生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
486 / 715

第486話 狭かろうとも我が家は我が家

しおりを挟む
 白狐は、ネストから借りている魔法学院宿舎の入口で俺達を出迎えてくれた。
 その姿は、まるで忠犬。我慢できずに村を飛び出してしまったコクセイとは雲泥の差である。

「おかえりなさいませ。九条殿」

「ただいま、白狐」

 その頭に手を伸ばすと、白狐は目を瞑り鼻先を上げる。
 久しぶりの感触を堪能しているかのようで、こちらとしても嬉しい限りではあるのだが、手から感じる多少の違和感。

「白狐! ただいまぁ!」

 馬車を降りるや否や、白狐に全身でダイブしていくミア。
 やはりというべきか、ミアもそれには気付いた様子。

「お風呂に入ったら、しっかりブラッシングしてあげるからね!」

 部屋の扉を解放すると、真っ先に感じたのは懐かしさではなく、埃っぽさ。
 兎にも角にも、まずは掃除が先だろう。

「ここが俺達の家だ」

「……スゲェセメェ……」

 俺の肩の上で正直な感想を漏らしたのは、インコのピーちゃん。
 贅沢言うな――と言いたいところではあるが、ネクプラの規模と比べられたら、そりゃそうだろうと言うしかない。

「残念ながら、世界に羽ばたく自由の翼は俺にはついてないからな。狭い方が落ち着くんだよ」

 従魔達の存在を考えると多少手狭であると言わざるを得ないが、ミアと2人ならワンルームでも充分快適。
 そんなやりとりを、俺の隣で不思議そうに見上げる白狐とコクセイ。

「九条殿、その者は?」

「あぁ、そうだった。紹介するよ。新しく仲間になったピーちゃんだ。よろしくしてやってくれ」

「ヨロシクナッ!」

 片方の翼をシュバッと上げての挨拶に、目を丸くする2匹の魔獣。

「ほう。これは中々豪胆な……」

 食物連鎖で言うなら、どちらかと言えば喰われる側のピーちゃんだが、コクセイと白狐を前にしても恐れないのは既に慣れているからだろう。
 別に胆力があるわけではないと思うのだが……。

「聞きたいこともあるだろうが、個別に話してたらキリがないからな。ギルドでの報告が終わり次第、機会を設けるつもりだから少しだけ我慢してくれ」

 自宅で一息ついてしまうと、安堵からか暫く動きたくない衝動に駆られるも、自分の身体に鞭を打ち、ミアや従魔達の手を借りつつ直近のタスクに精を出す。
 馬車からの荷物を降ろす作業に加え、埃っぽくなってしまった部屋の清掃。衣類の洗濯にベッドのシーツを天日干し。
 風呂に入ってサッパリしたら、白狐とコクセイのブラッシング。
 それを全て終えたところで、ようやくギルドでの帰還報告だ。
 108番とフードルは……。まぁ、明日でいいだろう。そこまで緊急ではないはずだ。


 鳥たちの鳴き声が静まり、代わりに虫たちが鳴き始める。
 俺達がギルドに顔を出せたのは、茜色の空が紫掛かりぽつぽつと松明の炎が灯される時間帯。
 報告と言っても格式ばったものではなく、ソフィアさんに顔を見せるだけ。最悪ミアに任せてしまってもいいくらいなのだが、それでも直接俺が出向いたのには訳がある。
 ファフナーのおかげで通常一ヵ月程度はかかる行程を、僅か3日で帰ってこれた。
 それ自体はありがたい事なのだが、途中下車など出来ない為、プラヘイムに預けていた馬を回収できていないのだ。
 流石に借り物の馬を乗り捨てる訳にもいかず、かと言って取りに戻るのも面倒臭い。
 そこで、冒険者に馬の引き取り依頼を出そうと考えたのである。

「ご依頼、確かに承りました。何かあればご報告致しますが、ミア経由でも大丈夫ですか?」

「もちろんです。ありがとうございます、ソフィアさん」

 依頼用紙とその料金をソフィアに提出すると、無事受理される。
 少し遠いが、馬を輸送するだけの簡単な業務に破格の報酬を提示したのだ。恐らく引き受け手はすぐに見つかることだろう。

「そうだ、ついでにもう1つ。ギルドの応接室をお借りしたいのですが、今空いてます? ソフィアさんにも話しておきたいことがあって……」

「ええ、大丈夫ですけど……」

「じゃぁ、ソフィアさんのお仕事が終わってからでいいので、後で応接室まで来ていただけると……」

「わかりました」

 今回の経緯を説明するには、流石に自宅では狭すぎる。かと言って、ダンジョンまで呼び出すほどの事でもない。


「それで九条殿、大事な話というのは?」

「そう逸るなコクセイ。直にわかる」

 応接室に入るや否や、落ち着かない様子のコクセイに、毅然として動じない白狐。

「何を偉そうに……。白狐だって内心知りたくてウズウズしているではないか。それで隠しているつもりか? 九条殿の前だけは良い子ぶりおって……」

 気持ちはわからなくもないのだが、このままでは言い争いに発展しかねない為、目の前で睨み合う両者の口をぎゅっと掴む。
 こんなことで毛を逆立てては、折角のブラッシングが台無しである。

「お前達が期待する程、大した話じゃぁない。グランスロードでの事と、俺の正体について話すだけだ」

「正体!? やはり九条殿は人間ではないのか!?」

 俺の手を振り解き、大声を上げるコクセイ。
 自分にしか理解出来ないとは知りつつも、流石にいきなりは心臓に悪い。

「やはりってなんだよ……」

 失言であったことを認めているのか、コクセイは顔を歪ませる。
 人間じゃないなら、何だというのか……。
 とは言え、そう思われていても仕方がない。自分がどれだけ人間離れした力を持っているのかは、これまでの経験から嫌というほど理解している。

「言い方が悪かったな。正体というより、俺が何処から来たのか――って話だ」

「……つまりは故郷の話か?」

「んー……まぁ、そんなところだ」

 コット村までの道中、ファフナーに揺られながらもどこまで話せばと悩んではいたが、結局は全て話してしまおうと結論付けた。
 隠しておいても意味がない。ネクロガルドが知っているのだ。それが新たな弱みになる可能性も否めない。
 ならば、格差を生まない為にも、近しい者達には打ち明けておく事にしたのだ。
 勿論それは俺の事だけであり、ネクロガルドの真の目的である『神殺し』は伏せておく。
 その監視と俺が異世界人であるという事の証人として、エルザにも前もって同席をお願いしていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます

秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。 語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!? で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。 ならば俺の願いは決まっている。 よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産? 否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。 万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て… チート風味の現代ダンジョン探索記。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...