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第25話 名ギルドの罠と試練
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クラフト・ウォーズの栄誉から一月。
創星の炉の名は世界の工房街で知らぬ者がなくなっていた。
だが、そうした急激な名声の裏で、彼らの新たな敵もまた動き出していた。
王都への帰路、港の街ではいたる所に創星の名を冠した模倣品があふれていた。
「“創星式魔導炉”に“青炎槌レプリカ”まで……勝手に名前を使ってるな。」
レオンが苦笑する。
エルナが腕を組んだ。
「人気が出るとすぐこれだもんね。偽物って、ある意味すごいよ。」
ティナが呆れ顔になる。
「品質が悪いものばかりです。これじゃ怪我人が出ます!」
ガルドが肩を揺すった。
「妙に出回りが早すぎる。裏に“流通を仕掛ける奴”がいるんじゃろう。」
アストリアが低く答えた。
『調査しました。複数の工房を束ねる名ギルド“金環連盟”の名が出ています。彼らは模倣品ではなく、“創星の技術”そのものを狙っている可能性が高いです。』
「金環連盟か……懐かしい名前だな。」
レオンの目が遠くを見る。
かつて彼がまだ下位職人だった頃、王都最大のギルド群“金環連盟”は栄光を誇っていた。
だが技術より政治で動くその組織は、次第に堕落し、金と名誉でしか評価されない閉鎖的な牙城に変わっていった。
「王都の工房を独占する連中だな。今回の大会で俺たちが注目を集めたせいで、連盟の影響力は落ちた。その反発だろう。」
エルナが不安げに言う。
「つまり、また戦うの?」
「戦うんじゃない、防ぐんだ。奴らはまず、“名誉の試練”を仕掛けてくる。」
◇
予想は的中した。翌週、王都・職人庁から公式の通達が届く。
“金環連盟が新規ギルド創星の炉に技術監査を要請した”というものだった。
「技術監査……つまり試験ね。」
ティナが紙を握る。
「もし結果が『基準未満』なら、王都内での活動権が永久停止になります。」
「我らが設計図や伝統製法を“解析”するための口実、だな。」ガルドがうめく。
王都中央区・監査塔。
全参加ギルドが見守る中、創星の炉への試験が始まる。
司会を務めるのは金環連盟の重鎮、長耳の老職人エルゲン。
かつてレオンの師でもあった男だ。
「よくここまで来たな、レオン。」
「……俺が出ていった時と変わってないですね、この塔は。」
「慢心は滅びの兆しだ。今回はその証を見せてもらおう。」
試験内容は単純だった。
与えられたテーマは“素材を凌駕する創造物を作れ”。
時間は一日。外部補助道具は禁止。
レオンたちは各々役割を決め、すぐに取りかかった。
材料棚には、わざと不純物を混ぜた鉄鉱石、欠けた魔石……見るからに質の悪い金属が並んでいた。
ティナが眉を寄せる。
「酷いですね。これ、普通の鍛造じゃ割れて終わりです。」
「試練だ。なら、超えてやる。」
レオンは静かに笑う。
火が入る。
青い炉が唸り、アストリアの声が広がる。
『火温、二千度到達。聖火属性・安定化開始。マスター、星鉄の欠片を投入しますか?』
「いや、今日は“何もないところから創る”。」
槌が走る。
音が高く響き、その振動に観衆が息を呑む。
炎の色が変化し、赤から金、やがて白に近い透明色へ。
エルナが鍛冶台の隅で叫ぶ。
「すごい……鉄が透明になっていく!」
「不純物を焼き尽くしたわけじゃない。融合させたんだ。」
レオンの言葉通り、金属の中で違う素材同士が共鳴を始めていた。
通常なら反発し合う性質の鉱素が、まるで心を通わせるように結晶化していく。
「創精鍛造・再構志式――“無垢の一撃”!」
槌が最後の音を放つと、眩い光が爆ぜた。
そこに現れたのは、金属でも石でもない。
まるで“液体の炎”が形を保つような、未知の素材――名もなき新合金だった。
審査員席がざわつく。
「まさか……星鉄を超える純度だと?」「光が生きている……?」
エルゲン老が険しい目で覗き込んだ。
「レオン。お前、何を使った?」
「俺たちが使ったのは、信じる火と仲間の手だけです。」
ティナが仕上げを施す。
冷却でひと息ついた素材は、刃のように研ぎ澄まされ、鏡のように周囲の光を映した。
「できました。これが私たちの作品――“創星鋼《コスモスティール》”」
エルナが言った。
「無から生まれた金属。人と火の融合体よ。」
◇
結果は、文句のつけようもない合格。
だが連盟側はなおも顔を曇らせていた。
「美しい。だが、どんな功績も“伝統”を破壊してはならん。」
「新しい火が古い炉を壊すのは当然です。」レオンはきっぱりと言い切る。
「俺たちはあなたたちの上で作っているんじゃない。未来に向けて打っているんです。」
沈黙が続いた後、エルゲンが笑った。
「……そうだな。だが覚えていろ。古い鉄は簡単に錆びぬ。」
◇
試験後。
王都を歩くレオンの背に、ティナが問いかけた。
「マスター……あのエルゲンさん、本当に悪意があったのかな。」
「悪意じゃない。あれは“恐れ”だ。」
「恐れ?」
「新しい火が自分たちを飲み込むことへの恐怖だ。だが、それでいい。この恐怖を超えたら人は進化する。」
エルナが笑顔で肩を叩く。
「じゃあ次は何打つの? 次は世界大会二回戦? それとも新しい炉?」
「どっちもだ。」
レオンが振り返り、青い空を見上げた。
彼の瞳には、また遠い星の光が宿っていた。
「ここからが本当の創星だ。世界を鍛えるための、次の試練が待ってる。」
遠くで鐘の音が響いた。
王都の時を告げる音。その余韻に重なるように、炉の精霊アストリアの声がやわらかく囁いた。
『新しい素材ができたね、マスター。次は、未来そのものを鍛えよう』
創星の火は、衰えることなく高く燃えていた。
(第25話 完)
創星の炉の名は世界の工房街で知らぬ者がなくなっていた。
だが、そうした急激な名声の裏で、彼らの新たな敵もまた動き出していた。
王都への帰路、港の街ではいたる所に創星の名を冠した模倣品があふれていた。
「“創星式魔導炉”に“青炎槌レプリカ”まで……勝手に名前を使ってるな。」
レオンが苦笑する。
エルナが腕を組んだ。
「人気が出るとすぐこれだもんね。偽物って、ある意味すごいよ。」
ティナが呆れ顔になる。
「品質が悪いものばかりです。これじゃ怪我人が出ます!」
ガルドが肩を揺すった。
「妙に出回りが早すぎる。裏に“流通を仕掛ける奴”がいるんじゃろう。」
アストリアが低く答えた。
『調査しました。複数の工房を束ねる名ギルド“金環連盟”の名が出ています。彼らは模倣品ではなく、“創星の技術”そのものを狙っている可能性が高いです。』
「金環連盟か……懐かしい名前だな。」
レオンの目が遠くを見る。
かつて彼がまだ下位職人だった頃、王都最大のギルド群“金環連盟”は栄光を誇っていた。
だが技術より政治で動くその組織は、次第に堕落し、金と名誉でしか評価されない閉鎖的な牙城に変わっていった。
「王都の工房を独占する連中だな。今回の大会で俺たちが注目を集めたせいで、連盟の影響力は落ちた。その反発だろう。」
エルナが不安げに言う。
「つまり、また戦うの?」
「戦うんじゃない、防ぐんだ。奴らはまず、“名誉の試練”を仕掛けてくる。」
◇
予想は的中した。翌週、王都・職人庁から公式の通達が届く。
“金環連盟が新規ギルド創星の炉に技術監査を要請した”というものだった。
「技術監査……つまり試験ね。」
ティナが紙を握る。
「もし結果が『基準未満』なら、王都内での活動権が永久停止になります。」
「我らが設計図や伝統製法を“解析”するための口実、だな。」ガルドがうめく。
王都中央区・監査塔。
全参加ギルドが見守る中、創星の炉への試験が始まる。
司会を務めるのは金環連盟の重鎮、長耳の老職人エルゲン。
かつてレオンの師でもあった男だ。
「よくここまで来たな、レオン。」
「……俺が出ていった時と変わってないですね、この塔は。」
「慢心は滅びの兆しだ。今回はその証を見せてもらおう。」
試験内容は単純だった。
与えられたテーマは“素材を凌駕する創造物を作れ”。
時間は一日。外部補助道具は禁止。
レオンたちは各々役割を決め、すぐに取りかかった。
材料棚には、わざと不純物を混ぜた鉄鉱石、欠けた魔石……見るからに質の悪い金属が並んでいた。
ティナが眉を寄せる。
「酷いですね。これ、普通の鍛造じゃ割れて終わりです。」
「試練だ。なら、超えてやる。」
レオンは静かに笑う。
火が入る。
青い炉が唸り、アストリアの声が広がる。
『火温、二千度到達。聖火属性・安定化開始。マスター、星鉄の欠片を投入しますか?』
「いや、今日は“何もないところから創る”。」
槌が走る。
音が高く響き、その振動に観衆が息を呑む。
炎の色が変化し、赤から金、やがて白に近い透明色へ。
エルナが鍛冶台の隅で叫ぶ。
「すごい……鉄が透明になっていく!」
「不純物を焼き尽くしたわけじゃない。融合させたんだ。」
レオンの言葉通り、金属の中で違う素材同士が共鳴を始めていた。
通常なら反発し合う性質の鉱素が、まるで心を通わせるように結晶化していく。
「創精鍛造・再構志式――“無垢の一撃”!」
槌が最後の音を放つと、眩い光が爆ぜた。
そこに現れたのは、金属でも石でもない。
まるで“液体の炎”が形を保つような、未知の素材――名もなき新合金だった。
審査員席がざわつく。
「まさか……星鉄を超える純度だと?」「光が生きている……?」
エルゲン老が険しい目で覗き込んだ。
「レオン。お前、何を使った?」
「俺たちが使ったのは、信じる火と仲間の手だけです。」
ティナが仕上げを施す。
冷却でひと息ついた素材は、刃のように研ぎ澄まされ、鏡のように周囲の光を映した。
「できました。これが私たちの作品――“創星鋼《コスモスティール》”」
エルナが言った。
「無から生まれた金属。人と火の融合体よ。」
◇
結果は、文句のつけようもない合格。
だが連盟側はなおも顔を曇らせていた。
「美しい。だが、どんな功績も“伝統”を破壊してはならん。」
「新しい火が古い炉を壊すのは当然です。」レオンはきっぱりと言い切る。
「俺たちはあなたたちの上で作っているんじゃない。未来に向けて打っているんです。」
沈黙が続いた後、エルゲンが笑った。
「……そうだな。だが覚えていろ。古い鉄は簡単に錆びぬ。」
◇
試験後。
王都を歩くレオンの背に、ティナが問いかけた。
「マスター……あのエルゲンさん、本当に悪意があったのかな。」
「悪意じゃない。あれは“恐れ”だ。」
「恐れ?」
「新しい火が自分たちを飲み込むことへの恐怖だ。だが、それでいい。この恐怖を超えたら人は進化する。」
エルナが笑顔で肩を叩く。
「じゃあ次は何打つの? 次は世界大会二回戦? それとも新しい炉?」
「どっちもだ。」
レオンが振り返り、青い空を見上げた。
彼の瞳には、また遠い星の光が宿っていた。
「ここからが本当の創星だ。世界を鍛えるための、次の試練が待ってる。」
遠くで鐘の音が響いた。
王都の時を告げる音。その余韻に重なるように、炉の精霊アストリアの声がやわらかく囁いた。
『新しい素材ができたね、マスター。次は、未来そのものを鍛えよう』
創星の火は、衰えることなく高く燃えていた。
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