生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第53話 役割

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 深夜、遠くから風に乗って聞こえてくるウルフの遠吠えで目が覚めた。
 俺の隣には幸せそうにスヤスヤと眠るミアと、キツネの魔獣カガリ。
 バスケットの中に毛布を敷いたカガリ専用の寝床は特注サイズな為、その大きさは普通のペット用の3倍ほどで、狭い部屋が更に狭く感じる。
 あれから2週間が経った。
 長閑な農村。特別何かが起きるということもなく、至って平和な日々を送っていたのだ。
 しかし、俺達が王都スタッグへと旅立っていた間に少しだけ変化していた事があった。
 それは”流れ”の冒険者が目に見えて減ったということ。
 それもそのはず、彼らはミアとカガリが目当てだったのだ。
 俺達が留守にしている間に少しづつ冒険者達は減っていき、1日のギルド利用者数は、今では当時の半分以下となっていた。
 といっても、初期の頃に比べたらまだ多い方だ。
 1日に数人しか訪れることのなかったギルドには依頼が溢れていて、手に負えないという状態であったが、今では上手く回っているようで、仕事の取り合いになるようなこともなく順風満帆と言っていい。
 肝心の俺はというと、困った時のピンチヒッターという役どころに落ち着いていた。
 掲示板からの仕事は受けず、何かあった時の為に村を守る護衛役として居てくれればよいとのことで、今まで通りギルドの賃貸にお世話になっている。
 ちなみに村ではプレートを首に掛けてはおらず、ポケットの中にひっそりと忍ばせている。
 村の人達は俺がプラチナなのだと知っている。
 ならば気にせず表に出せばいい話なのだが、何と言うか気恥ずかしいのだ。
 自慢しているようで嫌味に見られるかもしれない……。
 このギルドにはプラチナの冒険者がいる。ならば別の街のギルドに行こう。などと考える冒険者が続出して、さらに人数が減ってしまうということも考えられる。
 流石に全員が居なくなるという事態にはならないと思うが、俺1人で全ての依頼を処理するのはどう考えても無理なのだ。
 しかし、そんな俺の考えを真っ向から否定する出来事が起きた。
 二度寝の後、食堂で朝食を取ろうと階段を下っていた時、カイルに呼び止められた。

「あっ、いいところにいた九条」

「ん? 何だ?」

 その声に振り向き、何か用事かと首をかしげる。

「いや……、大した用事ではないんだ。今日は村の見張りを俺と他の冒険者で引き受けることになったから、九条は休んでいいです……いいぞ」

 村に帰ってきた時、カイルは俺に対して敬語を使っていた。
 俺がプラチナだという事と、騙していた事で後ろめたさがあったのだろう。
 なんとか説得して普段通りでいいという事にはなったが、まだその名残が垣間見える。

「そうか……。なら今日はゆっくりさせてもらうよ」

「ああ。そうしてくれ」

 食堂ではレベッカとソフィアが何やら談笑していた。
 レベッカが俺に気が付きソフィアから目線を逸らすと、それを追ったソフィアとも目が合った。

「あっ、九条さん」

「おはようございますソフィアさん」

「えっと……」

「何か?」

「……いえ、なんでもありません。では私はこれで失礼しますね」

 最近のソフィアはいつもこうだ。
 顔を合わせると何か言いたそうな素振りを見せ、結局は何も言わずに去って行く。

(言いたいことがあれば言えばいいのに……)

 考えられるのは仕事の話だが、ああ見えてソフィアは仕事に対しては真面目。
 言い辛いことでも仕事となればハッキリと言うはずである。
 金銭に関する可能性も考えられるが、お金に困っているようには見えないし、そもそも貸したところでこんな村じゃ使う所も限られている。
 とすると残る答えは1つ。俺に惚れてしまったのだ!
 ……と言いたいところではあるが、恋する乙女の顔という感じでもない。
 それがどういうものなのか万年独身の俺には見当もつかないが、ソフィアはいつものソフィアにしか見えない。
 謎は深まるばかりだ……。

 とりあえずソフィアのことは置いておいて、運ばれてきた朝食に舌鼓を打ちながら今日の予定を考える。
 急遽休みになってしまったが為に暇だ。
 だからと言ってこれといった用事もない。

(そういえばダンジョンが正式に俺の物になったのだと108番にはまだ言ってなかったな。ついでだし久しぶりに足を運んでみるか……)

 108番と話したければ頭の中で呼びかければ応えてくれるのだが、ネストから貰ったバルザックの手紙をダンジョンに保管しておこうと思っていたので、丁度良い機会だ。
 食事を終え準備を整えると、物見櫓で警備の仕事に従事していたカイルに声を掛けられた。

「九条。どっかいくのか?」

「ああ。折角の休みだしちょっと散歩に……」

 そう言って振り向いたその時、あり得ない物が見え絶句した。
 門扉の隣に目新しい木製の看板が設置されていたのだ。

『プラチナプレート冒険者の住む村! コット村へようこそ!』

 そこに書かれている文字を見て硬直していた俺を、カイルは不思議そうに見ていた。

「どうした九条?」

 カイルの質問で我に返る。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」

「何かあったのか!?」

 俺に釣られ、急ぎ真下を見るカイルだったが、返って来た返事は期待外れ。

「何もないじゃないか……」

「この看板はなんなんだ!?」

 看板というワードを聞き、ようやく意味を理解した様子。

「……えっ!? ソフィアから聞いてないのか?」

「こんなもの聞いてない! どういうことだ!」

「えぇ……。そんなこと俺に言われても……」

 ソフィアが俺に言い出せずに躊躇していたのは、このことなのだろう。
 事のあらましをカイルに聞くも、ソフィアが答えるの一点張りで聞く耳を持たない。
 仕方がないのでダンジョンに行く予定を早々に切り上げ、ギルドへと戻った。

「ソフィアさん! どういうつもりですか!?」

 両手でギルドのカウンターを叩くと、向かいにいたソフィアはビクンと肩を跳ね上げる。

「ああ。……見ちゃいました?」

「見ちゃいました? じゃないですよ! 説明して下さい!」

 悪戯が見つかってしまった子供のようにおどおどするソフィア。
 バレてしまっては仕方ないと諦めたソフィアは、全て話すと約束したうえで場所を変えようと提案してきた。
 そのままここで話せばいいじゃないかとも思ったのだが、冷静になって周りを見ると、俺の剣幕に驚いた冒険者達がこちらをまじまじと見つめていたのだ。
 その突き刺さるような視線に耐え兼ね、俺はソフィアを連れてギルドの外へと退散することにしたのである。

「で? あの看板はどうしたんですか?」

 ギルドの裏庭でソフィアの尋問を開始する。

「九条さんがスタッグへ行ってしまってから、私の所にスタッグギルドへの出頭命令が来たんです。九条さんのプレートを偽った件だと聞いたので、私はスタッグへ出発する前に、村の会合で最悪この村のギルドが撤退する事になってしまうかもとお話ししました。しかし九条さんの計らいで最悪の事態は逃れ、ギルドを辞することもなく戻って来れました」

「そうですね。その仕打ちがこれですか?」

「う゛っ……。ごめんなさい……」

 ソフィアは申し訳なさそうにするも、その表情は少し引きつっていた。

「それでですね……。九条さんよりも先に戻ってきた私は村のみんなに経緯を報告したんです。そうしたら村の皆さんは凄い喜んで……。その空気に呑まれてしまって……」

「ちょっと待ってください。報告って言いましたけど、何と報告したんですか?」

「そのままを説明しました。ギルドが存続することと、九条さんがプラチナであったこと。そしてそのまま村で活動を続けて下さることです」

 なんとなく読めてきた。
 通常プラチナの冒険者は王都にホームを置くことになる。だが、俺だけが特例でコット村での活動を許された。
 それを村の為に生かそうとしたのならあの看板も頷ける。

「それを聞いた皆さんは舞い上がっちゃってですね……。プラチナの冒険者が唯一住んでいる村、という事で村おこしが出来ないかと……」

 話を理解するにつれて、強張っていた俺の顔は徐々に億劫になっていく。

「ソフィアさんもその話に乗ったんですか?」

「まさか!? そんなはずないじゃないですか! 九条さんに迷惑が掛かると思って止めましたよ!」

 慌てたように手を振って否定するソフィア。

「じゃぁ、なんでこんな事に……」

「がんばって止めたんですけど、結局九条さんの名前を出さなければ問題ないだろうという事で決まってしまいまして……」

「いや、そう言う問題じゃないでしょう……」

 俺が溜息をつくと、ソフィアは地面に視線を落とし申し訳なさそうに項垂れる。
 恐らくソフィアは俺の説得を頼まれただけ。ここでソフィアに何を言ってもしょうがない。

「……とりあえず止めてもらうために村長の家まで行きましょうか」

「えっ!? 今からですか? 後日という訳にはいきませんか?」

 何やら焦り出すソフィア。
 それを見て不審に思うも、そうではないとすぐに考えを改めた。
 そういえばソフィアはまだ仕事中。にも関わらず、時間を作っているのだ。
 流石に村長の所まで同行してもらうのは無理か。

「忘れてました。まだ勤務中ですよね。村長の所には1人で行くので、ソフィアさんは仕事に戻ってもらってかまいませんよ?」

 しかし、ソフィアは大きく首を横に振るとそれを拒んだ。

「いえ、是非ご一緒させてください!」

「まあ、ソフィアさんがよければ俺はいいですけど……」

「じゃぁ行きましょうか! 村長の家には私が案内しますから!」

「はぁ……わかりました……」

 小さい村だ。村長の家の場所くらい俺でも分かるのだが……。
 まあ、俺が知らないと思って親切心で案内してくれるというのだろう。
 俺はそれに甘んじて、ソフィアの後をついて行った。
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