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第379話 エルザの処遇
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村へ帰ると真っ先に案内されたのは、ギルド2階の応接室。仏頂面で座っているのはソフィア、グレイス、シャロンの3人だ。
質問攻めにされるだろうとは思っていた。……いたのだが、そうならなかったのはある程度の事をミアとシャーリーが説明してくれていたからかもしれない。
とは言え何が起きたのかはお互いが知っておくべき事であり、俺はその全てを語った。
第2王女の暴走、俺への報復の為村が襲われた事、そして隠していた魔族の存在……。
正直怒鳴られても仕方がないと思っていた。ギルドからしてみれば、冒険者が魔族を匿っていたなんてもっての外だろう。
しかし、ソフィアは事務的に話を聞いているだけで、無表情とは言わずともあまり感情を表に出さなかった。
「話はわかりました。先程ミアと話して、家を無くした方々には魔法学院の宿舎へと移ってもらいました。それと被害状況は纏めてあるのですが、アンカース家が全額補償して下さると言う話は本当ですか?」
「はい。ネストさんからの申し出があったので……。しばらくしたら被害状況を確認しに来ると言っていたので、先に纏めておいてもらえたのは助かります」
村の状況は大きく二分していた。まったく被害のない東側エリアと、竜巻でも発生したのかと思うほど何もなくなってしまった西側エリア。
その威力から察するに、恐らくはフードルが張り切ってしまったからなのだろうが、それは言わないでおいた。
「そうですか。では今日はこのくらいで……」
「……へぁ? もう終わりでいいんですか?」
まさかのスピード協議に、素っ頓狂な声を上げる。
「ええ。九条さんのおかげで安全に避難も出来ましたし、グレゴールさんがいなければ村の被害は更に深刻なものであったと言わざるを得ません。もちろんギルドとしては魔族の存在を見過ごすわけには参りませんが……」
少々俯き気味だったソフィアが顔を上げると、グレイス、シャロンとお互いが確認し合うかのように力強く頷き、真っ直ぐ俺を見据えた。
「冒険者ギルドコット村支部一同は、ダンジョンでの事は全て見なかった事にしようと決めましたので」
「……いいんですか?」
「もちろんです。それに九条さんとは約束していたじゃないですか。ダンジョン内での出来事は他言無用だと……」
それは、俺がダンジョンを避難先として使う際に定めた4つのルールの内の1つ。
当初は討伐の終わっているゴブリン達を見られた時の口封じ的な意味で設けた取り決めであったが、魔族ともなると話は違ってくるだろう。
それはいつ爆発するかもわからない爆弾を抱えているかのようなものなのだから。
「グレゴールさんから村の解放を聞き、村に戻ってから会合を開きました。もちろんギルド職員だけではなく、村長を含めた村の運営に関わる代表全員で……。結果、満場一致で決まったことです。グレゴールさんの事は黙認しようと……。グレゴールさんが悪だとしたら、こんな小さな村はとっくに全滅していますから……」
それを直接ソフィアの口から聞けたのは朗報だ。ひとまずは安堵したと言うのが本音である。
とは言え、腑に落ちないところがあるのも事実。俺がどれだけこの村で信用されているのかは、それなりに理解しているつもりだ。
それは自惚れではなく、だからと言ってそれを笠に恩を着せようとも思っていない。しかし、それが人類の天敵と呼ばれるほどの魔族を黙認するほどの理由になるとは思えないのだ。
ギルドからの圧力や村長の決定に従っているだけで、本音は別だと言う人だっているかもしれない。
そんな俺の微妙な表情を読まれてしまったのだろう。グレイスは真剣ながらも諭すように口を開いた。
「恐らく九条様にはわからないのかもしれません。ですが、村人や一般の方にとってはそれだけショックな出来事だったんですよ。現在のコット村はある程度片付いてますが、それは悲惨な惨状でした……」
言われてハッとした。フードルの事や自分の事ばかり考えていて、気が付かなかったのだ。
200人近い兵達が攻めて来て、その生き残りはたったの5人。ならば、村の中には兵士達の亡骸が散乱していたことだろう。
もし避難が上手くいかなければ、それが自分達であったかもしれないのだ。そんなことを考えながらも、その亡骸を処理した者が大勢いる。
共同墓地に埋葬したのか……、それとも焼き払ってしまったのか……。
グレイスが俺にはわからないと言ったのは、戦争を目の前で見て来たからこその言葉だから。
それが日常茶飯事であれば人の死なぞ些事であると、そう言いたいのだろう。
当然だ。今まさに戦争を目の前で見てきたのだから……。
「そう……でしたね。すいません。そこまで気が回りませんでした……」
力なく項垂れる俺を見て、グレイスは慌てて自分の発言を訂正した。
「すいません九条様! そういう意味じゃないんです! 確かにショックは受けましたが、同時にそうならなかった事への感謝の方が大きかったと、そう言いたかったんです!」
「そもそも九条様とのルールを破ったのはこちらです。もっとエルザさんに目を光らせておくべきでした……。しっかり縛ったからと油断しなければ……」
シャロンが申し訳なさそうに頭を下げたのは、エルザがネクロガルドの関係者であることを知っているのが自分だけだからだろう。
「それは気にしないでください。そのことはフー……グレゴールに聞きましたので」
「じゃぁ、それで手打ちにしましょう!」
その時だ。突然の明るい声に顔を上げると、ソフィアは少し嬉しそうに頬を緩めていた。
「私達は九条さんの言いつけを守れなかった。九条さんは魔族の事を隠匿していた。どちらにも非があったということで……。少し無理はありますが、これで貸し借りなし……ということでいかがでしょう?」
願ってもない申し出だ。それならどちらも罪悪感を覚えずに溜飲を下げることができる。
「そう……ですね……。そうしましょうか」
そのおかげだろう。応接室のどんよりとした空気感は鳴りを潜め、まるで秋晴れかのような清々しさ。
ホッとしたのか皆に笑顔が戻ると、俺はようやく肩の荷が下りたと大きく背伸びをした。
先程までの緊張感は何処へやら。以降は波風の立たない穏やかな雰囲気での意見調整が行われたのだ。
「それで、エルザさんはどうしてます?」
「エルザさんはこっぴどく叱っておきました。村の会合では罰として、次に勝手なことをしたら村から出て行ってもらうということで決まり、本人も反省はしているようで……」
「本当に反省してるんですか?」
「最初は納得していないようで反発もしていましたが、皆で囲み6時間ほど説教したら大人しく言うことを聞くように……」
「ろ……6時間……ですか……」
それは最早説教というより、ある種の拷問なんじゃなかろうか?
「はい。村人達にとっては死活問題ですからね。九条さんの機嫌を損ねる原因は排除したいというのが本音でしょう。それにエルザさんも村からの追放は本意ではなさそうでしたし……」
「そうですか……」
本当に反省しているのかは直接会ってみない事には判断がつかないが、エルザの目的が俺であるとするならば、村からの追放は極力避けたいと考えるのは理解出来る。
円満解決――とはいかないまでも、ある程度憂慮していた事は片付いたと見ていいだろう。
それならばと、俺はダンジョンとの連絡通路について切り出した。
「1つ提案なんですが、俺のダンジョンと繋がっている炭鉱の入口を封鎖し、村の中か近辺にそこへと続くトンネルを掘ろうと思ってるんですが、ギルド的にはどうでしょうか?」
お互いの顔を見合わせる3人。その表情は決して歓迎していると言う感じではない。
「それはギルドよりも領主様に相談した方がよろしいかと……」
少々自信なさげに応えたソフィア。わかっていた答えではあるが、ギルドの許可が不要であるなら、その報告も不要であるということ。
掘ったトンネルには勝手に入れないよう鍵をつける予定だが、出来れば公にはしたくない。
「では、個人的には?」
「良い考えだと思います。九条さんの厚意であのダンジョンを避難場所として提供して下さるだけでも十分だとは思いますが……」
「そうですか。それが聞けて良かった」
「人手が必要でしたら、是非ギルドにご依頼下さい! 九条さんの依頼であればすぐに人が集まって来ますよ!?」
「か……考えておきます……」
さすがはソフィア。商魂逞しい限りだ。それに気圧され間に合ってますとは言えず、お茶を濁すかのように引きつった笑顔を向けると、俺はギルドを後に自宅へと足を向けたのである。
質問攻めにされるだろうとは思っていた。……いたのだが、そうならなかったのはある程度の事をミアとシャーリーが説明してくれていたからかもしれない。
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しかし、ソフィアは事務的に話を聞いているだけで、無表情とは言わずともあまり感情を表に出さなかった。
「話はわかりました。先程ミアと話して、家を無くした方々には魔法学院の宿舎へと移ってもらいました。それと被害状況は纏めてあるのですが、アンカース家が全額補償して下さると言う話は本当ですか?」
「はい。ネストさんからの申し出があったので……。しばらくしたら被害状況を確認しに来ると言っていたので、先に纏めておいてもらえたのは助かります」
村の状況は大きく二分していた。まったく被害のない東側エリアと、竜巻でも発生したのかと思うほど何もなくなってしまった西側エリア。
その威力から察するに、恐らくはフードルが張り切ってしまったからなのだろうが、それは言わないでおいた。
「そうですか。では今日はこのくらいで……」
「……へぁ? もう終わりでいいんですか?」
まさかのスピード協議に、素っ頓狂な声を上げる。
「ええ。九条さんのおかげで安全に避難も出来ましたし、グレゴールさんがいなければ村の被害は更に深刻なものであったと言わざるを得ません。もちろんギルドとしては魔族の存在を見過ごすわけには参りませんが……」
少々俯き気味だったソフィアが顔を上げると、グレイス、シャロンとお互いが確認し合うかのように力強く頷き、真っ直ぐ俺を見据えた。
「冒険者ギルドコット村支部一同は、ダンジョンでの事は全て見なかった事にしようと決めましたので」
「……いいんですか?」
「もちろんです。それに九条さんとは約束していたじゃないですか。ダンジョン内での出来事は他言無用だと……」
それは、俺がダンジョンを避難先として使う際に定めた4つのルールの内の1つ。
当初は討伐の終わっているゴブリン達を見られた時の口封じ的な意味で設けた取り決めであったが、魔族ともなると話は違ってくるだろう。
それはいつ爆発するかもわからない爆弾を抱えているかのようなものなのだから。
「グレゴールさんから村の解放を聞き、村に戻ってから会合を開きました。もちろんギルド職員だけではなく、村長を含めた村の運営に関わる代表全員で……。結果、満場一致で決まったことです。グレゴールさんの事は黙認しようと……。グレゴールさんが悪だとしたら、こんな小さな村はとっくに全滅していますから……」
それを直接ソフィアの口から聞けたのは朗報だ。ひとまずは安堵したと言うのが本音である。
とは言え、腑に落ちないところがあるのも事実。俺がどれだけこの村で信用されているのかは、それなりに理解しているつもりだ。
それは自惚れではなく、だからと言ってそれを笠に恩を着せようとも思っていない。しかし、それが人類の天敵と呼ばれるほどの魔族を黙認するほどの理由になるとは思えないのだ。
ギルドからの圧力や村長の決定に従っているだけで、本音は別だと言う人だっているかもしれない。
そんな俺の微妙な表情を読まれてしまったのだろう。グレイスは真剣ながらも諭すように口を開いた。
「恐らく九条様にはわからないのかもしれません。ですが、村人や一般の方にとってはそれだけショックな出来事だったんですよ。現在のコット村はある程度片付いてますが、それは悲惨な惨状でした……」
言われてハッとした。フードルの事や自分の事ばかり考えていて、気が付かなかったのだ。
200人近い兵達が攻めて来て、その生き残りはたったの5人。ならば、村の中には兵士達の亡骸が散乱していたことだろう。
もし避難が上手くいかなければ、それが自分達であったかもしれないのだ。そんなことを考えながらも、その亡骸を処理した者が大勢いる。
共同墓地に埋葬したのか……、それとも焼き払ってしまったのか……。
グレイスが俺にはわからないと言ったのは、戦争を目の前で見て来たからこその言葉だから。
それが日常茶飯事であれば人の死なぞ些事であると、そう言いたいのだろう。
当然だ。今まさに戦争を目の前で見てきたのだから……。
「そう……でしたね。すいません。そこまで気が回りませんでした……」
力なく項垂れる俺を見て、グレイスは慌てて自分の発言を訂正した。
「すいません九条様! そういう意味じゃないんです! 確かにショックは受けましたが、同時にそうならなかった事への感謝の方が大きかったと、そう言いたかったんです!」
「そもそも九条様とのルールを破ったのはこちらです。もっとエルザさんに目を光らせておくべきでした……。しっかり縛ったからと油断しなければ……」
シャロンが申し訳なさそうに頭を下げたのは、エルザがネクロガルドの関係者であることを知っているのが自分だけだからだろう。
「それは気にしないでください。そのことはフー……グレゴールに聞きましたので」
「じゃぁ、それで手打ちにしましょう!」
その時だ。突然の明るい声に顔を上げると、ソフィアは少し嬉しそうに頬を緩めていた。
「私達は九条さんの言いつけを守れなかった。九条さんは魔族の事を隠匿していた。どちらにも非があったということで……。少し無理はありますが、これで貸し借りなし……ということでいかがでしょう?」
願ってもない申し出だ。それならどちらも罪悪感を覚えずに溜飲を下げることができる。
「そう……ですね……。そうしましょうか」
そのおかげだろう。応接室のどんよりとした空気感は鳴りを潜め、まるで秋晴れかのような清々しさ。
ホッとしたのか皆に笑顔が戻ると、俺はようやく肩の荷が下りたと大きく背伸びをした。
先程までの緊張感は何処へやら。以降は波風の立たない穏やかな雰囲気での意見調整が行われたのだ。
「それで、エルザさんはどうしてます?」
「エルザさんはこっぴどく叱っておきました。村の会合では罰として、次に勝手なことをしたら村から出て行ってもらうということで決まり、本人も反省はしているようで……」
「本当に反省してるんですか?」
「最初は納得していないようで反発もしていましたが、皆で囲み6時間ほど説教したら大人しく言うことを聞くように……」
「ろ……6時間……ですか……」
それは最早説教というより、ある種の拷問なんじゃなかろうか?
「はい。村人達にとっては死活問題ですからね。九条さんの機嫌を損ねる原因は排除したいというのが本音でしょう。それにエルザさんも村からの追放は本意ではなさそうでしたし……」
「そうですか……」
本当に反省しているのかは直接会ってみない事には判断がつかないが、エルザの目的が俺であるとするならば、村からの追放は極力避けたいと考えるのは理解出来る。
円満解決――とはいかないまでも、ある程度憂慮していた事は片付いたと見ていいだろう。
それならばと、俺はダンジョンとの連絡通路について切り出した。
「1つ提案なんですが、俺のダンジョンと繋がっている炭鉱の入口を封鎖し、村の中か近辺にそこへと続くトンネルを掘ろうと思ってるんですが、ギルド的にはどうでしょうか?」
お互いの顔を見合わせる3人。その表情は決して歓迎していると言う感じではない。
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掘ったトンネルには勝手に入れないよう鍵をつける予定だが、出来れば公にはしたくない。
「では、個人的には?」
「良い考えだと思います。九条さんの厚意であのダンジョンを避難場所として提供して下さるだけでも十分だとは思いますが……」
「そうですか。それが聞けて良かった」
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