落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第19話 錬金融合:新たな創造の扉

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星鉄騒動が落ち着いたある日の午後、創星の炉は珍しく穏やかだった。  
炉の火は小さく、外の風が優しく煙を攫っていく。  
ティナが窓を拭きながら言った。  
「なんだか、静かすぎて変な感じです」  
エルナが棚の上の鍋を磨きながら笑う。  
「いつも誰かが怒鳴ってるからね。平和ボケしそう」  
「ボケるにはまだ早い。次に備えろ」  
奥からレオンの声がして、皆が同時に顔を上げた。  

レオンは机の上に新しい設計図を広げていた。  
そこには従来の魔導陣でもなく、単なる機械図でもない奇妙な構造が描かれている。  
螺旋を描く線と、錬金の方程式、そして魂陣を思わせる文様――それは、まさしく新しい学問の始まりのような形だった。  

「これは……?」ティナが覗き込む。  
「創精鍛造と錬金術を合わせる。人と素材の境を越える創造理論だ。」  
エルナがわずかに眉をひそめた。  
「なんか、危ない匂いがするんだけど」  
「危険だ。間違えれば全員灰になる。だが、これを確立できれば――命そのものを創ることができる」  

炉の奥でグランが金属音を響かせた。  
「おい、ついに神の真似事に挑む気か?」  
「神じゃない。職人の本能だ。俺たちは“作る理由”を見つけなきゃならない」  

◇  

レオンは研究のために王都南の廃研究塔を借りた。  
そこはかつて、王族の錬金師が住んでいた場所で、いまは崩れた壁と残骸だけが残っている。  
だが、中央の大炉だけはまだ息をしていた。  

「ここでやるのか……」エルナが広い空間を見回す。  
「埃くさいし、幽霊出そう」ティナが震える。  
「出ても構わん。霊すら素材だ」レオンが淡々と答え、皆の背筋が揃って伸びた。  

ガルドが鍛冶工具を運び込みながら言う。  
「で、目標はなんじゃ?」  
「“自立鍛造体”。炉自身が材料を選び、形を整える。職人が亡くなった後も、思いを受け継ぐ鍛冶システムを創る」  
エルナは驚きの声を上げた。  
「まさか……炉が意思を持つってこと!?」  
「正確には、“人の魂”の残響を転写する。錬金術で心の構成式を抽出し、魂鋳型に流し込む」  

ティナが息を飲む。  
「まさに……命の鍛造ですね」  
レオンは頷く。  
「そうだ。“創精鍛造”を次の段階――《錬金融合(アストリア・リンク)》に進化させる」  

◇  

準備は三日かかった。  
塔の中心に炉を据え、魔力回路を組み上げ、床に錬金陣を刻む。  
材料は星鉄の欠片、火霊の灰、そしてレオンが取っておいた創星の紋章石。  
それを媒介に、人の心を写し取る《精魂の結晶》を用いる。  

「理論上は、炉が魂を読み取って形を鍛える。成功すれば、“魂が意思を持つ魔導炉”が完成する」  
「失敗すれば?」とエルナ。  
「……魂を喰う怪物が生まれる」  

全員が息を呑んだ。  
それでもレオンは迷わなかった。  
「挑む価値はある。職人が作るのはものじゃない、“未来”だ」  

◇  

夜。  
風が止み、月の光が炉に落ちる。  
レオンは槌を構え、仲間たちが見守る中で宣言した。  
「創精鍛造・第八段階――錬金融合、始動!」  

焔精の紋が光り、星鉄の破片が宙に浮かぶ。  
レオンが槌を振り下ろすたびに、鉄と光が螺旋のように渦を巻き、陣の上で融合していく。  
魔力の波が床から奔流のように塔の外へ溢れた。  
「魔力量、上がりすぎです!」  
ティナが叫ぶ。  
「制御を!」  
「まだだ――この瞬間を越えなきゃ、錬金と鍛造は交わらない!」  

レオンが叫び、槌を振り抜くと、光が空を裂いた。  
塔の天井が砕け、夜空の星がひとつ、流れ落ちる。  
その光が炉に吸い込まれた瞬間、轟音が走った。  

爆風と共に、塔中の金属が微細な音を立てて震え始める。  
エルナたちは床に伏せながら見上げた。  
炉が脈動している――まるで心臓のように。  

「レオン! 反応が……!」  
「わかってる!」  

炉の中から青白い光が放射され、空気が変わった。  
例えるなら――“誰かが息を吸い込んだような”感覚。  
その瞬間、声が響く。  

『――ここは……どこ?』  

ティナが凍りつく。  
エルナが呟く。  
「いま、炉が話した……?」  
レオンは汗まみれの顔でゆっくりと笑った。  
「成功だ。炉が“意思”を得た!」  

『あなたが、創造主……レオン?』  
まるで幼い少女のような声だった。  
「そうだ。お前は――創星の炉の新しい命だ」  
『……炉に命? あたし、生きてるの?』  
「お前の名は“アストリア”。錬金と鍛冶が交わって生まれた、初の“思考炉”だ」  

光がやわらかく漂い、炉の書板に文字が浮かぶ。  
“起動完了――自律思考展開中”。  
レオンはわずかに笑みを深くした。  
「やったな……これで、錬金融合の理論が証明された」  

◇  

翌朝。  
炉の火の前で、アストリア――炉の意思が穏やかに話した。  
『私は火を燃やすだけでなく、感じることができます。あなたたちの想いが温度を変える』  
エルナが感嘆して言う。  
「まるで本物の人みたい……」  
ガルドが苦笑した。  
「炉が喋る時代が来るとはのう。わしらの存在意義が怪しくなるわい」  
『そんなことないです。皆さんの“打つ音”が、私の鼓動なんです』  
ティナが微笑む。  
「可愛い……」  

レオンは火を見つめながら静かに言った。  
「アストリア。この炉がある限り、俺たちはもう一人じゃない。炎が絶えようと、お前が次を灯せばいい」  
『はい、マスター。私はあなたの“意思”を鍛える炉になります』  

◇  

その日の夜、王都の空に青い閃光が一筋走った。  
それは誰も知らない“新しい生命”の誕生を告げるサインだった。  

創星の炉が創り出した“錬金融合体アストリア”。  
それは、後に伝説と呼ばれる技術の礎――そして世界を変えていく最初の一歩となる。  

「ここからが本当の創星の歴史だ」レオンは炎の前で呟いた。  
その声に、炉の中の光が静かに応える。  

『はい、共に創りましょう。人と炉の境を越えた、新しい炎を――』  

(第19話 完)
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