公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

合同授業①

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朝の通学路は騒がしい。

ジェイデンとセオドアは連れ立って登校しながら、午後の授業について話していた。
すれ違う登校中のクラスメイト達に挨拶を返しながら足を進める。

「合同練習は今日の午後か。ようやくだな。ここまで長かった・・・」

ジェイデンはひたすらこなした自習時間を思い返しながらそう言った。しかしその顔は、午後の授業が楽しみだと隠しきれていない。

個々での魔力循環ができるようになり、ペアとの魔力合わせが可能な段階になったと、ようやく合格がでたばかりだ。今日の授業から、ようやく他の学生に追いつき、晴れて補習は終了というわけである。

「俺はともかく、お前はルイス先生と監督係の予定がなかなか合わなかったからな」

そう言われたジェイデンは、はぁと息を吐いて「まぁな」と返した。
ルイス自身も多忙だったが、監督資格のある教員は少なく確保が難しい。

「それは相手が教師だからしょうがない。お前まで俺達に合わせなくてもよかったんじゃないか?」

なかなか予定の合わない2人に合わせて、魔力操作が安定してきたセオドアとマーゴットも合流し後半はほぼ合同訓練になっていた。

「マーゴット嬢は2人でやりたかったみたいだったぞ?」
「そうか?」

鈍感なジェイデンでもわかるくらいの態度だったが、セオドアは唇の端で笑ってジェイデンを見下ろした。

「やめろよ、その顔」

セオドアの子供をあやすような胡散臭い表情に、ジェイデンは眉を寄せた。

「訓練室の予約が最近取れなくなったからな」

話題を逸らすようにそう続けたセオドアの背を、バシっと音を立てて叩く。

「なんだよ、痛いな」

ジェイデンはかなりの力を込めたつもりだが、セオドアの体幹はゆるがない。

「少しは慌てろ。腹立つ」

ジェイデンの拗ねたような口振りに対して、セオドアは相変わらずの表情だ。その余裕にジェイデンは悔しげな顔で横を歩いた。










「…訓練室が混んでるのは、野外訓練前だからか?最近は殺気立ってる奴らもいるな」

しばらく無言で歩いていた2人だったが、そのうちにジェイデンは何に拘ってたのかと馬鹿らしくなり口を開いた。

「それもあるだろうな。特に3年生は訓練の成果が卒業時の成績に響くし、みんな必死なんじゃないか?」

セオドアの人ごとのような物言いに、ジェイデンが小さく苦笑する。

「お前は他人事じゃないだろ?2年生も参加するんだし」
「まぁそうだけどな。それを言うなら、一年生も何人かは森の側に呼ばれるみたいだぞ」

野外訓練は、毎年春にキヴェの郊外で行われる野外大規模災害訓練のことだ。

この場合の災害とは魔物の異常発生のことで、実際に森の中で行われる。
魔素の濃い森の奥には、魔物が発生しやすい洞窟がある。そこから魔物が溢れ出さないように、あえて学生たちの訓練を行い、一年毎に魔物を間引く。
もちろん危険に備え、王都と北の辺境騎士団から精鋭の騎士達も派遣される。森の中に3年生、森に近い陣営に2年生と一部の戦闘力が高い1年生が配置される。残りの1年生はキヴェの側で、はぐれた魔物が街や街道に被害を出さないよう後方支援をしながら監視する役割がある。

来月の野外訓練に向け、実戦訓練を行う生徒が増えて訓練室は連日人気だ。

士官学校に通う学生たちのうち、半数ほどは実戦経験がない。
王都出身の貴族の令息・令嬢たちは、貴族学校や家庭教師からの自宅教育を経て入学する。平民の生徒は、公営学校で魔力持ちと判定された者がほとんどであるためだ。
地方出身者たちは、彼らとは真逆で、それぞれの騎士団の予備学校卒業生が占める。

王都周辺に比べ魔物の数が多い北の辺境騎士団にとっては、通常業務のような訓練だ。
去年までセオドアは辺境騎士団で前線に立って魔物と戦っていたし、新人騎士だったジェイデンでさえ魔物との戦闘は日常だった。魔物との戦闘経験が少ない多数の生徒たちと比べると、2人の立ち位置はお守りの騎士の感覚に近い。

「魔物と戦えない騎士なんて何の価値もないからな。学生のうちに慣れて置けるならその方がいいだろ」

そう言って眉を寄せるジェイデンに、セオドアは「辛辣だな」と苦笑いで返す。しかし北の人間にとって魔物と戦うことは当たり前のことだ。セオドアもまたジェイデンと同じ考えだった。

「俺もそう思うけどな、そもそも王都の周りは魔物が少ない。その分王都の騎士は対人警護は俺たちより優れてるんだよ。貴族が多いからな」

ジェイデンに身一つ寄せ、声を落としたまま、耳元にその先を続ける。

「でもま、一年のお前とっても野外訓練は他人事じゃない。お前は間違いなく2年生と同じ班に入れられるだろうからな」
「何でだ?」

聞き返すジェイデンに、小声のままセオドアが続ける。

「ルーとギードの参加を学校側から打診された。ただの後方支援ならあいつらは必要ないだろ」

これを機に、一角狼の能力を測る目論見も、学校側にはあるかもしれない。
ジェイデンとセオドアには北の辺境騎士団での実務経験もある。希少価値の高い騎獣との訓練は学校側としても興味があるのだろう。
そう告げるセオドアの口調は確信めいていた。

「値踏みされてるみたいで気に食わない。…まぁでも、最近はずっと街にいるから、あいつらにはいい刺激になるかもな」

きっと今も、日当たりのいい窓辺で寛いでいる飼い犬のような生活の2匹を思い浮かべて、思わず笑みを浮かべたジェイデンがそう返したところで、2人は校舎に着いた。

ちょうど同じ教室の生徒に声をかけられて、ジェイデンは挨拶を返す。

「じゃあまた午後の授業で」
「ああ」

セオドアと入口で別れ、それぞれの教室へ向かった。






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