公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

授業のはじまり②

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「ところで、補習はどうなっているの?」

午前の授業を終えたジェイデン、アマーリエとソフィアは3人で食堂で昼食を取り終わったところだった。
天気がいい日だ。3人は中庭で午後の授業に備えて予習をしていたところである。
そこで、思い出したようにアマーリエがジェイデンの補習の話題を出した。

「ああ、まだ予定は立ってない。一期分遅れているが、筆記試験を受ければ免除されるものと、実技試験前に必須の単位とがあるからな。それぞれの講座をひと通り受けてから決めると言われてる」
「薬草学のエクリン先生は、一期の試験の合格点が取れれば補習はいらないだろうって言っていたものね」

アマーリエが午前中の授業を思い返しながらそう相槌を打った。
薬草学は騎士団でも必須項目だ。一期で習う基礎的な知識はすでに身につけている。

「一期で教わる内容って、ほとんど基礎ばかりだから。試験だけで免除される単位も多いと思うわ」

ソフィアもそう同意する。
その他にも、レポートを提出する事で単位がもらえる講座もある。
魔物学もその一つだ。

「魔物学のバリー先生は、レポート派だからある意味楽よ」
「そうなのか?」
「生徒の出身地の魔物をまとめたレポートだけでいいの。私たちは一期の授業中に終わらせたわね。…あれって、先生の趣味なんじゃないって思うところもあるけど。研究には役に立ってるって言うし、一石二鳥なのかしら」

彼が今取り組んでいる研究は、王国全土の魔物分布図の作成だ。

まだ人が足を踏み入れない魔物の地も多くある。
地方出身者が多い士官学校は、彼にとって貴重な情報収集の場だ。

「午後の剣術は騎士団でも訓練をしていたから、何とかなるだろ。魔法学は今どんな授業をしているんだ?」

ジェイデンの得手は剣だ。
騎士団でも訓練は続けていたから、授業についていけないような事態にはならないはずだ。
反対に、魔法学については北の辺境騎士団には専任の指導者がいなかったこともあり、最近は伸び悩んでいたところだった。

「一期では魔力操作についてしか習っていないわ。でも、かなり難しいわよ。北の予備学校で習った魔力操作の上位版って感じね。私は魔力の放出ができない体質だから、説明するのが難しいわ」

アマーリエの使える魔法は身体強化のみだ。
魔力を体外に放出できず、その代わりに体内循環できる人間は少ない。
彼女の父親もそうだが、王国内でもガイナル家のみに稀に現れる特殊体質の持ち主である。

「アマーリエは特殊な魔力操作方法を教えてもらっているから、参考にならないわよ。私たちみたいな一般の生徒は、魔力量の限界値を増やすための訓練と、属性ごとに魔力を練る方法を教わっているわ」

国民の大半が魔力持ちとして生まれるが、平民のほとんどは属性を一つしか持たない。その上、魔力量は非常に少なく、せいぜい飲み物を冷やす程度の氷を生成したり、擦り傷を癒したりする程度の魔法しか使えない。

貴族はほとんどが魔力持ちだが、複数の属性持ちは少ない。さらに、魔力量も個人差が大きいため、出世や婚姻に多大な影響を及ぼす。
その結果、高位貴族に複数属性・魔力量が大きい者が多く産まれるのだ。

「みんな魔力の限界値が少しずつ増えているわよ。素質があっても使えない程度だった属性についても伸びてきているわ」

士官学校に入学できる生徒は、入学の時点で厳しい選別をくぐり抜けてきた者ばかりだ。
平民の中にも、貴族を凌ぐような魔法の才能を持つ生徒がいる。貴族は家庭教師に幼い頃から魔力操作を習うが、彼らは入学するまで魔法教育を受けたことがほとんどない。
彼らは、士官学校で専門教育を受けることで、その才能をさらに開花させていくのだ。

「ルイス先生は素晴らしいわよ。もう伸び代が少ないって言われている貴族の生徒も、彼のやり方で訓練するとさらに成長できているの。私も、少しずつ伸びていっているのがわかるから、授業が楽しいわ」

「どんなやり方なんだ?」

説明するのが難しいんだけど、と前置きして詳しく説明してくれた。

「魔力の相性がいい相手と組んで、2人1組でやるの。今まで家庭教師には自分の中で魔力を練る方法を教わってきて、そうやって訓練してきたんだけど、ルイス先生は合成魔法の専門家だから、新しい方法を思いついたみたいね」

ソフィアが言葉を選びながら説明してくれた内容はこうだ。


まずは魔力の相性を測る魔道具で、クラスの生徒の相性をみて相棒を決める。
向かい合わせで両手を繋ぎ、お互いの魔力を相手と自分の中を循環するように練っていく。なるべく細く、極細の糸のように魔力を練り、お互いの魔力が尽きるまでずっと循環し続けるのだ。
お互いの魔力を使い切った後は、体力も限界に達して倒れるように意識を失うことが多い。
力尽きて寝てしまうだけなのだが、生徒たちを介抱するために救護室の準備も整えてあるらしい。
それを続けることで、少しずつ魔力量の限界値を広げることができる。
相手と一体となって魔力を練ることで、それまで眠っていた自身の属性操作ができるようになると言うおまけ付きだ。

「アマーリエはどうしているんだ?」

「私は他人に魔力を流せないから、ルイス先生に魔力を吸収する魔道具を貸してもらって、自分の中で魔力を紡ぐ練習をしているわ」

独りでするの寂しいのよねぇと、アマーリエはひとりごちる。

「でも、相性次第ではすぐに失神したり反発しすぎて体調を崩す子もいて、ペアを解消したりもしているし。2人でするのも結構大変なのよ」

魔道具に選ばれたからといって、絶対にうまくいく相手だというわけでもないらしい。
魔力酔いはどんな症状が出るか、個人差が大きいようだ。

「私の相手は平民の子なんだけど、私よりも魔力量が多いから引っ張っていってもらえてるわよ。操作は私の方がまだ上だから、そこは補いあったりね」

ソフィアはペアの相手と上手くいっていると笑顔で言った。

「へぇ、いろいろあるんだな」

初めて聞くやり方に、ジェイデンは素直に感心する。

アマーリエが話を聞いていたジェイデンの横に近づいて、そっと耳元に口を寄せる。
何だ?と思う間もなく、吐息が耳元にかかった。

「噂じゃ、最高の相性の相手との魔力循環は、死ぬほど気持ちいいって噂よぉ」

私には一生味わえないけど、とにやにやしながらアマーリエが小声で囁いた。
一応、ソフィアに聞こえないよう配慮をしているが、ぐふふと笑うアマーリエの表情は酒場の親父のようである。

揶揄いの視線を寄越す友人に向かって、呆れながらジェイデンはしれっと答えた。

「…それは楽しみにしておかないとな」


ソフィアは、よく分からないやりとりに目を丸くしていたが、ちょうど午後の予鈴が鳴ったのを聞いて3人とも立ちあがり、中庭を後にした。

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