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第671話 蔓延ものに沈む街
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サザンゲイアの正規軍。戦士長ドログは、まさにドワーフの武勇を体現するような男だった。
厚みのある胸板と、岩のように隆起した腕が鎧の隙間から覗き、その全身に刻まれた無数の古傷が、激しい戦いを潜り抜けてきただろうことを物語っている。
正直ちょっと強面で話しかけ辛くはあるのだが、そんなドログに案内されつつ賑やかな地下都市の幾つかを跨ぐと、見えてきたのは通行止めとなっている大きなトンネル。
その奥は闇夜のように暗く、街の灯りは届いていなかった。
2人の見張りのドワーフが、急ごしらえだろう鉄格子に覆われた出入口に立ち、俺達に気付くと姿勢を正す。
「状況は?」
「今のところ、大きな変化は確認されておりません」
ドログの言葉に、返ってきたのは予想通りの回答。良くも悪くも現状維持とのことのようだ。
ガストンに除草剤の相談をしたのが3日前。結局それは手に入らず、ザルマンの言っていたミスリル製の特注ノコギリの方が先に完成してしまった為、多少の不安はありながらも作戦決行と相成った。
何か不測の事態が起きても、相手の行動範囲は限られているので、撤退は安易。それがわかっているだけでも、気が楽だ。
「では、行きましょう。九条殿」
開け放たれた鉄格子の扉を潜り、闇深いトンネルの奥へと歩みを進める団体。
世界樹の根っこを切り落とすドワーフ部隊とは別に、ルートホロウ討滅メンバーは俺とシャーリー。それに加えて従魔のワダツミとコクセイだ。
ミアとカガリは、エルザと共にお留守番。いや、後方指揮と言うべきか……。
「……ワシの魔力が残り僅かになったら撤退じゃ。いいな? シャーリーに無理をさせるんじゃないよ?」
「ああ。わかってるよ」
「……おにーちゃん、がんばってぇぇ……」
その声は、俺のローブの襟元に付けた小さなブローチから聞こえてきた。
それはエルザから一時的にと貸与された物。元の世界で言うところの、無線機と同等の役割を果たす魔道具だ。
エルザがシャーリーの身を案じているのは、竜の魂を維持しているから。
俺はそれを自分の魔力で運用できるが、シャーリーはそうじゃない。
エルザを参戦させるか迷ったのだが、獣術を維持しながらの戦闘は難しいとの事で、遠方からの後方支援に徹してもらう事となった。
「シャーリーは、どうだ?」
「なんだろう……。気分が高揚するって言うか、いつも以上に研ぎ澄まされてるって感じ? 今なら魔王だって倒せちゃいそう……。あっ、もちろん九条の事じゃないよ?」
「まぁ、その気持ちはよくわかるよ」
俺も、初めての時はそうだった。
目の前に立ちはだかる魔獣ベヒモスが、可愛く見えてしまうくらいには激的な変化を覚えたものだ。
「そろそろ、防衛ラインが見えてきますよ」
先導していたドログが手を上げて合図を送ると、俺達は足を止める。
「あそこです」
ドログが指差した場所は、まだトンネルの内部。まるでスコップで掘ったかのような深い溝が、横一文字に地面を分断している。
「え? まだトンネルを抜けてませんけど、ここまで攻撃が届くんですか?」
「はい。ここからは、警戒を怠らぬようお願いします」
一般的な馬車がすれ違えるほどには大きなトンネル。まだ都市区画にすら入っていないというのに、既に相手の射程内であるらしい。
ルートホロウの本体から撤退するには、ここまで逃げてこなければならないということ……。
恐らく、視覚ではない別の感覚で敵を認識、追尾してくるのだろうが、正直想像以上のしつこさである。
「……あぁ、いたいた。……うーん。結構強そうだなぁ……」
壁を睨みつけながらも、難しい顔を浮かべるシャーリー。
「どうだ? 勝てそうか?」
「うん。まぁ負けることはないかな。予定通り討滅優先で動いちゃっていいと思うけど、反応が不安定だから用心はしないとね」
「不安定?」
「トラッキングの反応が、一定じゃない魔物っているのよね。緩やかに強弱を繰り返してるって感じ? 主に実体のない魔物……。例えばゴーストとかレイスによくある現象で、感情とか状況の変化で強くなったり弱くなったりするのよ」
ここで相手が強すぎるから手を引く……なんて事はしないが、倒せるに越したことはない。
ドワーフのノコギリ部隊が世界樹の根を切り落とすまでの間、ルートホロウの足止めをするより、さっさと倒して高みの見物でもしていた方が有意義なのだが、油断は禁物という事か。
トンネルをさらに進んだ先、丁度都市区画への出入口がみえてくると、街の全容が明らかに。
「こりゃ酷い……」
地面に所狭しと張り巡らされた木の根。それは建物すら飲み込む勢いで、辺りは無数の瓦礫と崩れ落ちた石柱が通りを塞いでいた。
ただ木の根が伸びただけでは、こうはならない。恐らくは激しい戦闘の傷跡だろう。
廃墟……は少々言い過ぎだが、人気がないからか、雰囲気的には旧市街と言われた方が腑に落ちる。
「あれが、今回のターゲットです」
旧市街の中心地点。かつての広場だろう場所にある枯れた噴水と共に、項垂れるようにして立っていたのは、討伐対象のルートホロウ。
細い木の根が幾重にも絡まり、人の形をとっているそれは、完璧に近い女性像だ。
身長は2メートルほど。顔は目のあたりがくぼんでいるだけののっぺりとしたもの。スレンダーと言ってもいい体格で、木製の人形が樹皮の鎧を身に着けたかのような外観だ。
武器の類は見えないが、手から伸びた指が長く、そこだけが常人離れしている。
「どこまで、近づけるんですか?」
「ルートホロウへの攻撃と、その後方にある巨大な根に触りさえしなければ、襲ってくることはありません」
ルートホロウの後ろに見える壁は、どうやら巨大な根っこらしい。その大きさは直径にして5メートル以上。
その一部から飛び出た細根が、ルートホロウの背中に繋がっている。
「あれの出所を、我々が切断します。その間、ルートホロウの相手をお願いします」
「うへぇ……なんというか、気持ち悪いわね……」
ドログが指差した場所。はるか遠くに見える都市の外郭に出来た大きな横穴から、その根は伸びていた。
それを囲むように組まれた足場は、今回のため。しかし、それも飲み込まれ始めているのが見て取れる。
周囲に繁茂する小さな根は壁面をびっしりと覆い、幾重にも重なるそれが脳の表面のようにも見え、どこか鼓動すら感じさせる禍々しくも見える存在感。
それは植物とは思えぬほどに執拗で、どこまでも貪欲に空間を侵食していた。
その力強さは生きるためではなく、すべてを絡め取り、支配しようとするかのような厄介さとしつこさを漂わせている。
「じゃぁ、始めましょう。ドログさんたちが位置につき次第、攻撃を開始しますので」
「では、ご武運を……」
そう言って、ドログはドワーフの部隊を率いて穴の開いた外郭へと向かっていった。
厚みのある胸板と、岩のように隆起した腕が鎧の隙間から覗き、その全身に刻まれた無数の古傷が、激しい戦いを潜り抜けてきただろうことを物語っている。
正直ちょっと強面で話しかけ辛くはあるのだが、そんなドログに案内されつつ賑やかな地下都市の幾つかを跨ぐと、見えてきたのは通行止めとなっている大きなトンネル。
その奥は闇夜のように暗く、街の灯りは届いていなかった。
2人の見張りのドワーフが、急ごしらえだろう鉄格子に覆われた出入口に立ち、俺達に気付くと姿勢を正す。
「状況は?」
「今のところ、大きな変化は確認されておりません」
ドログの言葉に、返ってきたのは予想通りの回答。良くも悪くも現状維持とのことのようだ。
ガストンに除草剤の相談をしたのが3日前。結局それは手に入らず、ザルマンの言っていたミスリル製の特注ノコギリの方が先に完成してしまった為、多少の不安はありながらも作戦決行と相成った。
何か不測の事態が起きても、相手の行動範囲は限られているので、撤退は安易。それがわかっているだけでも、気が楽だ。
「では、行きましょう。九条殿」
開け放たれた鉄格子の扉を潜り、闇深いトンネルの奥へと歩みを進める団体。
世界樹の根っこを切り落とすドワーフ部隊とは別に、ルートホロウ討滅メンバーは俺とシャーリー。それに加えて従魔のワダツミとコクセイだ。
ミアとカガリは、エルザと共にお留守番。いや、後方指揮と言うべきか……。
「……ワシの魔力が残り僅かになったら撤退じゃ。いいな? シャーリーに無理をさせるんじゃないよ?」
「ああ。わかってるよ」
「……おにーちゃん、がんばってぇぇ……」
その声は、俺のローブの襟元に付けた小さなブローチから聞こえてきた。
それはエルザから一時的にと貸与された物。元の世界で言うところの、無線機と同等の役割を果たす魔道具だ。
エルザがシャーリーの身を案じているのは、竜の魂を維持しているから。
俺はそれを自分の魔力で運用できるが、シャーリーはそうじゃない。
エルザを参戦させるか迷ったのだが、獣術を維持しながらの戦闘は難しいとの事で、遠方からの後方支援に徹してもらう事となった。
「シャーリーは、どうだ?」
「なんだろう……。気分が高揚するって言うか、いつも以上に研ぎ澄まされてるって感じ? 今なら魔王だって倒せちゃいそう……。あっ、もちろん九条の事じゃないよ?」
「まぁ、その気持ちはよくわかるよ」
俺も、初めての時はそうだった。
目の前に立ちはだかる魔獣ベヒモスが、可愛く見えてしまうくらいには激的な変化を覚えたものだ。
「そろそろ、防衛ラインが見えてきますよ」
先導していたドログが手を上げて合図を送ると、俺達は足を止める。
「あそこです」
ドログが指差した場所は、まだトンネルの内部。まるでスコップで掘ったかのような深い溝が、横一文字に地面を分断している。
「え? まだトンネルを抜けてませんけど、ここまで攻撃が届くんですか?」
「はい。ここからは、警戒を怠らぬようお願いします」
一般的な馬車がすれ違えるほどには大きなトンネル。まだ都市区画にすら入っていないというのに、既に相手の射程内であるらしい。
ルートホロウの本体から撤退するには、ここまで逃げてこなければならないということ……。
恐らく、視覚ではない別の感覚で敵を認識、追尾してくるのだろうが、正直想像以上のしつこさである。
「……あぁ、いたいた。……うーん。結構強そうだなぁ……」
壁を睨みつけながらも、難しい顔を浮かべるシャーリー。
「どうだ? 勝てそうか?」
「うん。まぁ負けることはないかな。予定通り討滅優先で動いちゃっていいと思うけど、反応が不安定だから用心はしないとね」
「不安定?」
「トラッキングの反応が、一定じゃない魔物っているのよね。緩やかに強弱を繰り返してるって感じ? 主に実体のない魔物……。例えばゴーストとかレイスによくある現象で、感情とか状況の変化で強くなったり弱くなったりするのよ」
ここで相手が強すぎるから手を引く……なんて事はしないが、倒せるに越したことはない。
ドワーフのノコギリ部隊が世界樹の根を切り落とすまでの間、ルートホロウの足止めをするより、さっさと倒して高みの見物でもしていた方が有意義なのだが、油断は禁物という事か。
トンネルをさらに進んだ先、丁度都市区画への出入口がみえてくると、街の全容が明らかに。
「こりゃ酷い……」
地面に所狭しと張り巡らされた木の根。それは建物すら飲み込む勢いで、辺りは無数の瓦礫と崩れ落ちた石柱が通りを塞いでいた。
ただ木の根が伸びただけでは、こうはならない。恐らくは激しい戦闘の傷跡だろう。
廃墟……は少々言い過ぎだが、人気がないからか、雰囲気的には旧市街と言われた方が腑に落ちる。
「あれが、今回のターゲットです」
旧市街の中心地点。かつての広場だろう場所にある枯れた噴水と共に、項垂れるようにして立っていたのは、討伐対象のルートホロウ。
細い木の根が幾重にも絡まり、人の形をとっているそれは、完璧に近い女性像だ。
身長は2メートルほど。顔は目のあたりがくぼんでいるだけののっぺりとしたもの。スレンダーと言ってもいい体格で、木製の人形が樹皮の鎧を身に着けたかのような外観だ。
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「どこまで、近づけるんですか?」
「ルートホロウへの攻撃と、その後方にある巨大な根に触りさえしなければ、襲ってくることはありません」
ルートホロウの後ろに見える壁は、どうやら巨大な根っこらしい。その大きさは直径にして5メートル以上。
その一部から飛び出た細根が、ルートホロウの背中に繋がっている。
「あれの出所を、我々が切断します。その間、ルートホロウの相手をお願いします」
「うへぇ……なんというか、気持ち悪いわね……」
ドログが指差した場所。はるか遠くに見える都市の外郭に出来た大きな横穴から、その根は伸びていた。
それを囲むように組まれた足場は、今回のため。しかし、それも飲み込まれ始めているのが見て取れる。
周囲に繁茂する小さな根は壁面をびっしりと覆い、幾重にも重なるそれが脳の表面のようにも見え、どこか鼓動すら感じさせる禍々しくも見える存在感。
それは植物とは思えぬほどに執拗で、どこまでも貪欲に空間を侵食していた。
その力強さは生きるためではなく、すべてを絡め取り、支配しようとするかのような厄介さとしつこさを漂わせている。
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本当に、ありがとうございます。
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