生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
578 / 722

第578話 理不尽な二択

しおりを挟む
 腹を貫いた2本の剣が引き抜かれるとバルザックは首を垂れ、よろよろと足をふらつかせながらも倒れないようにと気力を振り絞る。
 とはいえ、それも時間の問題。すぐにその場に倒れ込み、息絶えるのだろうと誰もがそう考えたその時だ。

「……なんてな」

 最早顔を上げる事すらないだろうと思われていたバルザックが、不敵な笑みを浮かべながらもオーレストを直視する。

「なッ――!?」

 往生際が悪いわけでも、気力で誤魔化している訳でもない。
 腹の傷を気にするそぶりも見せず、胸を張るほどの仁王立ちは、まるで何事もなかったかのよう。

「斬れッ! もう一度だッ!」

 焦りを隠せないオーレストの命令に、一瞬の間を置き振り上げられた2本の直剣。
 それは音もなく閃くも、左右両方からの袈裟切りはバルザックの肩に僅かに食い込んだだけ。

「くッ!」

 その手ごたえは、少なくとも肉ではない。
 鉄の棒を岩に叩きつけたかのような感覚に騎士達は戸惑い、バルザックはそれを意に介すことなく嘲笑う。

「非力だなぁ。九条曰く、かるしうむとやらを摂取すれば、骨密度が上がるそうだぞ?」

 そこで気付いた大きな違和感。刺した腹にも斬った肩にも、血が滲んでいないのだ。
 今頃は血みどろになっていてもおかしくない傷なのに、服が破れているだけ。

「何か勘違いをしているようだから、教えてやろう。お前達が相手にしているのは、アンカースでもリリーでもない。魔王なんだよ」

 だからといって、オーレストは臆さない。

「貴様が不死のアンデッドだろうと構うものかッ! 取り押さえ、縛り上げてしまえッ!」

 確かにそれは有効だ。死なないのなら、捕らえればいい。
 2人騎士がバルザックに向かって飛び掛かり、抱き着くように押さえ込む。
 しかし、それは微動だにしない。
 2人の人間と2着分の甲冑の重さが加わっても尚、バルザックは平然な顔で立っていた。

「むさ苦しい男共と抱き合うつもりはないんだが……。まぁ、今更何をしたところで手遅れだ。アラーム……というトラップを知っておるか?」

「まさか!?」

 その言葉に反応したのは、狼狽えていただけのブライアン。
 それはダンジョンでの基礎知識。仮にも冒険者を目指していた過去があるのだ。知っていて当然だろう。
 その正体は、軟弱で狡猾なゴーストだ。自分に力がない為、断末魔に偽装した大声で他の魔物を呼び寄せては、代わりに倒してもらおうという他力本願な魔物である。

「ほう。そこの小僧は、理解したようだな」

 それが、バルザックの役割。そして、外が一気に騒がしくなった。
 騎士が押さえ込むバルザックを横目に、オーレストが陣幕を飛び出すと、そこは既に戦場と化していたのである。
 黒き竜が大空に舞い、金の鬣が大地を焦がす。
 日没前の草原からは火の手が上がり、慌てふためく兵達の統率を取ろうと、部隊長の騎士の一人が声を張っていた。

「勇気を持て、戦士たちよ! 1度はギムレット騎士団が打ち倒した相手! 我々もそれに続くのだッ! 怯むなッ! 立ち向かえッ!」

 それが嘘であるとも知らずに、兵士達は生き残りたい一心で武器を振るう。
 弓兵は雨のような矢を降らせ、魔法師団は魔力を刃に変え放つ。
 それをものともせず、炎を息を吐き出した金の鬣。辺りを熱波が襲い、数十の兵が炎に包まれ倒れていく。
 それでも、彼等は退かなかった。騎士は馬を巧みに操り、一矢報いようとランスを片手に金の鬣の足元へと猛追する。
 そこへ舞い降りて来た黒き竜は、それらを無慈悲に踏みつぶし、威嚇するかのような咆哮を上げた。
 巨大な尾を振り回し、周囲の兵を一掃すると再び空へと舞い上がる。
 その後ろに控えていたのは白い蛇。その瞳が輝きを放つと、兵士達の身体は一瞬にして石となった。

「あ……あり得ん……」

 ギムレット騎士団が、本当にあれを退けたのかという疑問を覚えながらも、ただそれを遥か後方から茫然と眺めることしか出来なかったオーレスト。
 魔獣相手は専門外だが、劣勢なのは明らか。更に言うなら、時間が経てば経つほどに辺りを闇が覆い、夜は魔物の時間帯。
 頭ではわかっていた。撤退を指示し早急にこの場を離れるべきだと。

 だが、それはできなかった。
 既にオーレストの首は、落ちてしまっていたからだ。

「いえーい……。5人目ぇ……」

 テンションの低そうな声で、その手柄を自慢げに披露したのは、何処からともなく現れた黒ずくめの少女。
 それと同時に、バルザックを押さえ込んでいた騎士達の首も地に落ちた。

「ザラッ!?」

 その行為に感謝するでもなく、バルザックは掲げられたオーレストの首を見て項垂れる。

「あーあ……。やってしまったか……」

「……え? 何か……まずかった?」

 オーレストの変わり果てた姿に、頭を抱えるバルザック。対してザラと呼ばれた少女は、不思議そうに首を傾げた。

「九条に言われただろう? オーレストは生かしておけと……」

「うん……。だから、そっちには手を出してない……」

 ザラが向けた短剣の先にいたのは、恐怖の所為か身動き1つせず固まっていたブライアンだ。

「九条っちが言ってた特徴にピッタリ……。デブで偉そうで弱そうな貴族……。こっちの方が強そうに見えた……。……もしかして……逆だった……?」

「……仕方ない。オーレストの死がバレるのも時間の問題。ここは九条を呼び、指示を仰ごうじゃないか」

 少しだけ焦った様子のザラに対し、小さな溜息をつくバルザック。
 バルザックは隠し持っていた杖を背中から取り出すと、それを力強く天へと掲げた。

「【氷結壁アイシクルウォール】」

 空気中の水分が凍結し辺りに霜が降りると、みるみるうちに形成される氷の壁。
 それが陣幕を取り囲むように一周すると、そこは極寒の牢獄となった。
 その厚みは、ちょっとやそっとで破壊できるような物ではなく、見上げなければならないほどの高さは、最早塔と言っていい。
 出入口は空にぽっかりと開いている1か所だけ。暫くそこを見上げていると、ファフナーが上空を通過した直後に、降って来たのは九条である。

「九条!?」

 その突然の登場に、驚きを隠せなかったブライアン。

「あれ? ブライアンじゃねぇか。久しぶりだな」

 ブライアンとの対面は、魔法学院での試験以来。
 その懐かしさに、九条の顔からは自然と笑みがこぼれる。

「なんだ? 知り合いか?」

「ん? あぁ、顔見知り程度だよ。なじみ……ってほどではないが……。そんなことより、オーレストは?」

「いや、それがだな……」

 バツが悪そうなバルザック。その視線が向かった先には、首のなくなったオーレスト。

「九条っち、ごめん……。あいつと間違えた……」

 反省の色を滲ませ、落ち込んだ様子のザラではあったが、九条の様子は至って自然。
 ザラのミスを咎めるでもなく、僅かに頷いただけである。
 戦闘には向かないふくよかな体型。貴族特有の偉そうな雰囲気を醸し出す男性とくれば、オーレスト以外にはあり得ないだろうとザラを送り出した九条であったが、ブライアンの存在はちょっとした誤算であった。

「まぁ、しゃーない。この際だ、ブライアンで我慢しよう。戦場に立っているんだ。それ相応の覚悟はあるんだろうからな……」

 九条の顔から笑顔が消えると、ゆっくりとブライアンに歩み寄り、その胸ぐらを強く掴んで引き寄せる。

「お前に、好きな方を選ばせてやる。名誉による死か、俺に殺され傀儡と化すかだ」

 その圧迫感に心が折れたブライアンは、暫くそこで九条に許しを乞いていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...