生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第675話 世界樹防衛システム

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 ドログたちが都市部を抜け、安全地帯でもあるトンネル内部へと辿り着くと、皆が一様に肩を落とす。
 疲労だけではない。唯一の希望が絶たれてしまった絶望感も、それに拍車をかけていた。
 膝から崩れ落ちるドログ。最後に見た、ルートホロウの親玉が頭から離れず、最悪を考える。

「……九条殿は、死んでしまったのか……?」

 その言葉にワダツミが首を横に振るも、ドログは顔を上げる力もないようだ。

「くっ……最早、打つ手もなくなったというわけか……」

「戦士長ッ……」

 悔しさに落ち込むドログを囲むドワーフたち。その肩に手を置き慰め合う様子は、辺りに悲壮感を漂わせる。

「勝手に殺すな……と、言いたいところだが……。まぁいいか……」

「無駄に希望を与えるよりはマシだろう。勘違いで助太刀を……などと、やる気を出されてもかなわん」

 ワダツミとコクセイは、ドワーフたちを避難させ、再突入させない為の見張り役として九条から派遣されただけ。

「どう? ちゃんと全員揃ってる?」

 そこへ、現れたのはシャーリー。弓を下に構え、警戒した様子を見せながらも、安全地帯との境界線をひょいと跨ぐ。

「シャーリー殿! 九条殿は!?」

 ガバっと顔を上げ、シャーリーに食って掛かる勢いのドログだったが、その返事は軽いもの。

「さぁ? でもまぁ、大丈夫じゃない? 九条が大丈夫って言ってたし」

 肩をすくめ、あっけらかんとするシャーリーに対し、その態度が気にくわなかったドログは、目に見えて機嫌を悪くする。

「あのバケモノを相手に、九条殿を置き去りにしたのかッ!?」

 それには、シャーリーだけではなく、ワダツミとコクセイも目も丸くした。

「結果的にはそうね。まぁ、九条はどちらかって言うとソリストだから、問題ないって」

 九条を思っての発言だということを理解した上で、シャーリーは砕けた口調を崩さなかった。
 ただ、真実を述べているだけなのだが、深刻さを前面に出せば、それだけ不安を煽ることになる。その裏には、ドログたちを心配させまいとするシャーリーなりの配慮があった。

「言っちゃ悪いけど、九条からしてみれば、あんたたちなんてノイズでしかないわけ。逆に聞くけど、あの状況でまだ作業が出来ていると思う? 無理でしょ? だったら九条に任せなさいって」

「……九条殿が心配じゃないのか?」

「まったくと言ったら嘘になるけど、少なくともあんたたちよりは私の方が、九条との付き合いは長いし? なにより、九条を信じてるもの」

「それでも、何か出来る事が……」

 中々腑に落ちない様子のドログに、流石のシャーリーも痺れを切らす。

「だーかーらぁ、何もないんだって。邪魔だっつってんの。あんたたちなんてルートホロウより先に、ロードの瘴気に当てられてポックリ逝っちゃうから。死にたくなかったら大人しくしててよ。めんどくさいなぁ」

 シャーリーのいきなりの豹変に、面食らうドログたち。
 とはいえ、ここで退いてはドワーフの名折れ。ドログは何か言い返せないかと口を開くも、シャーリーの後方から睨みを効かせる2匹の魔獣に気が付くと、視線が泳ぎ、言葉は言葉にならないまま、胸の奥に沈んでいった。

 ――――――――――

 俺の前には新たに生まれた3体のルートホロウ。後方の世界樹の根には、先程までなかった節が続々と出来始めている。
 そんな状況だ。目の前のルートホロウの1体や2体を倒したところで、どうにもならない事だけは理解した。

「ワダツミ! コクセイ! あっちを頼む!」

 ドワーフたちの方に湧き出てしまったルートホロウを何とかするべく、ワダツミとコクセイを向かわせる。
 風のような速度で家屋の屋根を飛び移っていくワダツミに対し、コクセイは目の前のルートホロウを飛び越え、世界樹の根を足場に駆け抜けていく。
 それでも間に合わないかと肝を冷やしたその時、シャーリーの一撃が遥か遠方のルートホロウを打ち抜き、事なきを得た。

「あっちはこれでいいとして、こっちはどうしようか……」

 ルートホロウ1体でもそこそこ面倒な相手だとは思っていたが、それが複数。恐らくは無限に湧き出るとなると、やれることは限られてくる。

「シャーリー、撤退の合図を頼む! それとドログさんたちに、やりすぎちゃったらごめんって言っといてくれ」

「……おっけー!」

 僅かに視線を伏せたシャーリー。短い沈黙が流れ、逡巡の色がその表情をかすめるも、すぐにいつもの顔に戻り、何事もなかったかのように合図の矢を空へと放った。

「じゃぁ気を付けて!」

 それと同時。弾けた矢が金属片を振り撒くと、シャーリーの姿は鐘楼から消えた。

「さて……。どう処理するか……」

 ルートホロウを幾ら倒しても意味がないなら、やる事は一つ。最終的には世界樹の根を断てればいいわけで、文字通りの根絶やしだ。
 必要なのは、ルートホロウが太刀打ちできないほどの戦力。パッと思いつくのはスケルトンロードか、四天魔獣皇の一柱とも名高い、金の鬣。通称トラちゃんをよみがえらせることなのだが、どちらにも懸念点が存在する。
 スケルトンロードは、呼び出すのにある程度の集中が必要だ。呼び出した後も気を抜く事は出来ず、その状態でルートホロウからの攻撃を避け続けるというのも骨である。
 ならば、意志を持ち、自律出来るトラちゃんがベストかと思われるが、果たして本当にそうなのか……。

「あいつら仲悪ぃからなぁ……。ファフニールに、炎を吐くなっつって守ってくれるといいんだが……」

 もぐら叩きじゃあるまいし、出てくるルートホロウを1匹ずつ叩いたりする性格じゃないのは理解している。
 地下である為、コクセイ同様に雷を落とす事は難しい。ならば、一面を火の海にしてしまうのが手っ取り早いと考えるのは、自然な流れ。
 それが、地下で行われることが問題なのだ。
 都市構造は不明だが、大規模火災へと発展すれば、不安になるのが酸素量とその通り道。
 この区画だけが酸素不足に陥るなら、俺が退避すれば済む話なのだが、他の都市区画の酸素まで奪ってしまう可能性を鑑みれば、炎での処置は妥当ではない。

「いや、待てよ……。どっちも呼べばいいのか……」

 トラちゃんを先によみがえらせ、その背に乗り俺を守ってもらいつつ、スケルトンロードに集中、攻撃を任せる……というのはどうだろう?
 周囲の人払いは済んでおり、気遣いも無用。今はどちらかにこだわる必要もない。

「そうと決まれば……」

 善は急げと、魔法書の中に手を突っ込み、トラちゃんの頭蓋骨を思い浮かべたその時だ。
 5体に増えていたルートホロウたちが、一カ所に集まり絡まり始めた。

「――ッ!?」

 軋みながらもねじれた指が三つ編みのように絡み合い、足元を這う根が結合する。
 互いがお互いを締め上げてゆく異様とも言える光景に、俺は目を奪われるほかなかった。
 樹皮がはじけ、芽吹くように新たな腕が突き出す。悲鳴とも笑いともつかぬ音を漏らしながら、ひとつの巨躯が姿を現したのだ。
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