生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第628話 就職説明会

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「実は、ウチの書記官が補佐を探してるんだが……。ロバート、執政官に興味はないか? 報酬は応相談だが、最低でもギルド支部長だった頃と同額は保証しよう。福利厚生の一環として、市庁舎の余ってる部屋を社宅として使ってもらって構わない。もちろん家賃は無料だ。更に、今なら出血大サービス。家を建てるなら土地代はこっちが負担しよう。家自体はコット村の大工を使って建ててもらうことになるが、貸付金利は0%でいい」

「是非やらせてくださいッ!」

 ロバートの景気の良い返事を聞けたところで、市庁舎へと場所を移す為、一旦人材派遣組合を後にする。
 食堂では、ロバートの家族と軽い挨拶と自己紹介を交わし、荷物を全て外に出した。
 なんというか、まるで夜逃げでもしてきたかのような仰々しさだ。

「では、仮住まいとなる市庁舎まで案内します。ついて来て下さい」

「……え? あの……荷物は?」

 家具以外は全て持って来たとでも言わんばかりの量。荷車がなければ何往復か必要だが、俺がいるならそれも不要だ。

「心配しないでください。コイツらに運ばせますから」

 ボコボコと音を立てながら盛り上がる地面。そこから姿を現したのは、2匹のデスナイト。
 それを、ただ茫然と眺めるだけのロバート一家。デスナイトはそれを気にも留めずに、目の前の荷物を易々持ち上げ両肩に担ぐと、市庁舎の方へ歩き出す。
 この村の門を潜る時、デスナイトは見ているはず。故に騒ぎこそしなかったものの、その衝撃は開いた口が塞がらないといったところか。
 それも当然。我が物顔で歩いて行くデスナイトに、周囲の人々は全くと言っていいほど反応を示していない。
 コット村ではそれが当たり前であり、異質なのは自分たちなのだと理解するには十分な光景。
 少々荒療治ではあるが、それも早く村に慣れてもらうためである。

 そのまま3人を市庁舎に案内、適当な空室を宛がうと、ロバートだけを別室に呼び出し就職説明会を開始する。
 勿論、仕事内容の説明などではない。まずは村の内情を知ってもらう事からだ。

「ロバート。先程はメリットばかりを話したが、当然デメリットも存在する。引き返すなら今のうちだ。俺がこれから話す事を聞いてしまったら、二度とギルドには戻れないだろう。裏切者には死を! ……とまでは言わないが、その程度の覚悟は持ってもらいたい。それを踏まえて、村への移住を再考してほしい」

「ギルド勤めより待遇がよく、小さな領地とはいえ執政官という役職。領主様の傍仕えなど、なろうと思ってなれるものではない。大出世と言ってもいいでしょう。妻も喜んでくれましたし、逆にこれだけの条件を提示され裏切る方がどうかしている。 再考する余地があるようには思えません。……ただ、ギルドに戻れなくなる理由というのは、些か気にはなりますが……」

「ギルドとは、あまり仲が良くない組織と懇意にしているからだ」

 それには顔を強張らせるロバート。しかし、それも一瞬だ。
 嫌悪感をあからさまにするような様子もなく、静かに頷くのみだった。

「なるほど……」

「なんだ。あまり驚かないんだな……」

「死霊術と言えば、闇魔法の代表格。繋がりがあっても不思議ではないでしょう。そう考えれば、村にギルドを置きたくないのも頷ける……」

「まぁそれだけじゃないんだが……。気持ちは変わらないんだな?」

「はい。九条様には、絶対の忠誠をお約束します。私は、どうなろうと構わないのですよ。妻と娘が不自由なく暮らしていければそれで……」

「そこまで畏まる必要はない。ネクロガルドのことが飲み込めたのなら後は慣れみたいなもんだ。それほど心配しなくていい。最初は覚える事も多いだろうが、過度な労働を強いたりはしないから安心してくれ」

 ギルドの支部長だったロバートも、結局は父親。その心の中には、家族がいつも第一にいるのだ。
 仕事は、それを守るための1つの手段に過ぎないのだろう。

 その流れで、村の現状と仲間達の紹介を口頭でしておく。
 シャーリーとアーニャ、そして人材派遣組合の職員達は言わずもがな。問題は人外の方。従魔を除いた、魔に属する者たちのことだ。
 村の中での争いは厳禁。これだけなら何処もそうだろうというツッコミが返ってくるが、コット村だけは違う。
 その対象に、獣や魔物までをも含んでいるからだ。

「従魔やアンデッドのみならず、ゴブリンを住まわせているのですか!?」

「ああ。ダンジョンから出てくることはないし、基本的には無害だから……」

「そうでしたか……。ならよかった。ダンジョンでの話なら、私にはあまり関係が……」

「いや、執務室がダンジョンにあるから、顔を合わせる事はあると思うぞ?」

「なんで、ダンジョンに執務室があるんですか!?」

 慌てたり落ち着いたりと忙しく顔色を変えるロバート。その様子は滑稽だが、疑問としては至極当然。
 地下に執務室を置いているのなんて、恐らくはドワーフくらいなものだろう。

「領主としての執務は、書記官であるバルザックに一任してるんだ。それがまぁ、ダンジョンでしか生きていく事ができない身体でな……」

 生前のバルザックがアンカース領の領主であったこと。そして、それが俺の魔力で一時的によみがえっている事を素直に話すと、一応はロバートも納得した様子を見せた。

「なるほど……。死霊術を極めると、そんなことまで可能なのですね……」

「ああ。生きているようには見えるが、分類的にはアンデッド――になると思う……。バルザックの他にもう1名、紹介したい奴がいるからついて来てくれ」


 部屋を出て地下へ入ると、長い通路を抜け、執務室へと辿り着く。

「おーっす。補佐役を連れてきたぞ」

「おぉ、意外と早かったな」

 書斎机に向かっていたバルザックが顔を上げ、ペンを机に置くと、凝り固まった肩を解すように腕をぐるぐる回す。
 恐らくは、生きていた頃のクセなのだろうが、その仕草はどう見ても生きている人間そのものだ。

「紹介しよう。冒険者ギルドで王都の支部長を務めていたロバートだ」

「なっ……まさか、攫ってきたのか!?」

「んなわけあるか。クビになったって言うから拾ったんだよ。……まぁその原因には、俺も1枚噛んでいるようなもんだが……」

「ほう。是非事の経緯を聞きたいものだ」

「それは、俺のいないところでロバートから聞いてくれ。それよりも……」

 俺がロバートに目配せすると、一歩前へ出たロバートは丁寧に頭を下げる。

「お初にお目にかかりますバルザック様。九条様より執政官として雇われる事となりましたロバートです。ご指導のほど、よろしくお願いします」

「書記官のバルザックだ。歓迎しよう」

 机を跨ぎ、しっかりと交わされる握手。両者とも笑顔ではあるのだが、ロバートから感じる僅かな違和感は、錯覚などではない。

「本当に死者なのですね……」

 ある意味、それもアンデッドを見分ける1つの術。ロバートは、握った手から奪われていく熱で確信を得たのだ。
 生きていないということは、その身体は代謝をしていないということ。結果体温が極端に低いのである。

「意外と快適だぞ? 24時間戦えるからの」

「ハハハ……。私は、ご遠慮させていただきます……」

 ロバートの顔は今日イチで引きつっていた。
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