生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第710話 クリス、死体を漁る

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「で、これからどうするの?」

「目的が果たせねぇなら、こんなところ長居は無用。とっととおさらばさせてもらうが……」

 アミーを倒す価値はなく、謎のエルフたちの介入により先発隊の安否も不明。
 当然クラウスの生死もわからない今、律儀にキャラバンを継続させる意味はない。

「ねぇ。最後にお願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「帰還水晶、持ってるでしょ? 帰ったら助けを呼んできてほしいの」

 帰還水晶は、設定されたホームポイントへと転移できる緊急避難用の魔道具。ギルドから支給されるものだが、貴重品でもあるため基本的にはギルド職員が所持している事が多い。
 ただ、ベテランの冒険者ともなれば個人的に貸与されている事もあると、クリスは父であるロバートから聞いていた。

 それを使えば、たとえダンジョンが崩壊していようと、一瞬で脱出が可能。しかし、今回ばかりはそうじゃない。
 問題は、ホームポイントが各国のギルド本部に設定されていることだ。
 緊急用であるため、その出口には負傷者を想定して医療班と、魔物が転移してくるのを防ぐため冒険者が常駐しているのだ。
 そこにオーガと魔族が現れれば、どうなるかは想像に難くない。

「それ以上は求めない。ギャレットさんたちの立場も理解してるつもり。だから……」

 ギルドには騙されたかもしれないが、かといってクリスを積極的に手伝い、バレでもしたらお咎めなしとはいかないだろう。
 最悪は、冒険者の廃業もあり得る話。

「……まあ、その程度なら構わねぇが……。俺達よりも、アミーは持つのかよ」

 アミーに残された時間がそう長くない事は、ギャレットの目から見ても明らか。

「領主……九条さんが、トゥームレイズにいるはずなの。私たちのピンチを聞けば、すぐに来てくれるはず……」

 キャラバンが崩壊しているなら、ギルドに九条の存在がバレることもなく、救助も可能なはずである。

「いや、そうじゃねぇ。俺たちが持ってる帰還水晶は、シルトフリューゲルのギルドがホームポイントなんだ」

 シルトフリューゲルからトゥームレイズまでの移動となれば、海路が一番の近道。なのだが、それでも一ヵ月はかかる距離だ。
 恐らくそれでは間に合わない。

「そんな……」

 当てが外れた。それには流石のクリスも動揺を隠せず、顔にははっきりと失望の色が浮かぶ。

 クリスも帰還水晶は持っていた。出発時、ロバートからこっそり渡された物だ。
 スタッグのギルドをクビになった時、退職金代わりにとくすねていた物である。
 親子関係はあまり良くなかったかもしれないが、親が子を案じる心だけは揺るがない。

「それなら、私の帰還水晶を使っても変わらない……。いや、コット村からならあるいは……」

 シルトフリューゲルからトゥームレイズを目指すより、スタッグからコット村へと向かった方が早いことは確か。
 だが、コット村から九条へと時差なく繋がる連絡手段があるのかどうか……。
 それも結局は、アミーの残り時間次第だ。

 クリスはアミーの部屋に顔だけを覗かせ、ドズルへ向かって手招きをする。

「呼んだか?」

「アミーなんだけど、どれくらい持ちそう?」

「……具体的にはなんとも……。僅かに残った魔石を持たせてはいるが、上手く変換できているようには見えない。それでも何もないよりはマシだと、我々も魔力を分けてはいるが、このままでは恐らく二週間程度が限界だ」

 そう言うドズルの顔には悔しさが滲み、苦々しげに歪んでいる。その表情が告げる未来は、言葉よりも重く残酷だった。

「仕方ねぇ。上のエルフどもの死体でも漁るとするか」

 彼等の持ち物から帰還水晶、あるいは現状を打開する魔道具が出てくるかもしれない。
 そんなギャレットの言葉に、クリスは顔を歪めた。

「そんな顔すんなよクリス。冒険者にとっちゃ死体漁りなんて日常茶飯事だぜ?」

「わ、わかってるわよ。やればいいんでしょ! やれば!」

 やりたくないなどと贅沢は言っていられない。これはアミーのためでも、自分のためでもある。
 クリスは既に最悪も考えていた。それは、アミーを救えなかった時のこと。
 もし、そうなってしまえばコット村には帰れない。与えられた役割も果たせず、父の顔には泥を塗る。
 ギャレットたちと同じだ。帰ったところで無能であると罵られ、肩身の狭い思いをするのが目に浮かぶ。だからこそ、そうなったら一人で生きていくしかないと覚悟していた。
 冒険者としては難しいかもしれないが、錬金術師としては生きていけるだろう自信はついていたのだ。

 ――――――――――

 急遽21層まで戻ったクリスたち。漂う血の匂いに不快感を覚えつつもエルフたちの遺体へと手を伸ばす。
 血で濡れた衣服を探るたび、ぬるりとした感触がクリスの掌にまとわりつき、吐き気を催しそうになる。
 それに耐えながらも頑張ること一時間。結果はまさかの期待外れ。有用だろう物は、何も出てこなかった。

「あーもー。何もないじゃん!」

 素直に苛立ちを隠さないクリスは、天を仰ぎ疲れを見せる。

「確かに残念だが、コイツ等の身分はわかった。まぁ、だからなんだって話だが……」

 ギャレットがエルフの遺体を雑に蹴飛ばすと、それはゴロリと転がり仰向けに。
 その胸の中央に埋め込まれていたのは、人差し指と似たようなサイズの木の枝だ。

「……なにこれ……。きもちわるぅ……」

「エルフの古い信仰の一つだ。魔力量の底上げが狙えるらしいが、実際やってる奴を見たのは俺も初めてだな。地位のある者や戦いを日常とする者には根強く残る習わしなんだ」

 世界樹の欠片を己に取り込むことで神への忠誠を示し、同時に魔力を底上げすると伝わる異様とも呼べる儀式の痕跡。
 その歴史は古く、この者たちもそうした古き血脈に連なる存在。王家の影に仕える家系、あるいは暗部と呼ばれる裏の戦士たち。
 胸に刻まれたその枝は、何より雄弁に彼等の素性を物語っていた。

「で? ギャレットさんは、なんでそんなこと知ってるの?」

「そりゃ、調べたからに決まってんだろ。楽して強くなれるなら手段は選ばねぇって奴は、結構いるぜ?」

 その方向性は千差万別だが、冒険者なら強さを求めるのは当然だ。

「ふぅん。じゃぁその恩恵を受けてさ、20層の崩落をサクサク掘り進めちゃったりは……」

「しねぇな。そう都合よくいくわけねぇだろ? 本当に魔力が底上げされるのかもわからねぇってのに……」

 勿論クリスは冗談のつもり。そんな怪しい儀式に手を出すほど、世界樹もヴィルザール教も信仰したりはしていない。
 それはギャレットも同様で、恐らくはプラシーボ効果だろうとその儀式からは手を引いていた。

「儀式はひとまず置いておくとしても、結局は崩落した20層を掘り進めた方が早そうではあるな」

「そりゃそうかもだけど、崩落の規模はどれくらいなの? まともな道具があるのかもわからないし、アシュラとオーガたちだけじゃ……」

「なにを言ってやがる。俺たちも手伝うに決まってんだろ?」

「……え? いいの!?」

「俺たちだけ逃げるワケにゃいかねぇだろ? 外のクラウスたちがどういう状況なのかも気にはなるしな」

「……ありがとう」

 帰還水晶があれば、ギャレットたちは安全に帰ることができる。こちら側の事情を知り、それを口外しないだけでも御の字。
 そう考えていたクリスにとって、ギャレットの言葉は意外だった。まさか自分たちの命まで抱えてくれるとは思いもしなかったのだ。
 胸の奥に広がる安堵と同時に、ギャレットへの感謝は言葉では尽くせないほどに膨れ上がる。
 だが、返すべき恩に比べ、自分にできることなど何ひとつ思いつかない。

 そんなクリスの胸中を見抜いたのか、ギャレットは気恥ずかしそうに笑みを浮かべ、クリスの肩を軽く叩く。

「駆け出しの冒険者ってのはな、先輩に頼ってりゃいいんだよ」

「ギャレットさん……」

 その言葉に、クリスの喉が熱くなるも、肩には赤い手形がくっきりと残っていた。
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