生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
602 / 722

第602話 希望の影に潜む罠

しおりを挟む
 スタッグ王宮の謁見の間では、国王専用のプレートアーマーに身を包んだアルバートが玉座で苛立ちを募らせていた。
 その視線の先には、跪いた1人の貴族。南門前の部隊を率いていた指揮官だ。

「我が隊は敵軍の猛攻を前に、やむを得ず退却いたしました。敵の勢いが予想を遥かに上回り、これ以上の戦闘続行は甚大な被害をもたらすと判断した次第で……」

「それで?」

「不甲斐ない結果であるのは重々承知。これも全軍の安全を最優先に考えた上での決断でございます。どうかご賢察のほどを賜りたく……」

「貴様の言い訳はどうでもいい。城内に後退したことで、今後の方針を言えといっているんだ!」

「恐らく時間は稼げるかと……」

「阿呆がッ! 時間を稼いでどうするつもりだ!? まさか僕が、九条に頭を下げる覚悟を決めろとでも言いたいのではあるまいな!?」

「いえ、決してそのような事は……」

「なら、こんなところで油を売ってないで、貴様も立派に職務を果たせッ!」

「は……ははっ!」

 慌てて謁見の間を後にする貴族の男。
 その後、アルバートはゆっくりと立ち上がり、大窓から城下を一望した。
 外周城壁にある4つの城門のうち3つが既に突破され、敵の軍勢が我が物顔で街中を闊歩している。
 かつて繁栄と平和の象徴であった通りは、今や無秩序な戦場と化し、人々の悲鳴と金属音が鳴り響く三途の川。
 街の至る所で上がる火の手が、徐々に内周城壁へと近づいてくるのだ。
 アルバートは強く拳を固く握りしめ、憤りに満ちた表情でその光景を見つめていた。

「バイアス公は、この状況をどう見る?」

 アルバートの隣に控えているのは、同じように武装しているバイアス公とレイヴン公。そして、軍事を統括する貴族の数人だけ。
 普段はアルバートにべったりの親衛隊も、1人を残し前線へと駆り出されている。

「イーミアル殿が敗れ、王都外周が敵の手に落ちるのも時間の問題……。しかし、内周城壁を死守すれば、まだ望みはあるやもしれませぬ」

「本当か? 本当に何とかなると思っているのか!?」

「外周に取り残された市民の避難は順調です。それが終わり次第城門を封鎖し、籠城することになりましょう。九条の魔力が底を尽き、アンデッド達が動きを止めるまで……。もしくは、レイヴン公の兵が到着するまで耐え抜けば……」

「市民など気にしている場合かッ! すぐにでも全ての城門を封鎖しろッ!」

 アルバートだってわかっていた。プラチナの冒険者であるイーミアルに貸し与えた国宝の魔道具、クレイシンセサイザーをもってしても魔王軍の侵攻を止められなかったのだ。
 最早打つ手はなく、勝敗の行方は、内周城壁の防衛力と兵士達の自力にかかっていると言っても過言ではない。
 しかし、それも一枚岩ではなくなっていた。
 兵士達の中には、降伏宣言を待ち望む声もチラホラと出ている始末。

「レイヴン公の兵は、本当に来るんだろうな!?」

「勿論です陛下。我が軍は遅れて参上し、魔王軍を挟撃するという手筈になっているのは存じておられるでしょう。相手の侵攻が予想よりも早く出遅れておりますが、もう暫しの辛抱を……」

 恭しく頭を下げるレイヴンだが、その内心は笑っていた。
 この日の為に、裏で手を回してきたのだ。当然、軍など来やしない。
 今日に限ってアルバートの親衛隊が1人しか傍にいないのも、レイヴンが言葉巧みに誑かし、前線へと送り出したからである。

「仕方ない。緊急時という事でギルドを接収し、無理矢理にでも冒険者に手伝わせて……」

「残念ながら、冒険者ギルドは既に敵の手に落ちております。空から降って来たアンデッドの中に強力な個体がおり、その目的がギルドの無力化であると推察され……」

「じゃぁ、これから僕はどうすればいいんだ!?」

「それは……」

 口ごもるバイアス。最早、何もしないのが最適解だろうと誰もが勘付いているのだ。
 今更、焦ってどうにかしようと行動を起こしたところで無駄である。そんな機会は当の昔に過ぎ去った。
 とはいえ、黙って見ていろ……などとも言えず、バイアスはひとまずお茶を濁す。

「……では、国の為に戦う兵士達を鼓舞されてはいかがでしょう? 陛下からのお言葉を賜れれば、士気もより一層高まるかと」

「そんなこと出来るわけないだろ! 僕が外に出た瞬間、狙われたらどうするつもりなんだ!?」

「外へ出ると言っても、ほんの数分。長時間の演説をと言っている訳では……」

 その時だ。謁見の間の扉が勢いよく開かれると、そこに立っていたのは薄汚れた騎士の男。

「陛下ッ! 御無事ですかッ!?」

「ファ……ファルランケス卿!? 生きていたのかッ!?」

 それは、アンカース領での戦いで行方不明となっていた貴族、ファルランケスである。
 その格好は、如何にも激しい戦いに身を投じてきましたと言わんばかり。
 格式のあるプレートアーマーは泥に塗れ、その手には抜き身のショートソード。
 急いだ為か、肩で息をする様子が窺える。

「我が国の一大事だと知り、全軍をもって駆け付けた次第にございます! ご覧ください! 我が軍の勇姿を!」

 そう言われたら、確認したくなってしまうのが人の性。
 全員が全員、大窓に駆け寄りファルランケスの指さす方を覗き込む。
 そこには目を見張るほどの大軍勢。憎きアンデッド共を一網打尽にするファルランケス軍の勇姿――が、広がってはいなかった。
 これといって特に変わった様子は見られず、目を凝らして隅々まで探してみるも、やはり結果は変わらない。

 質の悪い冗談なのかと憤り、ファルランケスを問い質そうとアルバートが振り返ると、そこには信じがたい光景が広がっていた。

「ぐはッ……!」

「バイアス公ッ!?」

 ファルランケスのショートソードが、バイアスを貫いていたのだ。
 背中から一突き。胸から飛び出たそれを、バイアスは信じがたい表情で凝視する。

「……ファルランケス……貴様ッ……!」

 ファルランケスは満足そうに目を細めた。バイアスの体が崩れ落ちるのを見届けると、歪んだ笑みを浮かべる。

「フヒヒッ……。まずは1人……」

 ゆっくりと引き抜かれたショートソード。その刃先から滴る血が、赤いカーペットに静かに染み込んでいく。

 そこに、皆の知るファルランケスはいなかった。
 歓びに満ちた笑みはどこか狂気じみていて、快感を覚えたかのようなその目は、次の獲物に狙いを定めていた。

「や……やめろ! ファルランケス!」

 その視線の先にいたのは、アルバートだ。
 ファルランケスが地を蹴り、アルバートに飛び掛かる。重いプレートの鎧をものともしないその跳躍力は、最早人ではない何か。

「ひぃぃッ!?」

 振り下ろされた真っ赤なショートソード。予想外の出来事に皆が動けず、もうダメかと思われた矢先。
 唯一動けたレイヴンが、間一髪その刃を己の剣で受け止めたのだ。

「陛下! お逃げ下さいッ!」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...