生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第367話 報酬の使い道

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 虫の鳴き声が耳障りにも感じる真夜中。俺はアレックスを連れ出し、ある場所へと向かっていた。

「九条さん。一体何処へ?」

「いいから黙ってついて来い」

 他にも色々と言いたそうな顔をしているが、こんな時間にコソコソと人目を盗んでの移動である。恐らくは感付いているだろう。
 屋敷を出ると、向かった先は使用人達の宿舎。その炊事場から地下の食料貯蔵庫に入ると、ズラリと並ぶ酒瓶を横目に長い通路を歩いて行く。
 その先にはランプの光を掲げる何者かが立っていた。

「レナ!」

「アレックス!!」

 そこにいたのはレナを引き連れたニールセン公。レナが使用人の制服を着用しているのは変装の為だ。
 2人はお互いの姿を確認すると、薄暗く長い廊下のど真ん中で熱い抱擁を交わした。
 その様子を見て、うんうんと深く頷くニールセン公は幸せそうで結構なのだが、この後色々と説明しなければならないのは理解しているのだろうか?

「アレックスには本当の事を話すとしても、その他招待客にはなんて説明するんです? 神の力で生き返ったとか適当なこと言わないでくださいよ?」

 その言い訳は、レストール卿のところで1度痛い目を見ているのでやめていただきたい。
 レナは今のところ死んでいる設定である。そのまま結婚式を中断し、後でひっそり結婚式を挙げればよいものをニールセン公はどうしても諦めたくないと言うのだ。

「死んだのはレナの影武者だった……というのはどうだろう?」

「それはちょっと都合が良すぎやしませんか? それだと招待客全員を騙していたということになりますが……」

「がっはっは。任せておけ。こう見えても公爵。無理矢理にでも納得させてやるわ!」

「まぁ、それで皆さんを説得出来るのであれば俺は構いませんけど……」

 豪快と言うか、雑と言うか……。とは言え、それが出来るほどの権力を持っているのだから、任せた方が楽な事には変わりない。
 俺に迷惑が掛からないように処理してくれれば、正直なんだっていいのだ。

「九条さん!」

 一頻り抱き合い、ちゅっちゅした後に駆け寄って来たのはアレックスとレナ。
 ニールセン公同様幸せそうではあるのだが、俺にはそれが眩しすぎて胸やけがしそうである。

「レナを守ってくれてありがとうございました! まさかあの死体が作り物だったなんて……」

「いや、こちらこそすまない。仲間外れにする気はなかったんだが、第2王女の目が厳しくてな……」

「レナから聞きました。ですが九条さんのヒントと、このブレスレットのおかげで気付けたんです! 九条さんなら僕と同じようにレナを生き返らせることが出来るんじゃないかと……。結果は少し違いましたけど」

「あーあれな。実は生き返らせたわけじゃないんだ……」

「どういうことです?」

「今だから言うが、お前は死んでなかったんだ。気絶している状態の身体から魂だけを抜き出し、それを元に戻しただけだったんだよ」

「そうだったんですか!?」

「ああ。死んだと思っただろう? 自分で自分の身体を見下ろす感覚はどうだった?」

「最悪に決まってるじゃないですか! ……でも、そのおかげで今の僕がある……。なんというか……自分に素直になれました……」

「そこに気付けたのなら、お前は俺が思っているよりずっと成長している。自分の進むべき道を間違うな――とは言わないが、以前よりも周りが見えているからこそ最善の選択ができるはずだ」

「はい!」

「まぁ、俺も人の事は言えんがな」

 近年稀にみる良い返事に、アレックスと一緒になって笑顔を浮かべる。
 今のタイミングであれば、アレックスも理解してくれるだろうと思ったからこそ明かした真実。
 生き返らせたと勘違いさせ続けるのも、良心が咎める。それに、お互いにとっても良くないと判断した結果だ。
 いずれ今回のような事件が起きてしまった時、俺を当てにされても困るのである。

「では、自分は邪魔でしょうしこの辺で。今後の事は後程……」


 自室へと戻り夜を明かす。目は覚めているものの、束の間の休息とばかりにベッドでゴロゴロと寝転んだままの俺とミア。
 後は結婚式を待つばかり。暫くはゆっくりできると思ったのだが、そうは問屋が卸さない。
 聞こえてきたのは複数人の足音。案の定自室の扉がノックされると、俺は横になったまま声を上げた。

「へーい。開いてまーす」

 扉が開くと、そこにいたのはいつもの面々。ニールセン公は言わずもがな。バイスにネストにシャーリーにアーニャ。第4王女のリリーに、その護衛を務める従魔達とヒルバークだ。

「うぇーい。おつかれぇい!」

 本当に本心でそう思っているのかと、疑わしくも気さくな声を上げたのはバイス。

「そう思ってるなら、少しはゆっくりさせてくださいよ……」

 気だるそうに体を起こし溜息をつきながらも愚痴をこぼすと、白狐の隣でリリーはクスクスと控えめな笑顔を見せていた。
 それは全ての不安が取り除かれたような柔らかな表情であり、俺もようやく肩の荷が下ろせると本当の意味で気を抜くことが出来たのだ。

「九条。貴殿にはまたしても助けられてしまった。なんと礼をすればよいか……」

 俺の目の前に出て来たかと思えば、頭を下げたニールセン公。その礼儀正しい振る舞いは一目置く所ではあるが、昨日の今日でコレである。
 ひとまずの脅威は去ったのだから、家族団欒でも楽しんでゆっくりすればいいのに、誠実というか几帳面というか……。
 大勢の招待客にヴィルヘルムや第2王女の事。その全てを取り仕切っていたのだから相当忙しかったはずなのに、そんな慌ただしさを微塵も感じさせないのは、流石であると言わざるを得ない。

「結果そうなりましたが、俺はリリー王女への恩を返したに過ぎません。それにフェルス砦の事もありますし……」

「そんなものは新しく建て直せば済む話だ。しかし、人の命はそうじゃない。九条には感謝してもしきれん。なんでも望む物をやろう。何かないか?」

 砦の再建費用は、目も当てられない金額になるだろう。そう思うと、首を縦には振りにくい。
 補償を求められることはないと思っていたが、報酬を貰えるとも思ってはいなかった。
 むしろその逆で、何かで補填した方がいいのではないかと考えていたくらいである。

「九条の事だから、どうせいらないって言うんでしょ?」

 さすがはシャーリー。俺の事をよくわかっている。

「えっ? 九条がいらないなら私が貰ってもいい?」

「ダメに決まってんだろ!」「ダメに決まってんでしょ!」

 アーニャの正直すぎる提案に、シャーリーとの見事な調和を見せるツッコミ。
 全く手伝っていない――と言うわけでもないので貰う権利もあるとは思うが、少なくとも自分から言い出していいレベルでないことは確かであり、少しは遠慮するべきだ。
 とは言え、この流れは良くない気もする。知人であればタダ働きをしてくれる――なんて思われるのは心外だ。加えて言うならシャーリーの思い通りになるもの癪である。

「うーん、そうですね……。毎回タダ働きというのもアレなんで……何かないか探してみます」

 何を希望するべきか……。長期休暇を――と言いたいところではあるが、それをニールセン公に求めても無駄だろう。
 いや、言えばギルドに圧力をかけてくれそうではあるが、そこまでしてもらう訳にもいくまい。

「えっ!? どしたの九条!? 何か悪い物でも食べた?」

「そんなに驚くことかよ……」

 その反応も今までの事を鑑みれば当然なのかもしれないが、決してボランティアが趣味な訳ではないのだ。

「それはそうとニールセン公。ヴィルヘルムの処分は?」

「うむ。ヴィルヘルムは処刑……と言いたいところではあるが、捕虜扱いが妥当だろう。身柄の引き渡しを条件にすれば、停戦も含め交渉は有利に進められるはず。ひとまずは陛下次第だが、意見があれば言ってくれ。陛下に進言しておこう」

「いえ。第2王女の処分も含めて、事後処理は全てニールセン公にお任せしますよ」

「そうか。ならばそうしよう。今回の事はグリンダ様の事も含め、全て陛下に報告するつもりだ」

「まぁ、妥当でしょうね」

「うむ。一国の王女とは言え、今回ばかりは度が過ぎる。内乱とまではいかずとも、国家反逆に抵触する事案。さすがの私でも黙認はできん」

「出来ればもう顔を合わせるのはご遠慮願いたいですね。正直ろくなことがない……」

「実に耳が痛い話ではあるが、今回は流石に厳しい処罰を申し付けるに違いなかろう。実の娘とは言え、甘い裁定では他の貴族達に示しがつかんからな」

 申し訳なさそうに頭を掻くニールセン公。これで第2王女に下される処分が厳しくなければ、不満の1つでも言ってやりたいくらいではあるが、正直それすらも面倒臭い。
 そもそも俺は冒険者なのだ。ちょっと貴族に知り合いが多い一般人なだけである。貴族じゃあるまいし、まつりごとに口を出す気は端からないのである。
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