来たのに、何でそんな……!」  
カルドは冷ややかにティナを一瞥した。  
「夢見がちな少女だ。こっちは利益と効率で動いてる。職人ってのは理想だけじゃ飯も喰えねぇんだよ」  

その言葉にレオンがわずかに笑った。  
「理想なしで炎が燃えるかよ。お前の炉はもう灰になってる」  
「……強気だな。だが考え直せ。拒否すれば、紅錆の協力者を通じて王都商会の契約をすべて凍結させることもできるんだぞ」  
「脅しか。それしか武器がねぇのか」  
「警告だ」  

カルドは立ち上がり、ドア前で振り返った。  
「いいか、レオン。職人ギルドが一つ潰れるのはあっという間だ。炎が大きいほど、風一つで消える。肝に銘じろ」  

去っていく背中を誰も追わなかった。  
ドアが閉まると同時に、室内の空気が熱を帯びた。  
ガルドが深いため息をつく。  
「面倒なことになったのう」  
ティナは唇を噛んだ。  
「どうすれば……」  
「決まってる。炎をさらに大きくするだけだ」  

レオンの言葉に、全員の視線が彼に集まる。  
「紅錆が潰そうとするなら、それを上回る結果を出す。どんな妨害でも、職人の腕でねじ伏せる。」  

◇  

同日夜。  
王都の裏通りに、フードを被った数人の影が集まっていた。  
紅錆の炉のカルドが椅子に腰を下ろし、テーブルに地図を広げる。  
「創星の炉を潰すために評議会の動きを先取りする。奴らを陥れる証拠を作るんだ。“違法素材取引”の疑惑があれば、一発だ」  

男の一人が不安そうに問う。  
「だが、実際にそんな証拠は……」  
「作ればいい」カルドは冷たく言い放つ。  
「我々の倉庫に数か月前、失踪した炎精石がある。それを“創星の炉が盗んだ”ことにすればいい。上層部は喜んで信じるさ」  

闇の薄笑いが、ひたひたと広がっていった。  

◇  

数日後。  
創星の炉の前に、衛兵たちが現れた。重いブーツの音が響き、工房の扉が叩かれる。  
「創星の炉、聞いているか!  王都警備隊だ! 違法素材取引の疑いで、調査命令が下っている!」  

ティナが凍りつき、エルナが素早く扉前に立つ。  
ガルドが声を荒げた。  
「馬鹿な! うちは全部正規仕入れだぞ!」  
衛兵が書状を差し出す。  
「証拠が提出された。紅錆の炉の倉庫から回収された炎精石の中に、“創星の炉”の納品印が押されていた」  

レオンが前に出た。  
「見せてもらおう」  
取り出された石の箱。確かに、そこには創星の紋章が刻まれていた。  
だがそれは微妙に歪んでいる――まるで手で押した模造印のように。  

「偽物だな」  
「証拠偽造の判断をするのは我々ではなく評議会だ。明日、審問が開かれる。それまでに証明できなければ――登録剥奪だ」  

衛兵たちが去ると、誰も言葉を発せなくなった。  
静寂の中、ティナが震える声で言う。  
「どうして……こんな……」  

レオンは静かに座り、拳を机に置いた。  
「紅錆の手口だ。だが焦るな。絡まれた火は、叩けば精錬される。俺たちは証拠を探す」  
「でも、どこから?」とエルナ。  

ガルドが腕を組んで唸る。  
「紅錆の倉庫に潜って直接確かめるしかないのう。それが一番手っ取り早い」  
「正面突破は危険すぎますよ」ティナが青ざめる。  
「危険だからこそ行く。……ティナ、工房を頼む。俺とエルナとガルドで行く」  

「でも!」  
「守るだけが仲間じゃない。俺たちは“創る”ためにいる。真実を作るんだ」  

レオンの言葉に、ティナは泣きそうな顔で頷いた。  
「わかりました……必ず帰ってきてくださいね」  

◇  

夜。  
王都外れの紅錆の倉庫は静まり返っていた。  
三人の影が屋根を渡り、小窓から中を覗く。  
無数の木箱と魔石の山。その入り口に、紅錆の紋が刻まれた文書袋が山積みになっている。  

ガルドが囁く。  
「こりゃあ……全部、王都各ギルドへの偽装証書じゃろう」  
「奴ら、他のギルドにも仕掛けてるのか……」  
エルナが拳を握る。  
「最低。こんなの見逃せない!」  

レオンが頷き、腰のルシェを抜いた。  
刃が微かに光り、倉庫内の魔封を切り裂く。  
「証拠、確保するぞ」  

鋭い金属音。だがその音に反応するように、奥の影が動いた。  
「誰だ!」  
衛兵の服を着た男たちが飛び出す――だが、その腕には紅錆の刻印。  

「やっぱりな」レオンが構える。  
「連中、自分で“衛兵の証拠”を用意してる。証明にならん」  

炎が吹き上がり、戦闘が始まる。  
金属音と火炎が交差し、瓦礫が飛ぶ。  
エルナが投げたポーションが爆ぜ、男の腕輪封印を破壊する。  
ガルドが大槌で壁を破り、箱の中から書簡袋を引きずり出した。  

「あった! これ、評議会宛ての文書だ!」  
「逃げるぞ!」  

倉庫の外に飛び出した瞬間、背後で火が上がった。  
カルドの声が闇を切る。  
「証拠など渡さん! 貴様らは炎に消える!」  

爆炎が走り、倉庫が崩れ落ちる。  
レオンはエルナを庇いながら転がり、ガルドの肩を掴んだ。  
「無駄だ! もうこの建物ごと――!」  

だがその時、レオンの右腕が熱を発し、焔精の紋が輝いた。  
火口で得た火霊の力が反応し、炎の波を吸い上げる。  
吸われた火は青く変わり、夜空へと昇っていった。  

「火霊の紋……!?」カルドが目を見開く。  

レオンが立ち上がり、拳を握る。  
「火を生む者が、火に焼かれてたまるか!」  

沈黙の後、爆風が止み、残ったのは崩れた瓦礫の中の一枚の書簡だけ。  
青白い光に照らされたそれを拾い、レオンは静かに呟いた。  

「これで十分だ。真実は残った」  

◇  

翌朝、評議会に提出された文書によって紅錆の炉の偽証が明らかになった。  
紅錆は取引凍結、代表カルドは姿を消した。  
しかし――創星の炉の前には、焦げた炎精石が一つだけ置かれていた。  

赤黒い炎の跡を見て、レオンは槌を握る。  
「決着はまだ先だ。あいつは……自分の手で炉を壊すつもりだ」  

その目には、再び戦火のごとく激しい光が灯っていた。  
そして炎の向こうで、紅錆の影が微かに笑ったように見えた。  

(第16話 完)
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