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二章 士官学校
魔力循環④
しおりを挟む冬季休暇に入る前のマーゴットは、失意の中にいた。
魔力循環の相手は不祥事を起こして停学になったし、休み前の試験の結果は散々だった。
おかげで冬季休みは母親から嫌味を言われながら補習の課題に追われ、友人に誘われていた遊びには何一つ参加できなかった。
新学期が始まった時は何故かほっとしたほどだ。
休み明けの教室で友人らが冬の社交会の話を楽しげに話しているのを、マーゴットは惨めな気分で聞いていたが、自分の知らない情報を耳に入れるためには笑顔で相槌を打つしかない。
始業式で紹介された北からの転入生の話題には興味があった。
冬の社交会ではロンデナート家令嬢の婚約者に誰が収まるかがもっぱらの噂だったようだが、年が明けてからは、突然現れた美貌の次男に社交界はざわめいた。
ジェイデン自身は冬の間社交界には姿を現さなかったが、幾人か縁のある貴族の私邸には挨拶に訪れたようで、ちらりとその美貌を眼にした幸運なご婦人方がいたらしい。
マーゴットにとって、公爵家は雲の上の存在だ。
さすがに学校内とはいえ、見ず知らずの人間には話しかけることすらできない人物である。
(私ってば、本当に幸運だわ)
噂好きな学生らの目線を感じながら、マーゴットは学校の廊下をゆっくりと足を進める。
あと少しで教室の前、というところで仲の良い女友達に声をかけられた。
「おはよう、マーゴット」
「あら、おはよう」
挨拶を交わしながら、マーゴットは教室に入り自身の席につく。
そのまま同じ組の女友達に囲まれた。
「今朝、あのお二人とお話ししたって本当?」
「ご挨拶をしただけよ」
マーゴットはそう言って、嫌味にならない程度に微笑んだ。
浮き足立つ友人たちを見回してから、ゆっくりと口を開く。
「今朝ね、ジェイデン様に紹介していただいたの」
「きゃあ、凄いわ」
「そんな、大したことはないのよ」
彼女の桃色の唇に浮かぶのは、少女らしい傲慢さと少しの優越感だ。
マーゴットの生家、パウエル家は元々平民出身の騎士だった祖父が、下流貴族の祖母と結婚したために騎士爵を賜った家系だ。
しかしマーゴットの父や兄弟は魔力が低かったため、騎士にはなれず、王都を守る兵士として働いている。
家族の中でマーゴットだけが祖母の家系から魔力を受け継いだ。
そのため一家の期待を背負って彼女は士官学校へと入学することとなった。
たとえ、彼女自身に騎士となる意志がなくとも。
もし彼女が騎士になれなければ、パウエル家は騎士爵たる資格を失い、祖父が亡き後は、凖貴族から平民へ戻ることになる。
マーゴットは騎士になる事に興味はなかったが、凖貴族としての生活を捨てることはできなかった。
今さら平民に混じって労働をする事は彼女には我慢ならなかったし、平民に嫁いで市中で苦労をすることも嫌だった。
嫌々ながら士官学校へと入学した彼女だったが、しばらくすると、ここはとても良い出会いの場ではないかと気付いた。
街中では挨拶さえできないような身分の相手と、同じ教室で学べるのだ。
彼女の隣の席の男子生徒は男爵家の一人息子で、いかにも箱入りの彼は、目が合ったマーゴットが微笑むだけで顔を赤くした。
魔力合わせの相手のグエルは、貴族ではないが王都でも名のある商家の跡取り息子だった。
(卒業までに、誰にするか決めればいいわ)
そう思って、何人もの男子生徒と仲良くしていたマーゴットだった。
しかし先日、魔力操作の相手としてセオドアを紹介されてマーゴットの胸はときめいた。
季節外れの編入生である彼は、主人であるロンデナート家の次男のために騎士団を辞めて士官学校にやってきた、将来有望な若者である。
新学期が始まってすぐ、北の辺境地からやってきた主従は女生徒たちの噂の中心になった。
公爵家の次男の美貌は物語に出てくる戦神のようで、友人たちはすぐに夢中になったが、マーゴットはその横に付き従う黒髪の青年の方に目を奪われた。
「今は補修で講義を受けていらっしゃるわ」
魔力循環についての補修を、ジェイデンとセオドアは受けている途中だ。
マーゴットは早くセオドアとの魔力循環を行いたかったが、ルイスに必ず教師の同席が必要だと止められていた。
学年が違うと授業内に行うこともできず、もどかしい気持ちを抱えていたが。
今朝のやりとりを思い出して、マーゴットはふふふ、と微笑んだ。
「本当に、待ち遠しいわ」
そう言って頬を染める様子が、恋物語に憧れる少女たちには眩しく見えたのか、友人達は黄色い声を上げてマーゴットを応援した。
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