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学生自治会、発足
しおりを挟むわたくしは放課後、ここ、黄昏のサロンを作戦司令本部として春の学園祭りに向けて始動したの。
メンバーは一年専科クラスの有志とメルツェ様、クラーラ様、そしてアスラ―ンと彼の相棒(?)カシム・チェレビ・マクブル様。
全学生に今回の祭りの趣旨と出展希望者を集う旨の通知から始まり、講堂前にブースを幾つか設置する為のテントの購入。
出展責任者たちにそれぞれ出展申請書を提出させて許可証を配布。
前日までに設営するよう指示する為の説明会。
設営する為の人員の確保。
もちろん、学園長先生始めとする先生方とも優雅に話し合って(最初は渋られたわ。学生の本分は勉学であるとかなんとか)、全責任はわたくしが負うと啖呵を切って許可をもぎ取り、どうせなら先生方も巻き込んでのお祭りとしましょう! となって。
歌を披露したいという申し出を受け、大きな舞台を設置することにして、ついでに舞台を使った催し物ができる学生を募集すれば、楽器演奏から手品から、希望者がまぁ来るわ来るわ!
本当に楽しみになってきたわ!
ついでに。
日頃、自分たちの好きな研究をする為に放課後残っていた学生が、研究の為の専用教室の許可を学園側に取って欲しいという要望に応えたりしたわ。
空き教室は沢山あったもの、特に別館に。
学園長先生とわたくしの名前とで許可が下りたそれをファイリングしたときから、ここは『学生自治会』として発足されたらしいわ。
そしてわたくしは初代会長。
一年生なのに、いいのかしら。
でもわたくしが一番物事をスムーズに動かせるのよね。
こういうのを独裁っていうのじゃないかしら。
そういえば、女子の制服着用率は100%になったわ。悪貨は良貨を駆逐するってこういう時に使う言葉だったかしら。ん? 逆?
そして気がついたこと。
我が一年専科クラスは優秀な人材の集まりだったわ!
この子たち、今すぐに王宮で働けるのでは? と思うほど、男子も女子も打てば響くような有能な子たちばかりよ。
わたくしが望むものを望む形で提供してくれるの。びっくりよ。
そしてもう一点気がついたこと。
メルツェ様のこと。
もしやアスラーンのことがお好きなのでは? って疑ったこともあったけど、あれは違うわね。
メルツェ様の視線の先はカシム様にあったわ。
なに気なく、さり気なく、視線がカシム様を追いかけているのだもの。
まるで少しまえの、わたくしが遠くのアスラ―ンを目で追っていたときのように。
あの特徴的なオレンジ頭の、アスラーンと行動を共にする留学生。
わたくしは彼もテュルク国の王族と踏んだのだけど、正解だったのかしら。
アスラーンの従者といった雰囲気が強い彼は、誰と話をしていてもアスラーンを優先する。
まるでわたくしを優先するメルツェ様のようだけど、メルツェ様としては自分と話をしていてもアスラーンが呼べばそちらへ行ってしまうカシム様にちょっと思うところがあったのではないかしらね。
それで、アスラーンに対して八つ当たりしていたってことだと思うわ。
んん? ということは。
メルツェ様を慕う殿方の誰かは、わたくしに対して業腹な気持ちを抱いている可能性もあるってことよね。
……あまり彼女を独占するのもいけないことね。気をつけましょう。
◇
「アンネローゼ。学園でおもしろいことを始めたと聞いたよ?」
年越しパーティーが始まるまえにお会いしたお兄様の第一声がこれでしたわ。
「あら、お兄様。ごきげんよう、良い夜ね。今年最後のお兄様はいつもどおりとても素敵よ」
軽くハグしてお兄様を褒める。
「君もね、アンネローゼ。夜の女王のようだよ」
今晩のわたくしの衣装は黒を基調としたイブニングドレス。
裾の方は黒いのだけど、段々と上に向かって藍色から紺色に変わり、散らばせたスパンコールが星のように煌めくる夕闇のドレスよ。
ハイネックでノースリーブだから胸元は隠しているけど、肩は剥き出しで寒いのよね、これ。
背中も深い作りだから髪をおろして露出を隠しているわ。
「あら? お義姉様は?」
「今回はお休み。体調が良くなくて」
「……もしかして? 三人目?」
「当たり。まだ内緒だよ?」
唇に人差し指を立ててウィンクするお兄様。
内緒といってもバレバレなのでは?
お兄様がお義姉様を溺愛しているのは周知だし、今晩の年末の夜会に出席しないというのは、まぁ、それなりの理由だと思われるもの。
「おめでとう、お兄様。
落ち着いたらお見舞いに伺いたいわ。お手紙なら受け取っていただける?」
「おまえならいつでも大丈夫だと思うけど、一応、訊いておくよ。
それでね、アンネローゼ。君、僕の名前を使ってやりたい放題って聞いたよ?」
あらあら。なにをお耳に入れたのかしらね。
「ヨハンが入学するまえのほんのささやかな露払いよ」
わたくしのしたことと言えば……。
学園にわたくし専用サロンを作って、学生自治会を作って、学生の専用研究室を用意させて、イベント運営計画?
そうね。なかなかの『やりたい放題』かも?
感情の見えない目でわたくしを睨んでいるお兄様。
いいえ。王太子殿下として、わたくしを睥睨しているのね。
「だって、お兄様……わたくし、お祭りが見てみたかったの……」
「お祭り?」
「そうよ。年越しのお祭りが1番賑やかなのだと聞いたわ。
でもわたくし、王都で暮らしながらまだ見たこともなかったの。
お兄様もそうかもしれないけど……。
わたくしなんて特に、王女だもの。守られるべき人間だもの。
お祭りをこの目で、直に、体験することは叶わないわ。
警護のみんなにも城下町の人たちにも迷惑かけちゃうものね。
それは、よく理解しているもの、大丈夫よ?
でも、学園なら!
自分たちの手で創り上げたモノなら、体験できるでしょう?
クラスの皆と……いいえ、クラスも学年も超えて、学園の皆と一緒に創り上げる、学園内でのお祭りよ!
三年生の卒業式の日に合わせて開催する予定なの。お兄様も当日、わたくしと一緒に見ていただけないかしら?
……だめ?」
「学生自治会、か」
「やってみたいの。どこかから、苦情でも寄せられて?」
「王女にこれほどのバイタリティーと計画性とカリスマがあるとは……と驚かれは、した」
「カリスマ?」
「君の人を魅了する力、とでも言えばいいかな。号令一つで学園中が動いたそうじゃないか」
そうだったかしら。
「祭り、とやらは毎年恒例にするつもりかい?」
「そうしたいけど……。まずは第一回を成功させてからね。それから第二回があるかどうか検討するわ」
「アンネローゼの私財で作らせた部屋はどうする? 君の卒業と同時に解体か?」
「まさか! そのまま寄付するわ。
後輩たちが使えばいいもの。そうね、学生自治会室として使えばいいと思うわ」
お兄様の愁眉がやっと開いたのを見てホッとする。
これは正式に許可が下りたとみていいわね。
とはいえ、学園のみんなには『お兄様が必ず是と答える切り札を持っている』なんて大見得切っちゃったものね。いまさらここで否と言われても困ってしまうわ。
……ま、いざとなったらわたくしの本当の切り札、お義姉様にお縋りするつもりだったけど。ふふっ。
「ヨハンの入学はちょうど君が卒業後になるが、彼にはなかなか高いハードルになるかもね」
……露払いよ。
ほんのささやかな、ね。
「さて。では今夜はホステスとして頑張って貰おうか。君の婚約者候補を集めたからね。頼んだよ」
え?
お兄様、今なんと仰いまして?
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