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第503話 前門の虎、後門の狼
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「はぁ……」
自室のテーブルで頬杖をつきながらも、盛大な溜息をついたアルバート。それも当然、自身が王位を継ぐまでは予断を許さない状況だ。
気の休まる場所のはずが、無意識に強張ってしまう表情。
バレるはずがない。そう思ってはいても、募る不安は拭えない。
「失礼します」
「――ッ!?」
突然のノックに驚き、身体が跳ねたアルバート。
テーブルの天面にぶつけた膝をさすりながらも、向けた視線の先に立っていたのはバイアス公爵。
「……なんだ、バイアス公か……。驚かせないでくれ……」
「おや、これは失礼。アルバート様のご期待には沿えなかったようで、申し訳ない」
その笑顔は、共犯者とは思えないほどの自然体。
アルバートのしでかした大罪を忘れてしまったかのような立ち振る舞いは、豪胆と言っても差し支えないが、それを知るのはアルバートだけだ。
「冗談はよしてくれ、バイアス公……。それで?」
「はっ。レイヴン公は予定通りコット村へと出立しました」
「そうか……。経過の方は?」
「順調です。今の所、レイヴン公が九条に関して情報を集めているという報告はございません」
「……だろうな……」
アルバートだってバカじゃない。九条には1度、派閥への勧誘を断られているのだ。
それでも、どうすれば派閥に迎え入れられるのかは、それなりに考えていた。しかし、九条が第4王女派閥を裏切ることはないだろうと確信し、アルバートはその手を緩めたのである。
リリーは王位継承権を放棄しているようなもの。アルバート的には、九条がグリンダに盗られさえしなければ良かったのだ。
「レイヴン公はとても高いプライドをお持ちだ。アルバート様からの指名であっても、コット村への訪問は本意ではないはず。それに、プラチナとはいえ平民の冒険者に、下げる頭などありますまい。面会許可証のことも知らぬでしょうし、九条の説得は絶望的でしょう」
「九条ほど面倒な奴だと思ったことはないが、まさかここにきてそれが役に立つとはな……」
一応は自国の保有するプラチナの冒険者。仕事を頼む機会がないとも限らない。
九条への仕事の頼み方には、幾つかの手順が必要なのは調査済み。
ギルドに依頼を出すよりも、リリーを頼った方が確実であり、それは王族の特権とも言うべきものだが、現在リリーは不在である。
バイアス公爵の作戦は完璧だった。緊急会議で王派閥が反発して来るであろうことを読んでいたのだ。
当然、九条の力を借りる流れになることを見越して、レイヴン公爵に白羽の矢を立てたのである。
「だが、仮に……。本当に仮にではあるが、九条がレイヴン公の召喚に応じたらどうする?」
レイヴンはアドウェールに忠誠を誓う王派閥の第一人者だ。
死して尚そのお言葉が賜れるならと自らの意思を曲げ、迎合してしまう可能性もあり得ない話ではない。
「勿論、その場合の策も講じております」
「……バイアス公を疑う訳ではないのだが、その方法というのは?」
「九条に関して……というより、死霊術師の特性については調査済み。彼等は故人の魂を呼び出す際、依代としてその者の遺体や遺骨を使用するそうです。ならば、その遺体をすり替えてしまえばいい。……九条……はわかりませんが、その成功率はそう高くはないとのこと」
「そうか……。最初からお父様の遺体でなければ、成功しないのも必然……。たとえ呼び出せたとしても、それは他人の魂ということか」
「はい。既に数人、陛下に似た容姿を持つ者に目星は付けております。抜かりはありません」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるバイアスに、釣られて口角を上げるアルバート。
バイアスの緻密な計画は、アルバートの不安を杞憂に変えてしまうほどのものだったが、安堵の溜息をつこうとアルバートが大きく息を吸い込んだ瞬間、突如近づいて来る足音に2人は息をひそめた。
それは扉の前でピタリと止まり、予想通りノックの音が部屋に響く。
「アルバート様。ヴィルザール教会からの使者様がお見えになられましたが、いかがいたしましょう?」
その言葉に、顔を見合わせるアルバートとバイアス。
国家運営戦略緊急会議が終了するのと同時。訃報の通知と葬儀への招待状をヴィルザール教の教皇宛にと送ってはいたが、あれからまだ数日しか経っておらず、2人は困惑の表情を浮かべた。
「いくらなんでも、早すぎやしないか?」
「そうですね……。教皇が王都に滞在していた――というならわかりますが、そんな噂は聞いておりません……」
「……どうする? バイアス公」
「正直、断り辛いタイミングではありますな……」
謁見の予定がない突然の訪問。断ることは可能だが、葬儀への参列をお願いする立場としては、ここで波風を立てるのは得策ではない。
「ひとまずの面会は許可し、内容如何で日程の調整を申し出る――というのがよろしいかと……」
それにアルバートが頷くと、バイアスが声を張った。
「使者殿を礼拝堂、神秘の間に案内を。すぐに向かうと伝えなさい」
「……かしこまりました」
遠ざかる足音に、複雑な表情を浮かべるバイアスとアルバート。
来てしまったものは仕方ない。どうせ葬儀の日程調整や段取りの話だろうと高を括りながらも、2人は静かに席を立った。
自室のテーブルで頬杖をつきながらも、盛大な溜息をついたアルバート。それも当然、自身が王位を継ぐまでは予断を許さない状況だ。
気の休まる場所のはずが、無意識に強張ってしまう表情。
バレるはずがない。そう思ってはいても、募る不安は拭えない。
「失礼します」
「――ッ!?」
突然のノックに驚き、身体が跳ねたアルバート。
テーブルの天面にぶつけた膝をさすりながらも、向けた視線の先に立っていたのはバイアス公爵。
「……なんだ、バイアス公か……。驚かせないでくれ……」
「おや、これは失礼。アルバート様のご期待には沿えなかったようで、申し訳ない」
その笑顔は、共犯者とは思えないほどの自然体。
アルバートのしでかした大罪を忘れてしまったかのような立ち振る舞いは、豪胆と言っても差し支えないが、それを知るのはアルバートだけだ。
「冗談はよしてくれ、バイアス公……。それで?」
「はっ。レイヴン公は予定通りコット村へと出立しました」
「そうか……。経過の方は?」
「順調です。今の所、レイヴン公が九条に関して情報を集めているという報告はございません」
「……だろうな……」
アルバートだってバカじゃない。九条には1度、派閥への勧誘を断られているのだ。
それでも、どうすれば派閥に迎え入れられるのかは、それなりに考えていた。しかし、九条が第4王女派閥を裏切ることはないだろうと確信し、アルバートはその手を緩めたのである。
リリーは王位継承権を放棄しているようなもの。アルバート的には、九条がグリンダに盗られさえしなければ良かったのだ。
「レイヴン公はとても高いプライドをお持ちだ。アルバート様からの指名であっても、コット村への訪問は本意ではないはず。それに、プラチナとはいえ平民の冒険者に、下げる頭などありますまい。面会許可証のことも知らぬでしょうし、九条の説得は絶望的でしょう」
「九条ほど面倒な奴だと思ったことはないが、まさかここにきてそれが役に立つとはな……」
一応は自国の保有するプラチナの冒険者。仕事を頼む機会がないとも限らない。
九条への仕事の頼み方には、幾つかの手順が必要なのは調査済み。
ギルドに依頼を出すよりも、リリーを頼った方が確実であり、それは王族の特権とも言うべきものだが、現在リリーは不在である。
バイアス公爵の作戦は完璧だった。緊急会議で王派閥が反発して来るであろうことを読んでいたのだ。
当然、九条の力を借りる流れになることを見越して、レイヴン公爵に白羽の矢を立てたのである。
「だが、仮に……。本当に仮にではあるが、九条がレイヴン公の召喚に応じたらどうする?」
レイヴンはアドウェールに忠誠を誓う王派閥の第一人者だ。
死して尚そのお言葉が賜れるならと自らの意思を曲げ、迎合してしまう可能性もあり得ない話ではない。
「勿論、その場合の策も講じております」
「……バイアス公を疑う訳ではないのだが、その方法というのは?」
「九条に関して……というより、死霊術師の特性については調査済み。彼等は故人の魂を呼び出す際、依代としてその者の遺体や遺骨を使用するそうです。ならば、その遺体をすり替えてしまえばいい。……九条……はわかりませんが、その成功率はそう高くはないとのこと」
「そうか……。最初からお父様の遺体でなければ、成功しないのも必然……。たとえ呼び出せたとしても、それは他人の魂ということか」
「はい。既に数人、陛下に似た容姿を持つ者に目星は付けております。抜かりはありません」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるバイアスに、釣られて口角を上げるアルバート。
バイアスの緻密な計画は、アルバートの不安を杞憂に変えてしまうほどのものだったが、安堵の溜息をつこうとアルバートが大きく息を吸い込んだ瞬間、突如近づいて来る足音に2人は息をひそめた。
それは扉の前でピタリと止まり、予想通りノックの音が部屋に響く。
「アルバート様。ヴィルザール教会からの使者様がお見えになられましたが、いかがいたしましょう?」
その言葉に、顔を見合わせるアルバートとバイアス。
国家運営戦略緊急会議が終了するのと同時。訃報の通知と葬儀への招待状をヴィルザール教の教皇宛にと送ってはいたが、あれからまだ数日しか経っておらず、2人は困惑の表情を浮かべた。
「いくらなんでも、早すぎやしないか?」
「そうですね……。教皇が王都に滞在していた――というならわかりますが、そんな噂は聞いておりません……」
「……どうする? バイアス公」
「正直、断り辛いタイミングではありますな……」
謁見の予定がない突然の訪問。断ることは可能だが、葬儀への参列をお願いする立場としては、ここで波風を立てるのは得策ではない。
「ひとまずの面会は許可し、内容如何で日程の調整を申し出る――というのがよろしいかと……」
それにアルバートが頷くと、バイアスが声を張った。
「使者殿を礼拝堂、神秘の間に案内を。すぐに向かうと伝えなさい」
「……かしこまりました」
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