45 / 64
二章 士官学校
授業のはじまり②
しおりを挟む「ところで、補習はどうなっているの?」
午前の授業を終えたジェイデン、アマーリエとソフィアは3人で食堂で昼食を取り終わったところだった。
天気がいい日だ。3人は中庭で午後の授業に備えて予習をしていたところである。
そこで、思い出したようにアマーリエがジェイデンの補習の話題を出した。
「ああ、まだ予定は立ってない。一期分遅れているが、筆記試験を受ければ免除されるものと、実技試験前に必須の単位とがあるからな。それぞれの講座をひと通り受けてから決めると言われてる」
「薬草学のエクリン先生は、一期の試験の合格点が取れれば補習はいらないだろうって言っていたものね」
アマーリエが午前中の授業を思い返しながらそう相槌を打った。
薬草学は騎士団でも必須項目だ。一期で習う基礎的な知識はすでに身につけている。
「一期で教わる内容って、ほとんど基礎ばかりだから。試験だけで免除される単位も多いと思うわ」
ソフィアもそう同意する。
その他にも、レポートを提出する事で単位がもらえる講座もある。
魔物学もその一つだ。
「魔物学のバリー先生は、レポート派だからある意味楽よ」
「そうなのか?」
「生徒の出身地の魔物をまとめたレポートだけでいいの。私たちは一期の授業中に終わらせたわね。…あれって、先生の趣味なんじゃないって思うところもあるけど。研究には役に立ってるって言うし、一石二鳥なのかしら」
彼が今取り組んでいる研究は、王国全土の魔物分布図の作成だ。
まだ人が足を踏み入れない魔物の地も多くある。
地方出身者が多い士官学校は、彼にとって貴重な情報収集の場だ。
「午後の剣術は騎士団でも訓練をしていたから、何とかなるだろ。魔法学は今どんな授業をしているんだ?」
ジェイデンの得手は剣だ。
騎士団でも訓練は続けていたから、授業についていけないような事態にはならないはずだ。
反対に、魔法学については北の辺境騎士団には専任の指導者がいなかったこともあり、最近は伸び悩んでいたところだった。
「一期では魔力操作についてしか習っていないわ。でも、かなり難しいわよ。北の予備学校で習った魔力操作の上位版って感じね。私は魔力の放出ができない体質だから、説明するのが難しいわ」
アマーリエの使える魔法は身体強化のみだ。
魔力を体外に放出できず、その代わりに体内循環できる人間は少ない。
彼女の父親もそうだが、王国内でもガイナル家のみに稀に現れる特殊体質の持ち主である。
「アマーリエは特殊な魔力操作方法を教えてもらっているから、参考にならないわよ。私たちみたいな一般の生徒は、魔力量の限界値を増やすための訓練と、属性ごとに魔力を練る方法を教わっているわ」
国民の大半が魔力持ちとして生まれるが、平民のほとんどは属性を一つしか持たない。その上、魔力量は非常に少なく、せいぜい飲み物を冷やす程度の氷を生成したり、擦り傷を癒したりする程度の魔法しか使えない。
貴族はほとんどが魔力持ちだが、複数の属性持ちは少ない。さらに、魔力量も個人差が大きいため、出世や婚姻に多大な影響を及ぼす。
その結果、高位貴族に複数属性・魔力量が大きい者が多く産まれるのだ。
「みんな魔力の限界値が少しずつ増えているわよ。素質があっても使えない程度だった属性についても伸びてきているわ」
士官学校に入学できる生徒は、入学の時点で厳しい選別をくぐり抜けてきた者ばかりだ。
平民の中にも、貴族を凌ぐような魔法の才能を持つ生徒がいる。貴族は家庭教師に幼い頃から魔力操作を習うが、彼らは入学するまで魔法教育を受けたことがほとんどない。
彼らは、士官学校で専門教育を受けることで、その才能をさらに開花させていくのだ。
「ルイス先生は素晴らしいわよ。もう伸び代が少ないって言われている貴族の生徒も、彼のやり方で訓練するとさらに成長できているの。私も、少しずつ伸びていっているのがわかるから、授業が楽しいわ」
「どんなやり方なんだ?」
説明するのが難しいんだけど、と前置きして詳しく説明してくれた。
「魔力の相性がいい相手と組んで、2人1組でやるの。今まで家庭教師には自分の中で魔力を練る方法を教わってきて、そうやって訓練してきたんだけど、ルイス先生は合成魔法の専門家だから、新しい方法を思いついたみたいね」
ソフィアが言葉を選びながら説明してくれた内容はこうだ。
まずは魔力の相性を測る魔道具で、クラスの生徒の相性をみて相棒を決める。
向かい合わせで両手を繋ぎ、お互いの魔力を相手と自分の中を循環するように練っていく。なるべく細く、極細の糸のように魔力を練り、お互いの魔力が尽きるまでずっと循環し続けるのだ。
お互いの魔力を使い切った後は、体力も限界に達して倒れるように意識を失うことが多い。
力尽きて寝てしまうだけなのだが、生徒たちを介抱するために救護室の準備も整えてあるらしい。
それを続けることで、少しずつ魔力量の限界値を広げることができる。
相手と一体となって魔力を練ることで、それまで眠っていた自身の属性操作ができるようになると言うおまけ付きだ。
「アマーリエはどうしているんだ?」
「私は他人に魔力を流せないから、ルイス先生に魔力を吸収する魔道具を貸してもらって、自分の中で魔力を紡ぐ練習をしているわ」
独りでするの寂しいのよねぇと、アマーリエはひとりごちる。
「でも、相性次第ではすぐに失神したり反発しすぎて体調を崩す子もいて、ペアを解消したりもしているし。2人でするのも結構大変なのよ」
魔道具に選ばれたからといって、絶対にうまくいく相手だというわけでもないらしい。
魔力酔いはどんな症状が出るか、個人差が大きいようだ。
「私の相手は平民の子なんだけど、私よりも魔力量が多いから引っ張っていってもらえてるわよ。操作は私の方がまだ上だから、そこは補いあったりね」
ソフィアはペアの相手と上手くいっていると笑顔で言った。
「へぇ、いろいろあるんだな」
初めて聞くやり方に、ジェイデンは素直に感心する。
アマーリエが話を聞いていたジェイデンの横に近づいて、そっと耳元に口を寄せる。
何だ?と思う間もなく、吐息が耳元にかかった。
「噂じゃ、最高の相性の相手との魔力循環は、死ぬほど気持ちいいって噂よぉ」
私には一生味わえないけど、とにやにやしながらアマーリエが小声で囁いた。
一応、ソフィアに聞こえないよう配慮をしているが、ぐふふと笑うアマーリエの表情は酒場の親父のようである。
揶揄いの視線を寄越す友人に向かって、呆れながらジェイデンはしれっと答えた。
「…それは楽しみにしておかないとな」
ソフィアは、よく分からないやりとりに目を丸くしていたが、ちょうど午後の予鈴が鳴ったのを聞いて3人とも立ちあがり、中庭を後にした。
397
あなたにおすすめの小説
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる