公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

合同授業③







マーゴットとセオドアは順調に魔力を合わせていた。

マーゴットは経験者らしく慣れていたし、セオドアも1人で魔力循環をするよりも、他人との合わせの方が楽に感じた。
魔道具に魔力を流す時と大差ない、と内心セオドアは独りごちる。
他人に聞かれたら「魔道具と人間を一緒にするな」と眉を潜められそうな事を考えながら、上機嫌のマーゴットの手を握り続ける。



順調に授業は進み、そろそろ終わりにしようと周りがざわつき始めた頃、不意に手元に落としていた視線をあげると、自身の顔を見つめていたであろうマーゴットと視線が合う。
彼女は少し慌てて、その後は恥ずかしそうに視線を外した。

彼女の好意はわかりやすいが、セオドアにとっては女性から向けられる視線はいつものことだ。
こういう手合いは気づかない振りをするのが一番だと彼は知っている。
好意を全面にし、興味がある事を隠さない女。しかし自分に自信があればあるほど、自分から最後の決定打を言わないからだ。

「どうした?」
「っいえ!あの、セオドア様とは、前のパートナーより合わせやすいです!」

うっかり早口になってしまったマーゴットは、頬を赤くしながら俯いた。

「そう、よかった」

笑顔で当たり障りのない返事をしたセオドアは「そろそろ終わりみたいだな」とお互いの魔力を霧散させるように言う。循環し合い、練度が高くなった魔力は、手順通りに消滅させないと時に暴走を起こすためだ。

お互いを行き来していた魔力が無くなったのを確認して、二人は繋いでいた手を離した。

「お疲れ様。うまくいきそうだな。もう補習で君の時間を無駄にしなくて済む」

笑顔で牽制するセオドアに、マーゴットは気づいているのかいないのか。
授業外では会わないと言外に匂わせつつ、礼を言うセオドアにマーゴットは少し焦った様子だ。

「無駄だなんて!そんなことないですよ!私も勉強になりましたし。…あの、今日は思っていたよりしっかり魔力が練れた感じがしましたね。ふふ」

なんて素敵な相性なんでしょうと嬉しそうなマーゴットに、顔だけは笑顔を保ったまま黙るセオドア。
実際のところ、マーゴットは最初の相手であるグエルに比べて、セオドアとは段違いの合わせやすさを感じていた。
単純な彼女は余計にセオドアへ運命を感じているわけだが、二人の間には形容しがたい温度差がある。

そばについていたダンパーが、そのなんとなく噛み合わない雰囲気を感じてか「初めてにしてはよかったですね!」と、場を和まそうと声を弾ませた。








一方、ジェイデンとルイスは思ったように合わせが進まなかった。
そもそもこの二人が合わせるために、最初に魔力を最小限まで絞らなければならない。
そこから暴走しないよう魔力量を少しずつ上げていかなければならないのだが、消えそうなほど絞った魔力は、増やしていくことが思ったより難しい。

ジェイデンとルイスの額には、薄らと汗が滲んでいる。
その様子に、ダンパーはそろそろ終わりにしましょうと声をかけた。

「君たちは魔力の強弱を合わせる練習が必要そうですね」
「ああ。実際にしてみると思ったより大変だな。魔力を大きくしようとすると一気に膨れ上がりそうになるんだ。2回くらい危なかったな、ジェイデン」
「はい。ギリギリでした」
「防御魔術で守られてるから、そんなに被害は出ないと思うけど。最後の方、結構力技で押し留めてたからね。君もなかなかやるなぁと思ったよ」

爆発寸前の魔力を、二人で必死に押し留めた経験が、ジェイデンとルイスに連帯感を持たせている。
和やかなやり取りだが、会話の内容は物騒だ。

静かに集中しているものだと思っていた2人の様子に、ダンパーが顔を引きつらせる。
「そういうことは、その時言ってください!」と彼は声を張った。

「ごめんごめん。僕も初めてのことだから、こんなものかなと思ってたんだよ」
「すみません、俺は必死で余裕がありませんでした…」

ルイスとジェイデンは大人しく謝るが、ダンパーの勢いはおさまらない。

「何人が教室にいると思ってるんですか!あなた達2人とも魔力量が人の倍くらいあるんです。暴走したら始末書で済みませんよ!!」

そう捲し立てながら、大きな事故もなく授業が終わった安堵を一番感じているのは、間違いなくこの監督係の教師に違いなかった。









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