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第380話 閑話
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俺達が村に帰ってから数日。代わり映えしない景色とは打って変わって、村は再建に向けての建設ラッシュに沸いていた。
そんな中、俺はミアに誘われカガリを連れてのお散歩タイム。
あの後、どういう風の吹き回しかエルザはダンジョンでのことを謝罪に来た。
それは見たこともないような礼儀正しさで、一見反省しているように見えたのだが、恐らくは世間体を気にしただけの見せかけだ。
エルザは、ダンジョンの奥へと向かった目的を頑なに喋ろうとはしなかったのである。
ネクロガルドが各地のダンジョンを調査しているのは知っている。とは言え、俺を仲間に入れたいなどとほざいておきながらも反感を買うような行動は、目に余るとしか言いようがない。
ダンジョンにはそれよりも重要な何かがあるのだろうか? 魔法書? 魔剣? それとも何か別の理由……。
エルザとフードルがダンジョンで対峙した時、エルザは大きな舌打ちをしたそうだ。
フードルは俺が殺したことになっているが、その虚偽情報を流したのはネクロガルド。当然エルザはフードルが生きていることを知っている。
しかし、魔族を前にして舌打ちだけというのもおかしくはないだろうか?
もちろん個人差はあるだろう。泣き叫ぶ者もいれば、脱兎の如く逃げる者、腰が抜け立てなくなる者もいるかもしれない。
それが、エルザは驚いた素振りも見せず、魔族に対して面と向かって舌打ちをしただけ。その様子は、隙あらば強行突破に打って出そうなほどの気迫に溢れていたと言うのだ。
フードル曰く、それは少なくとも魔族を見たことがあり、ある程度慣れている者の反応であったとのこと。
今回ルールを破ったのはエルザだ。強制的な尋問をしても許されるような気もするが、既に村での話し合いは終わった後。
次があれば村からの追放ということで許しを得たようだが、ひとまずは未遂であるということで溜飲は下げよう。
下手に手を出してネクロガルドと敵対するのも得策ではない。
「……ちゃん? おにーちゃん? 聞いている?」
「ん? ……あぁ……」
俺の思考を止めたのはミアの不機嫌そうな声。正直全然聞いていなかった。
気が付くとカガリに乗ったミアが頬を膨らませていて、目の前には雑貨屋のおばちゃんが立っていたのだ。
「このドレスは王女様から貰ったんだよね?」
「ああ」
「へぇ。そうなのかい。すごいねぇ。良く似合ってるよミアちゃん」
「えへへ……」
笑顔でミアを褒めてくれる雑貨屋のおばちゃん。
一体何をしているのかというと、ミアのドレス自慢に付き合わされているのである。
カガリに跨るミアは、白馬に乗った王子様……もとい、白狐に乗ったお姫様。道行く人に声を掛け、王女から貰ったドレスを披露する。それが嘘ではないことの証明に相槌を打つのが、俺の今日の仕事なのだ。
余程嬉しいのだろう。満足気な顔を見せるミアは微笑ましいのだが、付き合わされている俺としては正直少し恥ずかしい。
そもそも平民が王族から何かを賜ることなぞ、そうある事ではない。ミアにとっては皆で貰った勲章よりも、リリーから貰った1着のドレスの方が、何倍もの価値があるのだろう。
「次は村長さんのお家のほう!」
「かしこまりました。お姫様」
ギルドではしっかり者でも、やはりこういうところはまだまだ子供。今日くらいはミアに合わせてやっても罰は当たるまい。
こんなことが出来るのも、村が平和であるからだ。……言い換えれば暇であるという事と紙一重なのだが、忙しいよりは全然いい。
「よう九条。今日はミアと散歩か?」
「ああ。まぁそんなところだ」
途中、出くわしたのは村付き冒険者のカイル。泥にまみれボロボロだが、その様子は以前とは少し違っていた。
「カイルは相変わらず酷いな……」
「まぁそう言うなって。鍛錬の帰りなんだ。シャーリーがもう上がってもいいってさ」
「本当か? 逃げたんじゃなく?」
「ホントだよ。あんまり急激に身体を作るのも良くないんだとさ。さすがゴールドの冒険者は言うことがちげぇや」
その表情から多少の疲れは見られるも、充実しているかのような爽やかな笑顔は清々しい。
「そうか。頑張ってるじゃないか」
「ああ。もう甘えるのはやめたんだ。今回の事で思い知った。九条がいなくても村を守れるようにならなきゃダメなんだ……」
それはカイルを変えるだけの出来事だったのだろう。そんなカイルに水を差すつもりはないのだが、それには相当な努力が必要そうである。
「それで九条。ものは相談なんだが、手っ取り早く強くなる方法とかって知らないか?」
そんな方法あれば、皆やっている。
「……甘えるのは、やめたんじゃなかったのか?」
「もちろんだ。でも楽に強くなれるならそれに越したことはないだろ?」
そんなことを自信満々に言われても……と、言いたいところではあるが、激しく同意せざるを得ない。
楽して強く。楽してお金持ちに。楽してモテたい。それは万人の夢だ。もちろんそこには俺も含まれている。
しかし、それが叶わないからこそ精進が必要であり、努力無くしては成し得ないことなのである。
「カイル。いいことを教えてやろう。――己をととのえ成すところ、常につつしみあり。かく己に克つは、全ての他の人々に勝てるに勝る――だ」
それは法句経と呼ばれる仏の教えの1つ。
「おのれをととのえ……なんだって?」
「慎みを以て行動し自分自身に克つ者は、他人にも勝るであろう……という意味だ。何事も自分自身に打ち勝たなければ願いは成せない。ぶっちゃけると、努力しろ……ってことだな」
異世界に放り出され、良くわからない内に強くなっていた俺に説得力があるかと言われると首を傾げざるを得ないが、決して自分を棚に上げているわけではない。
「そりゃそうだよな。地道にやるよ」
もちろん最初からカイルが本気で言っているわけではない事はわかっていた。だからこそ少しからかってやろうと、ワザと真面目そうな顔をして悩むそぶりをして見せた。
「簡単に強くなる方法がないわけではないが……」
「ホントか!? 是非教えてくれ!」
いきなり俺の肩を掴み、ガクガクと揺らすカイル。あまりの食いつきっぷりに一瞬、頬を緩めてしまったほどだ。
「頭蓋骨と魂をくれれば、無敵の戦士に……」
それを聞いたカイルは、肩を落とし顔を歪めた。
「死ねってことじゃねぇか!」
「間違ったことは言ってないだろう?」
「あーはいはい俺が悪かったよ。期待させやがって……。いつか俺も九条みたいに強くなって吠え面をかかせてやるからな!」
ニヤニヤと笑う俺にビシッと人差し指を突き立て、宣言して見せるカイル。
随分と大きく出たものだが、目標が大きなことはいいことだ。
俺はその決意が揺るがない事を願いながらも、少々ご立腹のミアに引き摺られつつ村長宅を目指したのである。
そんな中、俺はミアに誘われカガリを連れてのお散歩タイム。
あの後、どういう風の吹き回しかエルザはダンジョンでのことを謝罪に来た。
それは見たこともないような礼儀正しさで、一見反省しているように見えたのだが、恐らくは世間体を気にしただけの見せかけだ。
エルザは、ダンジョンの奥へと向かった目的を頑なに喋ろうとはしなかったのである。
ネクロガルドが各地のダンジョンを調査しているのは知っている。とは言え、俺を仲間に入れたいなどとほざいておきながらも反感を買うような行動は、目に余るとしか言いようがない。
ダンジョンにはそれよりも重要な何かがあるのだろうか? 魔法書? 魔剣? それとも何か別の理由……。
エルザとフードルがダンジョンで対峙した時、エルザは大きな舌打ちをしたそうだ。
フードルは俺が殺したことになっているが、その虚偽情報を流したのはネクロガルド。当然エルザはフードルが生きていることを知っている。
しかし、魔族を前にして舌打ちだけというのもおかしくはないだろうか?
もちろん個人差はあるだろう。泣き叫ぶ者もいれば、脱兎の如く逃げる者、腰が抜け立てなくなる者もいるかもしれない。
それが、エルザは驚いた素振りも見せず、魔族に対して面と向かって舌打ちをしただけ。その様子は、隙あらば強行突破に打って出そうなほどの気迫に溢れていたと言うのだ。
フードル曰く、それは少なくとも魔族を見たことがあり、ある程度慣れている者の反応であったとのこと。
今回ルールを破ったのはエルザだ。強制的な尋問をしても許されるような気もするが、既に村での話し合いは終わった後。
次があれば村からの追放ということで許しを得たようだが、ひとまずは未遂であるということで溜飲は下げよう。
下手に手を出してネクロガルドと敵対するのも得策ではない。
「……ちゃん? おにーちゃん? 聞いている?」
「ん? ……あぁ……」
俺の思考を止めたのはミアの不機嫌そうな声。正直全然聞いていなかった。
気が付くとカガリに乗ったミアが頬を膨らませていて、目の前には雑貨屋のおばちゃんが立っていたのだ。
「このドレスは王女様から貰ったんだよね?」
「ああ」
「へぇ。そうなのかい。すごいねぇ。良く似合ってるよミアちゃん」
「えへへ……」
笑顔でミアを褒めてくれる雑貨屋のおばちゃん。
一体何をしているのかというと、ミアのドレス自慢に付き合わされているのである。
カガリに跨るミアは、白馬に乗った王子様……もとい、白狐に乗ったお姫様。道行く人に声を掛け、王女から貰ったドレスを披露する。それが嘘ではないことの証明に相槌を打つのが、俺の今日の仕事なのだ。
余程嬉しいのだろう。満足気な顔を見せるミアは微笑ましいのだが、付き合わされている俺としては正直少し恥ずかしい。
そもそも平民が王族から何かを賜ることなぞ、そうある事ではない。ミアにとっては皆で貰った勲章よりも、リリーから貰った1着のドレスの方が、何倍もの価値があるのだろう。
「次は村長さんのお家のほう!」
「かしこまりました。お姫様」
ギルドではしっかり者でも、やはりこういうところはまだまだ子供。今日くらいはミアに合わせてやっても罰は当たるまい。
こんなことが出来るのも、村が平和であるからだ。……言い換えれば暇であるという事と紙一重なのだが、忙しいよりは全然いい。
「よう九条。今日はミアと散歩か?」
「ああ。まぁそんなところだ」
途中、出くわしたのは村付き冒険者のカイル。泥にまみれボロボロだが、その様子は以前とは少し違っていた。
「カイルは相変わらず酷いな……」
「まぁそう言うなって。鍛錬の帰りなんだ。シャーリーがもう上がってもいいってさ」
「本当か? 逃げたんじゃなく?」
「ホントだよ。あんまり急激に身体を作るのも良くないんだとさ。さすがゴールドの冒険者は言うことがちげぇや」
その表情から多少の疲れは見られるも、充実しているかのような爽やかな笑顔は清々しい。
「そうか。頑張ってるじゃないか」
「ああ。もう甘えるのはやめたんだ。今回の事で思い知った。九条がいなくても村を守れるようにならなきゃダメなんだ……」
それはカイルを変えるだけの出来事だったのだろう。そんなカイルに水を差すつもりはないのだが、それには相当な努力が必要そうである。
「それで九条。ものは相談なんだが、手っ取り早く強くなる方法とかって知らないか?」
そんな方法あれば、皆やっている。
「……甘えるのは、やめたんじゃなかったのか?」
「もちろんだ。でも楽に強くなれるならそれに越したことはないだろ?」
そんなことを自信満々に言われても……と、言いたいところではあるが、激しく同意せざるを得ない。
楽して強く。楽してお金持ちに。楽してモテたい。それは万人の夢だ。もちろんそこには俺も含まれている。
しかし、それが叶わないからこそ精進が必要であり、努力無くしては成し得ないことなのである。
「カイル。いいことを教えてやろう。――己をととのえ成すところ、常につつしみあり。かく己に克つは、全ての他の人々に勝てるに勝る――だ」
それは法句経と呼ばれる仏の教えの1つ。
「おのれをととのえ……なんだって?」
「慎みを以て行動し自分自身に克つ者は、他人にも勝るであろう……という意味だ。何事も自分自身に打ち勝たなければ願いは成せない。ぶっちゃけると、努力しろ……ってことだな」
異世界に放り出され、良くわからない内に強くなっていた俺に説得力があるかと言われると首を傾げざるを得ないが、決して自分を棚に上げているわけではない。
「そりゃそうだよな。地道にやるよ」
もちろん最初からカイルが本気で言っているわけではない事はわかっていた。だからこそ少しからかってやろうと、ワザと真面目そうな顔をして悩むそぶりをして見せた。
「簡単に強くなる方法がないわけではないが……」
「ホントか!? 是非教えてくれ!」
いきなり俺の肩を掴み、ガクガクと揺らすカイル。あまりの食いつきっぷりに一瞬、頬を緩めてしまったほどだ。
「頭蓋骨と魂をくれれば、無敵の戦士に……」
それを聞いたカイルは、肩を落とし顔を歪めた。
「死ねってことじゃねぇか!」
「間違ったことは言ってないだろう?」
「あーはいはい俺が悪かったよ。期待させやがって……。いつか俺も九条みたいに強くなって吠え面をかかせてやるからな!」
ニヤニヤと笑う俺にビシッと人差し指を突き立て、宣言して見せるカイル。
随分と大きく出たものだが、目標が大きなことはいいことだ。
俺はその決意が揺るがない事を願いながらも、少々ご立腹のミアに引き摺られつつ村長宅を目指したのである。
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