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【2】竜馬。女子ばかりのクラスに困惑する。
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──1──
「それにしても……」
一組から順番に厳粛な音楽の中を体育館内へ入場していく。
八組まで全員が自分の席に着くまで立ったままだったから、それに気づけたのだ。
「ぼくよりも背の高い者がいない……」
男子は確かにいた。普通科一組に小柄な男子が一人。
そして三組の僕。
そこで一八〇センチある僕は注目の的だった。
特にほぼ全員と言っていいくらいの女の子の視線を感じる。
僕が緊張していると、
「目立ってるね」
と出席番号順で前に立っている和葉が、顔を横に向けながら呟く。
「好きで目立っているんじゃないからな」
元々陰キャの自分には、ただの羞恥プレイだと思った。
八組が入ってくる。さすがはスポーツ推薦組である。
川上小夏を見つけた。笑顔で手を軽く振ってくれる。
僕もそれに答えたが、和葉も同じように手を振っていた。
男子はもちろん女子でも、僕と同じくらいまたはそれ以上の身長の者がチラホラいた。
そして数人の男子がいたが、
「どう見ても陽キャラな連中だな……」
正直、明るくてクラスカースト上位の男子らと、仲良くできる気がしない。
仲良く出来そうなのは、一組の小柄な男子くらいかと思う。
「あいつと気が合うといいな」
そう呟きながら、一組の男子生徒を見つめていると、向こうも僕に気づいたみたいだった。
こちらに視線を向けると少し頬を赤らめて俯いた。背は一五〇センチくらいの小柄な少年である。
「あいつ、男なのに小さいな。パッと見ただけだけど、なかなか綺麗な顔をしてるな」
それを和葉は聞き逃さなかった。
「早速、ナンパ?」
と言った。
「ばっ! バカ! そんな訳ないだろう!」
すると周りの女子から、
あの男子、男好きなのかしら?
もう、早速~。
やだあ~。
「和葉、頼むよ……」
向かいに立っている妹は肩を震わせ、クスクス笑った。
入場が終わると、全員が着席した。理事長の話が始まる。
その時、
「ねえねえ……」
小声で和葉が前を見ながら話しかけてきた。
「……なんだよ」
「私、前々から思っていたんだけど……」
「……だからなんだよ」
「もし男子が九人いたら野球部を作れるんじゃない?」
少し僕は考えていたが、ハッとなり、
「そうか! その手があったか! 諦めていたけど、そうか!」
と僕は小声で言い、小さくガッツポーズをした。
だが、瞬時に理事長が言った。
「今年の新一年生は女子が三百三人。男子が八人でした」
という情報を聞かせてくれた。
「えっ……。九人、いないの? ウソだろ……」
野球は少なくとも九人必要だ。僕は和葉が気づいてくれた野球部を作る夢を、瞬殺で失った。
「竜馬さん、残念……」
と妹がからかう。
「くそ……。あともう一人だったのに」
心底、ガッカリしている僕に、また和葉が話しかける。
「でも来年の新入生が入ってきて、男子が一人でも増えたら、野球部を作れるんじゃない?」
と素晴らしい提案をした。
「そうか! そうだよな! 来年か!」
僕はまたも小さくガッツポーズをすると、
「竜馬さん、かわいい」
と和葉にからかわれた上に、
「そこの男子、ちゃんと聞きなさい」
と早速、注意を受けたのだった。
「何で僕だけ……」
と落ち込むと、
「竜馬さん、要領悪い」
と笑われた。
「ところで和葉。お前なんで僕の名前で呼ぶんだ? 普通は兄……」
と言いかけたところで、
「また、注意されるよ。竜馬さん」
となぜか、頑なに『お兄ちゃん』と呼ばない。
一体、どういうつもりなんだか?
──2──
体育館での理事長、校長、PTA会長による祝辞。三年生の生徒会長による在校生挨拶。
そして今、知ったのだが新入生挨拶は和葉だったのだ。驚いている僕を見て、
「入学試験一位だった者が挨拶をするみたいよ」
と僕に言ってから壇上に向かい、紙を読み上げるのではなく空で挨拶を終えた。
拍手喝采を浴びながら、自分の席に戻ってきた。
「そんな話どころか、そんな素振りも見せなかったよな」
「話しても仕方ないし。それに」
ニッコリと笑い、
「竜馬さんを驚かせた方が面白いかなって」
「お前は本当に流石だよ」
してやられた事と、頼もしい妹に感心したのだった。
挨拶がやっと終わり、僕らは三組の教室に入った。荷物を先に置いたので、教室に入るのは二度目なのだが。
高校だからか?
私立だからか?
教室が綺麗で広い。
席に出席番号と名前が貼ってある。
「キョロキョロせずに早く座ったら」
「お。おう」
「落ち着こう。竜馬さん」
「分かってるったら」
と和葉はイタズラッ子っぽく笑う。
それにしても。
突き刺さるほどの視線を感じる。
僕が視線の方へ顔を向けると、そちらにいる女子達はサッと視線を外す。前後左右向いたが、反応は同じだった。
「なあ、和葉。なんか僕達、見られてないか?」
「僕達じゃなくて、僕だけじゃないの」
「え? 何でだよ。新入生挨拶をしたお前に視線が集まっているんじゃないのか?」
和葉は小さくため息をつき、
「竜馬さん、全然分かってない」
と言うと、
「おい。その竜馬さんはやめろよ」
「ちょっとしたドッキリの伏線」
と言い残して、前を向くと全く話さなくなった。
「は? どういう事だ?」
僕が理由を聞こうとしたタイミングで、
「ハーイ、私語はやめて下さいね」
と先生が入ってきた。
腰まで髪が長く、和葉より小柄の可愛らしい女性だった。
「先程の式で紹介されていました、今日から皆さんの担任になる前田千恵です」
と軽く頭を下げて、
「教師になって三年目になります。よろしくお願いします。そして私!」
と話を止めたと思うと、
「幼稚園から大学そしてこの如月学園の教師になるまで、ずっと女子校でした」
と言うと僕に視線を向けて、僕を指さした。
クラスの女子全員が僕の方を向く。
「なので新屋敷竜馬君! う、上手くは! 話せるかどうか分からないですが、今年一年、よ! よろしくお願いします!」
と言ってきた。
「え! ええ~!」
と僕が引き気味でいると、女子生徒らから。
という事は、先生には恋人がいないんですか?
先生、もしかして処女?
と女子トークが始まった。
「ええ! どうして分かるんですか!」
と中学生が無理をしてスーツを着たような教師は慌てだした。
それを見た僕以外の女子生徒は、
先生、カワイイ!
と囃し立て始めた。
しばらく照れていたが、
「コホン!」
と担任は咳払いした。
すると、一気に緊張感が増して、全員が黙った。
「今から自己紹介をしてもらいます。では出席番号一番の相生優子さんから」
「はい」
と立ち上がったのは、担任教師よりも年上に見えそうな、和葉よりも背の高い美人だった。
「相生優子です。趣味はクラッシック音楽鑑賞です。そして今回の入学試験は残念ながら二位でした」
と和葉の方を見る。
「成績で決まる新入生の挨拶を、新屋敷和葉さんに取られてしまったのは、非常に残念ですが、これからの試験では絶対に負けないようにしたいと思っています。以上です」
と言って着席した。
「これは和葉も大変だなあ」
と僕は思った。
「学年の一位二位の成績優秀者が同じクラスにいるなんて、先生は頼もしく思うわ。では次」
と数人が無難に自己紹介を終えると、和葉の番になった。
──3──
和葉は立ち上がり、
「先程、ご紹介に預かりました新屋敷和葉です」
何という始まり方だよ、と僕は思った。
「私は相生さんの事を知らなかったのですが」
と言うと、相生優子さんは和葉を睨みつけた。そりゃそうでしょう。
「たった今、知りました。そしてここにいる」
と僕の方へ手のひらを向けて、
「新屋敷竜馬は!」
と声のボリュームを上げた。おいおい。何を言い出す気だ?
「何を隠そう、私の夫です!」
驚きと悲鳴の混じった声が響く。
僕は思わず、
「は! はあ~!」
と呆れてものが言えない。
「い! いやらしいわ!」
と相生さんが声を荒げた。
「私達夫婦は今日も同じ家に帰り」
黄色い悲鳴が上がる。
「営みを楽しみます」
より一層、大きな悲鳴が出た。
「いやらしいわ!!」
と相生さん。
僕は気づいた。
いつもみたいに『お兄ちゃん』と言わなくなった理由は、二人が兄妹だと知られないようにするための伏線だったのだ。
「はーい、みんな静かに。ところで新屋敷さん」
と担任の前田先生が一度止める。
「えーっと。資料を読むと、あなたと後ろの新屋敷竜馬君とは、双子のご兄妹よね?」
えっ! と一瞬で周りが静かになったが、
「いいえ。違います。夫婦です!」
と和葉は言い切った。
もう、絶叫に近い声が上がる。
「こら! いい加減にしろ!」
と思わず、僕は立ち上がった。
「皆さん、聞いて下さい。和葉と僕は正真正銘、二卵性双生児つまり双子の兄妹です」
と言うと、
な~んだ。
そうなの。
という安堵の声が出た。
「和葉。何でそんなウソをつくんだ!」
と語気を強めて言った。
すると、
「こんな機会は滅多にないから、みんなを驚かせてみようかと思って。ちょっとしたドッキリのつもりで」
「そのドッキリ、強烈過ぎるだろう」
すると、
「そんな事ないのよ、あ・な・た」
と僕に和葉は抱きついた。
次は悲鳴ではなく、黄色い声が響いた。
「こら。いくらご兄妹でも校内で抱き合うのは感心しないわよ」
と前田先生。
「分かりました。申し訳ありません」
と和葉は離れた。
なんだ。前田先生もちゃんと教師らしい事が言えるじゃないか。
「はい。だから二人共、注意してね」
と僕まで怒られる。
「何で僕まで」
と思っていると、
「皆さん、さっきのはすべて冗談でした。少しでも皆さんに楽しんでもらおうと思って、お兄ちゃんを使ってのちょっとした余興でした」
笑いが起きて、
面白かったよ!
という声もする。
受け入れられたようだ。
「改めて。私は新屋敷和葉です。こちらの男子は私の双子の兄の竜馬です。皆さん、仲良くして下さいね」
と着席したが、
新屋敷さん、趣味とかないの?
という声がした。
すると、
「趣味は! お兄ちゃんをからかう事です」
と答えたために、一同爆笑が起こった。
正直、僕の立場がない。
「はーい、とても面白かったわ。では次、このクラスで唯一の男子、新屋敷竜馬君」
ちょ! ちょっとその言い方はやめて欲しいな、と思いながら起立する。
「え~っと。新屋敷竜馬です。両親が妹の和葉の事が心配だということで、妹と同じ高校に入学しました」
これで少しは好感度が上がるかな?
「でも実際はお小遣い二倍アップで、高価なゲーミングパソコンを買ってもらっていま~す」
と和葉が付け加えた。
「ちょ、和葉!」
と見ると、ニヤッと笑っている。
全くこの妹は!
「あ、あなた達二人は、いやらしい関係じゃないのね?」
と相生さん。
すると、
「お風呂は数え切れないくらい一緒に入っていま~す」
とまた和葉がいらない事を言い出す。
ここでも悲鳴が上がった。
「ちょ! ちょっと! 小学生の時までだから」
と僕が言うと、
な~んだ。
と収まる。
和葉を見るとまた、いたずら小僧っぽく笑っていた。
そして僕は、
「小学と中学までは野球をしていました。趣味はゲームです」
と言うと着席した。
「ふん! 野球とゲームね」
と吐き捨てるように相生さんは言ってプイッと僕から顔を背けた。
「あ~あ。嫌われちゃったか」
とため息をつくと、
「このモテモテ男子」
と和葉が小声で言う。
「は? 何、言ってんだ、お前」
と返すと、
「相変わらずの鈍チン」
と前を向いた。
正直、どういう意味かさっぱりわからん。
相変わらず視線を感じて周りを見渡すと、
「女の子達、みんな僕と視線を外すんだよな。特に」
と相生さんの方をまた見た。
相生さんは睨んでいた目線を逸して、すぐに下を見るのだった。
そしてチャイムが鳴り、休憩時間になった。
すると相生優子さんがこちらに近づいてきたのだった。
えっ! なになに? 何かまた言われるのか?
僕は緊張した。
2022年6月27日
2025年5月1日 修正
※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
「それにしても……」
一組から順番に厳粛な音楽の中を体育館内へ入場していく。
八組まで全員が自分の席に着くまで立ったままだったから、それに気づけたのだ。
「ぼくよりも背の高い者がいない……」
男子は確かにいた。普通科一組に小柄な男子が一人。
そして三組の僕。
そこで一八〇センチある僕は注目の的だった。
特にほぼ全員と言っていいくらいの女の子の視線を感じる。
僕が緊張していると、
「目立ってるね」
と出席番号順で前に立っている和葉が、顔を横に向けながら呟く。
「好きで目立っているんじゃないからな」
元々陰キャの自分には、ただの羞恥プレイだと思った。
八組が入ってくる。さすがはスポーツ推薦組である。
川上小夏を見つけた。笑顔で手を軽く振ってくれる。
僕もそれに答えたが、和葉も同じように手を振っていた。
男子はもちろん女子でも、僕と同じくらいまたはそれ以上の身長の者がチラホラいた。
そして数人の男子がいたが、
「どう見ても陽キャラな連中だな……」
正直、明るくてクラスカースト上位の男子らと、仲良くできる気がしない。
仲良く出来そうなのは、一組の小柄な男子くらいかと思う。
「あいつと気が合うといいな」
そう呟きながら、一組の男子生徒を見つめていると、向こうも僕に気づいたみたいだった。
こちらに視線を向けると少し頬を赤らめて俯いた。背は一五〇センチくらいの小柄な少年である。
「あいつ、男なのに小さいな。パッと見ただけだけど、なかなか綺麗な顔をしてるな」
それを和葉は聞き逃さなかった。
「早速、ナンパ?」
と言った。
「ばっ! バカ! そんな訳ないだろう!」
すると周りの女子から、
あの男子、男好きなのかしら?
もう、早速~。
やだあ~。
「和葉、頼むよ……」
向かいに立っている妹は肩を震わせ、クスクス笑った。
入場が終わると、全員が着席した。理事長の話が始まる。
その時、
「ねえねえ……」
小声で和葉が前を見ながら話しかけてきた。
「……なんだよ」
「私、前々から思っていたんだけど……」
「……だからなんだよ」
「もし男子が九人いたら野球部を作れるんじゃない?」
少し僕は考えていたが、ハッとなり、
「そうか! その手があったか! 諦めていたけど、そうか!」
と僕は小声で言い、小さくガッツポーズをした。
だが、瞬時に理事長が言った。
「今年の新一年生は女子が三百三人。男子が八人でした」
という情報を聞かせてくれた。
「えっ……。九人、いないの? ウソだろ……」
野球は少なくとも九人必要だ。僕は和葉が気づいてくれた野球部を作る夢を、瞬殺で失った。
「竜馬さん、残念……」
と妹がからかう。
「くそ……。あともう一人だったのに」
心底、ガッカリしている僕に、また和葉が話しかける。
「でも来年の新入生が入ってきて、男子が一人でも増えたら、野球部を作れるんじゃない?」
と素晴らしい提案をした。
「そうか! そうだよな! 来年か!」
僕はまたも小さくガッツポーズをすると、
「竜馬さん、かわいい」
と和葉にからかわれた上に、
「そこの男子、ちゃんと聞きなさい」
と早速、注意を受けたのだった。
「何で僕だけ……」
と落ち込むと、
「竜馬さん、要領悪い」
と笑われた。
「ところで和葉。お前なんで僕の名前で呼ぶんだ? 普通は兄……」
と言いかけたところで、
「また、注意されるよ。竜馬さん」
となぜか、頑なに『お兄ちゃん』と呼ばない。
一体、どういうつもりなんだか?
──2──
体育館での理事長、校長、PTA会長による祝辞。三年生の生徒会長による在校生挨拶。
そして今、知ったのだが新入生挨拶は和葉だったのだ。驚いている僕を見て、
「入学試験一位だった者が挨拶をするみたいよ」
と僕に言ってから壇上に向かい、紙を読み上げるのではなく空で挨拶を終えた。
拍手喝采を浴びながら、自分の席に戻ってきた。
「そんな話どころか、そんな素振りも見せなかったよな」
「話しても仕方ないし。それに」
ニッコリと笑い、
「竜馬さんを驚かせた方が面白いかなって」
「お前は本当に流石だよ」
してやられた事と、頼もしい妹に感心したのだった。
挨拶がやっと終わり、僕らは三組の教室に入った。荷物を先に置いたので、教室に入るのは二度目なのだが。
高校だからか?
私立だからか?
教室が綺麗で広い。
席に出席番号と名前が貼ってある。
「キョロキョロせずに早く座ったら」
「お。おう」
「落ち着こう。竜馬さん」
「分かってるったら」
と和葉はイタズラッ子っぽく笑う。
それにしても。
突き刺さるほどの視線を感じる。
僕が視線の方へ顔を向けると、そちらにいる女子達はサッと視線を外す。前後左右向いたが、反応は同じだった。
「なあ、和葉。なんか僕達、見られてないか?」
「僕達じゃなくて、僕だけじゃないの」
「え? 何でだよ。新入生挨拶をしたお前に視線が集まっているんじゃないのか?」
和葉は小さくため息をつき、
「竜馬さん、全然分かってない」
と言うと、
「おい。その竜馬さんはやめろよ」
「ちょっとしたドッキリの伏線」
と言い残して、前を向くと全く話さなくなった。
「は? どういう事だ?」
僕が理由を聞こうとしたタイミングで、
「ハーイ、私語はやめて下さいね」
と先生が入ってきた。
腰まで髪が長く、和葉より小柄の可愛らしい女性だった。
「先程の式で紹介されていました、今日から皆さんの担任になる前田千恵です」
と軽く頭を下げて、
「教師になって三年目になります。よろしくお願いします。そして私!」
と話を止めたと思うと、
「幼稚園から大学そしてこの如月学園の教師になるまで、ずっと女子校でした」
と言うと僕に視線を向けて、僕を指さした。
クラスの女子全員が僕の方を向く。
「なので新屋敷竜馬君! う、上手くは! 話せるかどうか分からないですが、今年一年、よ! よろしくお願いします!」
と言ってきた。
「え! ええ~!」
と僕が引き気味でいると、女子生徒らから。
という事は、先生には恋人がいないんですか?
先生、もしかして処女?
と女子トークが始まった。
「ええ! どうして分かるんですか!」
と中学生が無理をしてスーツを着たような教師は慌てだした。
それを見た僕以外の女子生徒は、
先生、カワイイ!
と囃し立て始めた。
しばらく照れていたが、
「コホン!」
と担任は咳払いした。
すると、一気に緊張感が増して、全員が黙った。
「今から自己紹介をしてもらいます。では出席番号一番の相生優子さんから」
「はい」
と立ち上がったのは、担任教師よりも年上に見えそうな、和葉よりも背の高い美人だった。
「相生優子です。趣味はクラッシック音楽鑑賞です。そして今回の入学試験は残念ながら二位でした」
と和葉の方を見る。
「成績で決まる新入生の挨拶を、新屋敷和葉さんに取られてしまったのは、非常に残念ですが、これからの試験では絶対に負けないようにしたいと思っています。以上です」
と言って着席した。
「これは和葉も大変だなあ」
と僕は思った。
「学年の一位二位の成績優秀者が同じクラスにいるなんて、先生は頼もしく思うわ。では次」
と数人が無難に自己紹介を終えると、和葉の番になった。
──3──
和葉は立ち上がり、
「先程、ご紹介に預かりました新屋敷和葉です」
何という始まり方だよ、と僕は思った。
「私は相生さんの事を知らなかったのですが」
と言うと、相生優子さんは和葉を睨みつけた。そりゃそうでしょう。
「たった今、知りました。そしてここにいる」
と僕の方へ手のひらを向けて、
「新屋敷竜馬は!」
と声のボリュームを上げた。おいおい。何を言い出す気だ?
「何を隠そう、私の夫です!」
驚きと悲鳴の混じった声が響く。
僕は思わず、
「は! はあ~!」
と呆れてものが言えない。
「い! いやらしいわ!」
と相生さんが声を荒げた。
「私達夫婦は今日も同じ家に帰り」
黄色い悲鳴が上がる。
「営みを楽しみます」
より一層、大きな悲鳴が出た。
「いやらしいわ!!」
と相生さん。
僕は気づいた。
いつもみたいに『お兄ちゃん』と言わなくなった理由は、二人が兄妹だと知られないようにするための伏線だったのだ。
「はーい、みんな静かに。ところで新屋敷さん」
と担任の前田先生が一度止める。
「えーっと。資料を読むと、あなたと後ろの新屋敷竜馬君とは、双子のご兄妹よね?」
えっ! と一瞬で周りが静かになったが、
「いいえ。違います。夫婦です!」
と和葉は言い切った。
もう、絶叫に近い声が上がる。
「こら! いい加減にしろ!」
と思わず、僕は立ち上がった。
「皆さん、聞いて下さい。和葉と僕は正真正銘、二卵性双生児つまり双子の兄妹です」
と言うと、
な~んだ。
そうなの。
という安堵の声が出た。
「和葉。何でそんなウソをつくんだ!」
と語気を強めて言った。
すると、
「こんな機会は滅多にないから、みんなを驚かせてみようかと思って。ちょっとしたドッキリのつもりで」
「そのドッキリ、強烈過ぎるだろう」
すると、
「そんな事ないのよ、あ・な・た」
と僕に和葉は抱きついた。
次は悲鳴ではなく、黄色い声が響いた。
「こら。いくらご兄妹でも校内で抱き合うのは感心しないわよ」
と前田先生。
「分かりました。申し訳ありません」
と和葉は離れた。
なんだ。前田先生もちゃんと教師らしい事が言えるじゃないか。
「はい。だから二人共、注意してね」
と僕まで怒られる。
「何で僕まで」
と思っていると、
「皆さん、さっきのはすべて冗談でした。少しでも皆さんに楽しんでもらおうと思って、お兄ちゃんを使ってのちょっとした余興でした」
笑いが起きて、
面白かったよ!
という声もする。
受け入れられたようだ。
「改めて。私は新屋敷和葉です。こちらの男子は私の双子の兄の竜馬です。皆さん、仲良くして下さいね」
と着席したが、
新屋敷さん、趣味とかないの?
という声がした。
すると、
「趣味は! お兄ちゃんをからかう事です」
と答えたために、一同爆笑が起こった。
正直、僕の立場がない。
「はーい、とても面白かったわ。では次、このクラスで唯一の男子、新屋敷竜馬君」
ちょ! ちょっとその言い方はやめて欲しいな、と思いながら起立する。
「え~っと。新屋敷竜馬です。両親が妹の和葉の事が心配だということで、妹と同じ高校に入学しました」
これで少しは好感度が上がるかな?
「でも実際はお小遣い二倍アップで、高価なゲーミングパソコンを買ってもらっていま~す」
と和葉が付け加えた。
「ちょ、和葉!」
と見ると、ニヤッと笑っている。
全くこの妹は!
「あ、あなた達二人は、いやらしい関係じゃないのね?」
と相生さん。
すると、
「お風呂は数え切れないくらい一緒に入っていま~す」
とまた和葉がいらない事を言い出す。
ここでも悲鳴が上がった。
「ちょ! ちょっと! 小学生の時までだから」
と僕が言うと、
な~んだ。
と収まる。
和葉を見るとまた、いたずら小僧っぽく笑っていた。
そして僕は、
「小学と中学までは野球をしていました。趣味はゲームです」
と言うと着席した。
「ふん! 野球とゲームね」
と吐き捨てるように相生さんは言ってプイッと僕から顔を背けた。
「あ~あ。嫌われちゃったか」
とため息をつくと、
「このモテモテ男子」
と和葉が小声で言う。
「は? 何、言ってんだ、お前」
と返すと、
「相変わらずの鈍チン」
と前を向いた。
正直、どういう意味かさっぱりわからん。
相変わらず視線を感じて周りを見渡すと、
「女の子達、みんな僕と視線を外すんだよな。特に」
と相生さんの方をまた見た。
相生さんは睨んでいた目線を逸して、すぐに下を見るのだった。
そしてチャイムが鳴り、休憩時間になった。
すると相生優子さんがこちらに近づいてきたのだった。
えっ! なになに? 何かまた言われるのか?
僕は緊張した。
2022年6月27日
2025年5月1日 修正
※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
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青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
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