生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
577 / 722

第577話 不死の伝令と最後通告

しおりを挟む
 オーレスト率いる王国軍が布陣しているのは、ノーピークスの東門から500m程度の場所。
 開けた草原には重苦しい空気が立ち込め、横一列にズラリと並んだ兵士達は緊張した表情でノーピークスの城壁を睨みつけていた。
 それが一気に動き出せば、鋼の波にも見えるだろう。
 そんな2000人の王国軍を背に、オーレストは最前列でその時を待っていた。

「さて……そろそろ日没……。我々の出番だな」

 オーレストが兵士達へと向き直ると、その一人一人を見据え彼等の心に火を灯すよう声を上げる。

「我等が勇敢なる王国軍の諸君。この日、この場所で、我らの誇りと力を示す時が来た! 未来のために戦う我等の心に、恐れというものは存在しない!」

 オーレストは馬上で直剣を抜き放ち、それを天高く掲げた。
 それは西日を反射し、伝説の剣を思わせるほどに眩しく輝く。

「見よ、あの城壁を! あれは我らが克服すべき障壁であり、我らが手に入れるべき栄光の象徴だ。敵は我らの進軍を恐れている。だが、我々は恐れを知らぬ。勇気と力をもって、彼らを圧倒するのだ!」

 兵士達の間からは力強い歓声が上がり、その顔に表れていた不安は既に消えていた。

「今こそ立ち上がり、我々の力を見せつける時! あの城壁を超え、我々の旗をその頂に掲げよう。共に戦い、共に勝利を手にするのだ!」

 オーレストの鼓舞により、皆の士気は最高潮。
 この瞬間、2000人の兵士たちは1つの強力な軍団となり、彼らの眼には勝利への確信が宿っていた。
 後は進軍の号令をかけるのみ。それでノーピークスは蹂躙されるはずだったのだが、そこへやって来た1人の伝令兵によって状況は一変した。

「申し上げます! ファルランケス軍は被害甚大。援軍要請によりセルギウス卿が800の増援を派遣も、戦況は依然建て直せていませんッ!」

「なんだと!?」

 それが冗談でないことは、伝令兵の必死の形相が物語っていた。
 汗によってべっとりと付着した土埃は、戦場を駆け抜けてきたであろう者の顔。
 ノーピークスへと視線をむけるオーレスト。しかし、ここから戦況が見えるはずもない。
 戦場となっているのは、距離にして数キロほど離れている街の反対側である。
 肉眼での確認は愚か不幸にも追い風の為、その声が届くこともない。

「詳細は!? 陽動だと言ったはずだ! 城門の攻略までしろとは言っていないぞッ!?」

 ファルランケスは、まだ貴族としては若い方。武功を焦り深追いする可能性は十分考えられたが、そうではなかった。

「交戦後、暫くは有利な戦況を維持していたのですが……」

「押し切れると思って調子に乗ったのか? それが相手の戦術だとも知らずに!?」

「いえ、ファルランケス卿は指示通り終始作戦に忠実な指揮をとられておりました。ただ、ノーピークスが城門を開け、アンカースの軍が打って出てきたのです」

「そんなことがあるわけ……。いや……まさか、ノーピークスを捨てるつもりで……」

 格式に拘る貴族達には到底あり得ない話ではあるが、街から逃げ出すという選択肢は十分に考えられる。
 アンカース軍の全てをもっての強行突破。狙うなら西側だろう。

「仕方ない。セルギウス卿の軍はそのままファルランケス卿に加勢するよう伝えろ。 逃がす訳にはいかない」

「はっ!」

 馬へと飛び乗り、踵を返すと元来た方へと駆けていく伝令兵。
 その姿が見えなくなると、王国軍はゆっくりと進軍を開始した。
 アンカースが西方の突破に全軍を投入しているのであれば、後は消化試合のようなもの。
 オーレストは、ブライアンにつまらない戦になるだろう事を告げに戻ると、最後尾付近まで来た所で何故か王国軍は動きを止めた。

「なんだ?」

「オーレスト様。アンカース側の伝令が、謁見を求めておりますが……」

 最前線から駆けてきたのは、部隊指揮を任されている騎士の男。
 オーレストは、その意味を理解しほくそ笑む。

「いいだろう。全隊の進軍は停止。伝令の謁見を許可しよう」

 このタイミングだ。その内容を推測するのは、そう難しい事ではない。
 ファルランケスの軍が持ちこたえ、街からの脱出を諦めた……。となれば、停戦の要請か降伏に関する交渉が妥当。
 どちらにせよ戦術も試せないような微妙な争いにしかならないだろうことは明らか。オーレストは、それを受け入れるつもりでいた。


 急造で拵えた陣幕にアンカース軍の伝令が招かれると、オーレストは書状を受け取り目を通す。
 周囲には護衛だろう騎士が2人とブライアン。伝令兵が間違いを犯さぬようにと、常に目を光らせている。

「な……なんだこれはッ!?」

 先程の余裕は何処へやら。あまりの衝撃だったのか、オーレストは手を震わせながらも何度もそれを読み返す。
 そこには、もふもふアニマルキングダムが建国された事と、アンカース領がスタッグ王国を離脱。そして編入されたこと。
 続けて、ファルランケス軍との交戦は正当な防衛行為であり、直ちにこれを中止しなければ侵略と見なし宣戦布告も辞さない――とも書かれていた。
 当然、グランスロードの女王であるヴィクトリアの署名の写しも付属しているのだが……。

「ふざけるなッ! こんなもの、認められるわけがないッ!」

 予想外の内容に、声を荒げるオーレスト。
 そんなオーレストを見下すように毒を吐いたのは、他でもない伝令の男だ。

「お主が認める必要はない。少なくともグランスロードからの承認は受け、国同士の条約が交わされたのは紛れもない事実。さっさと兵を退くんだな」

「たかが伝令の分際でッ! 誰に向かって口を利いているッ」

「これは失礼。いや、人の土地に勝手にあがりこんでいるのだから失礼はお互い様だとは思うが、自己紹介はしておこう。私の名はバルザック。一応はアンカースに籍を置いている……いや、置いていた……と言った方が正しいか……」

 装備は、どう見ても伝令兵。少なくとも貴族として戦場に立つ者の恰好ではない。
 しかし、対峙してわかる圧迫感は、人ならざるものを相手にしているかのような雰囲気すら帯びていた。

「貴様の名など聞いていないッ!」

「そうか……。とにかく、私はアンカース家の代表として交渉役を任されここに来た。要望があるなら言うがいい。……帰る以外に道はないと思うがな」

 オーレストは言葉を詰まらせ、視線を落とす。
 その先にある書状は非の打ち所のない完璧な物。グランスロード王家の調印も間違いない。
 しかし、状況が邪魔をした。オーレストは、それを信じたくはなかった。

「私を騙そうったってそうはいかんぞ? この署名も! この調印も! 同盟も捏造に決まっているッ! そもそも、もふもふアニマルキングダムなんて適当に考えたような名前。信じられるかッ!」

「確かに名前に関しては、私としても同意見だ」

 思わぬ所で同意を得たオーレストであったが、それは問題解決の糸口にはなり得ない。
 どちらにせよ言いがかり。たとえ国の名前がしっかりしていたとしても、オーレストの考えは変わらなかった。

「……残念だが、貴様にはここで死んでもらう」

「ほう。聞かなかった事にすれば、丸く収まるとでも?」

 それに返事はなく、返ってきたのは2人の騎士が静かに抜いた直剣の切っ先。

「……どうなっても知らんぞ?」

「この書状といい、黒いドラゴンといい……。どうやらアンカースはハッタリが上手いらしい。……だが、それが通じない時の事も考えておくべきだったな……」

 オーレストの目配せと同時にバルザックは2本の剣に貫かれ、王国軍の陣幕にはわざとらしいほどの断末魔が響き渡った。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...