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第二章
三
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長良川の合戦から数日が経った。
斎藤道三と言う後ろ盾を失った信長に対し、末森城の勘十郎信勝が反旗を翻すと言う事態が発せした。うつけ者の信長では、この先織田弾正忠家を纏め上げることが出来ない、と踏んだ宿老たちによってそそのかされたのだ。
八月二十四日のことだ。
信勝を担ぎ上げ、信長に反旗を翻した家臣は、林佐渡守秀貞とその弟、林美作守通具、猛将鬼の柴田権六勝家だ。対する信長方に付いた家臣は、森可成ら数名だ。
斯くして織田弾正忠家の家督を賭けた稲生の戦いの火蓋が切られた。
数の上では末森方が圧倒的に有利であった。だが、先の村木城の戦いで証明された通り、信長と言う男は絶対的な不利な状況でも後先考えず果敢に攻める。結果、柴田勢を切り崩し、林美作守通具を討ち取り、この合戦に勝利した。
実母土田御前に泣きつかれた信長は、この度宿老にそそのかされ反旗を翻した弟信勝を許すことにした。
しかし信長と言う男には、母の心を繋ぎ止めておくほどの重みもなかった。
土田御前は、腹を痛もう一人の息子勘十郎信勝にばかり向けられたのだ。それがこの母子にとって不幸の始まりだったのだ。
ほとぼりが冷めると、信勝と言う男は性懲りもなく、また信長に反旗を翻したのだ。美濃の斎藤義龍と通じ、尾張国上四郡の守護代である岩倉城の織田伊勢守信安とも通じ、清須城の兄信長を攻めるための算段をした。
信勝による謀反の企ては、柴田勝家の口から清須城の信長へ齎されることになった。嘗て勝家は、先代信秀の葬儀の折、家督を継ぎ織田弾正忠家の惣領となるべき人物である信長がとった奇行を目の当たりにして、彼を疎んじるようになった。その後は、林兄弟と示し合わせ、信長排除の立場を取った。ところが先の稲生の戦いに於いて、清須勢に大敗を喫し、考え方を改める。これから先、尾張を纏め、駿河の今川、美濃の斎藤と渡り合う人物は信長を置いて他にないと。
そんな矢先、信勝は津々木蔵人を重用し、これまで自身を支えて来た重臣の勝家を蔑ろした。これにより勝家の心は完全に信勝から離れた。
「相分かった。悪いようには致さぬ、権六」
信長はこの日、清須城を訪れた勝家に向かってさらりと告げた。
「然らば某はこれにてご無礼仕る」
勝家が去ると信長は、乳兄弟の池田恒興を呼んだ。
「此度こそは、あ奴を赦さぬ」
信長は恐ろしい程低い声で言った。怒りで肩が震えている。
「はいっ」
間もなくして信長は流行り病に倒れた。無論詐病である。
信長が疫病に罹患し重篤な状態であると言う噂は、恒興によって流布された。やがてその噂は末森城の信勝の耳にも届いた。
「ふん、あの兄もいよいよこれまでか……」
「勘十郎殿、三郎めは其方に清須まで見舞いに来いと申しておりまするぞ」
「母上、嫌い抜いた兄とは言え、同じ母上の腹から生まれた血を分けた兄弟には違いござらぬ。此度はこの勘十郎信勝、今生の別れてと思って一目兄三郎信長の顔を見て参りましょう」
信勝は母土田御前を説き伏せるように、丁寧な口調で告げた。
「そうですか……何やら妾は気が進みませぬ」
「ご心配ならば母上も某と一緒に清須に参られ、兄の見舞いをなされたら」
「そうですね……妾も参りましょうか。あれでも一応、この腹を痛め産んだ我が子には違いないのですから」
言いながら土田御前はうんうんと頷いた。
「拙者もお供仕る」
脇に控えていた柴田勝家が口を挟み、一礼した。
「鬼の権六と謳われた其方が一緒なら、妾も一安心じゃ」
「頼りにしておるぞ、柴田」
「ははぁっ」
勝家は主君信勝に深々と頭を下げた。
斎藤道三と言う後ろ盾を失った信長に対し、末森城の勘十郎信勝が反旗を翻すと言う事態が発せした。うつけ者の信長では、この先織田弾正忠家を纏め上げることが出来ない、と踏んだ宿老たちによってそそのかされたのだ。
八月二十四日のことだ。
信勝を担ぎ上げ、信長に反旗を翻した家臣は、林佐渡守秀貞とその弟、林美作守通具、猛将鬼の柴田権六勝家だ。対する信長方に付いた家臣は、森可成ら数名だ。
斯くして織田弾正忠家の家督を賭けた稲生の戦いの火蓋が切られた。
数の上では末森方が圧倒的に有利であった。だが、先の村木城の戦いで証明された通り、信長と言う男は絶対的な不利な状況でも後先考えず果敢に攻める。結果、柴田勢を切り崩し、林美作守通具を討ち取り、この合戦に勝利した。
実母土田御前に泣きつかれた信長は、この度宿老にそそのかされ反旗を翻した弟信勝を許すことにした。
しかし信長と言う男には、母の心を繋ぎ止めておくほどの重みもなかった。
土田御前は、腹を痛もう一人の息子勘十郎信勝にばかり向けられたのだ。それがこの母子にとって不幸の始まりだったのだ。
ほとぼりが冷めると、信勝と言う男は性懲りもなく、また信長に反旗を翻したのだ。美濃の斎藤義龍と通じ、尾張国上四郡の守護代である岩倉城の織田伊勢守信安とも通じ、清須城の兄信長を攻めるための算段をした。
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そんな矢先、信勝は津々木蔵人を重用し、これまで自身を支えて来た重臣の勝家を蔑ろした。これにより勝家の心は完全に信勝から離れた。
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「然らば某はこれにてご無礼仕る」
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