公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

合同授業②

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その日の午後。
魔法学の合同授業で、一番大きな訓練室は騒がしかった。


1年生と特別参加の他学年の生徒も参加して談笑している。生徒の相手の騎士や関係者もちらほらと混じっていた。
生徒の数に合わせて、教師もそれなりの人数が参加している。
それぞれの教師が点呼を終えると、静かになった訓練室全体に防御魔法が展開された。
授業の開始の合図とともに、生徒達は合わせて魔力を練りはじめる。


初参加のセオドアとマーゴット、ジェイデンとルイスは、授業に慣れている他の生徒たちと少しだけ離れた場所に座っていた。

「授業を受ける側は久しぶりだから、変な感じだ」

ルイスが微妙な笑い顔で、頭を掻く。
それを聞いたダンパーは「それはこっちの台詞です」と渋い顔だ。
魔力循環の第一人者に、なぜ授業をする羽目になるのか。
今日のルイスはジェイデンのペアとして参加するため、監督者としての権限を持たない。
涼しい顔で生徒と一緒に座っているルイスに、ため息をつきたい気分のダンパーである。

気の毒そうに見上げる3人の生徒達の目を振り切るように、ダンパーはこほんと咳をした。

「今日から正式に2人での魔力合わせを始めます。初めての2人は、教本は予習していますか?」

ジェイデンとセオドアは軽く頷き肯定して、ちらりとルイスの横顔を見る。教本とは、ルイスの著書だ。
すでに一度読み終えていたその本を、昨夜二人で読み返し、手順は頭に入れていた。

「一通りはわかります」
「そうですか。ではそちらは?」

マーゴットは以前の相手と実技は経験済みだ。問いかけられて「大丈夫です」とこちらも頷いた。

「いいでしょう、では実技の説明をしながら進めていきます」










「では早速ですが、お互いの手を取ってください」

ダンパーに促され、椅子の位置を変えてお互いに向き合う。
膝がつきそうな距離で座ったまま、ルイスが先に手を伸ばした。

「ジェイデン、手を」
「ああ、はい」

初めての魔力合わせに、ジェイデンは少し緊張気味だ。

セオドアと手を繋ぎ、マーゴットは頬を染めている。令嬢らしく異性との触れ合いを恥ずかしがる様子が初々しい。全く表情を変える様子のないセオドアとは対照的だ。

それを見ていたジェイデンは、自身の相手が男で良かったなと思いながら、慌てて両手を差し出した。








「うわっ」

ルイスの手に触れた瞬間、バチリとひりつく様な痺れを指先に感じて、ジェイデンは思わず手を引いた。2人の間に、弾かれたように火花も散る。

「きゃあっ!」

予測していなかったその反応に、真横にいたマーゴットが悲鳴を上げた。

「びっくりしたぁ。…えっと、どうしたんですか?」

一瞬の出来事の後、すぐに冷静になった彼女は、思わず席から立ち上がって心配そうに尋ねた。
何があったのかとジェイデンは目を丸くする。ルイスは弾かれた手を開いたり握ったりと確認しつつ、「うーん、これはあれだね」と心当たりを反芻しながらマーガレットに心配しないよう告げた。
そう言われた彼女は、心配そうな顔をしながらも自分の席につく。

「我々はどうやら相性が良すぎるみたいだな、ジェイデン」
「どういうことですか?」
「魔力の相性がいい相手とは、時々こう言うことが起こるんだ。もう一回いいか?」

ルイスはそう言いながらジェイデンの手を再び取った。
今度は先刻のような反応は起こらない。
しかし、両手をしっかり握り合うと、痺れの様な感覚が繋いだ手から昇ってくる感覚が腕を伝って背筋に響く。
その感覚を打ち消す様に、ルイスがさらに強く手を握り込んだ。

「相性がいい相手だと魔力も循環しやすいんですけど、魔力暴走も起きやすいんです。気をつけてください。お二人とも元々の魔力が強いですし、最初は魔力を絞れる所まで少なくしてやりましょう」

二人の様子を見たダンパーが、焦った様子でそう説明する。

「まぁ、そうするしかないよね」

ルイスは手を離すと「まずは魔力を最小限に」と続けた。

自身も自分の魔力に向き合い、2人は自分の限界まで魔力を絞ってから授業を再開する。
繋いだ手は、今度は反発せず二人の間を巡っていく。

「うわ…」

ぞくりとする。
ジェイデンは冷たい細い水の流れが、身体の深いところを流れていくのを感じた。いつも自身の中にある、血流とはまた違う不思議な感覚だ。

「そうです。良さそうですね」

2人の魔力合わせが成功した様子を見て、ダンパーがほっと息をつく。

隣で見守っていたセオドアとマーゴットも、問題がなさそうだとお互いを見やった。

「俺たちも続けようか」
「はい!お願いします」

授業はまだ始まったばかりだ。








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