生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第670話 情報は毒よりも強く

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 魔導船で、ガストンの帰りを待つこと数時間。ようやく帰ってきたガストンは、何処か満足気な表情だ。

「おかえりなさい、ガストンさん。どこに行ってたんです?」

「あぁ、ちょいと野暮用でな」

 それを問い詰めたりはしないが、息抜きにでも出ていたのだろう。機嫌は良さそうに見える。

「ザルマン陛下との交渉の結果、サザンゲイア国内での魔導船の通行が許可されましたよ」

「ほう。難航するんじゃないかとも思っていたが、九条に間に入ってもらえて助かった……と、言うべきだろうな。感謝する」

 エルフとドワーフの確執を鑑みれば、確かに異例とも取れる判断だ。
 世界樹の根が現在進行形でサザンゲイアの地下を侵している状況にも拘らず、事を荒立てることなく目を瞑り、秘密裏に処理しようとするザルマンの懐の深さが窺い知れる。
 俺がザルマンの立場だったらバチクソに文句を言うし、魔導船も接収。通してほしけりゃ何とかしろと、語気を荒げていただろう。

「今後、魔導船に関することは、宰相のロルグラム様と詰めていただく事になりますので……」

「何から何まですまんな。恩に着るぞ」

 礼を言うのは、まだ早い。俺がルートホロウの排除に失敗すれば、流石のザルマンも手の平を返すかもしれない。
 そういう意味では、ガストンの今後は俺の双肩にかかっているとも言えるのだが、どちらにせよ魔導船運搬に関する業務が俺の手を離れたのは、喜ぶべき進捗である。

「交渉の日程など話す事もありますので、ひとまずは宿に向かうとしましょう」

「うむ。では準備してこよう。しばし待たれよ」

 船室へと戻るガストン。暫くすると、自家用ゴーレムと一緒に戻ってきた。

「……それ……連れて行くんですか?」

「いや、アリスは魔導船の見張りとして置いておく。私が船を離れたら、ドワーフどもが機関室に入るかもしれんじゃろう?」

 随分と用心深い事ではあるが、連れ歩くよりはマシか……。
 皆の視線の先にあるそれは、戦場に立つべく鍛え上げられた存在……にも拘らず、実に面妖なゴーレムだ。
 人間で言う頭に当たる部分には各種顔のパーツが描かれていて、その前衛的な美的感覚は正直受け入れがたいが、今回は輪をかけて酷い。
 身にまとっているのは淡いピンクのフリルがついた女性用のドレス。胸元には花の刺繍、腰にはリボン。ぶっとい足を無理やり収めたレース飾りのブーツまでが添えられている。

「どうだ? カワイイだろう?」

「え、ええ……。そっすね……」

 その姿は、戦闘兵器というより寸劇に駆り出された道化のようで、俺だけではない。シャーリーやミア、従魔達までもが、困惑の表情を浮かべていた。


 魔導船を降り、指定された宿に皆で向かう。
 大小様々な都市区画と、それを繋ぐトンネルを抜けた先で、重厚な金属製の門構えがひときわ目を引く建物がお出迎えだ。
 それは、王宮内ではないが、来賓専用と銘打たれた高級宿。
 外観は、デザインよりも性能優先と言わんばかりで、ドワーフ製が際立つ頑丈そうな作りの建物。
 壁は磨かれた花崗岩で組まれ、鉄で縁取られた窓枠には精緻な彫金が施されている。だが、そこに過剰な威圧感はなく、中から漏れる優しい光が、訪れる客を迎えていた。
 中に足を踏み入れれば、その精緻さはさらに際立つ。人間の体格に合わせて天井は高く、廊下も広々と設計。異邦の者でも圧迫感を覚えることはないだろう。
 床には厚手の織物が丁寧に敷かれ、土足であることが申し訳なく思ってしまうほどである。

「ようこそ、エクアレイス王国使節団の皆様。お待ちしておりました」

 ドワーフの女将だろう女性が深々と頭を下げると、そのまま案内された場所は2階の部屋……ではなくフロアそのもの。

「こちらの階層のお部屋は、全てお使いいただいて構いません」

 ひとつの大部屋に、全員がつっこまれるだろう事はないと思っていたが、フロア単位の貸し切りとは、恐れ入る。
 長い廊下にズラリと並ぶ扉の数は、20ほど。正直、その半分以下で充分なのだが、遠慮したところで逆に手間をかけるだけである。
 異邦の賓客として、名誉なことだと思い、ありがたく使わせてもらおう。

「ミアは、どの部屋がいい?」

「おにーちゃんと一緒なら、どこでも!」

 気遣いは無用と言う事か。まぁ、わかっていた答えではある。
 恐らく、部屋の間取りはどこも大して変わらない。更に言うなら地下都市であるが故に、窓から見える外の景色も期待するほどものではないだろう。

 それぞれが適当な部屋を選ぶ中、ひとまず一番近い扉を開けて部屋に入れば、その内側に広がるのは静寂と上質な空間。
 調度品は少ないが、ひとつひとつが一級品。特に暖炉を飾るマントルピースに彫り込まれた彫刻は、素晴らしいの一言に尽きる。

「じゃぁ、ちょっと出てくる」

「え、もう? どこいくの?」

「ガストンさんの部屋さ。目を離すと、またいなくなりそうだから早めにな」

 荷物を置くと、一息つく間もなく部屋を出る。
 静まり返った廊下。二つ隣の扉を叩くと、返ってきたガストンの声に安堵する。

「どうも。今、大丈夫ですか?」

「うむ」

 思った通り、部屋の内装は俺達の部屋と変わらない。最低限の調度品にベッドが2つ。
 一瞬、空いているベッドにガストンのゴーレムが横になっている姿を想像してしまい、自己嫌悪に陥るも、すぐにそれを振り払う。

「もう、宰相殿が参られるのか?」

「いえ、個人的にちょっと聞きたいことがありまして……。あぁ、そのまま聞いていただければ結構ですので」

 ベッドの下を覗き込んだり、引き出しという引き出しを開け放ってみたりと、忙しそうなガストンだが、その手を止めたのは一瞬だ。

「なんだ? クリスの事か?」

「いえ、確かにクリスの指導には感謝していますが、そうではなく……。どちらかと言えば、薬学について……」

「ふむ……。専門外だが、聞くだけ聞こう」

「ありがとうございます。……怒らないでほしいのですが、植物を枯らす薬――なんて作れたりはしませんか?」

 出来るだけ申し訳なさを前面に出し、恐る恐る聞いてみるも、ガストンは不思議そうにこちらを見ては、首を傾げただけ。

「ん? それは薬ではなく毒……ということか?」

 除草剤という名前から、薬であるという認識だったが、使われる側からすれば、それは確かに毒である。

「そう……なりますね」

「効果はどの程度を求めているのだ? その辺の雑草にでも撒くつもりか? それとも、しっかりと根を張った樹木か?」

「できれば、強力なヤツがいいのですが……」

 手を止めたガストンは、暫く考え込む素振りを見せ、溜息を一つ。

「すまんが、他を当たってくれ。専門外というのもあるが、樹木を枯らせてしまうほどの強力な毒であれば、それは呪いの領分だ。……呪術と錬金術、その両方に精通する者ならば、精製は可能やもしれん」

「そうですか……。無理を言ってすみません……」

「いや、かまわぬ。それよりも、話したいことはそれだけか?」

「いえ、最後にひとつ、とっておきが……」

 急に声のトーンを下げた所為か、エルフ特有の長い耳がピクリと僅かに反応し、ガストンは疑いの眼差しを俺に向ける。

「……とっておきだと?」

「ええ。クリスを指導してくれたお礼が、まだ出来ていませんでしたので」

「ほう。それで、その礼とは……」

「では、少しお耳を拝借……」
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