公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

文字の大きさ
14 / 64
一章 旅路

王都到着②

しおりを挟む





「この近くか」

屋敷街を眺めながら進み、しばらく経ったところでジェイデンが足を止めた。
すぐそばに南の塔が見えている。

近くにいる衛士に道を聞くと、学校の正門を教えてくれた。
巡回中の衛士は、今から回るところだからと親切に正門まで案内をしてくれる。

「こんな時期に編入されるなんて珍しいですね。休み明けは年が変わってからですよ」

学校は冬期休みの真っ最中である。
ほとんどの学生は帰省しており、年明けまで戻ってこない。編入生は、新学期に合わせて入寮する事が常だ。
事情を聞いた衛士は、不思議そうな表情を浮かべる。

「我々は北の辺境騎士団から来たのでね。年越しを待っていたら、山越えが厳しくなるんですよ」

「ああ、北からですか。確か冬の魔物が出るとか・・・」

「ええ、冬の魔物に捕まると厄介なので」

セオドアの説明に、衛士は納得の表情だ。

冬の魔物は、年明けに出現する事が多い魔物で、正体がはっきりしていない。
北の山にまれに出没し、その存在は冬そのものだとも言われている。

「冬の魔物は吹雪の中にいると言われていますが、吹雪の中にいる正体を見た者はいないんですよ。多くの人が、冬の魔物に遭遇すると吹雪の中で命を落とします」

運良く逃げ延びた人は吹雪の中に白い女のような魔物や、雪でできた影を見たなどと言うが、証言はまちまちだ。
冬の魔物への対抗策は火の魔法だけだが、冬の魔物に対抗できるほどの広範囲魔法の使い手は少ない。
騎士団にも数人がいるだけである。

「今はまだ、山越えができる時期なので助かりました」

ジェイデンが笑って衛士に言うと、納得したように衛士も話を切り上げた。
ちょうど正門に到着し、門にいた別の老衛士へと引き継ぎをして彼は巡回へ戻っていく。

衛士へと礼を言い、老衛士へ編入の許可証を見せる。

老衛士はここで待つようにと2人に言い、別の者に知らせを走らせた。








「ずいぶん早い御到着ですね。北を発ったと伝書鳩が伝えに来ましたが、あと数日はかかると思っておりましたよ」

門で待つ2人のもとに、知らせを受けて1人の男が迎えにきた。
紺色のローブを着た壮年の男は、学校の教師と名乗った。

「ユージーン・カルテスです。学校では魔術学を教えています」

「ジェイデン・フォン・デア・ロンデナートです。一学年へ編入に参りました」

「セオドア・デア・ライエンです。私は二学年に」

正式な名乗りをし、許可証をユージーンへと差し出した。

それを受け取ったユージーンは、こちらへと2人を促して歩き始める。

「学校は冬期休みで閉校中です。しばらくは寮で生活をしていてください」

寮への案内をしてくれるという彼に続き、学校の敷地内へと入る。
ユージーンは歩きながら建物や学校の紹介をしてくれた。

「寮は三つあります」

そう指で示しながら、ユージーンが振り返る。

士官学校の寮は、三つに分かれている。
王都平民用の寮の西寮。
王都高位貴族用の寮の中央寮。
地方出身のものが集まる平民・貴族混合の東寮。

「お二人には本来なら中央寮に入っていただくはずでしたが、この冬期休み中に中央寮は工事が入るので入寮ができなくなりました。今回は、東寮にご案内します」

ジェイデンの長兄は中央寮にいる。
それなら寮内で顔を合わせずに済むとほっとしていると、それを察したセオドアがにやにやしながら「よかったなー」とからかってきた。ムッとしてついジェイデンの手が出る。

歩きながら無言で肘を突き合っていると、建物の前でユージーンが立ち止まった。

「ここが東寮です。管理人に伝えてくるのでここで待っていてください。ああ、あとその2匹については、改めて許可を得てくださいね」

ユージーンは2人を見た後に、足元の2匹の犬に視線を移す。
魔術師である彼には、2匹の正体はバレていたようだ。
首輪付きなので許可は問題なく出るはず、という言葉に安堵しながら、ジェイデンとセオドアは寮に入っていくユージーンを見送った。

「東寮か・・・。確かお前の同期も東寮に入ったんじゃなかったか?」

「ああ、地方組はたいてい東だ。あいつらもいるだろうな」

北の予備学校を卒業後、そのまま士官学校へ入ったジェイデンの同期が三人いたはずである。
東寮は隣の中央寮よりも少し大きい。身分の関係ない混合寮と言うこともあるが、王都出身者よりも地方からの入寮者が多いせいか。

「でもま、中央寮よりも気が楽そうで何よりだな」

堅苦しいことを嫌うセオドアは、上機嫌で寮を見上げた。
寮からは人の気配があまりしない。冬期休みで寮生は帰省している者が多いのだろう。

「ああ、助かったよ」

煉瓦造りの東寮を見上げ、ジェイデンが返事をした。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ (第一部・完) 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 S S 不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。 この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

処理中です...