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“妖精なんていない”と笑った王子を捨てた令嬢、幼馴染と婚約する件
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アデリナは小さな箱をそっと開けた。
この箱を見る度、苦い思いが胸に広がる。
中身が空っぽのそれは、鮮やかな包装紙がすでに色褪せて角は擦り切れていた。
(こんな最低なプレゼント、捨てたいのに)
これは、幼馴染のレアンドロ王子がくれたものだ。
幼い頃のアデリナは、レアンドロに恋をしていた。金髪に明るい青の瞳は、子どもながらに王子様そのもので、アデリナにとって甘い思いを抱かせるには充分だった。
だから、誕生日に“妖精好きなお前に、妖精のプレゼントだ”、と箱を渡された時は飛び上がるほど嬉しくてソワソワして箱を開けた。
そしたら、中身は空っぽだった。
「アハハ!何だよその顔、妖精なんているわけないだろ!」
イタズラ好きなレアンドロは悪気なく豪快に笑った。
本気で妖精の存在を信じていたアデリナは、レアンドロの言葉が鋭く心に刺さったのだった。
――アデリナはその時の痛みを今でも忘れられない。子どもならではの無邪気なイタズラは、彼女の純粋な信じる気持ちを壊した。
以来、誕生日は彼女にとって楽しい、というよりも苦い思い出が蘇る日となった。だから、アデリナは誕生会をやりたがらず、彼女の心の傷を知る家族も誕生会を無理に開こうとはしなかった。
(……今年もまた、静かな一日が過ぎていくわ)
アデリナは、窓の外の光を感じながらも前向きになれない気持ちでいた。
「アデリナ、今日は誕生日だろう?盛大なお祝いは苦手だろうけど、これくらいは受け取ってほしい」
同じく幼馴染であるマテオが花束を渡してくる。
彼は毎年、ささやかな誕生日プレゼントをアデリナに贈ってくれていた。
彼曰く、“自分が生まれた日に誰にも祝われないのは寂しいじゃないか”とのことらしい。
(マテオは優しい。なんで、かつての私は彼に恋しなかったのかしら?)
当時から優しかったマテオに恋せず、王子であり見た目も完璧な王子像でレアンドロを好きになったのが不思議なくらいだ。
――そんなマテオは、今年のアデリナの誕生日こそ、きちんと祝いたいと考えていた。
(ささやかなプレゼントを贈るだけじゃなくて、彼女が心から誕生日を楽しめるようにしたい)
先日、レアンドロの婚約者が決定した。相手は隣国の王女で、ゆくゆく婚約することが見込まれていたから、すんなりと話はまとまった。
「お前たちもそろそろ婚約者を決める頃だよな?」
レアンドロの言葉を強く意識したのはマテオだった。
なんとなく幼い頃から好意を抱いていた相手、アデリナを密かに見る。アデリナはレアンドロの話を笑って受け流していた。
「私はいいの。しばらく一人を楽しみたいわ」
彼女の言葉にマテオは寂しい気持ちになる。
アデリナはもともと天真爛漫で、妖精の存在を純粋に信じている少女だった。祖母に聞いたという妖精の存在にすっかり夢中で、3人で遊んでいる時によく妖精のことを話していた。
(そのせいで、レアンドロが余計なことを考えついたんだ)
レアンドロは純粋なアデリナの気持ちを踏みにじった。普段は冗談を好む明るい青年でいい奴だと思っていたが、好きな女性の心を傷つけた点については許しがたいと思っている。
とはいえ、相手は王太子であって強く注意できる相手ではない。ましてや、今は成人の仲間入りをしている。アデリナに謝れ、とは言えなかった。
――そんなある日、マテオはアデリナの屋敷に呼ばれた。
成長してからマテオは誕生日みたいな特別な日以外に互いの屋敷を気軽に訪ねることはしていない。マテオははやる気持ちを抑えながら彼女の屋敷を訪れた。
「いらっしゃい。あのね、私、幼い頃の日記を見つけたの」
客室に現れたアデリナは、古い日記帳を見せてくる。
「僕も見ていいのかい?」
「ええ、もちろん。ここを読んでみて」
彼女の示したところには、子どもらしい字で
《おばあ様から妖精さんのいる場所を記した地図をもらった》
と書かれていた。
“妖精”、と見てドキリとする。あの一件以来、アデリナは“妖精”という言葉を口にするのさえ避けていた。
「好きだったね、“妖精”のこと」
どういうつもりでアデリナが言ったのか分からず、様子を伺うように言う。
「ええ。純粋に夢中だったわ。……あのとき、私、本気で信じてたから妖精の話ばかりしていたわね。それに、“妖精は信じる子のもとにやって来る”からって、あなたたちを妖精の森に誘ったりもして」
アデリナの言葉に、マテオはふっと笑った。
「覚えてるよ。僕とレアンドロもよく連れて行かれた」
アデリナは日記に挟まれていた古いメモを手に取る。
「これに、おばあ様が妖精の森に宝物を埋めた場所が記されているの。……すっかり忘れていたけれど、ふと、何が埋まっていたのか知りたくなったの」
「……どうして、そういう気になった?」
ずっと避けていたはずの“妖精”の話に触れたアデリナが気になり、マテオは尋ねた。
「レアンドロ様が婚約されたでしょう?それで私も気持ちが解放されたような気がして。今ならあの苦い思い出も良い思い出にすることができそうだなって」
「もしかして……まだレアンドロ殿下のことが好きなのか?」
「好きだなんて一度も言ったことないわ」
アデリナは妙にハッキリと言う。
「私を傷つけた人を好きなわけないわ。ただの思い出よ」
「そうか……」
アデリナの本心は分からないが、彼女がそうだと言うならば、それ以上を尋ねるのはやめようとマテオは考えた。
「ねえ、今度、妖精の森に行ってみない?」
「もちろん、僕で良ければ喜んで」
2人は微笑んだ。
――やって来た妖精の森は、昔と変わらず緑の濃い静寂に包まれていた。
草を踏む音がやけに大きく響く。風に揺れる木々のざわめきが、まるで誰かの囁きのようだった。
「懐かしいわ」
「ホントだな」
アデリナの懐かしむような声に、マテオもそっと目を細めた。
しばらく歩くと、大きな大木があって祖母の地図にはその下を掘るように書いてあった。
「ここを掘るのね」
「僕がやるよ」
マテオは持ってきたスコップを手に取ると、慎重に掘り進めていく。じんわりと暑くて汗が滴った。
「ありがとう。汗を拭くわね?」
微笑みながら額の汗を拭いてくれる彼女の頬に、陽射しが柔らかく落ちている。マテオの心臓がはねた。
(なんて綺麗なんだ)
やがて、コツンとスコップの先に何かが当たる音がした。
「……これだな」
マテオは土にまみれた小箱を取り出すと、手が汚れるのも気にせず、土を払いのけた。
「はい、こちらをどうぞお姫様」
冗談めかしながらアデリナの前に差し出すと、彼女が顔を赤らめながら受け取る。
「お姫様だなんて言うのは、あなたぐらいだわ」
「そんなことはないさ。……少なくとも、僕にとって君は特別なお姫様だよ?」
「私、痛い目を見てからは、簡単に信じないようにしているの」
マテオは、レアンドロは余計なことをしてくれたもんだ、と思った。
(勇気を出して告白したつもりなのに、レアンドロのせいで流されたじゃないか)
マテオはほかの言葉を言いかけたが、結局なにも言えずに視線を落とす。箱を見ているアデリナは気付いていなかった。
「マテオ、この箱を開けてみましょう」
錆びかけた金色の留め具を外すと、キイ、と小さな音を立てて箱は開いた。
「……これは……」
中には小さな布に包まれた宝石のような物と、1枚の古びた紙が入っていた。
アデリナがそっとその紙を広げると、どこか懐かしい香りがふっと立ちのぼる。
《妖精は、信じる人の側に、姿を変えて現れるもの。
あなたが悲しいとか寂しいと感じた時に、寄り添ってくれる存在が妖精とも言えるわ。
この石は、“妖精の涙”という幸運を呼ぶアイテムよ。
あなたに信じられる “大切な人”ができた時、相手に渡しなさい。
きっと、あなたたちに幸せを運んでくれるわ》
「……おばあ様の字だわ」
アデリナは微かに震える声で呟いた。マテオも彼女の隣に腰を下ろして、箱の中を覗き込む。
包みを開くと淡い青の宝石が2つ、対になるように並んでいた。
それは小さな涙のような形をしていて、首飾りにできるように小さな穴が開いている。
アデリナは1つを指先でつまんだ。陽の光を浴びて、石は淡く煌めいている。
「とてもキレイだわ」
「それ……誰に渡すの?」
落ちつかない様子でマテオはアデリナに聞いた。
「……あなたに渡したら、迷惑かしら?」
「僕がもらっていいの?とても大切な物だろう?」
「あなただからよ。……実はね、ここにはあなたがいたからこそ来ようと思えたの。あなたは、過去に閉じこもったままの私を、ずっと静かに見守ってくれていた……マテオが私の妖精なのかなって」
マテオの体を言葉にならない感激が包む。
「僕は、可愛くて神秘的じゃないけど気は変わらない?」
「……うん、変わらないわ。ずっと側にいてくれたらすごく心強い」
「ずっといるよ」
風がまた、木々を揺らした。
それはまるで、祝福するような、やさしい囁きだった。
――アデリナとマテオはレアンドロに呼ばれて王城に来ていた。
「お前たち、婚約したってホントか?」
「本当ですよ、殿下」
「おい、今は3人しかいない。普通に話せよ」
メイドたちも下がらせたレアンドロの部屋には、くつろいだ様子のレアンドロがソファに半分、寝そべっている。
「では……今だけ。王太子がそんなだらしないことしていいのか?」
「お、そういう突っ込みいいね。 やっぱりお前らといると楽だなあ。隣の王女サマ、きちんとしていないと怒るんだよ」
「それはそうだろう。人の上に立つ存在なんだから」
レアンドロがむくりと起き上がる。
「オレ、気楽にいられるアデリナと婚約すれば良かったな」
「絶対に譲らないぞ。お前が王子だろうと」
マテオがアデリナの前に腕を伸ばして阻止するような仕草をする。
「アデリナはマテオのこと、本気で好きなのかよ?」
「ええ、とっても。片時も離れたくないほどに」
アデリナの言葉にマテオは真っ赤になった。
「アデリナ、そういうことは2人の時に……」
慌てる姿を見ているレアンドロはつまらなさそうな顔をした。
「オレは何を間違えたんだろうな?」
「さあな」
マテオは清々しく答え、アデリナはフフ、と笑ったのだった。
この箱を見る度、苦い思いが胸に広がる。
中身が空っぽのそれは、鮮やかな包装紙がすでに色褪せて角は擦り切れていた。
(こんな最低なプレゼント、捨てたいのに)
これは、幼馴染のレアンドロ王子がくれたものだ。
幼い頃のアデリナは、レアンドロに恋をしていた。金髪に明るい青の瞳は、子どもながらに王子様そのもので、アデリナにとって甘い思いを抱かせるには充分だった。
だから、誕生日に“妖精好きなお前に、妖精のプレゼントだ”、と箱を渡された時は飛び上がるほど嬉しくてソワソワして箱を開けた。
そしたら、中身は空っぽだった。
「アハハ!何だよその顔、妖精なんているわけないだろ!」
イタズラ好きなレアンドロは悪気なく豪快に笑った。
本気で妖精の存在を信じていたアデリナは、レアンドロの言葉が鋭く心に刺さったのだった。
――アデリナはその時の痛みを今でも忘れられない。子どもならではの無邪気なイタズラは、彼女の純粋な信じる気持ちを壊した。
以来、誕生日は彼女にとって楽しい、というよりも苦い思い出が蘇る日となった。だから、アデリナは誕生会をやりたがらず、彼女の心の傷を知る家族も誕生会を無理に開こうとはしなかった。
(……今年もまた、静かな一日が過ぎていくわ)
アデリナは、窓の外の光を感じながらも前向きになれない気持ちでいた。
「アデリナ、今日は誕生日だろう?盛大なお祝いは苦手だろうけど、これくらいは受け取ってほしい」
同じく幼馴染であるマテオが花束を渡してくる。
彼は毎年、ささやかな誕生日プレゼントをアデリナに贈ってくれていた。
彼曰く、“自分が生まれた日に誰にも祝われないのは寂しいじゃないか”とのことらしい。
(マテオは優しい。なんで、かつての私は彼に恋しなかったのかしら?)
当時から優しかったマテオに恋せず、王子であり見た目も完璧な王子像でレアンドロを好きになったのが不思議なくらいだ。
――そんなマテオは、今年のアデリナの誕生日こそ、きちんと祝いたいと考えていた。
(ささやかなプレゼントを贈るだけじゃなくて、彼女が心から誕生日を楽しめるようにしたい)
先日、レアンドロの婚約者が決定した。相手は隣国の王女で、ゆくゆく婚約することが見込まれていたから、すんなりと話はまとまった。
「お前たちもそろそろ婚約者を決める頃だよな?」
レアンドロの言葉を強く意識したのはマテオだった。
なんとなく幼い頃から好意を抱いていた相手、アデリナを密かに見る。アデリナはレアンドロの話を笑って受け流していた。
「私はいいの。しばらく一人を楽しみたいわ」
彼女の言葉にマテオは寂しい気持ちになる。
アデリナはもともと天真爛漫で、妖精の存在を純粋に信じている少女だった。祖母に聞いたという妖精の存在にすっかり夢中で、3人で遊んでいる時によく妖精のことを話していた。
(そのせいで、レアンドロが余計なことを考えついたんだ)
レアンドロは純粋なアデリナの気持ちを踏みにじった。普段は冗談を好む明るい青年でいい奴だと思っていたが、好きな女性の心を傷つけた点については許しがたいと思っている。
とはいえ、相手は王太子であって強く注意できる相手ではない。ましてや、今は成人の仲間入りをしている。アデリナに謝れ、とは言えなかった。
――そんなある日、マテオはアデリナの屋敷に呼ばれた。
成長してからマテオは誕生日みたいな特別な日以外に互いの屋敷を気軽に訪ねることはしていない。マテオははやる気持ちを抑えながら彼女の屋敷を訪れた。
「いらっしゃい。あのね、私、幼い頃の日記を見つけたの」
客室に現れたアデリナは、古い日記帳を見せてくる。
「僕も見ていいのかい?」
「ええ、もちろん。ここを読んでみて」
彼女の示したところには、子どもらしい字で
《おばあ様から妖精さんのいる場所を記した地図をもらった》
と書かれていた。
“妖精”、と見てドキリとする。あの一件以来、アデリナは“妖精”という言葉を口にするのさえ避けていた。
「好きだったね、“妖精”のこと」
どういうつもりでアデリナが言ったのか分からず、様子を伺うように言う。
「ええ。純粋に夢中だったわ。……あのとき、私、本気で信じてたから妖精の話ばかりしていたわね。それに、“妖精は信じる子のもとにやって来る”からって、あなたたちを妖精の森に誘ったりもして」
アデリナの言葉に、マテオはふっと笑った。
「覚えてるよ。僕とレアンドロもよく連れて行かれた」
アデリナは日記に挟まれていた古いメモを手に取る。
「これに、おばあ様が妖精の森に宝物を埋めた場所が記されているの。……すっかり忘れていたけれど、ふと、何が埋まっていたのか知りたくなったの」
「……どうして、そういう気になった?」
ずっと避けていたはずの“妖精”の話に触れたアデリナが気になり、マテオは尋ねた。
「レアンドロ様が婚約されたでしょう?それで私も気持ちが解放されたような気がして。今ならあの苦い思い出も良い思い出にすることができそうだなって」
「もしかして……まだレアンドロ殿下のことが好きなのか?」
「好きだなんて一度も言ったことないわ」
アデリナは妙にハッキリと言う。
「私を傷つけた人を好きなわけないわ。ただの思い出よ」
「そうか……」
アデリナの本心は分からないが、彼女がそうだと言うならば、それ以上を尋ねるのはやめようとマテオは考えた。
「ねえ、今度、妖精の森に行ってみない?」
「もちろん、僕で良ければ喜んで」
2人は微笑んだ。
――やって来た妖精の森は、昔と変わらず緑の濃い静寂に包まれていた。
草を踏む音がやけに大きく響く。風に揺れる木々のざわめきが、まるで誰かの囁きのようだった。
「懐かしいわ」
「ホントだな」
アデリナの懐かしむような声に、マテオもそっと目を細めた。
しばらく歩くと、大きな大木があって祖母の地図にはその下を掘るように書いてあった。
「ここを掘るのね」
「僕がやるよ」
マテオは持ってきたスコップを手に取ると、慎重に掘り進めていく。じんわりと暑くて汗が滴った。
「ありがとう。汗を拭くわね?」
微笑みながら額の汗を拭いてくれる彼女の頬に、陽射しが柔らかく落ちている。マテオの心臓がはねた。
(なんて綺麗なんだ)
やがて、コツンとスコップの先に何かが当たる音がした。
「……これだな」
マテオは土にまみれた小箱を取り出すと、手が汚れるのも気にせず、土を払いのけた。
「はい、こちらをどうぞお姫様」
冗談めかしながらアデリナの前に差し出すと、彼女が顔を赤らめながら受け取る。
「お姫様だなんて言うのは、あなたぐらいだわ」
「そんなことはないさ。……少なくとも、僕にとって君は特別なお姫様だよ?」
「私、痛い目を見てからは、簡単に信じないようにしているの」
マテオは、レアンドロは余計なことをしてくれたもんだ、と思った。
(勇気を出して告白したつもりなのに、レアンドロのせいで流されたじゃないか)
マテオはほかの言葉を言いかけたが、結局なにも言えずに視線を落とす。箱を見ているアデリナは気付いていなかった。
「マテオ、この箱を開けてみましょう」
錆びかけた金色の留め具を外すと、キイ、と小さな音を立てて箱は開いた。
「……これは……」
中には小さな布に包まれた宝石のような物と、1枚の古びた紙が入っていた。
アデリナがそっとその紙を広げると、どこか懐かしい香りがふっと立ちのぼる。
《妖精は、信じる人の側に、姿を変えて現れるもの。
あなたが悲しいとか寂しいと感じた時に、寄り添ってくれる存在が妖精とも言えるわ。
この石は、“妖精の涙”という幸運を呼ぶアイテムよ。
あなたに信じられる “大切な人”ができた時、相手に渡しなさい。
きっと、あなたたちに幸せを運んでくれるわ》
「……おばあ様の字だわ」
アデリナは微かに震える声で呟いた。マテオも彼女の隣に腰を下ろして、箱の中を覗き込む。
包みを開くと淡い青の宝石が2つ、対になるように並んでいた。
それは小さな涙のような形をしていて、首飾りにできるように小さな穴が開いている。
アデリナは1つを指先でつまんだ。陽の光を浴びて、石は淡く煌めいている。
「とてもキレイだわ」
「それ……誰に渡すの?」
落ちつかない様子でマテオはアデリナに聞いた。
「……あなたに渡したら、迷惑かしら?」
「僕がもらっていいの?とても大切な物だろう?」
「あなただからよ。……実はね、ここにはあなたがいたからこそ来ようと思えたの。あなたは、過去に閉じこもったままの私を、ずっと静かに見守ってくれていた……マテオが私の妖精なのかなって」
マテオの体を言葉にならない感激が包む。
「僕は、可愛くて神秘的じゃないけど気は変わらない?」
「……うん、変わらないわ。ずっと側にいてくれたらすごく心強い」
「ずっといるよ」
風がまた、木々を揺らした。
それはまるで、祝福するような、やさしい囁きだった。
――アデリナとマテオはレアンドロに呼ばれて王城に来ていた。
「お前たち、婚約したってホントか?」
「本当ですよ、殿下」
「おい、今は3人しかいない。普通に話せよ」
メイドたちも下がらせたレアンドロの部屋には、くつろいだ様子のレアンドロがソファに半分、寝そべっている。
「では……今だけ。王太子がそんなだらしないことしていいのか?」
「お、そういう突っ込みいいね。 やっぱりお前らといると楽だなあ。隣の王女サマ、きちんとしていないと怒るんだよ」
「それはそうだろう。人の上に立つ存在なんだから」
レアンドロがむくりと起き上がる。
「オレ、気楽にいられるアデリナと婚約すれば良かったな」
「絶対に譲らないぞ。お前が王子だろうと」
マテオがアデリナの前に腕を伸ばして阻止するような仕草をする。
「アデリナはマテオのこと、本気で好きなのかよ?」
「ええ、とっても。片時も離れたくないほどに」
アデリナの言葉にマテオは真っ赤になった。
「アデリナ、そういうことは2人の時に……」
慌てる姿を見ているレアンドロはつまらなさそうな顔をした。
「オレは何を間違えたんだろうな?」
「さあな」
マテオは清々しく答え、アデリナはフフ、と笑ったのだった。
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