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第四章 永禄の変
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永禄五年(一五六二)一月十五日。
三河岡崎城主松平次郎三郎元康(後の徳川家康)が、織田信長の居城尾張清須城に赴き、両家の間に盟約が結ばれた。世にいう清須同盟である。
この前年、織田家と松平家は、それぞれの父の代から続いていた抗争に終止符を打つべく和議を結んだ。その後、元康の母方の伯父で、尾張刈谷城主だった織田方の武将水野下野守信元の仲介によって、清須同盟締結に至った訳だ。
これにより、背後の憂いを取り除くことが出来た信長は、美濃攻略に集中することが可能になった。
翌永禄六年(一五六三)七月、信長は突如清須城から小牧山城に移った。美濃攻略を見据えての移動だ。しかし、自らも手勢を引き連れ幾度か美濃に攻め込んではみたが、稲葉山城を攻略することは出来なかった。
この頃、浅井長政の方も、江南の六角との小競り合いを繰り返していた。
十月、秋が深まった頃だった。
小谷城下の清水谷の浅井屋敷で、いつものように日課としている漢書を黙読する長政の許に、遠藤直経が現れた。
「何用じゃ」
と長政は素っ気なく尋ねた。
すると直経は膝を突いたまま床に拳を押して、数歩前に進んだ。
「お屋形様、観音寺城下でまたもや動きがあったようです」
「入道殿が動いたか……」
「いいえ」
と直経はかぶりを振りつつ話を続けた。
「昨日、承禎入道殿が嫡男四郎義弼殿が、観音寺城の中にて、重臣後藤但馬、壱岐親子を家臣に命じ、誅殺したとのこと、先ほど我が手の者から報せが届きました」
「……あの後藤但馬が?」
長政は唖然となった。
「謀叛か、後藤但馬が承禎、四郎親子に謀叛を企てたのか?」
長政は、漢書を黙読するのを止め、身を乗り出して直経に尋ねた。
「恐らくは、何者かの讒言によって誅殺されたに相違ありません。君命により後藤親子を斬ったのは、種村三河、建部日向の両名でございます」
「すると、後藤親子は上意討ちされたのじゃな?」
「はい」
直経は薄笑いを浮かべ、小さく頷いた。
「後藤但馬守殿は、六角家中では人望が厚く、かの御仁を慕ってる方々も少なくはないと聞きます。これはひと騒動起きまするな」
せせら笑いを浮かべながら告げる直経の双眸を、長政は凝と見詰めた。
「相分かった、下がってよいぞ」
「然らば、これにてご無礼仕る」
直経は一礼して長政の前から立ち去った。
「誰かぁ!」
直経が去ったあと、長政は声を張り上げ叫んだ。
別室で待機していた近習が、襖障子を開け、書院に入って来た。
「お屋形様、如何なされましたか?」
「海北善右衛門を召し出せ」
「海北殿を、でございまするか……?」
「左様じゃ、早急にっ」
「わ、分かりました」
近習は、長政に頭を下げると、一旦書院を離れた。
暫くして、近習が戻って来た。
「お屋形様、海北殿は今し方ご領地の瓜生の方に戻られたとのことです」
「呼び戻せ、直ちにっ」
「はい」
「それと今一つ、赤尾と雨森の両名も……城で会う」
「……承知仕りました」
観音寺城で何が起こったのか全く知らない近習は、怪訝気味に頷いた。
長政は登城すると、海北、赤尾、雨森の三名に、先ほど知った観音寺城中での出来事を告げ、早速、六角承禎、義弼親子に不満を持つ六角家臣の切り崩しを命じた。
十月六日、長政は数千の手勢を自ら率いて六角領だった高宮(現在の彦根市)に向けて出陣した。海北らの手によって浅井方に靡いた六角方の重臣、永田、三上、池田、平井、進藤氏が呼応して挙兵した。翌七日、観音寺城を奪われた六角義弼は蒲生定秀を頼り、その居城中野城に逃亡した。父の承禎も用賀(現在の甲賀)の三雲三郎左衛門定持の居城三雲城に逃げ込んだ。
観音寺騒動は、蒲生、三雲両氏の尽力によって収拾がつき、二十一日に六角承禎、義弼親子は観音寺城に戻ることが出来た。しかし、南近江における六角氏の権威は完全に失墜した。加えて義弼は、大原氏の家督を継いだ実弟義定に当主の座を譲り、第一線から退いた。
逆に、観音寺騒動によって、浅井氏の勢力は大幅に拡大し、多賀社、犬上郡、湖西高島郡にまで及ぶことになった。
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これにより、背後の憂いを取り除くことが出来た信長は、美濃攻略に集中することが可能になった。
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この頃、浅井長政の方も、江南の六角との小競り合いを繰り返していた。
十月、秋が深まった頃だった。
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