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03 何でもあって何もない部屋
しおりを挟む考えても、考えても…。
今現在の私の脳では、上手く考えは纏まらなかった。
その場で座り込んで、どれだけの時間が経過したのか分からないまま、突然とインターホンが鳴った。
「 なに……? 」
訪問者?と疑問を抱き、脚をそっと立たせてから、玄関のドアノブに手を掛ける。
「( これって…私が勝手に開けても…いいの? )」
開けていいと、許可を貰っただろうか。
男性が告げた、いくつかの言葉の中で、
訪問者への対応方法がなかったと思う。
「( なら、駄目では…? )」
ドアノブに向けた手を引っ込め、自らの胸元に置いて数歩後ろへと下がると、ドア越しに声が聞こえてきた。
「 今回は開けましょう。どうぞ 」
「( えっ、え… )」
カードキーによってロックは開かれ、扉は自動で僅かに隙間を作る。
困惑してる私を余所に、扉の隙間から鼻先を掠める、香ばしいソースの香りが漂ってきた。
「 おや、いらしてたんですね。夕食の御準備が整いましたので、料理を持ってきました。どうぞ、リビングの方で頂きましょう 」
「 え、えっ…夕食……? 」
先程の燕尾服を着た男性と共に、白いコック服を着た男性が入って来ると、彼等は私の横を通り過ぎ、リビングへと向かってしまう。
恐る恐る着いていくと、燕尾服の男性は、手際良く丸みを帯びたガラステーブルに白いテーブルクロスを敷き、ワゴンに置かれているグラスや皿等を並べ始めた。
「 お座りください 」
「 は、はい… 」
否定出来ず、言われた通りに引かれた椅子に腰を掛けると、シェフらしき男性は一度頭を下げる。
「 今日からフランス料理を提供担当させて頂く事になりました。まずは、前菜の… 」
「 ちょっと、待ってください… 」
「 おや、フランス料理はお好きでは御座いませんか?主人に提供する方と同じく、一流シェフの… 」
「 そうではなくて…! 」
説明の途中で切ってしまうのは申し訳ないけど、此の状況は、理解できるわけがない。
「 如何なさいました? 」
「 その…何故、買われた私が…シェフの料理を頂けるのですか?身の丈に合わないかと… 」
自分で言うのもなんだが、目の前に並べられたカトラリーの使い方は、何一つ分からない。
外側から使っていく、そんな記憶程度しか無いから、どのタイミングでカトラリーを交換して、どうやって食べればいいのかも…。
そんな私が、フランス料理のフルコースなんて…
似合うはずがない。
ましては、闇オークションで買われたのに…。
「 そんな事はございませんよ。これは主人が決めたこと。それに従うのも、貴女様の役目かと思いますよ 」
「 役目……。そうですね…御命令なら、頂きます 」
そうだ、これは命令なんだ。
食べろと言われたから、食べる。
そう思うと、少しだけ気が楽になった気分だったから、肩の力がほんの僅かに抜ける事が出来た。
そんな私とは裏腹に、彼等は小さく溜息を吐いた事に、気付かぬフリをする。
「( 呆れるよね…。だって私は、性奴隷や下僕と同然なのだから… )」
フランス料理の食べ方など分からなくて、
其れでも出されてものを口へと運んで行くだけの単純な動作。
何故か、一切の味がしなくて…
美味しいのかも分からないから、説明される料理に頷くしか出来なかった。
三品目を食べきった頃に、これ以上は食べれないからと、断りを入れてしまったぐらいには食欲がなかったんだ。
貧乏人なのに…
残すなんて……。
「 本当に…申し訳ありません…… 」
「 初日なのに、よく食べた方だと思いますよ。お気にならさず、では…寛いだ後に、お風呂でもお入りくださいな。着替えの方は、寝室のクローゼットやタンスの方に入ってますので、お好きにお使いくださいね 」
「 分かりました…。ありがとうございます 」
至れり尽くせりとはこの事。
シェフと共にテーブルにあった食器を片付けた男性は、直ぐに部屋を出ていった。
また一人になれば、静まり返ったこの部屋の静けさが、虚しさを感じさせる。
「 お風呂…か……… 」
お風呂に入る気力も無く、リビングに置かれているL字型のソファの下に敷けれたカーペットの上で横たわり、高価な照明のある天井を眺めた。
「 私は、なんの為に買われたのかな…。肥やして食べる為なのか…それとも、肉付きを付けて抱くのか…。どんな、結果でも…私はもう世間では、死んでるのだから…… 」
売られる前に聞いた、あの女性の言葉。
それが酷く、耳に残り…。
掻き消すように、無理矢理瞼を閉じて、眠りに入った。
眠っていれば時間が過ぎるし、忘れる事も出来る。
夢の中だけでは、何も考えないでいたい。
それなのに見た夢は、私がバラバラに殺され、
生きながら喰われるような、酷いものだった。
月が真上に上る頃に一度目を覚まし、
そこから二度、三度と浅い眠りを繰り返した。
やっと眠れたのは、朝方だったのだけど…
人の声で目を覚ますことになったんだ。
「 おはようございます。朝食のお時間ですよ 」
「 ………おはよ、ございます… 」
「 ちゃんとベッドで寝ないとなりませんよ。ほら、お風呂にも入ってないようなので、湯を入れておきました。どうぞお入り下さい 」
「 ………はい 」
この男性は、まだ出会って二日目だけど、
凄く物事が強引だと思った。
私がとやかく言う前に、お風呂に押し込めれるように誘導され、その後の行動すら告げる。
「( でも……確かに、気持ちがいい… )」
丸い可愛らしい浴槽は、脚を伸ばせる程で、ジェットバスになっていて、男性が入れた泡風呂用の液を立たせ、きめ細やかな泡にしていく。
泡風呂なんて初めてだから、それだけが楽しくて、朝食が来ていたのも忘れ、長風呂をしてしまった。
「 すみません…随分と長く入ってしまって… 」
「 いいえ、ゆっくり寛げたのならなによりです。フレンチ料理担当のシェフの方には帰って頂いたので、準備は私がさせて頂きます 」
「 ありがとうございます… 」
「 その前に、髪を乾かしましょう。ヘアオイル等をお持ちしますね 」
テキパキと動く男性に戸惑うものの、彼にソファに座る様に指示をされ、腰を下ろしてからは、
まるで何処かの金持ちのお嬢様の様に、綺麗に髪は乾かして貰い、ヘアトリートメントやオイルなどもつけられた。
「 慣れてますね……… 」
「 嗚呼、歳の離れた妹がございまして。幼い頃からしていたので…慣れてるかも知れませんね 」
「 そうなんですね… 」
そうか、この男性にも家庭があって…家族がある。
当たり前に接してるけど、それも全て仕事一つなんだと思えば、納得が出来る。
「 いや、じゃないですか…?私なんかの、お世話など… 」
「 嫌と思うなら、引き受けていませんよ。貴女様への御世話の担当は、ちゃんと使用人の中で話し合いましたので。私は…先程も申し上げたように、歳の離れた妹が居ますので、他の者より慣れてると思い、この仕事を引き受けました。決して、嫌でやってはいません 」
「 そう、なんですか……。ありがとうございます… 」
嫌ではない。
嘘でもそう、きっぱりと言ってくれた彼に、
ほんの少しだけ嬉しく思えた。
「( 本当に此処では…私を傷つける人は、いないのかな… )」
「 では、朝食に致しましょうか 」
「 はい…頂きます 」
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