生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第478話 いつかの再会を夢見て

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 メナブレアの街を南下していく2台の馬車。先導している方には見送りに来たエドワードとローゼスが乗り、俺達はその後に続く。
 馬車を引いているのはワダツミ。カイエンはデカすぎて、身体と馬車を繋ぐハーネスの長さが足りず、後ろからついて来ているだけ。
 その規格外のサイズ故に、来た時よりも帰る方が人目を引いている気がするのは、少々気恥しくもある。
 そんな馬車の中はというと、過去最大の賑やかさ。
 俺達の他に、見送りにと同乗しているメリルにキャロ。そしてエルザとケシュアまで……。

「この国の寒さは、老体には堪えるわい……」

 バイスから借りた馬車の特等席とも言える場所。暖炉の前に腰を下ろしているのはエルザ。
 カガリからの無言の圧力もなんのその。暖炉に向かって手を擦り合わせる姿は、すっかりババァモードである。

「なかなか良い馬車ではないか。ガルフォードの坊主も意外とセンスあるのう」

「バイスさんを知ってるのか?」

「お主の身辺調査で出て来た者たちは、全員知っておるぞ? 一方的にだがの」

「あぁ、そう言う事か……」

 期待した俺がバカだった。ストーカーここに極まれりと言ったところか……。

「乗せてやるんだから、バイスさんにも感謝しとけよ?」

 本来はミアと2人で帰る予定だったのだが、ネクプラでの用事を終え馬車に戻ってきてみたら、既にエルザとケシュアが中でくつろいでいたのである。
 荷造りをしているのに、外にそれらしい馬車が待機していなかった時点で気付くべきであった。

「どうせ帰る場所は同じじゃろ? ついでみたいなもんじゃろうて……」

 理屈はわかるが、気分的な問題だ。得意の獣術で帰ればいいものを、図々しいにもほどがある。
 帰路に就いている時間を有効活用し、ミアの誕生日お祝い計画を練ろうと思っていたのだが、正直言って邪魔でしかない。

「ミアは、身内だけで帰りたいよな?」

「え? 私はみんなと一緒でもいいよ?」

「……」

 俺がケチなだけなのか、それともミアが優しいのか……。恐らくは後者だが、ミアに免じて同乗を許したというわけである。
 まぁ、ベヒモス戦での恩を返していると思えば、多少の厚かましさも大目に見てやろう。

 街の出口が見えてくると、道の両脇に列を成していた騎士達。その数、10人ほど。

「なんじゃ? 英雄を送り出すにしては、ちと寂しくはないか?」

「いいんだよ、これで」

 盛大に送り出そうという計画だったらしいのだが、俺はそれを断った。
 ベヒモスを倒したのはモフモフ仮面とファフナーであり、俺は依頼された仕事をこなしただけ。
 獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの賞金に比べれば少ないが、しっかりと報酬も受け取った。それで十分なのだ。
 そもそもの目的は、国を背負った特使としてリリーの面目を立てる事と、ファフナー復活の疑惑を俺から逸らすこと。
 前者においては大成功と言って良い。それだけの貢献は出来たはず。
 ファフナー復活の尻拭いも、ベヒモスのおかげでもっともらしい理由が出来た。
 ひとまずは、満足のいく結果となったと言えるだろう。

 エドワードが馬車を降りると、最後の挨拶をと俺達も馬車を降りる。
 あまり浮かない顔のエドワード。それが俺達との別れを惜しんでの事なら、それだけの仕事をしたのだと誇っても罰はあたるまい。

「九条さん。どうかお元気で」

「ええ。また何かありましたら呼んで下さい」

 ガッシリと交わす握手。もちろん社交辞令なので、出来れば呼んでほしくはないというのが本音である。

「九条にぃに……」

 メリルに抱き抱えられながらも、曇った表情を浮かべるキャロ。戦兎種ボーパルバニーの愛らしい耳も力なく垂れ下がり、それはまるで日陰でしおれるヒマワリのよう。
 笑顔で送り出してくれ――と、お願いするのは少々酷か……。その潤んだ瞳は、俺の決心をも鈍らせるほどの破壊力だ。
 抑えきれない感情は、ただ純粋なだけなのだろう。それが我が儘ではないことは知っている。
 別れが辛いのはお互い様だ。しかし、それは今生の別れではない。

「大丈夫だキャロ。たとえ遠く離れたとしても、縁が切れることはない。二度と会えない訳じゃないだろ? 逆に考えてみたらどうだ? 次に会える日を楽しみにすればいいんだ」

「……次って……いつ?」

「何時だっていいぞ? それを決めるのは俺じゃない。キャロはもう自由なんだ。目の前には無限の選択肢が広がっている。そうだろ?」

 キャロが無言で頷くと、同時に流れ出る涙。
 俺はそれを優しく拭い、最後に頭をそっと撫でた。

「これからは今まで以上に色々な経験をするはずだ。……次に会う時、それを笑って話し合える事を楽しみにしているよ」

「……ありがとう……九条にぃに……」

 大きく伸ばされた両腕に応え、キャロを静かに抱きしめる。
 思ったより強く絞まる首は、それだけの想いが籠っている証拠だと思って我慢しよう。

「困ったことがあればファフナーを呼ぶといい。その声はきっと俺にも届く……」

「うんッ」

 耳元で囁いた言葉に、返って来たのはほんの少しだけ上擦った声の返事であった。
 キャロを解放すると、その足で今度はミアと熱い抱擁を交わす。

「キャロちゃん。元気でね」

「ミアちゃんも……」

 一通りの挨拶を終えると、馬車に乗り込み窓から顔を覗かせる。

「行ってくれ。ワダツミ」

 重々しく揺れる馬車。名残惜しそうに、皆が馬車に向かって歩き出す。

「九条、また遊びに来い」

「ああ、入場料は払わんがな」

 笑顔を見せるメリルに、軽い皮肉をお見舞いする。
 馬車が徐々に速度を増し、街の風景が遠のいていく。
 お互いが手を振り続け、それも見えなくなってくると、一気に虚しさが込み上げる。
 メナブレアで過ごした時間が、現実から過去へと変化していく感覚。それも、やがては思い出となるのだ。
 俺は、今回の旅でできたであろう新たなえにしたちに想いを馳せながらも、コット村へと帰れる安堵から大きなため息をついたのだった。

 ――――――――――

「行ってしまわれましたね……」

「ああ。リリーの言う通りの御仁であったな……」

 馬車が遠ざかり、やがて何も見えなくなると街には静けさが戻る。
 各々が持ち場へと戻る中、ローゼスとエドワードは暫くそこに立ち尽くし、胸に抱えた別れの感情とは別の想いに頭を悩ませていた。

「言わずともよろしかったのですか? エドワード様」

「ああ。送別の時に余計な事で不安を煽ることもない。帰国すれば、リリーの派閥の者達が何かしらのアプローチをするだろう」

「それならばよいのですが……」

「非常に無念ではあるが、私も一人の王族だ。取り乱す訳にもいかない……。お父様が体調を崩していたことは知っていたが……」

 九条達を見送る数時間前、エドワードには予期せぬ訃報が舞い込んでいた。
 それはスタッグの現国王であり、エドワードの父親でもあるアドウェール・グリフィン・スタッグが崩御なされたとの知らせである。

「九条さんの参列が認められれば、次に会う時は追悼礼拝か国葬か……。意外と早い再会になりそうだ……」
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