生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第649話 仮面の友情

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 ガストンに付き合い、イーミアルの愚痴を聞いてやること1時間。
 リリーはまだ笑顔を絶やしてはいないが、ニールセン公はそろそろ限界。何時まで話しているんだと言わんばかりの視線を、俺に向けてくる。
 それは相手に言ってくれ――と、言いたいところではあるが、確かに時間を掛けている暇はない。

「ガストンさんにとって、この魔導船は子供のようなもの。運搬は分解しない方向で行う事をお約束します」

 相手の意向に沿う形になってしまったが、どちらにせよやる事は変わらない。
 それを聞き、ガストンは当然だと胸を張るのかと思いきや、逆に肩を落とし深く息を吐き出した。

「無理を言っているのは理解している。そのうえで、その選択に至ってくれたことに感謝する」

 下げられた頭に、微笑み返す。ガストンは、ただ不安であっただけなのかもしれない。
 直属の上司だろうイーミアルが、訳もわからぬまま俺達と敵対し、そして敗れた。
 ガストンを含めた魔導船の関係者たちも共犯だと判断されれば、異国の地で犯罪者として捕らえられる可能性だって充分あったはずなのだ。
 自分達の安全を保障していたアルバートは、もういない。そこに新たに就任した国のトップが、魔王と呼ばれる俺を連れて来れば、何かあると勘繰っても仕方ない。
 それでも、魔導船は守りたかった。真の技術者であるのなら、それは自分の命よりも大切な物なのだろう。

「では、九条にはハーヴェストまでの陸路を担当してもらいたい。グリムロックまでの曳航はこちらで手配しよう」

 ようやく話が進んだと、ホッと安堵の表情を浮かべるニールセン公。
 サザンゲイア国内での運搬許可を貰えるまでは、グリムロックに一時的に停泊させておく……という事なのだろう。
 その許可を貰うのは、当然俺の役目なのだろうが、随分と面倒な事になったものだ……。
 かといって、素直にアミーを助けたくて――とは言えないのが辛いところ。
 具体的な策は何も決まっておらず、ぶっつけ本番気味にはなるが仕方ない。後になって悩む時間を惜しむより、さっさと切り替えて行動に移した方が有意義だろう。

「すみません……。いつも頼ってばかりで……」

「いえいえ、確かに面倒ではありますが、ほかならぬ女王陛下の頼みですからね」

 言葉の端に滲む皮肉を察したのか、少しだけ頬を膨らませるリリー。それでも、どこか安堵したように微笑む姿は、それだけ信用されている証だろう。

「とはいえ、そのまま運ぶとなると下準備が必要ですね……。頑丈なロープは必須……あとは運搬中、倒れないような支えがあれば……」

 俺だけの力で……となると、ハーヴェストまで2週間……。いや、もっとかかるかもしれない。

「イーミアルの使っていたクレイシンセサイザーって、どうなりました?」

「残念ながら、破損が酷く修復は難しいとギルドから通達が……」

「……でしょうね……」

「えぇ……。九条ってば、知ってて聞いたんですか?」

 口を尖らせるリリーに、慌てて言い訳を考える。

「あぁ、いや、結構な破損だと聞いていたので、直らない可能性もあるかなと……」

 クレイシンセサイザーで巨大ゴーレムを作り出し、それに引かせればと頭を過るも、スタッグギルドに所属するプラチナプレートの錬金術師モラクスはもういない。
 もしかしたらと聞いてはみたが、案の定といったところか……。

「そうなると、皆の力を借りるしかないか……。時間があれば、色々と試せるんだがなぁ……」

 腕を組み、魔導船の運搬方法を本格的に考える。幾つか心当たりはあるが、なにせ時間が足りない。
 眉間にシワを寄せ、あーでもないこーでもないと唸っていると、そんな俺の前でリリーは不思議そうに首を傾げた。

「アンデッドか従魔達に引っ張ってもらう以外に、何か方法があると?」

「え? そうですね。蒸気の力を利用するか、上昇気流……。巨大な熱気球とかで重量の軽減が出来れば、少ない労力でも運搬は可能だと思います。ただ、試すとなると相当な時間がかかるので、結果からいえば引っ張った方が早いかと……」

 魔法という便利な力があるのだ。それを使えば、俺の世界で使われていた動力機関のような物を再現できるかもしれない。
 炉で水を熱し、水蒸気でピストンや歯車を回せば蒸気機関として機能し、船体の下に強力な上昇気流を発生させれば、ホバークラフトの真似事も出来るだろう。

「それはどういう……」

 俺の言っている事の半分もわからなかった。そんな表情のリリーが更に首を傾けると、そこへ突如割って入ってきたのはガストンである。

「その話、もう少し詳しく!」

 若干白濁した瞳を見開き、俺へと詰め寄るその勢いにハッとした。正直、油断していたと言わざるを得ない。
 共通の話題をきっかけに打ち解けたガストンだったが、よくよく考えたら相手は他国の技術者だ。敵対している訳ではないが、友好国でもない。
 ペラペラと喋っていい内容ではないことに、今更ながらに思い出した。
 元の世界でも蒸気機関は、産業革命起こしたと言われるほどの発明。それがこの世界に及ぼす影響は、考えずともわかること。

「あ、えーっと……」

 どうやって誤魔化そうかと思案していると、突如地面が波打つように揺れ動き、大地が唸りを上げた。

「地震か!?」

 魔導船を囲んでいた足場は軋み、テントの梁りが悲鳴を上げる。
 足元が定まらず、転ばないよう耐えていると、巨大な影がテントを覆う。

「ようやく見つけたぞ。我を呼びつけておいて、こんなところで油を売っているとは……」

 振り返るとテントの出入口から覗いていたのは、コバルトブルーの大きな瞳。黒き厄災ファフナーである。
 時間の関係で、出番があるかも――と、108番経由で声を掛けてはいたのだが、まさかこのタイミングで現れるとは……。

「――ッ!?」

 突然の出来事に、脱兎のごとく逃げ出したガストンを視界の端で捉えながらも、ホッと一息。

「いや、呼び出すかもと言っただけで……」

 108番の伝え方が悪かったのか、ただファフナーが暇だっただけなのか……。
 どちらにせよ、助かったと言わざるを得ない。

「そうだ。どうせならちょっと手伝ってくれ。コイツをエルフの国まで運びたいんだが、どうにかならないか?」

 俺が魔導船を指差して見せると、ファフナーは目の前のテントを、まるでお鍋の蓋のように持ち上げ、それを一瞥。

「ふむ……。壊れてしまっても良ければ可能だが?」

「じゃぁ、ダメだわ……」

 既に一度、炎上していて強度が落ちている事に加え、帆船ほどの重量物となると、繊細な運搬は難しいのだろう。
 そもそもの形状が掴みづらい上に、両脇に備えるボトルはガラス製のようにも見え、酷く脆そうである。
 それを、ファフナーの大きな鉤爪で掴むのだ。割れるどころか、船体でも穴が開いてしまいそう。
 かといって、そんじょそこらのロープでは吊り上げるほどの強度はなく、耐えられるだけの鎖やワイヤーを作成している時間はない。

「しゃーない。お使いを頼むようでファフナーには申し訳ないが、ワダツミとカイエンを連れて来てくれ」
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