生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第458話 智謀のネヴィア

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 外から聞こえてくるお祭りの喧騒にウズウズしながらも、大人しく我慢しているミアとキャロ。
 祖霊還御大祭それいかんぎょたいさいの幕が開け、それも残り3日となった。
 本来であれば最終日が近づくにつれ賑わいを見せていくはずなのだが、街では期待外れの声が少なくない。
 スノーホワイトファームの代表ザナック対、ネクロエンタープライズ代表メリル。今年の獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの勝者は果たして!? ……と、手に汗握る展開を期待していた者達も多い中、スノーホワイトファーム側の突然の棄権により試合数は激減。その期待値も半減していたのだ。
 なんとかすると言って出て行ったサウロン率いるスノーホワイトファームの面々は未だ帰ってこず、二重遭難の可能性が囁かれる始末。

「これは由々しき事態にゃんです、九条殿!」

 テーブルをドンっと叩きつけ、潤んだ瞳で小動物を狙うような鋭い視線を俺に向ける猫妖種ケットシーのネヴィア。
 八氏族評議会のメンバーでもあり、祖霊還御大祭それいかんぎょたいさいの期間中は、獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの統括もしている彼女だが、それは憤っているというより焦りを隠せないといった様子。
 俺は、目の前で揺れる水差しを押さえながらも、心にもない返事を返す。

「へぇ……大変ですね……」

 今更ながら迎賓館なぞに世話にならず、街の宿屋に身を置いておけば良かったと後悔する。
 目と鼻の先に王宮がある為、チョイチョイ面会にくる八氏族評議会の代表たち。
 単純にキャロの様子を窺いに来る者に、親交を深めようと食事の誘いに来る者。悩みを打ち明けていく者に、仕事を頼みに来る者などその理由は千差万別。
 来るなとは言わないが、正直言って休まらない。俺は、八氏族評議会のお悩み相談室でもコンサルタントでもないのだ。

獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの参加者の殆どがネクプラ所属の選手となると、新鮮味に欠けるにゃ……。練習試合ならネクプラでも見られる訳で……。わかるよにゃ?」

 ネクプラでは見世物として獣使いビーストテイマー同士の試合もスケジュールされている。
 俺とメリルが決闘した時のような、臨場感あふれる試合を観戦することも可能なのだ。
 だからこそ目新しさがないというネヴィアの意見もわかるのだが、それで俺にどうしろと言うのか……。
 愚痴を聞くだけでいいのならいくらでも聞いてやるのだが、それで満足して帰ってくれるようにも思えない。

「お気持ちはわかりますが、悩んだところで時間は止まりませんし、なるようになりますよ」

 ネヴィアには悪いが受け答えは既に適当。頭の中はどうやって帰らせようとしか、考えていない。

「だから由々しき事態にゃんです! 決勝戦は女王陛下もご観戦になられる! 陛下の前でヘタな試合をしようものなら、後でにゃんと言われるか……」

 恐らく決勝戦はメリル対、ネクプラ所属の獣使いビーストテイマーの誰か――というカードになるだろう。
 当然メリルの勝ちは決まったも同然だろうが、ある意味それも望まれた結果の1つではある。

「ネヴィアさんの所為ではないですし、そう気を落とさずに……。もちろん俺の所為でもないですが……」

 気休めを口にしながらも、予防線は張っておく。
 それと同時にクスクスと聞こえてきたのは、ミアの小さな笑い声。
 ミアとキャロは従魔達とじゃれ合い、我関せずといった様相を呈してはいるが、耳だけはちゃっかりこちらに向けているのだ。
 俺もそっちの仲間に入れてほしいくらいである。

「確かに九条殿の言う通りにゃ。嘆いていても仕方にゃい……」

 暫く続く無言の時間。困った様子で視線を落とすネヴィアであったが、突如顔を上げるや否や意を決した様子で俺の手を手繰り寄せた。
 テーブル越しに握られた手。いきなりの事に驚き、その手を引っ込めるも一緒にネヴィアもついて来る。

「……そこで、九条殿には折り入って相談が……」

「どこでだよ……」

 顔が近い……。あまりに唐突な返しに、ついつい敬語を忘れツッコんでしまった。
 薄々そうくるだろうとは思っていたのだ。困ったふりをして様子を窺うようにチラチラと視線を向けられれば、誰だって気付く。
 困っているのは本当だとしても、如何せん情に訴えかけようとするそのやり方はセコ過ぎる。
 フレンドリーと言えば聞こえはいいが、八氏族評議会の威厳とやらは何処へ忘れてきてしまったのか……。

「愚痴は聞きますが、相談は受け付けていません。知ってるでしょう? お祭りが終われば、俺は捜索に出なければならないんですよ?」

「もちろん聞いているにゃ。だからお祭りの最終日だけ手伝ってくれれば……」

「ダメッ!」

 その言葉に、即座に反応して見せたキャロ。
 お祭りの最終日は俺がキャロの護衛を務める日。当然俺がいなければ、外出は許可されないだろう。
 ネヴィアと言えどキャロの説得は難しいはずだと思ったのだが、どうやら対策は考えてきている様子。

「大丈夫にゃ。キャロ様が獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの会場にいる間だけは、九条と離れてもいいように手を打ったにゃ」

「何故、会場にいる時だけなんです?」

「キャロ様にはVIP席で試合を観戦していただくにゃ。わかりやすく言えば、女王陛下の隣の席にゃ」

「なるほど……」

 確かに女王の隣であれば、護衛も十分配置されているだろうし安全面に問題はない。

「恐らく優勝するのはメリルにゃ。結果の分かり切った試合なぞ面白くもなんともにゃい。そこで九条殿には、メリルとのエキシビションマッチを……」

「お断りします」

「なんでにゃ!?」

 身を乗り出し、目を見開くネヴィア。そんなに驚く事でもないだろう。少し考えればわかることだ。

「恐らく耳に入っているとは思いますが、メリルとは1度勝負しています。お互いが手の内を知ってしまっている。それに俺は獣使いビーストテイマーではありません」

「勿論知ってるにゃ。非公式ながら九条殿が圧勝したらしいとは聞いているにゃ」

「ならば、結果は見えてますよね? それとも八百長試合をしろとでも? 獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップは伝統的なものなんでしょう? エキシビションとはいえ、よそ者の介入は避けた方がよろしいのでは?」

「ふむ、確かに一理あるにゃ。……しかし、九条殿は何か勘違いをしてないかにゃ? 正直、獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの伝統なぞこっちとしてはどうでもいいにゃ! 面白ければそれでいいんだにゃ!」

 獣のような瞳を輝かせてガッツポーズをするネヴィアは、なんと言うかイキイキしていた。
 俺としては、まさかの爆弾発言に開いた口が塞がらないといったところ……。
 獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップに対する思い入れは人それぞれなのだろうが、八氏族の代表たる者がそう言い切ってしまうのは、いかがなものか……。

「勿論、九条殿の評判を落とさにゃいよう身バレには細心の注意を払うにゃ」

「どういうことです? 俺とメリルが試合をするんですよね?」

「むふふっ、興味が湧いたのかにゃ? 概要はこうにゃ。獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの覇者となったメリルが、表彰式で優勝杯を受け取ろうとしたその時、優勝杯がなくなっていることに気が付くにゃ。そこに現れる謎の男。そいつの手には優勝杯が握られているのにゃ! メリルはそれを取り返す為、謎の男に勝負を挑むッ! 決勝戦よりも激しい死闘が繰り広げられ、沸き立つ会場! ついにはメリルが謎の男を打ち倒し、優勝杯を手にするにゃ! ……どうにゃ? 面白そうだとは思わにゃいか?」

 不敵な笑みを浮かべるネヴィア。その怪しげな視線は、まるで悪代官と悪だくみをする越後屋だ。

「そう上手くいきますかね……。そもそも優勝杯を盗んだ謎の男が姿を現す意味がわかりませんし、メリルが乗ってこなかったらどうするんです?」

「大丈夫、メリルも仕掛け人にゃ。観客と女王陛下が満足してくれれば、それでいいにゃ」

 なるほど。つまりは観客全員を相手にしたドッキリ企画。……いや、ゲリラパフォーマンスと言った方が正しいか……。

「その謎の男を、俺に演じろと?」

「そうにゃ。身バレを防ぐ為、九条殿には仮面を被って戦ってもらうにゃ。それと従魔もこちらで用意するから、何の心配もいらないにゃ」

「面白そう!」

 そう声を上げたのはミア。
 少々陰湿なような気もするが、仕掛け人の立場から見た観客の反応というのも興味深く、確かに面白そうではある。
 勿論バッサリと断る事も出来た。……出来たのだが、隣から俺へと向けられている期待の眼差しは裏切れない。

「はぁ……わかりました……」

 それを聞いたネヴィアの嬉しそうな顔ときたら……。

「流石は九条殿! ならば善は急げにゃ。まずは謎の男の名前から決めて……」

「ハイ! モフモフ仮面がいいです!」

 既に決まっていたと言わんばかりの速度で、勢いよく手を上げたミア。
 ネヴィアはそれでいいのかと確認の視線を向けてくるも、俺は諦めの境地とばかりに溜息をついた。

「もう、どうにでもしてください……」
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