生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第271話 三者面談

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 グレッグを連れて、一路ダンジョンを目指す。
 俺が言った手前文句は言えないが、まさか本当に騎士団を連れて来るとは思わなかった。
 しかも、全員である。その数おおよそ50名。御近所までのお散歩に、大層な大名行列だ。
 街の警備はどうするのか……。まあ、もう街に戻ることもないのだ。考えても仕方ないか。
 俺は同じ馬車には乗せてもらえず騎士団同様、馬での移動。別に乗りたかった訳じゃない。1人の方が気楽でいいのだが、護衛の3人とはその役割分担を詰めるくらいはしておきたかった。

 ダンジョンへと到着すると軽いミーティング後、その中へと足を踏み入れる。
 俺達が突入した時とは違い、周りの草木は綺麗に刈り取られている。中も明るく、入りやすいダンジョンへとその風貌を変えていた。
 ダンジョンに入りやすいもクソもないと思うが、警戒心は和らげることが出来るだろう。
 窓もなく薄暗い怪しい雰囲気のお店より、外からも中の様子が確認できる明るいお店の方が入りやすいのと同じ事だ。

「俺が先行して安全を確認したら合図する。そうしたらお前達が降りて来い」

「いや、待て九条。お前は私達と一緒に行動してもらう。代わりに騎士団を見張りに置く」

 その真意が何処にあるのか……。俺を疑い見張る為か、それともただビビリなだけなのか……。
 あれだけの事故物件に住んでいるくせに、魔物が怖いとは……。目に見えるものしか信じないタイプなのだろう。

「俺は構わないが、本当にそれでいいのか? こう言っちゃ悪いが、あいつ等役に立ちそうもないが……」

 ヒョロガリ集団……という訳ではないが、旧騎士団を見てしまえばその頼りなさは一目瞭然である。

「そもそも、どこまで潜るつもりなんだ?」

「そうだな……。深ければ深いほど瘴気は濃いが、まあ地下6層程度を予定している。もっと深くても構わないが?」

「いや、出来れば明日には帰りたい。地下6層で十分ならばそれでいいだろう。騎士達を各階層に10人ずつ見張りとして配置する。構わんな?」

「はいはい。好きにしてくれ」

「九条。1ついいか?」

 俺の肩を叩いたのはドルトンだ。その手には1枚の紙が握られていた。

「なんだ?」

「さっき渡された簡易マップなんだが、この印はなんだ?」

 それはちゃんとマッピングされた物だ。少々雑ではあるが、ミアとシャロンの作成したマップから地下6層までを書き写した物。俺のお手製である。
 ドルトンの指差しているところは、地下1層の1番端の部屋だ。

「ああ。そこは通らないから気にしないでいい。調査がまだ完全じゃないんだ。デカイ宝箱があるのは確認したんだが、連れのギルド担当の魔力が切れてな。大事を取って調査を中断したんだ」

「何? ならば騎士団を貸してやろうか? なんだったら箱ごと街まで運んでやるぞ?」

 宝箱と聞いて反応を見せたのはグレッグだ。反応してほしいのは、お前じゃない。

「いや、いい。次に訪れた時に回収するさ。まあ、それまでに誰かに取られるかもしれないが、その時は運がなかったと思って諦めるよ」

 グレッグの指示で10名の騎士が選出され、それ以外の騎士達と共に下層へと降りていく。
 それを何度か繰り返し、辿り着いたのは目的地である地下6層。そこは最初の部屋に似た大きなホールだ。
 それなりの面積であるが故に多少薄暗いものの、松明の必要性は感じない。

「じゃぁ、儀式の準備を始めるから、それまで適当にくつろいでいてくれ。ドルトンとギースは上半身裸で待て」

 そう言った時の2人の表情の変化は滑稽であった。また背中を叩かれると想像したのだろう。
 拒否反応が露骨に出ているので、吹き出すのを必死に我慢した。

「なんで俺達なんだ!?」

「別に俺はグレッグとアニタでも構わんが?」

 グレッグが文句を言う2人を睨みつけると、苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る。
 本当は儀式の準備なんて必要なかった。正直に言うとただの時間稼ぎだ。
 梵字と呼ばれる古い文字をサラサラと地面に描いていく。
 それは仏教における神、梵天が創造したブラーフミー文字を意訳したもの。
 魔法陣を描くように見せかけ、仕事をしているアピールだ。
 それを半分ほど書き終えると、約束の時間が訪れた。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 ようやくである。騎士団の誰かが箱の部屋を開けたのだろう。突然の悲鳴は、上り階段の先から聞こえてきた。
 誰もが手を止め振り返る。暫く続く無言の時間。そして、その暗闇からぬるりと姿を見せたのは1匹の魔物。
 大きな猟犬の骨格標本。色は黒く、丸みを帯びたあばら骨に守られているのは、蒼白に燃え盛る魂の鼓動。デスハウンドだ。

「ひぃ!」

 それに悲鳴を上げたのはグレッグだけ。護衛の3人はむしろ安堵していた。

「なんだよ。ただのデスハウンドか……」

「……騎士団の奴等はこんなのにビビったのか?」

 溜息まじりに落胆にも似た表情を浮かべるドルトンに、今にも吹き出しそうなギース。

「仕方ねぇ、俺達の出番だ。ギース、アニタ。準備はいいか?」

 ギースは大きなクレイモアを抜き、アニタは杖を構え頷いた。

「九条! お前は儀式の準備をしていろ。すぐ終わらせる。"グラウンドベイト"!」

 ドルトンが使ったスキルは魔物の敵対心を煽るものだ。
 その効果は一目瞭然。デスハウンドはゆっくりと向き直り、ドルトンへと駆け出した。

「よし! ギース、アニタ。散開しろ!」

 ドルトンへと突撃してきたデスハウンドを、大きな盾で受け止める。
 思った以上の威力に、少々仰け反り気味に後退したドルトンは、それに違和感を覚えたのだろう。

「九条。さっきのはなしだ! 儀式の準備を中断してグレッグさんを安全な場所に避難させろ! コイツただのデスハウンドじゃねぇ!」

 それに逸早く反応を見せたのは、飛び掛かろうとしていたギース。

「どういう事だドルトン!?」

「ギース覚えてるか? グレッグさんに最初に雇われた時の事だ」

 ギースの頬に一筋の汗が流れ、一気に場の緊張感が増した。

「……思い出した……。あれは割に合わねぇ仕事だったぜ……」

「こんなのが2体もいるとはな……。突然変異なのか別個体なのかは不明だが、油断するな!」

 その間にもジリジリと押されるドルトン。

「安全な場所まで案内してやる。いくぞ」

 魔物の処理はドルトン達に任せ、俺はプルプルと小刻みに震えるグレッグを更に下の階層へと連れて行く。
 階段を降りながらも、後方から聞こえてくる戦闘音に身震いが止まらないグレッグ。

「おい、九条。お前から見てあいつらはどうなんだ?」

「どうと言われても……。まあ、余裕だろう。時間の問題だ」

「そうか……」

 深く安堵するかのように息を吐く。恐らくその意味をはき違えているのだろう。おめでたい奴だ。
 グレッグを案内したのは地下7層の行き止まりの部屋。

「お前はここで待っていろ。上の階が安全になったら迎えに来る」

「いや、九条は私を守れ。ここにいろ!」

「……まさか……。怖いのか?」

 ダンジョン内だが、扉を閉めれば閉鎖された明るい空間。俺からしてみれば、グレッグの屋敷の方が100倍は恐ろしい。

「違う! 万が一の為だ! 私がいなくなったらどうするんだ? この国には私が必要なのだ! お前にその責任が取れるのか!?」

 呆れて物も言えない。元の世界にもこういう奴はいた。自分がいなければ仕事が回らないと自負しているのだ。
 責任感が強いのか、思い込みが激しいのか……。
 そう言う奴に限ってリーダーシップを取りたがり、裏では煙たがられているのである。

「わかったよ。じゃぁ俺の代わりに護衛を呼んでやる」

「護衛?」

 俺が手を叩くと、部屋の扉がゆっくりと開かれた。そこに立っていたのは2人の男。
 1人は筋骨隆々の老戦士。立派な白髭に眩しいほどのスキンヘッド。
 もう1人は見たことのないダンディなおじさま。高身長で口髭を蓄え、如何にも貴族といった出で立ちである。
 その2人の表情は、憤怒に染まっていた。

「グラーゼンにレストール卿! どうしてここに!?」

「久しいなグレッグ。ようやく貴様に引導が渡せる。喜ばしい限りだ。今日が記念日になることは間違いない」

 さすがのグレッグも理解したのだろう。その怒りの矛先は俺に向いた。

「九条ッ! 貴様騙したなッ!?」

 グレッグになんと思われようと気にはしないが、まるで俺が悪役のような言い方には少々不快感を覚える。
 自分を棚に上げすぎである。自分は誰も騙していないとでも思っているのだろうか……。

「今は俺が騙した事よりも、これからの自分の心配をした方がいいんじゃないか?」

「貴様ッ……」

 自分の立場を理解したのだろう。グレッグは言葉を詰まらせた。
 その悔しそうな表情。グラーゼンにとっては何よりのご褒美だろう。
 徐々に息を荒くするグラーゼンに若干の恐怖を覚えつつも、ひとまずはこの場を預ける。

「グラーゼンさん。俺は上の様子を見てきますので、暫くここはお任せします」

「ああ。任せておけ……。グフフ……」

「九条! 待て! 行くなッ!! そうだ、今からでも遅くはない。好きなだけカネをやろう! 悪い話ではあるまい!? 九条! 聞いているのかッ!!」

 俺はそれを無視し、部屋を出るとそっと扉を閉めた。
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