生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
601 / 722

第601話 泡沫夢幻

しおりを挟む
「こりゃ、楽ちんだ!」

 そこは最早スケートリンク。ゲオルグは無明殺しを巧みに操り、ゴーレムの足元へと一直線。
 その速度たるや、相当なもの。
 カイエンがワイヤーの端を保持し、ゲオルグの持つ糸巻が凄まじい速度で回転する。
 巻かれていたワイヤーがどんどん引き出されていくのを見て、イーミアルはその策の意味を理解した。
 氷はあくまで布石。ワイヤーでの拘束が目的の二重トラップなのだろうと。
 足元は不安定な氷。一度倒されてしまえば起き上がるのは困難を極める。
 当然、魔法による妨害をと考えるも、シャーリーとレギーナから放たれる矢に翻弄され、自分の防御に精一杯。

「くッ――!?」

 その隙に、ゴーレムの足元へ潜り込んだゲオルグは、振り下ろされる岩の拳を華麗に躱し続けながらも、その足元をぐるぐる回る。

「おのれ、ちょこまかと……。何処へ行ったッ!」

 ゴーレムの巨体が仇となり、イーミアルからゲオルグの姿は確認できない。
 しかし、それもそう長くは続かなかった。
 金属のワイヤーを巻ききったゲオルグは、糸巻を投げ捨て割れた氷を避けながらも自陣へと引き返していったのだ。

 イーミアルは、それをチャンスと見た。
 ゴーレムの足元がどうなっているのかを確認することは叶わないが、ワイヤーでがんじがらめにされていることは明らかだ。
 ならば、取れる行動は2つ。パワーに任せワイヤーを引き千切るか、ゴーレムを一度崩してから新たに創造し直すか……。
 前者はちょっとした賭けである。無理矢理に千切ろうとした結果、バランスを崩し転倒する可能性もある。
 それに巻き込まれない為、ゲオルグが一時的に戦線を離脱したのなら辻褄は合う。
 プラチナとはいえ魔術師ウィザード。接近戦で、ゲオルグに勝てる確率は低い。
 そのリスクを考慮するなら、確実にワイヤーから抜け出せるであろう後者を採用するのは道理。

 ほんの数秒だ。ゴーレムへの魔力供給を絶ち、自分が地面に降り立った瞬間、クレイシンセサイザーに魔力を注ぎ込めばいい。
 借り物の魔力だが、余力は十分。その程度の時間身を守ることなど、イーミアルには造作もない。

 2体のゴーレムが足元から瓦解し、それは砂塵となって元の地面に飲み込まれるよう消えていく。
 そこに残されたのは、螺旋状に巻かれていたワイヤーのみ。
 それは、姿を隠すのに丁度良かった。金属製で強度も申し分なく、身を守るのにも適している。
 イーミアルは、意味のなくなった敵の罠を逆に利用してやろうと思い立ち、その中心へと降り立った。

 そう――。それは罠であったのだ。

 直後、シャーリーはアイアンアローを上空へと打ち上げた。
 勿論ただ打ち上げた訳ではない。それには、ワイヤーの先端が括り付けられていた。
 蛇のようにうねるワイヤーが天へと昇って行くのを見て、イーミアルはハッとした。
 辺りを覆う曇天。そして、その矢の意味を理解したのだ。

「【魔力障壁マナシールド】ッ!」

「"雷霆"ッ!」

 空が裂けるような轟音と共に、稲妻がシャーリーの放った矢に直撃した。
 それはワイヤーを伝播し、イーミアルへと襲い掛かる。
 目を焼くほどの閃光は、天の怒りそのもの。空気が悲鳴を上げると同時に、雷鳴が大地を震わせる。
 しかし、若干の差ではあるが、コクセイよりもイーミアルの方が速かった。
 防御は完璧。雷霆は完全なる障壁によって防がれた。
 ……だが、それは序章に過ぎなかったのだ。

「――ッ!?」

 螺旋状に巻かれたワイヤーが、雷のエネルギーを吸い込み、瞬時に赤熱した。
 空間全体が高圧の電磁場に包まれ、辺りが歪んで見えるほどだ。
 イーミアルは、それに対し無防備だった。なぜなら、熱や冷気は魔力障壁マナシールドの影響を受けないからだ。

 魔力障壁マナシールドは、衝撃のみを遮断するフィルターのようなものである。
 透き通ったガラスのようにも見えるそれは、光を通す為視界を遮ることもなく、水に入れば溺れてしまう。
 当然空気も通す為、術者が内部で窒息するような事もない。ならば、熱せられた空気を防げないのは道理だろう。

 雷の落下は一瞬だったが、体に走る衝撃は永遠のようにも感じるはずだ。
 肌が焼けるような感覚。外部から襲いかかる熱は、まるで肉体そのものを溶かすかのようにイーミアルを焼きつくす。
 それだけではない。雷の激流が生んだ強力な電磁波は、体内の水分を震わせ、血液、筋肉、骨までもが異常な熱を帯びていく。
 全身が引き裂かれたかのような痛みに包まれ、血管が内側から焼けるように膨れ上がると、心臓は暴走を始める。
 その鼓動は規則を失い、ついにはそれも止まってしまった。

「これが……じゅーる熱とデンジハの力……?」

「九条はそう言っていたな……。正直内容はサッパリだったが、まさかこれほどとは……」

「あの雑に巻いただけのワイヤーで、これほどの熱量とは……」

 シャーリーたちの瞼には、まだ残像として雷の閃光が焼き付いていた。
 耳鳴りが収まり始めると、皮膚と肉の焼かれた匂いが風に漂う。
 それは、5重にもなるトラップだった。氷結、拘束、落雷、熱、そして電磁波。
 最早引っかからない方が、おかしなレベル。
 コイルなどという言葉すら聞いたことがない世界では、防ぎようがなかっただろう。
 ただ静寂だけがその場に残り、その事実は戦場を震撼させるには十分な衝撃だった。

「やれやれ……。兎に角、これで城攻めが再開できそうだ。失った時間を取り戻す為にも、ちょいとアンデッドを追加しておくかな」

 バルザックを始め、ゲオルグにシャーリー。魔獣の皆が王国軍に照準を合わせる。
 それがどれほどの脅威か、わからぬ者はいないだろう。

 王国軍の指揮を任されていた貴族もまた、その1人だ。

「……伝令……。すぐに各部隊に撤退の命を伝えよ」

 その声はかすれ、伝令の耳にも届かぬかと思われたが、王国軍には撤退の号令が響き渡る。

「全軍城内へ後退せよッ! 繰り返すッ! 城内まで後退だッ!」

 その号令に、誰一人として反論する者がいなかったのは、全員がすでに敗北を悟っていたからだ。
 急ぎ帰還してくる王国軍を受け入れる南門。全軍の撤退を確認すると、その門扉は重苦しい音を立て閉め切られた。

 戦場だった場所は、まるで死神が歩いたかのように荒れ果てていた。
 旗が泥にまみれ、倒れた兵士たちの血が大地に染み込んでいる。
 空には灰色の雲が垂れ込め、王都からは風に乗り先程と同じような喧騒が聞こえてくる。
 既に街中にもアンデッドが侵入していることを鑑みれば、最早体を休める場所など、どこにもありはしないのだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...