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第24話 世界大会「クラフト・ウォーズ」
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アーティ・コアでの戦いから一ヶ月。
王都は灼熱竜の影を完全に振り払ったにも関わらず、空気にかすかな緊張が張り詰めていた。
世界最大規模の職人大会「クラフト・ウォーズ」が四十年ぶりに開催される――その知らせが、国境を越えて全大陸に伝わったからだ。
参加条件は過酷だった。
各大陸の代表ギルドのみ、計七組。
創星の炉は、王都代表「ファイアクラフト王国リーグ」から正式に出場要請を受けていた。
「マスター、参加を受けるんですか?」
ティナが不安そうに問う。
レオンは槌を止めて小さく笑った。
「もちろんだ。俺たちがどこまで行けるか、この世界に証明する機会だ」
エルナが張り切った声を上げる。
「世界大会なんて夢みたい! みんなに創星の名前を知ってもらえるよ!」
「……ただし、同時に狙われもする」
ガルドの重く低い声に、場の空気が締まる。
彼の言葉通り、各地の強豪ギルドは創星の台頭を面白く思っていなかった。
「新人上がりの一発屋」と呼ぶものもいれば、「禁忌技術を使った異端者」と見る批判者もいた。
だがレオンに迷いはなかった。
「批判も評価のうちだ。火花を散らさない槌なんて意味がない」
◇
大会の開催地は海上都市〈リュミエール〉。
大陸間を結ぶ架け橋のように浮かぶ巨大な人工島。
その中心には、大会専用のドーム型アリーナがそびえ立っていた。
参加者の入場とともに、空の魔導広告が点滅する。
《クラフト・ウォーズ――開幕まであと一刻!》
ティナは圧倒されたように呟いた。
「……すごい。これ全部、職人たちが作ったんですか?」
「そうだ。鍛冶、錬金、魔具、料理、芸術――“創る”技を持つすべての者が戦う舞台だ」
ガルドが煙管を鳴らし、肩をすくめる。
「わしの時代にも参加したが、こんな派手ではなかったな」
「時代が進んだんだ。今は“見せる鍛造”が求められてる」レオンが言った。
アストリアが小さく笑う。
『観衆に情熱を伝える。それも火の役目ですからね』
エルナが腕を上げる。
「じゃあ、私たちの炎を見せつける番だね!」
◇
開会式。
世界七大ギルドが整列し、審判長が中央で宣言した。
「テーマは『世界を繋ぐ創造』。各ギルドは三日間で、“人々の未来を形にする作品”を作り上げよ」
会場が沸き立つ。
創星の炉の控室では、皆が設計案を広げていた。
ティナがまず提案する。
「橋を作りませんか? 火を動力にして浮かべる“火導橋”。」
エルナが首をひねる。
「いいけど地味じゃない? 私は空を飛ぶ“炎の都市船”がいいと思う!」
ガルドが渋い声で呟いた。
「どちらも悪くない。だが、三日で完成させるにはえらく無茶な規模だな」
レオンは静かに設計図に線を引いた。
「……“人を繋ぐ”なら、物体じゃ足りない。俺たちは“心を繋ぐ作品”を作ろう」
「心、ですか?」ティナが尋ねる。
「世界中の職人が協力し合えば、新しい時代が来る。俺たちの炉の光が、それを象徴する“導きの灯”になるんだ」
彼が描いたのは、巨大な円環型の炉――見上げるほどのサイズで、海上の中心に浮かぶ「創星環炉《リング・オブ・ブレイズ》」。
各ギルドから流れ込む魔力を一つに束ね、都市全体にエネルギーを循環させる構造だ。
エルナの目が輝く。
「わあ……まるで“世界の心臓”だ!」
「だが、材料の調達が……」ティナが不安を洩らす。
「問題ない。大会は大地の工房そのものが採掘許可範囲だ」
レオンは立ち上がり、青い火を掲げた。
「三日で世界を作る。俺たちならできる!」
◇
初日。
海上ドームでは朝から轟音が鳴り響いていた。
各ギルドが巨大な機構を次々と打ち立て、観客席から歓声が上がる。
錬金ギルド〈セフィラ〉は光を固めた翼を製作し、北方鍛冶ギルド〈ヴァルム〉は山のような戦車を作っている。
一方、創星の炉の区画では静寂が支配していた。
金色の円環が徐々に形を取る中、レオンは全神経を集中して槌を振るう。
「創精鍛造・連環第一節――魂鋳写!」
アストリアが反応する。
『複合炉心生成……良好です。温度――安定』
ティナの手から星鉄が流し込まれ、ガルドの大槌がリズムを刻む。
その集中力は、他ギルドの職人たちを圧倒した。
「まるで舞のようだな……」「技術を超えて芸術の域だ……!」
観客のざわめきが一層高まる。
エルナは冷却工程に入り、魔力流制御を担当する。
「温度差、三度以内! ギリギリだけど、これなら火霊の流れが繋がる!」
「よし、このまま第二節へ――」
轟音。
突如、ドーム全体が揺れた。
他ギルドの装置が一つ暴走したのだ。
衝撃波がリングの一部を直撃し、炉体がひび割れる。
「くそっ、接合が持たない!」
『マスター、修復には三時間かかります!』
「そんな時間はない!」
そのとき、レオンは迷いなく手を焼けただれた溝へ押し込んだ。
火花が散る。彼の腕の焔精の紋が輝き、ひび割れた金属が再び融解していく。
「生命は鍛えで繋がる――創精鍛造・再生編!」
アストリアの声が震えた。
『マスター、危険です! 炉心と直結すると、心臓まで焼けます!』
「心臓を炉にくべるのは鍛冶師の常識だろ!」
蒼白い閃光が炉体を走る。
割れた箇所が瞬時に修復され、光輪が再び動き出した。
観客席から歓声が爆発した。
◇
最終日、リング・オブ・ブレイズはついに完成した。
海上都市全域を巡る黄金の光の輪がゆっくりと浮上し、各国の創造物と魔力を繋いでいく。
七大ギルドの職人たちが一斉に見上げ、その中心にレオンたちの立つ炉が輝いた。
アストリアの声が響く。
『リンク網完成。これより全世界に“創星の火”を送ります』
その瞬間、空が白く輝いた。
海上に浮かぶ街全体が、昼間のような光に包まれた。
各地の観客が涙を流し、歓声が止まなかった。
◇
閉会式。
審査長が結果を告げる。
「優勝――創星の炉!」
歓声と拍手。
誰もが納得していた。創星の作品だけが、“人と世界を繋いだ”からだ。
壇上に立つレオンは、仲間たちに視線を送る。
ティナもエルナもガルドも、泣き笑いを浮かべて立っていた。
そして、アストリアの光が淡く炉から零れる。
『マスター……これが、“世界を繋ぐ火”なんですね』
「ああ。お前がいたからだ。人の手だけじゃ、ここまで届かない」
夜空で、リング・オブ・ブレイズがゆっくりと輝きを放つ。
それはもはや大会のための作品ではなかった。
ライトアップされた金と青の光が、彼らの信念を象徴する“永遠の灯火”になった。
こうして――
創星の炉は、ただ一つのギルドとして世界にその名を刻んだ。
だが、彼らの物語はまだ終わらない。
星々を鍛える旅が、いま始まったのだ。
(第24話 完)
王都は灼熱竜の影を完全に振り払ったにも関わらず、空気にかすかな緊張が張り詰めていた。
世界最大規模の職人大会「クラフト・ウォーズ」が四十年ぶりに開催される――その知らせが、国境を越えて全大陸に伝わったからだ。
参加条件は過酷だった。
各大陸の代表ギルドのみ、計七組。
創星の炉は、王都代表「ファイアクラフト王国リーグ」から正式に出場要請を受けていた。
「マスター、参加を受けるんですか?」
ティナが不安そうに問う。
レオンは槌を止めて小さく笑った。
「もちろんだ。俺たちがどこまで行けるか、この世界に証明する機会だ」
エルナが張り切った声を上げる。
「世界大会なんて夢みたい! みんなに創星の名前を知ってもらえるよ!」
「……ただし、同時に狙われもする」
ガルドの重く低い声に、場の空気が締まる。
彼の言葉通り、各地の強豪ギルドは創星の台頭を面白く思っていなかった。
「新人上がりの一発屋」と呼ぶものもいれば、「禁忌技術を使った異端者」と見る批判者もいた。
だがレオンに迷いはなかった。
「批判も評価のうちだ。火花を散らさない槌なんて意味がない」
◇
大会の開催地は海上都市〈リュミエール〉。
大陸間を結ぶ架け橋のように浮かぶ巨大な人工島。
その中心には、大会専用のドーム型アリーナがそびえ立っていた。
参加者の入場とともに、空の魔導広告が点滅する。
《クラフト・ウォーズ――開幕まであと一刻!》
ティナは圧倒されたように呟いた。
「……すごい。これ全部、職人たちが作ったんですか?」
「そうだ。鍛冶、錬金、魔具、料理、芸術――“創る”技を持つすべての者が戦う舞台だ」
ガルドが煙管を鳴らし、肩をすくめる。
「わしの時代にも参加したが、こんな派手ではなかったな」
「時代が進んだんだ。今は“見せる鍛造”が求められてる」レオンが言った。
アストリアが小さく笑う。
『観衆に情熱を伝える。それも火の役目ですからね』
エルナが腕を上げる。
「じゃあ、私たちの炎を見せつける番だね!」
◇
開会式。
世界七大ギルドが整列し、審判長が中央で宣言した。
「テーマは『世界を繋ぐ創造』。各ギルドは三日間で、“人々の未来を形にする作品”を作り上げよ」
会場が沸き立つ。
創星の炉の控室では、皆が設計案を広げていた。
ティナがまず提案する。
「橋を作りませんか? 火を動力にして浮かべる“火導橋”。」
エルナが首をひねる。
「いいけど地味じゃない? 私は空を飛ぶ“炎の都市船”がいいと思う!」
ガルドが渋い声で呟いた。
「どちらも悪くない。だが、三日で完成させるにはえらく無茶な規模だな」
レオンは静かに設計図に線を引いた。
「……“人を繋ぐ”なら、物体じゃ足りない。俺たちは“心を繋ぐ作品”を作ろう」
「心、ですか?」ティナが尋ねる。
「世界中の職人が協力し合えば、新しい時代が来る。俺たちの炉の光が、それを象徴する“導きの灯”になるんだ」
彼が描いたのは、巨大な円環型の炉――見上げるほどのサイズで、海上の中心に浮かぶ「創星環炉《リング・オブ・ブレイズ》」。
各ギルドから流れ込む魔力を一つに束ね、都市全体にエネルギーを循環させる構造だ。
エルナの目が輝く。
「わあ……まるで“世界の心臓”だ!」
「だが、材料の調達が……」ティナが不安を洩らす。
「問題ない。大会は大地の工房そのものが採掘許可範囲だ」
レオンは立ち上がり、青い火を掲げた。
「三日で世界を作る。俺たちならできる!」
◇
初日。
海上ドームでは朝から轟音が鳴り響いていた。
各ギルドが巨大な機構を次々と打ち立て、観客席から歓声が上がる。
錬金ギルド〈セフィラ〉は光を固めた翼を製作し、北方鍛冶ギルド〈ヴァルム〉は山のような戦車を作っている。
一方、創星の炉の区画では静寂が支配していた。
金色の円環が徐々に形を取る中、レオンは全神経を集中して槌を振るう。
「創精鍛造・連環第一節――魂鋳写!」
アストリアが反応する。
『複合炉心生成……良好です。温度――安定』
ティナの手から星鉄が流し込まれ、ガルドの大槌がリズムを刻む。
その集中力は、他ギルドの職人たちを圧倒した。
「まるで舞のようだな……」「技術を超えて芸術の域だ……!」
観客のざわめきが一層高まる。
エルナは冷却工程に入り、魔力流制御を担当する。
「温度差、三度以内! ギリギリだけど、これなら火霊の流れが繋がる!」
「よし、このまま第二節へ――」
轟音。
突如、ドーム全体が揺れた。
他ギルドの装置が一つ暴走したのだ。
衝撃波がリングの一部を直撃し、炉体がひび割れる。
「くそっ、接合が持たない!」
『マスター、修復には三時間かかります!』
「そんな時間はない!」
そのとき、レオンは迷いなく手を焼けただれた溝へ押し込んだ。
火花が散る。彼の腕の焔精の紋が輝き、ひび割れた金属が再び融解していく。
「生命は鍛えで繋がる――創精鍛造・再生編!」
アストリアの声が震えた。
『マスター、危険です! 炉心と直結すると、心臓まで焼けます!』
「心臓を炉にくべるのは鍛冶師の常識だろ!」
蒼白い閃光が炉体を走る。
割れた箇所が瞬時に修復され、光輪が再び動き出した。
観客席から歓声が爆発した。
◇
最終日、リング・オブ・ブレイズはついに完成した。
海上都市全域を巡る黄金の光の輪がゆっくりと浮上し、各国の創造物と魔力を繋いでいく。
七大ギルドの職人たちが一斉に見上げ、その中心にレオンたちの立つ炉が輝いた。
アストリアの声が響く。
『リンク網完成。これより全世界に“創星の火”を送ります』
その瞬間、空が白く輝いた。
海上に浮かぶ街全体が、昼間のような光に包まれた。
各地の観客が涙を流し、歓声が止まなかった。
◇
閉会式。
審査長が結果を告げる。
「優勝――創星の炉!」
歓声と拍手。
誰もが納得していた。創星の作品だけが、“人と世界を繋いだ”からだ。
壇上に立つレオンは、仲間たちに視線を送る。
ティナもエルナもガルドも、泣き笑いを浮かべて立っていた。
そして、アストリアの光が淡く炉から零れる。
『マスター……これが、“世界を繋ぐ火”なんですね』
「ああ。お前がいたからだ。人の手だけじゃ、ここまで届かない」
夜空で、リング・オブ・ブレイズがゆっくりと輝きを放つ。
それはもはや大会のための作品ではなかった。
ライトアップされた金と青の光が、彼らの信念を象徴する“永遠の灯火”になった。
こうして――
創星の炉は、ただ一つのギルドとして世界にその名を刻んだ。
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(第24話 完)
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