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第601話 泡沫夢幻
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「こりゃ、楽ちんだ!」
そこは最早スケートリンク。ゲオルグは無明殺しを巧みに操り、ゴーレムの足元へと一直線。
その速度たるや、相当なもの。
カイエンがワイヤーの端を保持し、ゲオルグの持つ糸巻が凄まじい速度で回転する。
巻かれていたワイヤーがどんどん引き出されていくのを見て、イーミアルはその策の意味を理解した。
氷はあくまで布石。ワイヤーでの拘束が目的の二重トラップなのだろうと。
足元は不安定な氷。一度倒されてしまえば起き上がるのは困難を極める。
当然、魔法による妨害をと考えるも、シャーリーとレギーナから放たれる矢に翻弄され、自分の防御に精一杯。
「くッ――!?」
その隙に、ゴーレムの足元へ潜り込んだゲオルグは、振り下ろされる岩の拳を華麗に躱し続けながらも、その足元をぐるぐる回る。
「おのれ、ちょこまかと……。何処へ行ったッ!」
ゴーレムの巨体が仇となり、イーミアルからゲオルグの姿は確認できない。
しかし、それもそう長くは続かなかった。
金属のワイヤーを巻ききったゲオルグは、糸巻を投げ捨て割れた氷を避けながらも自陣へと引き返していったのだ。
イーミアルは、それをチャンスと見た。
ゴーレムの足元がどうなっているのかを確認することは叶わないが、ワイヤーでがんじがらめにされていることは明らかだ。
ならば、取れる行動は2つ。パワーに任せワイヤーを引き千切るか、ゴーレムを一度崩してから新たに創造し直すか……。
前者はちょっとした賭けである。無理矢理に千切ろうとした結果、バランスを崩し転倒する可能性もある。
それに巻き込まれない為、ゲオルグが一時的に戦線を離脱したのなら辻褄は合う。
プラチナとはいえ魔術師。接近戦で、ゲオルグに勝てる確率は低い。
そのリスクを考慮するなら、確実にワイヤーから抜け出せるであろう後者を採用するのは道理。
ほんの数秒だ。ゴーレムへの魔力供給を絶ち、自分が地面に降り立った瞬間、クレイシンセサイザーに魔力を注ぎ込めばいい。
借り物の魔力だが、余力は十分。その程度の時間身を守ることなど、イーミアルには造作もない。
2体のゴーレムが足元から瓦解し、それは砂塵となって元の地面に飲み込まれるよう消えていく。
そこに残されたのは、螺旋状に巻かれていたワイヤーのみ。
それは、姿を隠すのに丁度良かった。金属製で強度も申し分なく、身を守るのにも適している。
イーミアルは、意味のなくなった敵の罠を逆に利用してやろうと思い立ち、その中心へと降り立った。
そう――。それは罠であったのだ。
直後、シャーリーはアイアンアローを上空へと打ち上げた。
勿論ただ打ち上げた訳ではない。それには、ワイヤーの先端が括り付けられていた。
蛇のようにうねるワイヤーが天へと昇って行くのを見て、イーミアルはハッとした。
辺りを覆う曇天。そして、その矢の意味を理解したのだ。
「【魔力障壁】ッ!」
「"雷霆"ッ!」
空が裂けるような轟音と共に、稲妻がシャーリーの放った矢に直撃した。
それはワイヤーを伝播し、イーミアルへと襲い掛かる。
目を焼くほどの閃光は、天の怒りそのもの。空気が悲鳴を上げると同時に、雷鳴が大地を震わせる。
しかし、若干の差ではあるが、コクセイよりもイーミアルの方が速かった。
防御は完璧。雷霆は完全なる障壁によって防がれた。
……だが、それは序章に過ぎなかったのだ。
「――ッ!?」
螺旋状に巻かれたワイヤーが、雷のエネルギーを吸い込み、瞬時に赤熱した。
空間全体が高圧の電磁場に包まれ、辺りが歪んで見えるほどだ。
イーミアルは、それに対し無防備だった。なぜなら、熱や冷気は魔力障壁の影響を受けないからだ。
魔力障壁は、衝撃のみを遮断するフィルターのようなものである。
透き通ったガラスのようにも見えるそれは、光を通す為視界を遮ることもなく、水に入れば溺れてしまう。
当然空気も通す為、術者が内部で窒息するような事もない。ならば、熱せられた空気を防げないのは道理だろう。
雷の落下は一瞬だったが、体に走る衝撃は永遠のようにも感じるはずだ。
肌が焼けるような感覚。外部から襲いかかる熱は、まるで肉体そのものを溶かすかのようにイーミアルを焼きつくす。
それだけではない。雷の激流が生んだ強力な電磁波は、体内の水分を震わせ、血液、筋肉、骨までもが異常な熱を帯びていく。
全身が引き裂かれたかのような痛みに包まれ、血管が内側から焼けるように膨れ上がると、心臓は暴走を始める。
その鼓動は規則を失い、ついにはそれも止まってしまった。
「これが……じゅーる熱とデンジハの力……?」
「九条はそう言っていたな……。正直内容はサッパリだったが、まさかこれほどとは……」
「あの雑に巻いただけのワイヤーで、これほどの熱量とは……」
シャーリーたちの瞼には、まだ残像として雷の閃光が焼き付いていた。
耳鳴りが収まり始めると、皮膚と肉の焼かれた匂いが風に漂う。
それは、5重にもなるトラップだった。氷結、拘束、落雷、熱、そして電磁波。
最早引っかからない方が、おかしなレベル。
コイルなどという言葉すら聞いたことがない世界では、防ぎようがなかっただろう。
ただ静寂だけがその場に残り、その事実は戦場を震撼させるには十分な衝撃だった。
「やれやれ……。兎に角、これで城攻めが再開できそうだ。失った時間を取り戻す為にも、ちょいとアンデッドを追加しておくかな」
バルザックを始め、ゲオルグにシャーリー。魔獣の皆が王国軍に照準を合わせる。
それがどれほどの脅威か、わからぬ者はいないだろう。
王国軍の指揮を任されていた貴族もまた、その1人だ。
「……伝令……。すぐに各部隊に撤退の命を伝えよ」
その声はかすれ、伝令の耳にも届かぬかと思われたが、王国軍には撤退の号令が響き渡る。
「全軍城内へ後退せよッ! 繰り返すッ! 城内まで後退だッ!」
その号令に、誰一人として反論する者がいなかったのは、全員がすでに敗北を悟っていたからだ。
急ぎ帰還してくる王国軍を受け入れる南門。全軍の撤退を確認すると、その門扉は重苦しい音を立て閉め切られた。
戦場だった場所は、まるで死神が歩いたかのように荒れ果てていた。
旗が泥にまみれ、倒れた兵士たちの血が大地に染み込んでいる。
空には灰色の雲が垂れ込め、王都からは風に乗り先程と同じような喧騒が聞こえてくる。
既に街中にもアンデッドが侵入していることを鑑みれば、最早体を休める場所など、どこにもありはしないのだ。
そこは最早スケートリンク。ゲオルグは無明殺しを巧みに操り、ゴーレムの足元へと一直線。
その速度たるや、相当なもの。
カイエンがワイヤーの端を保持し、ゲオルグの持つ糸巻が凄まじい速度で回転する。
巻かれていたワイヤーがどんどん引き出されていくのを見て、イーミアルはその策の意味を理解した。
氷はあくまで布石。ワイヤーでの拘束が目的の二重トラップなのだろうと。
足元は不安定な氷。一度倒されてしまえば起き上がるのは困難を極める。
当然、魔法による妨害をと考えるも、シャーリーとレギーナから放たれる矢に翻弄され、自分の防御に精一杯。
「くッ――!?」
その隙に、ゴーレムの足元へ潜り込んだゲオルグは、振り下ろされる岩の拳を華麗に躱し続けながらも、その足元をぐるぐる回る。
「おのれ、ちょこまかと……。何処へ行ったッ!」
ゴーレムの巨体が仇となり、イーミアルからゲオルグの姿は確認できない。
しかし、それもそう長くは続かなかった。
金属のワイヤーを巻ききったゲオルグは、糸巻を投げ捨て割れた氷を避けながらも自陣へと引き返していったのだ。
イーミアルは、それをチャンスと見た。
ゴーレムの足元がどうなっているのかを確認することは叶わないが、ワイヤーでがんじがらめにされていることは明らかだ。
ならば、取れる行動は2つ。パワーに任せワイヤーを引き千切るか、ゴーレムを一度崩してから新たに創造し直すか……。
前者はちょっとした賭けである。無理矢理に千切ろうとした結果、バランスを崩し転倒する可能性もある。
それに巻き込まれない為、ゲオルグが一時的に戦線を離脱したのなら辻褄は合う。
プラチナとはいえ魔術師。接近戦で、ゲオルグに勝てる確率は低い。
そのリスクを考慮するなら、確実にワイヤーから抜け出せるであろう後者を採用するのは道理。
ほんの数秒だ。ゴーレムへの魔力供給を絶ち、自分が地面に降り立った瞬間、クレイシンセサイザーに魔力を注ぎ込めばいい。
借り物の魔力だが、余力は十分。その程度の時間身を守ることなど、イーミアルには造作もない。
2体のゴーレムが足元から瓦解し、それは砂塵となって元の地面に飲み込まれるよう消えていく。
そこに残されたのは、螺旋状に巻かれていたワイヤーのみ。
それは、姿を隠すのに丁度良かった。金属製で強度も申し分なく、身を守るのにも適している。
イーミアルは、意味のなくなった敵の罠を逆に利用してやろうと思い立ち、その中心へと降り立った。
そう――。それは罠であったのだ。
直後、シャーリーはアイアンアローを上空へと打ち上げた。
勿論ただ打ち上げた訳ではない。それには、ワイヤーの先端が括り付けられていた。
蛇のようにうねるワイヤーが天へと昇って行くのを見て、イーミアルはハッとした。
辺りを覆う曇天。そして、その矢の意味を理解したのだ。
「【魔力障壁】ッ!」
「"雷霆"ッ!」
空が裂けるような轟音と共に、稲妻がシャーリーの放った矢に直撃した。
それはワイヤーを伝播し、イーミアルへと襲い掛かる。
目を焼くほどの閃光は、天の怒りそのもの。空気が悲鳴を上げると同時に、雷鳴が大地を震わせる。
しかし、若干の差ではあるが、コクセイよりもイーミアルの方が速かった。
防御は完璧。雷霆は完全なる障壁によって防がれた。
……だが、それは序章に過ぎなかったのだ。
「――ッ!?」
螺旋状に巻かれたワイヤーが、雷のエネルギーを吸い込み、瞬時に赤熱した。
空間全体が高圧の電磁場に包まれ、辺りが歪んで見えるほどだ。
イーミアルは、それに対し無防備だった。なぜなら、熱や冷気は魔力障壁の影響を受けないからだ。
魔力障壁は、衝撃のみを遮断するフィルターのようなものである。
透き通ったガラスのようにも見えるそれは、光を通す為視界を遮ることもなく、水に入れば溺れてしまう。
当然空気も通す為、術者が内部で窒息するような事もない。ならば、熱せられた空気を防げないのは道理だろう。
雷の落下は一瞬だったが、体に走る衝撃は永遠のようにも感じるはずだ。
肌が焼けるような感覚。外部から襲いかかる熱は、まるで肉体そのものを溶かすかのようにイーミアルを焼きつくす。
それだけではない。雷の激流が生んだ強力な電磁波は、体内の水分を震わせ、血液、筋肉、骨までもが異常な熱を帯びていく。
全身が引き裂かれたかのような痛みに包まれ、血管が内側から焼けるように膨れ上がると、心臓は暴走を始める。
その鼓動は規則を失い、ついにはそれも止まってしまった。
「これが……じゅーる熱とデンジハの力……?」
「九条はそう言っていたな……。正直内容はサッパリだったが、まさかこれほどとは……」
「あの雑に巻いただけのワイヤーで、これほどの熱量とは……」
シャーリーたちの瞼には、まだ残像として雷の閃光が焼き付いていた。
耳鳴りが収まり始めると、皮膚と肉の焼かれた匂いが風に漂う。
それは、5重にもなるトラップだった。氷結、拘束、落雷、熱、そして電磁波。
最早引っかからない方が、おかしなレベル。
コイルなどという言葉すら聞いたことがない世界では、防ぎようがなかっただろう。
ただ静寂だけがその場に残り、その事実は戦場を震撼させるには十分な衝撃だった。
「やれやれ……。兎に角、これで城攻めが再開できそうだ。失った時間を取り戻す為にも、ちょいとアンデッドを追加しておくかな」
バルザックを始め、ゲオルグにシャーリー。魔獣の皆が王国軍に照準を合わせる。
それがどれほどの脅威か、わからぬ者はいないだろう。
王国軍の指揮を任されていた貴族もまた、その1人だ。
「……伝令……。すぐに各部隊に撤退の命を伝えよ」
その声はかすれ、伝令の耳にも届かぬかと思われたが、王国軍には撤退の号令が響き渡る。
「全軍城内へ後退せよッ! 繰り返すッ! 城内まで後退だッ!」
その号令に、誰一人として反論する者がいなかったのは、全員がすでに敗北を悟っていたからだ。
急ぎ帰還してくる王国軍を受け入れる南門。全軍の撤退を確認すると、その門扉は重苦しい音を立て閉め切られた。
戦場だった場所は、まるで死神が歩いたかのように荒れ果てていた。
旗が泥にまみれ、倒れた兵士たちの血が大地に染み込んでいる。
空には灰色の雲が垂れ込め、王都からは風に乗り先程と同じような喧騒が聞こえてくる。
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