生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第54話 寸劇

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 早朝の冷たい空気が大分和らぎ眩しさで目を覆いたくなるような日差しの中、長閑な畑の畦道を村長の家へと向かう。
 挙動不審……とまではいかないが、何故かソフィアはソワソワと落ち着かない様子で、心ここに有らずといった感じだった。

「何か落とし物でも探してます?」

「……いえ、そんなことないですよ? あはは……」

 そう言うソフィアのわざとらしい笑顔はとても訝しく見えるが、別段気にすることもない。
 やり残しの仕事があればそりゃ気になっても仕方がないが、そんなに気になるのなら無理に付いて来ずとも良かったのに、とも思うのだ。
 村長の家は村の東門の近くに位置する。ギルドからだと徒歩で30分程度の距離だ。
 途中あるのは武器屋と防具屋、後は民家と畑だけ。
 そこで作物の収穫をしていた熟年の女性が、俺達に気が付き手を振った。

「おや、ソフィアちゃんじゃないか。今日はどこかへおでかけかい?」

「ええ。ちょっと村長のお宅まで」

「へえ、そうかい。今日は午後から天気が崩れるみたいだよ」

「そうみたいですね。気を付けますね」

 村人と交わす軽い挨拶なのだが、どことなく違和感がある。
 畑仕事をしていた女性は午後から天気が崩れると言っていたが、そうとは思えないほどの快晴だ。
 天気予報があるはずもなく、おばあちゃんの知恵袋的な何か村独自の予測方法があるのだろうか?

「そうだ。私も村長に用事があるんだった。おばちゃんド忘れしちゃってたよ。ついでだしご一緒してもいいかい?」

「ええ。もちろんです」

 ソフィアとおばちゃんが楽しく談笑しているのを、後ろからついて行く。
 すると、対面から大きなカゴを背負った年配の男性が俺達に気づき、挨拶程度に軽く頭を下げた。

「こんにちはソフィアさんや。今日はギルドはお休みですか?」

「こんにちは。そうではないのですが、ちょっと用事で村長のお宅に行くんですよ」

 ソフィアはかなりの人気者だ。村民で知らない人はいないだろう。
 ギルドが村を守っていると言っても過言ではないし、そこの長を務めているのだ。
 一介の冒険者である俺なんかと違って、声を掛けられる確率もかなりのもの。
 そんなことを考えながら会話を聞いていると、一瞬だがその男性と目が合った。
 しかし、それはすぐに反らされ、何事もなくソフィアとの会話を続ける。

「そうですかそうですか。ああ、そういえば今日は午後から天気が崩れるみたいだ」

「そうみたいですね。気を付けないといけませんね」

「……そういえば、ワシも村長に用事があるんじゃった。申し訳ないがご一緒してもよろしいですかな?」

「ええ、もちろんですよ」

 そんなわけで俺、ソフィア、おばちゃん、おじいさんという4人で村長の家を目指すことに……。
 どこの桃太郎だよ! ……とツッコミたいのを我慢する。言ったところでわかるはずもないが……。
 ここまでなら笑い話で済んだだろうが、道中村長への用事を思い出す村人が続出したのである。
 そして、ソフィアはそれを1人残らず快く迎え入れ、今や俺の後ろには10人ほどの村人がついて来ているといった状態だ。
 全員が会話の中で天気の話をし、その後村長への用事を思い出す。
 さすがの俺でも何かがおかしいと気付く。

「……ソフィアさん。何か隠してませんか?」

 俺の質問に若干青ざめるソフィアだったが、村長の家が見えてきたことで話題を変えた。

「あっ、見えてきましたよ! あれが村長の家です」

 もちろん知っている。
 村長の家といっても普通の民家。木造平屋の一戸建て。
 俺との会話を避けているのか、目を合わせることなく村長の家に小走りで駆けて行くソフィア。
 そして家の扉をぶん殴った。
 突然の出来事に何事かと目を丸くするも、村人達はそれを見ても微動だにしない。
 それはノックなんて生易しいものではなく、まるで借金の取り立てに来たヤクザかと疑うレベルである。

「村長さんいらっしゃいますか! 九条さんが来ましたよ!!」

 響くソフィアの怒号。そこで気が付いた。
 村長は高齢だ。耳が遠いのかもしれない。
 遠慮なくドカンドカンと木製の扉を叩いているとゆっくりと扉が開き、そこに立っていたのは村長の奥様だろうご年配の女性。

「……どうぞ、こちらへ……」

 申し訳なさそうな表情で俯きながら、弱々しい声で迎えられる。
 案内されたのは六畳程度の大きさの部屋。ベッドと箪笥やテーブル、椅子などの調度品が数点の簡素な寝室といった感じだ。
 そこに俺とソフィアを含め12人。正直言って狭すぎる……。

「ようこそ、九条さん。病床の上からで申し訳ない。本日はどんなご用件ですかな?」

 村長はベッドに横になっていた。
 病床と言ってはいるが、顔色はとても良さそうだ。
 寝たきりになるほど体が弱いとも、起き上がれないほど足が悪いという話も聞いた事がない。
 それというのも、スタッグから帰ってきた時、村長は村人達と共に俺を暖かく迎えてくれたのだ。
 その時は元気そうに見えた。
 絶対にありえないとは言い切れないが、ほんの数週間でここまで衰弱するものだろうか?

「えっと……この中で話すんですか?」

 周りの視線が気になって集中できそうにない。
 ソフィアはかまわないが、出来れば村長と2人で話がしたい。
 それ以外は出て行ってほしいという気持ちをオブラートに包み表したつもりだったが、それは無駄に終わった。

「なにか聞かれてはマズイ話なのかの?」

「いえ……。そういうわけでは……」

「ならこのままでもええじゃろうて……」

「はぁ……」

 こうなっては仕方がない。このまま話を聞いてもらうしかなさそうだ。

「村の門に出来た看板を撤去してほしいんですけど……」

「ウッ! ゴホッ! ゴホッ!」

 俺が話を始めると、途中で村長が大げさに咳き込んだ。
 それを見た村人達は村長を取り囲むように駆け寄ると、背中をさすったり声を掛けたりと大慌て。

「大丈夫ですか! 村長!」

「あぁ村長! おいたわしい……」

 そのうちの1人が俺に食って掛かる。

「九条さんが看板を撤去しろだなんて酷い事言うから、村長の病が悪化したではないですか!」

「えぇぇ……」

 ドン引きである。
 そんなことで病気が悪化する訳がないだろ……。そもそも何の病気なんだ……。
 村長は軽く咳をしつつ俺の顔をチラチラと見ては、出方を窺っているといった様子。
 ……なるほど。これは罠だ。
 恐らく最初から俺が抗議に来る事を見越していたのだろう。
 ついて来た村人達も共謀者なのだ。ぶっちゃけ不自然極まりない。
 なにより演技が下手くそすぎる。
 恐らくは同情を誘い、うやむやにしようという作戦のようだが、ここで引き下がる訳にはいかない。

「村長はなんて病気なんですか?」

「えっ?」

 一瞬の間。村長はしどろもどろになりながら村人やソフィアに助けを求める視線を送るも、皆冷や汗を垂らし目を逸らす始末。
 嘘をつくなら病名くらい考えておけよ……。

「不明……。そう不明なんじゃ」

「症状は?」

「……な……なんとなく体が重くて思うように動かせないというか……」

 じゃぁ、先程の咳はなんだったのか……。
 ちょっと無理があるが、100歩譲って良しとしよう。

「ソフィアさんに治してもらえばいいのでは?」

 その返しは用意していたようで、村長の顔が明るくなった。
 そこで喜びを表情に出してしまうのが二流なのだ。

「お金があれば、すぐにでもそうしたいのじゃが……」

 この世界では魔法である程度の病気が治療できることを知っている。
 病院がないのが何よりの証拠だ。
 病気になればギルドへ行くか、教会又は神聖術を使える人を探すというのが常識。

「村長と言えどギルドも商売ですので……。無料での治療は出来かねます……」

 と、申し訳なさそうに答えるソフィア。

「ちなみに村長の病気を治すには、どれくらいかかりそうですか?」

「最上位の治癒魔法ならば金貨20枚ですね」

「そうですか。じゃぁそれは俺が支払うので、村長を治してやって下さい」

「「えっ!?」」

 皆が顔を見合わせると言葉に詰まる。
 予想外の答えが返ってきたからだろう。
 金貨20枚とは成人男性1人の1月から2月分の稼ぎに相当する。
 一般的に考えれば、そんな大金を他人の為に使う者などいないはず。
 しかし、俺はプラチナプレート冒険者だ。
 金貨20枚なんて端金かもしれない。それだけの財力があってもおかしくはないと考えるはずである。
 仮病だと黙って治療を受ければ、俺に金貨20枚という恩が出来る。
 そうなれば看板撤去の件を聞かざるを得まい。
 逆にこれを断れば、お金の心配をせず治療できるのになぜ拒否するのかという話になるだろうが、それに対する言い訳は考えてはいないだろう。

 無言の時間が続く中、誰も俺と目を合わせようとはしない。
 俺にはプラチナプレートを隠していたい理由がある。
 村のギルドの為と言えば聞こえはいいが、実際のところプラチナプレートに昇格したことによって俺をスカウトに来る輩から身を隠したいというのが本音だ。
 王都では散々な目に合った。例え王都ではなくともその可能性は考えるべき。
 その相手をしなければならない手間を鑑みれば、金貨20枚程度安い買い物である。
 皆の視線が村長に集まると、村長は観念したかのように溜息をついた。

「すまなかった九条さん。しかし村の為、仕方なかったんじゃ……」

「村長……」

「プラチナの冒険者がいると言い広めれば、住民も増えるだろうと思うての……」

 村長の言いたいことはわかる。確かにこの村には若者が少ない。
 この状況が続けば、いずれは廃村となってしまうかもしれない。
 しかし、それは俺にはなんの関係もないのだ。
 冷たいと思われるかもしれないが、するにしても許可を取ってからにするべきではないだろうか?
 やるなとは言っていない。ちゃんとした理由があればそれを説明し、理解を求めるのが順序というものだろう。

「理解はできます。しかし俺に一言あってもよかったんじゃないですか?」

「いや、ソフィアさんが説得してくれると……」

 全員の視線がソフィアに集中する。

「確かに説得するとは言いましたけど、理解を得られるまでは待って下さいとも言っておいたじゃないですか!」

「……しかし、1週間以内にともお願いしたはずなんじゃが……」

 その視線に耐えきれなくなったソフィアは、ガバッと頭を下げた。

「……すいません……。言おうと思ってはいたんですけど、断られたらと思うと言い出しにくくて……」

「はぁ……。そんな安請け合いなんてするから……」

「……断れる空気じゃなくて……」

 村人達に囲まれ懇願されれば、断れなかったという気持ちもわかる。
 俺も、ネストの屋敷で土下座するセバスと使用人達に囲まれたのだ。
 その様子は圧巻で、まるでこちらが悪い事をしているような気分にさせられる。
 もちろん意志が強ければいいだけの話なのだが、村とソフィアとの関係性を鑑みれば強くも言えず、俺と村との板挟み。
 あちらを立てればこちらが立たずといった状況は、苦悩してしまっても不思議ではない。
 申し訳なさそうに首を垂れ、上目遣いで許しを請うソフィア。
 最初はもっと仕事の出来るキャリアウーマンのようなイメージだったのだが、今や俺の中では、優柔不断なおっちょこちょいなお姉さんといった感じだ。

「まあ、大体はわかりました。それでこの茶番を考えた人は誰なんですか?」

「カイルさんです」「カイルだ」「カイルだな」

「あいつか……」

 満場一致。予想通りではあるが、奴の考えそうな事である。
 村の為とはいえ、カイルには反省の色が見えないようなので、後でお灸を据えるとしよう。
 カイルへのおしおき内容を考えていると、村長は俺に向かって頭を下げた。

「九条さん。非常に申し訳ないが、どうか村興しに協力してくれないじゃろうか? プラチナプレート冒険者という肩書だけ貸して下されば名前は決して出さないと誓う。この通りじゃ……」

 村長の言葉に、その場にいた村人全員も頭を下げた。

「いや、申し訳ないがそれは無理だ……」

 出来れば協力してあげたいという気持ちはあった。
 俺が晒し者になることで村の為になるなら一肌脱ぐのもやぶさかではない。
 しかし、そうしてしまうと逆に迷惑をかける可能性もあるのだ。
 例えどんな条件を出されようと俺はこの村を出るつもりはないし、引き抜きに応じるつもりもない。だが、引き抜きに来る奴等が「はい。そうですか」と素直に帰ってくれるだろうか?
 村を人質にとるようなことをするかもしれない。
 盗賊が来るならそれは追い返せばいい。しかし、貴族が相手ならばそうはいかないだろう。
 権力がある分、余計に性質タチが悪い。

「俺がこの村にいると触れ回れば、それを知った者達が村を訪れるだろう。その中には俺を引き抜きに来る奴等もいるはずだ。そいつ等が村に迷惑をかける可能性は考慮しているのか?」

 確かに村の行く末も大事だ。だが俺の気持ちもわかってほしい。
 そんな想いとは裏腹に、返ってきた答えは予想とはまったく別のものだった。

「そんなことなら、とっくに解決しておるが?」

 村長がそう言うと、まわりの村人達もホッとした表情を浮かべ頷く。

「どういう事ですか?」

「九条さんの引き抜きじゃったら、もう何度も村に来とるよ。すべて追い返しているがの」

 相手は貴族だ。貴族ではなくともその息が掛かった者達だろう、それなりの権力を振るってもおかしくない連中である。

「追い返すって……。危険ではないですか?」

「いやなに、これは全て領主様が決めたことじゃ。何の問題も起きとらん」

 領主……コット村は現在アンカース領に属している。
 ならば、ネストが何か手を回してくれているのだろうか?
 
「えぇと……どこにやったかの。領主様からの書状がどこかにあったはずなんじゃが……」

 村長はベッドから降りると、近くにあった箪笥の中を漁り始めた。

「……おお、あったあった。これじゃ」

 そう言って渡された書状は恐らく本物。
 ネストから貰ったダンジョンの権利書にも同じ印がしてあった。
 細かい字でビッシリと書かれたそれを読み進めると、それに関連するであろう項目が目に留まる。

『プラチナプレート冒険者の扱いについて』

 ・プラチナプレート所持者を王都スタッグ以外に常駐させる試みはモデルケースとして扱われることに留意しなければならない。
 ・プラチナプレート所持者との面会には領主の許可が必要である。(村民を除く) よって許可なき者の入村は認めずともよい。
 ・上記規則に違反する者に対しては2条6項による罰則が適用される。
 ・申請についてはノーピークス又はスタッグの……

 重要なのはこのあたり。
 罰則というのが何を指すのか俺にはわからないが、さすがはネストと言うべきか、アフターケアもバッチリだ。
 そもそも誰が来ようと最初から許可を出すつもりはないのだろう。

「こんな物あるなら最初から言ってくれれば良かったのに……」

「えっ……。ご存じなかったんですか?」

「そりゃそうですよ。何も言われてませんから」

「おや? 領主様は同じ物を九条さんにも渡してあると言っていたのじゃが……」

「いやいや、そんなはずは……」

 最後にネストに会ったのは王女と一緒に来訪された時だ。
 しかし、受け取ったのはダンジョンの権利書と、バルザックの小さなメモ書きのみ。それ以外に渡された物などないはず……。
 そこでふと1つの可能性が脳裏をよぎる。
 ネストに権利書だと言われて受け取った証書筒。あの中に村長が貰った物と同じものが入っていたんじゃなかろうか……。

(ヤバイ……。まったくと言っていいほど読んでない……。せめて概要くらいは目を通しておくべきだった……)

「おや? 九条さん。顔色が優れぬようだが、いかがなされた?」

「いえ、別に……。と……とにかくあの目立つ看板はどうにかして下さい」

 少々焦りはしたものの、それは村に迷惑が掛からないだけであって、俺の気持ちを考慮した訳じゃない。俺は観光名所ではないのだ。

「九条さんがそこまで言うなら……。そうじゃ、九条さんも何か代わりになる村興しのアイデアを考えてはくださらぬか?」

 正直って面倒臭い。とはいえ、あの看板が撤去されるのであれば致し方あるまい。

「……まあ、考えるだけなら……」

「それは良かった。プラチナプレートの冒険者が考えるんじゃ。さぞいい案が浮かぶじゃろうて。ホッホッホッ……」

 正直、期待されても困る。
 特産品も観光地もないこんな田舎の小さな村で、村興しのアイデアを出せと言われても一体どうすればいいのか……。
 出口の無い難問に打ちひしがれながら、俺は村長の家を後にしたのだ。
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