生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第485話 ファフナーエアライン

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「おにーちゃん! 村が見えてきたよ!?」

 眼下に広がる大山脈。空飛ぶ馬車の窓から見えてきたのは、まだ豆粒のような大きさのコット村だ。

「どのあたりに降ろせばいい?」

「村の東側だ! 出来るだけ人気の少ないところで頼む!」

 馬車の外から風に乗って聞こえてくる声に大声で答えたのは、ファフナーにも聞こえるように。
 メナブレアを出て僅か1日。野営を終え出発しようと準備をしていたら、いきなりファフナーが舞い降りてきたのだ。
 曰く、コット村まで送るという。
 キャロが気を利かせて無茶なお願いでもしたのかと思いきや、そうではなく108番からの頼みであった。

「ダンジョンハートの内容量が3割を切りましたよ!? 早く帰ってきてくださいよぉ……」

 言い換えれば、まだ3割は残っているのだ。十分すぎると思うのだが、不安で仕方がないらしい。

 ファフナーの封印を解いたはいいものの、その維持費はもちろん掛かる。それが膨大だという事は覚悟していたのだが、そこで問題になってくるのは108番のダンジョンハートが小型であるという点と、世界樹からの影響だ。
 他のダンジョンを維持することまでは想定されていないのだろう。その容積は最低限と言わざるを得ず、貯蔵という意味では不向き。
 そして、他のダンジョンへとエーテルを移譲する際に発生するマージン。世界樹に徴収される分である。
 その量、おおよそ全体の半分。ぼったくりもいいところだが、それを踏まえての108番の試算が、満タンから空になるまで大目に見ても半年ほど。
 それは、同時に俺がダンジョンから離れられる期間が短くなったという事に他ならない。
 今回の黒き厄災復活騒動は、元はと言えば俺の所為。なので必要経費だと考えてはいるが、縛られていると考えると、少々不愉快ではあった。

「ありがとう、ファフナー」

「うむ。今度会う時はキャロを連れてきてやるから、楽しみにしておくがよかろう」

 そう言って、ファフナーは鷲掴みにしていた馬車を森の中へと降ろし、すぐに舞い上がると雲の中へと消えていった。

 コット村から東側はブルーグリズリーの縄張りだ。行商人達が行き来しているはずではあるが、一般の街道よりは目撃者は少ないはず。
 予想通り、森を抜けても人の気配は皆無。俺達がそのまま村へ向かっていると、遠くから聞こえてきた声に懐かしさを覚える。

「九条どのぉぉぉぉ……!」

 砂煙を上げ、街道を一目散に爆走してくるのは、他でもないコクセイだ。

「コクセイ!」

 再会の喜びを声で表現したはいいものの、まずはその遠慮のない全力疾走からの体当たりを華麗に避ける。
 それは、高速道路を走る大型バイクを真正面から受け止めるようなもの。

「あぶねぇ! 落ち着けコクセイ!」

「これが、落ち着いてなぞいられるかッ!」

 俺の周りをぐるぐると回るコクセイは、実に嬉しそうであり大いに結構なのだが、魔獣の勢いでそれをされると、その身体を撫でてやるだけでも命がけ。
 そんなコクセイに続いて遅れてやってきたのは、冒険者スタイルのシャーリーだ。

「見張りをほっぽり出して何処に行ったかと思えば……。九条が帰ってきたのなら納得だわ」

 呆れながらも笑顔で手を振るシャーリーであったが、それもすぐに鳴りを潜めた。
 恐らくは、馬車の窓から顔を覗かせていたエルザに気付いたからだ。
 俺の居ない間に、ネクロガルドに勧誘されるという事態に陥っていた事は聞いている。謝罪は受けたが、打ち解けた訳ではないというのが正直なところだろう。

「随分と遅かったじゃない」

「まぁなんと言うか、色々と想定外の事が積み重なってな……」

 本来であれば黒き厄災の調査だけで終わったところを、生贄やらベヒモスやらで延期に延期を重ねているので、そう言われるとは思っていた。

「シャーリーも色々とあったんだろ? エルザから聞いたよ」

「まぁ、そうなんだけどさぁ……。なんで、エルザと九条が同じ馬車で帰ってくるのよ」

 久しぶりに会ったというのに、シャーリーはいきなりご機嫌斜め。
 どうやらエルザは、グランスロードに行くことをシャーリー達には伝えなかったようだ。

「シャーリーとアーニャのことで謝罪に来たんだよ」

「はぁ? そんなことの為に、わざわざグランスロードまで行く?」

 俺だって最初はそう思ったが、本当に来たのだからしょうがない。
 まぁその中には、勇者の疑いを掛けていた俺への確認……という作業も含まれていたのだろうとは思うが……。

「ホントだよ。……っていうか、そこに本人がいるんだから直接聞けばいいだろ……」

 振り返ると、馬車の中から手を振るミア。その後ろに控えるエルザは結露した窓越しの為か、まるで背後霊である。

「ひ……ひとまず村へ帰ろう、シャーリー。積もる話はその後でもいいだろ?」

「そうね。じゃぁ改めて……。おかえり。九条」

「ああ。ただいま」


 ようやく帰って来たコット村。ノスタルジックな気分に浸れるだろうと思いきや、まさかの浦島太郎とは……。
 目の前にそそり立つ城壁は、最早丸太を並べただけの東門とは似ても似つかない強固な物。
 隣接していた物見櫓も既に無く、コンクリートブロックで作られたであろう城壁と一体化しているようで、上では見知らぬ冒険者が目を光らせていた。

「あれ? コット村……だよな?」

「まぁ、驚くのも無理ないわよね……」

 シルトフリューゲルからの防衛も意識しているのだろう。ネストから関所として整備するとは聞いていたが、まさかここまで本格的な物だとは思わなかった。
 そんな関所で、商人を相手にしているのは、村で良く見る農家のおばちゃんだ。

「ネストの方で管理するって話じゃなかったか?」

「そのはずなんだけどね……。ネストからは、連絡がなくて……。まだサザンゲイアから帰ってきてないのかな? 九条は何か聞いてない?」

「いいや……。近い内に馬車を返しに行くから、そのついでに聞いてみるよ」

「そう。ならお願いね」

 門を潜ると、そこは見慣れたコット村。
 点在する木造家屋に獣臭い家畜小屋。見渡す限りの一面の畑は、期待通りの片田舎である。

「関所とのギャップがすげぇな……」

「ホントにね」

 ボソリと呟いた俺の一言に、クスクスと笑顔を見せるシャーリー。
 その仕草に懐かしさを覚えるも、少々意外だったのは、すっかり変わってしまったカイエンを見ても無反応であったこと。

「なぁ、シャーリー。コイツをどう思う?」

「……すごく大きいわね」

 確かにそうなのだが、求めていた答えはそうじゃない。

「いや、他に何かあるだろ?」

「カイエンがでっかくなっただけでしょ? そのうち経緯を聞こうとは思ってたけど、魔獣は別に今に始まった事じゃないし、私だってモフモフ団の一員よ? これくらいの事で驚いてたら、九条の傍になんていられないわよ」

 一理ある。……一理あるが、何故そんなにも得意気なのか……。
 なんとも複雑な心境である。驚かれるのもそれはそれで面倒なのだが、反応が薄いのも、なんだか物足りない感じもする。

 そんなくだらないことに頭を悩ませていると、聞き覚えのある声が村に響き渡った。

「あーッ! 熊がでっかくなってるぅ!」

 その声の主はアーニャ。カイエンをビシッと指差すその姿は、まさに求めていた反応ではあるのだが、幼さが前面に出過ぎていると言わざるを得ない。
 一瞬、何処の村の子供が話しかけてきたのかと思ったほどだ。

「何にやけてんのよ、九条。……もしかして、あんな子供っぽい反応が欲しかったわけ?」

「いや、そうじゃないが……。おい、待て。なんで今チラッとミアを見た?」

「べつにぃ?」

 シャーリーは、絶対に何かを勘違いしている。
 確かにアーニャの反応は、目を見張るものがあった。例えるなら、砂漠で見つけたオアシスのような……。痒いところに手が届く感覚。
 しかし、それはベターであってベストではない。決して、子供からの反応が欲しかった訳ではないのである!
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