生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第677話 地を裂く大樹と森を喰らう牙

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「その力……。人の身でありながら、魔に堕ちるとは……」

「堕ちたくて堕ちた訳じゃねぇよ。人の苦労も知らねぇくせに……」

 まるで、失望したとでも言わんばかりのグルームワーデンの言葉に、つい悪態をついてしまう。
 俺だって平和な生活が送れていれば、死霊術に精通することも、108番のダンジョンを発見することもなかった。
 村で冒険者をしながら、ミアと共に細々と暮らしていければそれでよかったのだが、気付けば魔王などと呼ばれる羽目に……。
 とはいえ、それも因果応報。俺の行動が招いた結果であり、後悔はしていないのだが、その原因を作ったのはどう考えても俺じゃない。

「なるほど……。貴様の拠点を守るため、この地下都市を犠牲に我の足止めという訳か……。愚か者の考えそうなことだ……」

 お前も人の事言えねぇだろ……と言いたいところだが、俺は意図的ではない。
 世界樹から狙われているかもしれないと前もって知っていたのなら、何かしらの対策は施しただろうが、ドワーフたちに迷惑をかけてまで撃退しようなどとは、考えもしなかっただろう。

「勘違いすんな。たまたまそうなっただけだ」

 そうは言い返したものの、本当にたまたまだろうか……?
 ふと頭を過ったのは、ネクロガルドの存在だ。

「おい、エルザ。お前、知ってたんじゃないか?」

「……」

 襟元の魔道具に向かって呼びかけるも、返事はない。
 確信犯とまでは断定できないが、怪しさは満点。仮にそうであったとして、なぜ直接言わなかったのか……。
 俺が断る可能性を憂慮した? それとも……。
 どちらにせよ、今は目の前の敵に集中せねばなるまい。

 グルームワーデンが右腕を振り上げると、その形状が変化する。
 5本の指を形作っていた枝が、大きく2つの別れると、それは巨大な両刃の剣となった。

「その力は、人には過ぎたもの。よって、神ば――」

 その言葉を途中で遮ったのは、他でもないトラちゃんだ。
 4本の脚で地面を踏み込み、土煙を立ち上げながらもグルームワーデンへと飛び掛かる。

「――ッ!?」

 荒れ果てた地下の広間に、激しい衝突音が木霊すると、地を穿つような唸り声とともに巨大な魔獣と木製女神像の戦いが幕を開けた。
 話の途中でいきなりの戦闘開始は、正義のヒーローも真っ青な鬼畜の所業ではあるのだが、命を賭けた真剣勝負に卑怯もクソもない……ということだろう。

「知っているぞ、その両刃剣。地殻を変動させ、この場所を崩落させるつもりだろうが、そうはいかぬぞッ!」

 随分と恐ろしい技を持っているようだが、ここはトラちゃんを呼び出して正解だったというべきだろう。
 グルームワーデンに馬乗りになり、獅子のレグルスは両刃剣へと変化した腕を咬み千切る。

「よくやった! そのまま押さえておけ!」

 次いで俺が呼び出すのは、死の王と呼ばれるアンデッド。2人がかり……いや、俺も含めての3人がかりで一気に叩く。
 魔法書を開き、集中しながらも魔力を込めると、尻尾のウロボロスが声を上げる。
 その相手はグルームワーデンではなく、この俺だ。

「余計な事をするんじゃねぇ! 折角のリベンジの機会、好きにやらせろッ!」

 血気盛んでやる気に満ちているのは喜ばしい事なのだが、やはりというかコントロールが難しいのが玉に瑕。

 身動きの取れないグルームワーデンが、左腕をトラちゃんに絡めるも、ファフニールの首がそれに食らいつき引き剥がす。
 そのまま、ゼロ距離で吐き出したのは灼熱の炎。赤熱する喉奥が開き、真っ赤に燃える木くずが辺りに舞い上がる。

「あっ! 火を使うのはちょっと……」

 そんな俺の言葉なぞ、聞こえているわけがない。……というか、そんな余裕はなさそうだ。
 それだけの火力であったにも拘らず、外殻が焦げ付いただけで崩れるまでには至らない。グルームワーデンは、燃えながらもトラちゃんの胴を突き刺そうと手を伸ばす。
 それを察知したウロボロスが伸びた手に咬みつくと、メキメキと伸びていた腕がピタリと止まり、それは灰へと変色した。

「今度こそ捕らえたッ! そのまま石となれ、木偶がッ!」

 石化が一気に進行し、それが左腕を飲み込もうとした瞬間、自らの意思で切断したであろう左手が重苦しく地面に落ちると、グルームワーデンの胸から飛び出してきたのは、あばら骨にも似た無数の細根。
 トラちゃんは、それに囚われまいと右腕を引きちぎりながらも、後方へと飛び距離を取る。

「罰当たりな獣め……」

 幹のように太い脚で、地面を踏み締め立ち上がるグルームワーデン。
 羽根のような葉はボロボロで、翼は骨組みが剥き出し。飛び出たあばらはそのままに、その先からは地下から吸い上げた魔力だろう液体が滴っている。
 その姿は、女神像に擬態した悪魔という名に相応しく、最早異形だ。

「ふはは、無様だな。あの頃とは比べ物にならぬほど弱いぞ」

 そうやって煽り散らすのはどうかと思うのだが、見ていた感覚からすると、実力差は圧倒的。
 このままボーっと見ていても、トラちゃんが負ける事はなさそうだが、問題は根っこの元を絶たない限り、ルートホロウ同様倒したところですぐに復活してしまうことだ。
 その対策は、考えているのだろうか……。

「奴を倒せたとして、その後はどうする?」

「あとの事などどうでもいい! それはお前が考えろ! まずは目の前のアイツを始末するッ!」

 そういうと、トラちゃんは間髪入れず地を蹴った。石畳が砕け、その体躯が空へと舞う。

「ノープランかよ……」

 空中から放たれる火炎の奔流。トラちゃんはその中へと自ら飛び込み、グルームワーデンを急襲する。
 しかし、その炎はすぐに消えた。何故なら、グルームワーデンが失った両腕の付け根から、大量の樹液が吹き出したからだ。
 同時に再生した両腕が絡み合い、切っ先の鋭い根槍へと姿を変えると、トラちゃんへと一直線。

「残念だったな獣。その程度で、我の目を誤魔化せるとは思わぬ事だ」

 樹齢数百年とも思える太さを誇る根槍が、トラちゃんの胸を貫くと、グルームワーデンはそれをそのまま地面に強く叩きつける。
 激しい振動が地下都市に広がり、根槍を戻したグルームワーデンだったが、その後トラちゃんは何事もなく起き上がった。

「バカめ。その程度の攻撃が、通用すると思っていること自体、片腹痛いわ」

 胸に大穴を空けて言うセリフでもないのだが、今のトラちゃんはアンデッド。
 元の身体のポテンシャルに加え、不死身に近い肉体を得ている。
 生身の身体であったのなら、致命傷は免れぬ一撃だったが、その息の根を止めようとするなら、一筋縄でいくはずがないのだ。
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