生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
648 / 722

第648話 ついでのレベルを超えたついで

しおりを挟む
「そうだ、九条。サザンゲイアに行くのなら、ついでに頼まれてほしい事があるのですが……」

 そう言われて、リリーに王宮から連れ出されると、何故か馬車に乗る羽目に。
 サザンゲイアに行くついでにされるお願いなど想像出来ず、頭を悩ませていると、馬車は東門から王都の外へ。
 そのまま、およそ2キロほど。見えてきたのは草原に建てられていた巨大なテント。
 その色は地味だが、まるで現代のサーカスを思わせる大きさに呆けていると、馬車はその出入口で足を止めた。

「あー、コレね……」

 馬車の窓からでもハッキリ見える巨体。テントの中にあったのは、地面に横倒しになっている帆船。エルフ達が乗ってきた飛翔魔導船である。
 全体的に煤けているのは、トラちゃんの落雷で発生した火災が原因だろう。その周りは、木製の足場に覆われていて、造船所というよりはさながら建築現場である。
 帆船といっても少々特殊。両脇に備え付けている巨大なボトルは浮き輪のようにも見えるのだが、半透明のそれには怪しげな液体が僅かに残留していた。

「これを、どうにかリブレスに返還したいのですが……」

 俺の来訪に丁度良かった――と言っていたのは、このことだったのかと腑に落ちるも、正直言って面倒臭い。
 それに時間も余っているとは言い難い状況だ。

「うーん。気持ちよさそうに寝ていますし、そっとしておいてあげましょう」

 それに、吹き出したのはミア。つられて、ニールセン公とリリーも口元を緩めたが、俺は結構本気だったりする。

「所有権をエルフ側に認めているだけでも充分だと思うんですがね。イーミアルと敵対して勝利したのは俺達な訳で、接収されないだけマシなのでは? 返してほしけりゃ取りに来い――ってのが、筋ってもんでしょう」

「それは、理解しているのですが……」

 破壊したのはトラちゃんだが、その責はアルバート側が負うとのことで、修理費の全額を負担していたのは知っている。
 そこから状況は一変。イーミアルがアルバートに加担し、敗北。さらには国家の統合で状況はより複雑に……。
 魔導船はもふもふアニマルキングダムが戦利品として接収。リブレス側に所有権はない――と主張してもいい気はするのだが、国防の要だろうイーミアルを亡くし、更に魔導船まで奪われては、遺恨が残るのは当然。
 両国の情勢を鑑みれば、さっさと返して関係を清算しておきたい――というのが、リリーの本音なのだろう。

 確かに、サザンゲイアを通らなければリブレスには入国出来ないので、ついでに――と頼まれるのも頷ける。
 先程言っていた親書も、謝辞だけではなく、通行の許可を求める為には丁度いい。

「でもこれ、結構な労力ですよ?」

 魔導船を見上げ、運搬方法を模索する。どうにかしたいと俺に相談するくらいなのだから、自力で飛ぶのは難しいはず。
 そうなると、運搬方法は大きく分けて2つ。そのまま運ぶか、分解して小分けで運ぶかだ。
 そのままとなれば、原始的な方法を用いるしかない。地面に並べた幾つもの丸太の上を転がす方法。もしくは、巨大な車輪付きの荷台を作り、それに乗せ牽引する。
 どちらにせよ、運搬物がこれほど巨大であれば、ハーヴェストまでの街道の補強や拡張工事も必要不可欠。

「分解した方が楽ですかね。組み立てはリブレスの方でやってもらって……」

「これを分解するなど、とんでもない!」

 その声は、魔導船の内部から聞こえた。

「我等が錬金術の集大成。お前達人間では、この先何百年かかろうとも追い付けやしないだろう最先端技術の塊なんだぞ!?」

 魔導船の船首から、ひょっこり顔を覗かせたのは、顎髭を生やしたハイエルフの御老体。
 険しい顔つきは、見るからに頑固なジジイ。歳の所為か、頭の白髪は薄めで背も低い。片目に付けたモノクルは研究者を思わせるが、革製のエプロンは作業者の証。
 動き辛そうなローブを翻し、足場をゆっくり降りてくると、俺の前でふんぞり返る。

「えーっと……。紹介しますね。この魔導船の修理を監督している錬金術師のガストンさんです」

「はぁ、九条です」

 リリーからそう紹介されたからには挨拶をと手を差し出すも、返って来たのは高圧的な視線だけ。
 案の定と言うべきか、俺は慣れているので構わないが、他国の女王がこうして出向いているのだから、最低限の礼儀くらいは弁えてほしいものである。

「運ぶなら分解は許さん。細心の注意を払い、丁重に扱え」

 何様のつもりだと声を荒げたい衝動に駆られつつも、ここは大きく深呼吸。
 リリーに付き従ってきたネストやバイスの気苦労を今更肌で感じつつも、ひとまずは歩み寄っておく。

「そもそも、これが飛べば分解する必要もなくなるのですが、どうにかならないんです?」

「無理だな。魔力結晶炉が無き今、出来る事は何もない」

 技術者の悪いクセである。無知をバカにしたいのか、それとも相手に合わせて話す事すらできないのか……。
 一般的でない固有名詞を、あたかも常識かのように話すのは、やめてもらいたいものだ。

「魔力結晶炉?」

「魔力結晶炉は、魔導船の中でも重要な役割を果たす魔道具。だが、詳しくは教えられん。まぁ、言ったところで理解は出来んだろうがな」

 いちいち癇に障る喋り方は、どうにかならんものか……。
 といっても、魔導船を運ぶまでの間、我慢すればいいだけ。目くじらを立てるほどではないのだが、少しだけ皮肉を言って返す。

「そんなに大事な物だったら、もう少し頑丈にしておくべきでしたね」

「まだ、壊れたと決まった訳ではない!」

 気分を害すだろうなぁ――と思った通り噛みついてきたが、その内容は俺の予想とは少々違った。
 トラちゃんの落雷に撃ち落とされ、修復不可能になってしまったのかと思っていたが、どうやらそうではない様子。

「実はな、九条……」

 そう言って、事のあらましを語ってくれたのはニールセン公。
 どうやら、その魔力結晶炉とやらを持ち出したのはイーミアルであるらしく、まだ返却されていないとのこと。
 その後、イーミアルの痕跡を辿り捜索はしたらしいのだが、未だ発見には至っておらず……という状況らしい。

「あー、なるほど……」

 アルバートが、イーミアルに貸し与えたクレイシンセサイザーの性能。そしてシャーリーから聞いた戦場での様子を鑑みれば、魔力結晶炉がどのような魔道具であったのかは、想像に難くない。
 何らかの方法で魔力を増幅、もしくは発生させる装置なのだろう。
 どういう形状の物かは知らないが、持ち歩ける程度のサイズであれば、蒸発……とまでは言わずとも、修復不能なほどに砕けてしまっている可能性が高い。

 見つけたところで壊れてたら意味ねぇじゃん――と、言いたいところをグッと堪え、先手必勝謝罪の構え。

「申し訳ありません。俺の所為で……。なんと、お詫びを申し上げたらいいか……」

 もちろん、口から出まかせだ。こちらに非があるとは微塵も感じておらず、当然ながら、それに関する保証や補填をするつもりも全くない。
 ただ、このまま言い争っても不毛なので、早めに下手に出ておこうという作戦である。
 要は、怒るだろうタイミングをなくしてしまえばいいのだ。
 こういうタイプは、素直に話を聞いているふりをすれば、どうにかなることが多い。
 元の世界から活用してきた、坊主なりの処世術――なのだが、それは意外にも当てが外れた。

「違う。別にお前さんを攻めている訳じゃない。イーミアルが、勝手に持ち出さなければ、こうはならんかった」

 まさかの返答に困惑していると、ガストンからは、イーミアルへの不満が次々と飛び出してくる。
 所謂パワハラ気質であったらしく、ガストンにはイーミアルの死を悼む様子すらなかった。むしろ、いなくなって清々した――とまで言い出す始末。
 死者に鞭を打つな――とは言わないが、これも因果応報か……。魔術師としては優秀だったが、上司としては向いていなかったようである。

「まだ、未完成だと言ったのだ。それなのに、私の船をまるで自分の物のように扱いおって……」

 そりゃ自分の研究成果が盗られたとあっては、憤慨するのも頷ける。
 そのイライラの原因は、俺ではなくイーミアルに向けられていたもの。それを聞いている内に俺も昔の事を思い出し、つい口を滑らせる。

「確かに、あの威圧的で横柄な態度には、辟易とさせれられましたね……」

 それを聞いたガストンは驚いたように俺を見上げ、ニヤリと口元をほころばせると、俺の腰をバシバシと叩く。

「ワハハ! なんだ、お前。人のクセに、意外と物わかりがいいじゃねぇか!」

 気付けば、先程までの苛立ちが、まるで嘘であるかのような物腰の柔らかさ。
 共通の敵がいると、人はこうも距離が縮まるものなのかと思いながらも、そのまま意気投合してしまうというまさかの結果に、リリーとニールセン公の口は、暫く開いたままになっていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...