生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第669話 揺れる想い

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 陽光の届かぬ地下都市の一角。そこに広がる繁華街は、まるで地上の昼を封じ込めたかのような明るさと活気に満ちていた。
 頑健なドワーフの商人に混じり、冒険者風の旅人や他種族の姿もちらほらと見える。

「おにーちゃん、大丈夫そ?」

「まぁ、何とかなるだろ。エルザもイケるって言ってたし……」

 エクアレイス王国の使者としての仕事を終え、魔導船への帰り道。迎えの馬車をやんわりと断り、観光がてら街を歩く。
 クリスとの関係を疑われない為にも、ここである程度目立っておく必要があるので、そういう意味では丁度良い。
 ミアとカガリのコンビは、相変わらず注目の的だ。

 トゥームレイズでの滞在期間は、オーガ討伐のキャラバンが帰還するまで。
 若干の気掛かりは、魔物退治を引き受けた所為で、初めての街なのに素直に楽しめないミアが、少々不憫に思えてしまうことくらい。
 そこはさっさと依頼を完了させて、気兼ねなくはしゃいでもらうとしよう。

「でも、神様の木だよ?」

 そう言われると、若干罰当たりな気がしないでもないが、放置する訳にもいかんだろう。
 人に害をなすならば、それが神の木だろうと魔物だろうとやる事は同じだ。

「神様にお願いしたら、どうにかしてくれないかなぁ?」

「うーん。神様が話を聞いてくれるなら、最初からこうはなってないと思うんだがなぁ……」

 エルフ達が世界樹を管理しているなら、これは立派な侵略行為。放っておけば、ドワーフたちにより世界樹の根が傷付けられるのは確定しているのだ。
 それでも傍観するというのなら、それが答えなのだろう。
 だが、ミアの気持ちもわからなくもない。自分の命は、神の使いである天使により救われた。
 それを踏まえれば、ヴィルザール教の信者程ではないにしろ、出来れば穏便に――というのが本音であり、俺としても、その想いは尊重してやりたい。

「寝る前に、天使様を呼んでみるか……。こっちの世界に来てから、数回だが枕元に立ったことがあってな」

「そうなの!」

「ああ。……上手くいくかはわからんが、それで解決するなら、その方が楽ではあるしな」

「うん!」

 そこからは、いつものミアだった。片手を伸ばし珍しい物を見つけては、指さして楽しげに笑う。
 騒がしく響く酒場の音楽も、異国特有の嗅いだことのない独特な香りも。ミアにとっては、何もかもが新鮮だ。
 物珍しさに首を振り回しすぎて、カガリから落ちそうになるのもご愛敬。魔導船までの道のりは、小鳥のように軽やかだった。


 魔導船に帰ると、出迎えてくれたシャーリーたちに状況を説明する。

「……で、私の出番ってワケ?」

「無理にとは言わんが、いてくれると助かる」

「任せてヨ! 魔王の右腕たるこの私が……」

「それで、何時出発するのだ!?」

 胸を叩き、大見得を切ったシャーリーの発言を遮り、横から顔を覗かせたのはワダツミだ。
 ニヤリと口角を上げ、大きな牙がギラリと光る。荒い鼻息は、やる気の表れだろう。
 一方のコクセイは、ワダツミとは正反対。甲板の隅で伏せたまま視線だけを向けている。

「どうしたコクセイ。調子が悪いのか?」

「別にそんなことはない。九条殿を手伝うこともやぶさかではないのだが。……木の根っこは食えんだろ?」

「あぁ……そっちね……」

 まさかの理由に、脱力する。
 カイエンの影に隠れてはいたが、コクセイも結構な食いしん坊だったのを忘れていた。

「それで? 相手の情報は?」

 ワダツミをぐいぐいと押しのけ、俺の正面に立つシャーリー。既に息が切れているのだが、大丈夫だろうか?

「詳細は、わかる範囲で聞いてはきたが、正直充分とは言えないな……」

 人の形をとる木の根っこ。例えるなら、ベヒモス戦でケシュアが見せたトレントを小型にし、より人の形に近づけたもの――とのこと。
 その一部が世界樹の根に繋がっているらしく、行動範囲はその長さの分だけ。故に、こちらから近づかなければ襲ってくることはないらしい。
 見た目とは裏腹に、その硬度は非常に高く、切り裂く事は叶わない。木製だからと安直に焼き払おうとしたらしいが、炎が
 燃え移るまでには至らず、決定打になるような対策は見つかっていないというのが現状だ。

「それなら、遠距離から弓か魔法で、集中砲火……でなんとかならない?」

「行動範囲はそれほど広くないようだが、射程距離がな……。細い木の根を槍のように伸ばしてくるらしい」

「なるほど……。一度敵対すれば、相当な射程距離を持ってるってわけね……」

「倒せればベストだが、最悪時間稼ぎと足止めが出来ればそれでいい。世界樹の根から分裂した人型の魔物……。ルートホロウと呼ぶことにしたらしいが、俺達がその気を引いている間に、根っこの元を切断してしまおうというのが、今回の作戦だ」

 ザルマン曰く、ミスリル製の巨大なノコギリを作成中とのことで、それが出来上がり次第、作戦決行となる見込みだ。

「足止めかぁ……。そうなると、カイエンを連れて来られなかったのが痛いわね……」

「デカいからな……」

 連れて来ている従魔は、カガリとワダツミとコクセイ。ピーちゃんは、クリスを見守っているため別行動だ。
 カイエンがいれば、今回もワダツミとのコンビで猛威を振るったのだが、残念ながらサイズの関係でお留守番。

「そうだ。シャーリーは、除草剤って知ってるか?」

「ジョソーザイ?」

「俺の世界には、草木を枯らす薬ってのがあったんだが……」

 そもそも、除草剤が世界樹に効くのかは甚だ疑問ではあるが、万が一の保険として考えてはいた。
 それには、シャーリーだけではなく、隣のミアも無言で首を横に振る。

「……だったら、ガストンさんに聞いてみたら? 薬剤関係の話は錬金術師の領分だし」

「それは、ちょっと無神経すぎやしないか?」

 自然を愛し、森を傷付ける行為を極端に嫌うエルフたち。その一員であるガストンに、植物を枯らす薬を作れないかと相談するのも、いかがなものか……。しかも、世界樹……。
 例えるならヴィーガンに、肉の美味しい調理法を聞いているようなものである。

「……で、そのガストンさんは? まだ機関室か?」

「ううん、なんか暇だからって街に繰り出して行ったわよ?」

「またかよ……」

 出歩くな――とは言っていないが、なんとも落ち着きのない爺さんである……。
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