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第486話 狭かろうとも我が家は我が家
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白狐は、ネストから借りている魔法学院宿舎の入口で俺達を出迎えてくれた。
その姿は、まるで忠犬。我慢できずに村を飛び出してしまったコクセイとは雲泥の差である。
「おかえりなさいませ。九条殿」
「ただいま、白狐」
その頭に手を伸ばすと、白狐は目を瞑り鼻先を上げる。
久しぶりの感触を堪能しているかのようで、こちらとしても嬉しい限りではあるのだが、手から感じる多少の違和感。
「白狐! ただいまぁ!」
馬車を降りるや否や、白狐に全身でダイブしていくミア。
やはりというべきか、ミアもそれには気付いた様子。
「お風呂に入ったら、しっかりブラッシングしてあげるからね!」
部屋の扉を解放すると、真っ先に感じたのは懐かしさではなく、埃っぽさ。
兎にも角にも、まずは掃除が先だろう。
「ここが俺達の家だ」
「……スゲェセメェ……」
俺の肩の上で正直な感想を漏らしたのは、インコのピーちゃん。
贅沢言うな――と言いたいところではあるが、ネクプラの規模と比べられたら、そりゃそうだろうと言うしかない。
「残念ながら、世界に羽ばたく自由の翼は俺にはついてないからな。狭い方が落ち着くんだよ」
従魔達の存在を考えると多少手狭であると言わざるを得ないが、ミアと2人ならワンルームでも充分快適。
そんなやりとりを、俺の隣で不思議そうに見上げる白狐とコクセイ。
「九条殿、その者は?」
「あぁ、そうだった。紹介するよ。新しく仲間になったピーちゃんだ。よろしくしてやってくれ」
「ヨロシクナッ!」
片方の翼をシュバッと上げての挨拶に、目を丸くする2匹の魔獣。
「ほう。これは中々豪胆な……」
食物連鎖で言うなら、どちらかと言えば喰われる側のピーちゃんだが、コクセイと白狐を前にしても恐れないのは既に慣れているからだろう。
別に胆力があるわけではないと思うのだが……。
「聞きたいこともあるだろうが、個別に話してたらキリがないからな。ギルドでの報告が終わり次第、機会を設けるつもりだから少しだけ我慢してくれ」
自宅で一息ついてしまうと、安堵からか暫く動きたくない衝動に駆られるも、自分の身体に鞭を打ち、ミアや従魔達の手を借りつつ直近のタスクに精を出す。
馬車からの荷物を降ろす作業に加え、埃っぽくなってしまった部屋の清掃。衣類の洗濯にベッドのシーツを天日干し。
風呂に入ってサッパリしたら、白狐とコクセイのブラッシング。
それを全て終えたところで、ようやくギルドでの帰還報告だ。
108番とフードルは……。まぁ、明日でいいだろう。そこまで緊急ではないはずだ。
鳥たちの鳴き声が静まり、代わりに虫たちが鳴き始める。
俺達がギルドに顔を出せたのは、茜色の空が紫掛かりぽつぽつと松明の炎が灯される時間帯。
報告と言っても格式ばったものではなく、ソフィアさんに顔を見せるだけ。最悪ミアに任せてしまってもいいくらいなのだが、それでも直接俺が出向いたのには訳がある。
ファフナーのおかげで通常一ヵ月程度はかかる行程を、僅か3日で帰ってこれた。
それ自体はありがたい事なのだが、途中下車など出来ない為、プラヘイムに預けていた馬を回収できていないのだ。
流石に借り物の馬を乗り捨てる訳にもいかず、かと言って取りに戻るのも面倒臭い。
そこで、冒険者に馬の引き取り依頼を出そうと考えたのである。
「ご依頼、確かに承りました。何かあればご報告致しますが、ミア経由でも大丈夫ですか?」
「もちろんです。ありがとうございます、ソフィアさん」
依頼用紙とその料金をソフィアに提出すると、無事受理される。
少し遠いが、馬を輸送するだけの簡単な業務に破格の報酬を提示したのだ。恐らく引き受け手はすぐに見つかることだろう。
「そうだ、ついでにもう1つ。ギルドの応接室をお借りしたいのですが、今空いてます? ソフィアさんにも話しておきたいことがあって……」
「ええ、大丈夫ですけど……」
「じゃぁ、ソフィアさんのお仕事が終わってからでいいので、後で応接室まで来ていただけると……」
「わかりました」
今回の経緯を説明するには、流石に自宅では狭すぎる。かと言って、ダンジョンまで呼び出すほどの事でもない。
「それで九条殿、大事な話というのは?」
「そう逸るなコクセイ。直にわかる」
応接室に入るや否や、落ち着かない様子のコクセイに、毅然として動じない白狐。
「何を偉そうに……。白狐だって内心知りたくてウズウズしているではないか。それで隠しているつもりか? 九条殿の前だけは良い子ぶりおって……」
気持ちはわからなくもないのだが、このままでは言い争いに発展しかねない為、目の前で睨み合う両者の口をぎゅっと掴む。
こんなことで毛を逆立てては、折角のブラッシングが台無しである。
「お前達が期待する程、大した話じゃぁない。グランスロードでの事と、俺の正体について話すだけだ」
「正体!? やはり九条殿は人間ではないのか!?」
俺の手を振り解き、大声を上げるコクセイ。
自分にしか理解出来ないとは知りつつも、流石にいきなりは心臓に悪い。
「やはりってなんだよ……」
失言であったことを認めているのか、コクセイは顔を歪ませる。
人間じゃないなら、何だというのか……。
とは言え、そう思われていても仕方がない。自分がどれだけ人間離れした力を持っているのかは、これまでの経験から嫌というほど理解している。
「言い方が悪かったな。正体というより、俺が何処から来たのか――って話だ」
「……つまりは故郷の話か?」
「んー……まぁ、そんなところだ」
コット村までの道中、ファフナーに揺られながらもどこまで話せばと悩んではいたが、結局は全て話してしまおうと結論付けた。
隠しておいても意味がない。ネクロガルドが知っているのだ。それが新たな弱みになる可能性も否めない。
ならば、格差を生まない為にも、近しい者達には打ち明けておく事にしたのだ。
勿論それは俺の事だけであり、ネクロガルドの真の目的である『神殺し』は伏せておく。
その監視と俺が異世界人であるという事の証人として、エルザにも前もって同席をお願いしていた。
その姿は、まるで忠犬。我慢できずに村を飛び出してしまったコクセイとは雲泥の差である。
「おかえりなさいませ。九条殿」
「ただいま、白狐」
その頭に手を伸ばすと、白狐は目を瞑り鼻先を上げる。
久しぶりの感触を堪能しているかのようで、こちらとしても嬉しい限りではあるのだが、手から感じる多少の違和感。
「白狐! ただいまぁ!」
馬車を降りるや否や、白狐に全身でダイブしていくミア。
やはりというべきか、ミアもそれには気付いた様子。
「お風呂に入ったら、しっかりブラッシングしてあげるからね!」
部屋の扉を解放すると、真っ先に感じたのは懐かしさではなく、埃っぽさ。
兎にも角にも、まずは掃除が先だろう。
「ここが俺達の家だ」
「……スゲェセメェ……」
俺の肩の上で正直な感想を漏らしたのは、インコのピーちゃん。
贅沢言うな――と言いたいところではあるが、ネクプラの規模と比べられたら、そりゃそうだろうと言うしかない。
「残念ながら、世界に羽ばたく自由の翼は俺にはついてないからな。狭い方が落ち着くんだよ」
従魔達の存在を考えると多少手狭であると言わざるを得ないが、ミアと2人ならワンルームでも充分快適。
そんなやりとりを、俺の隣で不思議そうに見上げる白狐とコクセイ。
「九条殿、その者は?」
「あぁ、そうだった。紹介するよ。新しく仲間になったピーちゃんだ。よろしくしてやってくれ」
「ヨロシクナッ!」
片方の翼をシュバッと上げての挨拶に、目を丸くする2匹の魔獣。
「ほう。これは中々豪胆な……」
食物連鎖で言うなら、どちらかと言えば喰われる側のピーちゃんだが、コクセイと白狐を前にしても恐れないのは既に慣れているからだろう。
別に胆力があるわけではないと思うのだが……。
「聞きたいこともあるだろうが、個別に話してたらキリがないからな。ギルドでの報告が終わり次第、機会を設けるつもりだから少しだけ我慢してくれ」
自宅で一息ついてしまうと、安堵からか暫く動きたくない衝動に駆られるも、自分の身体に鞭を打ち、ミアや従魔達の手を借りつつ直近のタスクに精を出す。
馬車からの荷物を降ろす作業に加え、埃っぽくなってしまった部屋の清掃。衣類の洗濯にベッドのシーツを天日干し。
風呂に入ってサッパリしたら、白狐とコクセイのブラッシング。
それを全て終えたところで、ようやくギルドでの帰還報告だ。
108番とフードルは……。まぁ、明日でいいだろう。そこまで緊急ではないはずだ。
鳥たちの鳴き声が静まり、代わりに虫たちが鳴き始める。
俺達がギルドに顔を出せたのは、茜色の空が紫掛かりぽつぽつと松明の炎が灯される時間帯。
報告と言っても格式ばったものではなく、ソフィアさんに顔を見せるだけ。最悪ミアに任せてしまってもいいくらいなのだが、それでも直接俺が出向いたのには訳がある。
ファフナーのおかげで通常一ヵ月程度はかかる行程を、僅か3日で帰ってこれた。
それ自体はありがたい事なのだが、途中下車など出来ない為、プラヘイムに預けていた馬を回収できていないのだ。
流石に借り物の馬を乗り捨てる訳にもいかず、かと言って取りに戻るのも面倒臭い。
そこで、冒険者に馬の引き取り依頼を出そうと考えたのである。
「ご依頼、確かに承りました。何かあればご報告致しますが、ミア経由でも大丈夫ですか?」
「もちろんです。ありがとうございます、ソフィアさん」
依頼用紙とその料金をソフィアに提出すると、無事受理される。
少し遠いが、馬を輸送するだけの簡単な業務に破格の報酬を提示したのだ。恐らく引き受け手はすぐに見つかることだろう。
「そうだ、ついでにもう1つ。ギルドの応接室をお借りしたいのですが、今空いてます? ソフィアさんにも話しておきたいことがあって……」
「ええ、大丈夫ですけど……」
「じゃぁ、ソフィアさんのお仕事が終わってからでいいので、後で応接室まで来ていただけると……」
「わかりました」
今回の経緯を説明するには、流石に自宅では狭すぎる。かと言って、ダンジョンまで呼び出すほどの事でもない。
「それで九条殿、大事な話というのは?」
「そう逸るなコクセイ。直にわかる」
応接室に入るや否や、落ち着かない様子のコクセイに、毅然として動じない白狐。
「何を偉そうに……。白狐だって内心知りたくてウズウズしているではないか。それで隠しているつもりか? 九条殿の前だけは良い子ぶりおって……」
気持ちはわからなくもないのだが、このままでは言い争いに発展しかねない為、目の前で睨み合う両者の口をぎゅっと掴む。
こんなことで毛を逆立てては、折角のブラッシングが台無しである。
「お前達が期待する程、大した話じゃぁない。グランスロードでの事と、俺の正体について話すだけだ」
「正体!? やはり九条殿は人間ではないのか!?」
俺の手を振り解き、大声を上げるコクセイ。
自分にしか理解出来ないとは知りつつも、流石にいきなりは心臓に悪い。
「やはりってなんだよ……」
失言であったことを認めているのか、コクセイは顔を歪ませる。
人間じゃないなら、何だというのか……。
とは言え、そう思われていても仕方がない。自分がどれだけ人間離れした力を持っているのかは、これまでの経験から嫌というほど理解している。
「言い方が悪かったな。正体というより、俺が何処から来たのか――って話だ」
「……つまりは故郷の話か?」
「んー……まぁ、そんなところだ」
コット村までの道中、ファフナーに揺られながらもどこまで話せばと悩んではいたが、結局は全て話してしまおうと結論付けた。
隠しておいても意味がない。ネクロガルドが知っているのだ。それが新たな弱みになる可能性も否めない。
ならば、格差を生まない為にも、近しい者達には打ち明けておく事にしたのだ。
勿論それは俺の事だけであり、ネクロガルドの真の目的である『神殺し』は伏せておく。
その監視と俺が異世界人であるという事の証人として、エルザにも前もって同席をお願いしていた。
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