生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第629話 最大のデメリット

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「早速ですが、ロバートとバルザックさんは、話し合って役割分担の取り決めをお願いします」

 領主の補佐――と言っても、ロバートにとってはそう難しい事でもないだろう。
 管理するのが、冒険者から村に変わっただけ。それに、こちらには元領主のプロがいる。新人への教育体制は万全だ。
 ロバートが務める執政官の役割は、領内全般の監督。それには税などのお金の管理も含まれる。
 対して、バルザックを書記官としたのは、文書の作成だけでなく、領内の記録、書簡の管理、外交文書や契約書等ありとあらゆる書類に目を通すから。
 要は、地上のロバートが実務をこなし、地下のバルザックがそれをチェックするという2段体制にすれば、その分バルザックが楽になるということだ。

「九条様は、参加されないのですか?」

「ええ、俺はフードルを呼びに行ってくるんで。すぐ戻ってきますから」

 決して面倒だから逃げてしまおうという訳ではない。こういうのは、実務を担う者同士で話し合うのが一番だ。
 そう考えると、俺の役割はお飾りの領主――といったところか……。自分で言っていて悲しくなるが、余計な事を言って現場をかき回す無能よりはマシだろう。

 執務室を出ると、ダンジョンをより深くへと潜って行く。住めば都とはよく言ったもので、初期の頃の嫌悪感は全くない。
 俺の魔力で満たされているからなのか、薄暗い闇の中で感じる静寂でさえ、心地よいとさえ思えるほどだ。

「さて……。どうやって、フードルを紹介しよう……」

 これが、結構な難問である。魔族アレルギーとでも言うべきか……。この世界の人間は、魔族に非常に敏感だ。
 まさかショックで死んでしまう事はないとは思うが、気絶くらいならあり得る話。
 できるだけ穏便に済ませたいところだが……。

「話せばわかるのになぁ……」

「私は、そうは思いませんけどね」

 それを否定したのは、俺の隣に寄り添うようについて来る108番。
 その視線は進行方向へと向いてはいるが、ムスッとした表情はどう考えても虫の居所が悪そうだ。

「まぁ、その気持ちはわからなくもないが、そろそろ水に流してもいい頃だとは思うがな……」

「許せるわけがないでしょう! 彼等は魔王様を裏切ったんですよ!?」

 勇者が魔王を退けた時代より少し前。当時地上を支配し暴れていた三大厄災と呼ばれる魔獣たちを討ち取ったのが、魔王なのだとケシュアからは聞いた。
 その魔王をけしかけた――ではなく、魔王に助けを求めたのが、人族だったとファフナーは言っていたのだ。
 つまり、人族は助けてもらった恩を忘れ、魔王に反旗を翻したということになる。
 今まで俺には関係がないと耳を塞いできたが、ここまでの事を聞いてしまうと、流石の俺でも気にはなる。

「そうなった経緯を知らんから、軽はずみな事は言えんが、何故人間が裏切るような真似を?」

「それは、人間に聞いてくださいよ!」

 そりゃそうだ……。しかし、2000年も前の争いの発端など知っている者が生き残っているかどうか……。
 こう言っちゃなんだが、当時の人間達が何を考えて魔王に挑もうと思ったのかが、全くもってわからない。
 自分達でも敵わない三大厄災を倒せる魔王。それに牙を剥いたところで、勝てる見込みがあるとでも思っているのだろうか?
 時に感情は理屈を凌駕するが、個人ではない。魔王という恩人に反旗を翻してでも人族が団結する程なのだから、余程な事があったに違いない……。
 溜め込んだ恨みが爆発したのか……。それとも、魔王を亡き者にすることで得られる絶大なメリットか……。

 そんなこと考えていると、フードルの部屋の前へと辿り着く。

「フードル。今、大丈夫か?」

 ノックと同時に声を掛けると、その返事はすぐに返って来た。

「構わんよ。急ぎか?」

「いや、それほどでもないが、新しい仲間を紹介したいんだ。少し顔を貸してくれるだけでいい」

「お安い御用じゃ」

 すぐに出てきたフードルと一緒に、来た道を戻る。

「なんじゃ? ワシの顔に何かついておるか?」

「いや、魔族でも驚かれない紹介方法を考えていたんだが……。何か案はないか?」

「それは無理な相談じゃ。相手の目を潰すしかあるまいて」

 そりゃ、見えなければ恐れられる事もないという理屈はわからなくもないが、せめて相手を傷付けない方法でお願いしたい。

「さらっと恐ろしい事を言うんじゃねぇよ……」

 などと、ツッコミをいれたはいいものの、結局は何も思いつかず執務室の前まで戻る。
 ロバートが気絶しない事を祈りつつも溜息を1つ。フードルを部屋の前で待機させ、俺だけが先陣を切った。

「どうだ、話し合いは順調か?」

「おかえりなさいませ九条様。まだ半分程ですが、大分呑み込めてきました。後は実務を経験しながら……と、言ったところでしょうか……」

 ロバートによる笑顔での受け答えは、ギルド支部長として見せていた表情そのままだが、少し疲弊しているようにも見えた。
 それを顔に出さないプロ根性と、新たな仕事を早く覚えようというその気概は、流石という言葉以外に見当たらない。

「順調なようで何よりだが、先程も言った通り無理をさせるつもりはない。少し休憩にしようじゃないか」

 バルザックが机に広げた書類を束ね始めると、ロバートは立ち上がり部屋の扉に視線を向ける。

「それで、紹介したい人というのは……?」

 順を追って話していこう。まずは魔族であることを告げ、受け入れるまで姿を見せないようにすればいい。
 味方であることをしっかりと伝え、心の準備ができてからが本番だ。

「いや、それがな……。実は人間じゃなくてだな……」

「……魔族……なのでしょう?」

 ロバートは、眉間に僅かな皺を寄せながら静かに息を吐いた。その表情は、どこか諦めたような……。すべてを受け入れるしかないと決め込んだ人間特有の、鈍い無感情が滲み出ている。

「――ッ!?」

 まさかの発言に、驚くのがこちら側になるとは夢にも思わず、咄嗟に言葉を返せなかった。
 バルザックがネタばらしをしてしまったのかと視線を送るも、無言で首を横に振る。

「ロバート、もしかして知ってたのか?」

「いいえ? ですが、その表情だけで十分です。デメリットが紹介されるとわかっていて、魔獣に魔物……とくれば、次に何が来るのかは大体予想がつきます」

 洞察力が鋭いのか、俺がマヌケなだけなのか……。どちらにせよ話が早くて助かる。
 それを知りつつも、逃げ出そうとしないのだ。覚悟は出来ている――ということなのだろう。

「フードル。出てきていいぞ」

 俺がそう声を掛けると、部屋の扉がゆっくりと開き、フードルがその姿を見せる。
 闇に紛れる暗い肌。それに映える白髪の隙間からは、天を突かんとするほどの立派な片角。年老いてはいるが、紅く輝く瞳の色は禍々しいという言葉がピッタリだ。
 ロバートと魔族、初めての邂逅。
 緊張の瞬間である。俺とバルザックがその様子を固唾をのんで見守る中、フードルの口からは、わざとらしい咳払いと共にあり得ない言葉が飛び出した。

「えーゴホン。……1番フードル、歌います。……みっちゃん♪みーちみーち、うんk……」

「ちょっと待てぇぇぃ!」
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