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第709話 クリス、アミーを紹介する
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「じゃぁコイツ等は一体なんなんだ? 九条の刺客でもねぇし、かといって口封じのために送られてきたギルドからの刺客でもねぇってことだろ?」
ギャレットが恨みを込めて睨みつけたのは、無残に転がる黒ずくめのエルフたち。
彼等がギルドからの刺客であれば、襲うだろうタイミングが早すぎる。グリンガム兄弟は、まだアミーにすら会っていないのだ。
「ごめん。それは私にもわからない。何処からかアミーの情報が漏れたのかも……」
またも訪れる沈黙に、クリスの心臓は高鳴るばかり。その頭の中では、いくつもの会話パターンを考えては消えていく。
そんなクリスの焦燥感は、ギャレットたちにも伝わっていた。感情を隠すことなど、一朝一夕で出来る芸当ではない。初心者冒険者なら猶更だ。
ただ、それが嘘によるものなのか、それとも別の理由があるのかは、わからない。
「クリスの話がまるっきり嘘だとは思わねぇ。ただ、確かな証拠もねぇんだ。せめてそのアミーって魔族をこの目で見られりゃ、信じてやらんこともないんだが……」
アミーがただの子供だとすれば、グリンガム兄弟にとって刃を交える理由は消え失せる。
ギルドからは、相手が魔族の子供であるとは聞いておらず、それはギルドがグリンガム兄弟を騙しているのと同じこと。
「ダメだ! どこの馬の骨ともわからない人間を会わせるわけにはいかない」
クリスの邪魔にならないようにと、後方から様子を窺っていたオーガのドズル。
当然反発されるだろうとは思っていたクリスだが、これは最後のチャンスだ。
アミーに倒すだけの価値がないと証明できれば、グリンガム兄弟が脱出に協力してくれるだろう事は間違いない。
「いいわ。会わせてあげる」
「貴様! 何を勝手にッ!」
クリスの言葉に憤慨し、ずかずかと近づいて来るドズル。
そんなドズルの前に立ちはだかったのは、アシュラ。音もなく二人の間に割って入る。
「――ッ!?」
腕はだらりと下げられ、力を誇示する様子は微塵もない。だが、その場を圧するような異様な気配は、ドズルの足を縫止めるには十分だった。
「あなたにアミーが救えるの? 何か代案があるなら聞くけど」
「ぐっ……」
人間とオーガの確執は、クリスだって理解している。人の手など借りたくはない――それがオーガたちの本音だろう。
だが、今はくだらぬプライドを優先している場合ではない。
クリスもドズルも、願いは同じ。だからこそドズルは、クリスに何も言い返せず、悔しさに顔を滲ませるだけだった。
――――――――――
ダンジョンの一角にある質素な部屋。そこに備えられているのは、粗末な木枠の寝台。その上で、アミーは静かに身を横たえていた。
クリスたちが足を踏み入れると、彼女は力を振り絞るようにして上体を起こそうとする。
顔に浮かぶ笑みは健気だったが、その仕草がどれほど苦痛を伴うものかは隠しきれず、胸を締めつけるような儚さを帯びていた。
「こんにちは……。今日だけでこんなにもお客さんが来るなんて……」
「騒がしくてごめんねアミー」
「大丈夫。彼等は私を殺しに来たんでしょう?」
「いや、それは……」
ギャレットから漏れ出た声は、驚きと戸惑いに濁っていた。
彼らが望んでいたのは、牙を剥く魔族との熾烈な戦闘であり、命を懸けるに足る相手だ。だが、目の前にいるのは細い肩を震わせながらも、懸命に微笑もうとする小さな存在。
目つきが悪かったり、見下すような喋り方で反抗的だというのなら、まだ敵視もできたかもしれないが、目の前の魔族はそうではない。
刃を向ける理由も、振り下ろす勇気も、たちまち彼らの手から消えていく。
魔族であろうと、子供であることに変わりはない。更に言うなら、既に生を諦めているようにも見える。
そんな者の命を奪うなど、とてもじゃないが、できるはずがなかった。
「クリス、ちょっといいか?」
「ん?」
クリスの腕を掴んだギャレットは、そのまま部屋を出る。
「ありゃなんだ? 既に死にそうじゃねぇか。人は食ってねぇのか?」
「あぁ、魔族が人を食べるのって魔力のためらしいんだけど、子供じゃ無理なんだって」
人間が使うマナと魔族が使うアストラ。その違いを知る者は、そう多くない。
この世界において、魔族は恐怖そのもの。彼らは人を喰らい、その命を糧として生きる存在。村を焼き、家族を奪い、平穏を踏みにじってきたのだとヴィルザール教が説き、その歴史が語り継がれるたび、人々の心へ恐怖と憎悪が刻み込まれた。
「魔族は人を喰う」――それは子供ですら知る常識であり、眠る前に母親が諭す戒めでもある。だからこそ、彼らを見つけたならば、殺さなければならない。殺られる前に殺らなければ、死ぬのは自分。迷いも躊躇も許されないのだ。
生かしておけば、いつか必ず人の血を啜り、さらなる悲劇をもたらすのだから。
その掟は、人間社会の秩序を守るために疑いなく受け入れられてきた。
魔族を討つことは正義であり、ためらいは弱さと見なされる――そんな世界で、人々は生きている。魔族が人を喰う理由など考えるだけ無駄なのだ。
「でも、大人の魔族がいれば、アストラを分け与えることができる。だから、私がアミーを村に連れて帰ろうとしてるってワケ」
クリスも魔族の生態に詳しいわけではない。ただ、知っておくべきだろうとコット村出発前に最低限は教わった。
ギャレットは難しい顔をしながらも、それに聞き入っていた。
アミーを見たのだ。最早クリスの言動に疑う余地はない。
「アレは、コット村で面倒を見るんだな?」
「もちろん。餅は餅屋――でしょ?」
魔族の専門家と言えば、魔王。更にはネクロガルドからの全面的なバックアップも保証されているため、受け入れ先としてこれ以上の場所はない。
「はぁ、仕方ねぇ。ここでいがみ合っていても埒が明かねぇからな」
ギャレットは大きくため息を吐き、気まずそうに頭を掻いた。
その仕草に張りつめていた空気がふっと緩み、クリスも肩の力が抜ける。
そこに立っていたのは、クリスがよく知る、いつもの気さくなギャレットその人だった。
ギャレットが恨みを込めて睨みつけたのは、無残に転がる黒ずくめのエルフたち。
彼等がギルドからの刺客であれば、襲うだろうタイミングが早すぎる。グリンガム兄弟は、まだアミーにすら会っていないのだ。
「ごめん。それは私にもわからない。何処からかアミーの情報が漏れたのかも……」
またも訪れる沈黙に、クリスの心臓は高鳴るばかり。その頭の中では、いくつもの会話パターンを考えては消えていく。
そんなクリスの焦燥感は、ギャレットたちにも伝わっていた。感情を隠すことなど、一朝一夕で出来る芸当ではない。初心者冒険者なら猶更だ。
ただ、それが嘘によるものなのか、それとも別の理由があるのかは、わからない。
「クリスの話がまるっきり嘘だとは思わねぇ。ただ、確かな証拠もねぇんだ。せめてそのアミーって魔族をこの目で見られりゃ、信じてやらんこともないんだが……」
アミーがただの子供だとすれば、グリンガム兄弟にとって刃を交える理由は消え失せる。
ギルドからは、相手が魔族の子供であるとは聞いておらず、それはギルドがグリンガム兄弟を騙しているのと同じこと。
「ダメだ! どこの馬の骨ともわからない人間を会わせるわけにはいかない」
クリスの邪魔にならないようにと、後方から様子を窺っていたオーガのドズル。
当然反発されるだろうとは思っていたクリスだが、これは最後のチャンスだ。
アミーに倒すだけの価値がないと証明できれば、グリンガム兄弟が脱出に協力してくれるだろう事は間違いない。
「いいわ。会わせてあげる」
「貴様! 何を勝手にッ!」
クリスの言葉に憤慨し、ずかずかと近づいて来るドズル。
そんなドズルの前に立ちはだかったのは、アシュラ。音もなく二人の間に割って入る。
「――ッ!?」
腕はだらりと下げられ、力を誇示する様子は微塵もない。だが、その場を圧するような異様な気配は、ドズルの足を縫止めるには十分だった。
「あなたにアミーが救えるの? 何か代案があるなら聞くけど」
「ぐっ……」
人間とオーガの確執は、クリスだって理解している。人の手など借りたくはない――それがオーガたちの本音だろう。
だが、今はくだらぬプライドを優先している場合ではない。
クリスもドズルも、願いは同じ。だからこそドズルは、クリスに何も言い返せず、悔しさに顔を滲ませるだけだった。
――――――――――
ダンジョンの一角にある質素な部屋。そこに備えられているのは、粗末な木枠の寝台。その上で、アミーは静かに身を横たえていた。
クリスたちが足を踏み入れると、彼女は力を振り絞るようにして上体を起こそうとする。
顔に浮かぶ笑みは健気だったが、その仕草がどれほど苦痛を伴うものかは隠しきれず、胸を締めつけるような儚さを帯びていた。
「こんにちは……。今日だけでこんなにもお客さんが来るなんて……」
「騒がしくてごめんねアミー」
「大丈夫。彼等は私を殺しに来たんでしょう?」
「いや、それは……」
ギャレットから漏れ出た声は、驚きと戸惑いに濁っていた。
彼らが望んでいたのは、牙を剥く魔族との熾烈な戦闘であり、命を懸けるに足る相手だ。だが、目の前にいるのは細い肩を震わせながらも、懸命に微笑もうとする小さな存在。
目つきが悪かったり、見下すような喋り方で反抗的だというのなら、まだ敵視もできたかもしれないが、目の前の魔族はそうではない。
刃を向ける理由も、振り下ろす勇気も、たちまち彼らの手から消えていく。
魔族であろうと、子供であることに変わりはない。更に言うなら、既に生を諦めているようにも見える。
そんな者の命を奪うなど、とてもじゃないが、できるはずがなかった。
「クリス、ちょっといいか?」
「ん?」
クリスの腕を掴んだギャレットは、そのまま部屋を出る。
「ありゃなんだ? 既に死にそうじゃねぇか。人は食ってねぇのか?」
「あぁ、魔族が人を食べるのって魔力のためらしいんだけど、子供じゃ無理なんだって」
人間が使うマナと魔族が使うアストラ。その違いを知る者は、そう多くない。
この世界において、魔族は恐怖そのもの。彼らは人を喰らい、その命を糧として生きる存在。村を焼き、家族を奪い、平穏を踏みにじってきたのだとヴィルザール教が説き、その歴史が語り継がれるたび、人々の心へ恐怖と憎悪が刻み込まれた。
「魔族は人を喰う」――それは子供ですら知る常識であり、眠る前に母親が諭す戒めでもある。だからこそ、彼らを見つけたならば、殺さなければならない。殺られる前に殺らなければ、死ぬのは自分。迷いも躊躇も許されないのだ。
生かしておけば、いつか必ず人の血を啜り、さらなる悲劇をもたらすのだから。
その掟は、人間社会の秩序を守るために疑いなく受け入れられてきた。
魔族を討つことは正義であり、ためらいは弱さと見なされる――そんな世界で、人々は生きている。魔族が人を喰う理由など考えるだけ無駄なのだ。
「でも、大人の魔族がいれば、アストラを分け与えることができる。だから、私がアミーを村に連れて帰ろうとしてるってワケ」
クリスも魔族の生態に詳しいわけではない。ただ、知っておくべきだろうとコット村出発前に最低限は教わった。
ギャレットは難しい顔をしながらも、それに聞き入っていた。
アミーを見たのだ。最早クリスの言動に疑う余地はない。
「アレは、コット村で面倒を見るんだな?」
「もちろん。餅は餅屋――でしょ?」
魔族の専門家と言えば、魔王。更にはネクロガルドからの全面的なバックアップも保証されているため、受け入れ先としてこれ以上の場所はない。
「はぁ、仕方ねぇ。ここでいがみ合っていても埒が明かねぇからな」
ギャレットは大きくため息を吐き、気まずそうに頭を掻いた。
その仕草に張りつめていた空気がふっと緩み、クリスも肩の力が抜ける。
そこに立っていたのは、クリスがよく知る、いつもの気さくなギャレットその人だった。
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本当に、ありがとうございます。
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