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だから、竜真はそこに目を付けた。
だが、それは決して、今まで天黄組が手を出そうとしなかった禁忌である。
(だから、いつまでも天黄組は上野の地回りなんだよ。それでも昔より、正弘親分は組を大きくした方らしいが――結局それも、下町止まりじゃないか。だから、あの人はダメなんだ)
内心で吐き捨て、竜真は隣に座る東堂へグラスを傾けた。
この車には、ミニバーが取り付けてあった。
「それじゃあ、お互いの目的は大体合意したようですね。一杯やりますか? 」
「そうですねぇ……あと、どのくらいで到着しますか? 」
予定を変更して、今日は横浜まで車を走らせた。
道は、思ったよりも混んでいる。
「――ええと、一時間は掛からないと思いますが……」
「そうですか」
そう言い、東堂は逸る気持ちを抑えるように息をついた。
「……では、先に祝杯を挙げておきますか」
「ええ、我々の発展を祈って」
「フフフ。私はもう、想像しただけで爆発しそうですよ」
膨らんだ股間を隠しもせずに、東堂はそう言ってきた。
――――この、変態野郎が。
内心の罵倒を隠し、竜真は微笑みを浮かべて「乾杯」と言った。
◇
窓の外に潜む影に気づき、聖はハッとした。
「だ、誰だっ!? 」
『オレは、あんたを助けたい。仲間の眼を盗んで、戻ってきたんだ』
声の主は、聖の美しさに魅せられて、最後までその場を動かなかったあの人物である。
彼は一人、塔に閉じ込められたラプンツェルを助ける王子のような気持ちで、脱出のための様々な道具を用意して、ここへ戻ったきたのだ。
『早くここを逃げ出すんだ。オレの弟で了ってヤツがいるんだが、そいつの面倒を見てくれている、優しい叔父の家が近くにあるんだ。いったんそこで匿ってもらおう』
ガラス越しに聞こえる声に、聖は一縷の望みを覚えるが――――だが。
「……どこの誰かは分かんねぇが、やっぱりオレはここを動けねぇ……すぐにでも出て行きてぇが、上野の事を考えちまうと――だから、あの野郎を何とか説得して、大阪に帰ってもらうように竜真の親分を説得してくれねぇか?そうしたら、オレは自由になれる約束なんだ」
窓の外の人物は、どこからか脚立を都合して堀に架けているようだ。
ちょうど今は、屋敷は大掛かりな改装中である。
職人たちが大工道具を持って出入りしているのだし、そこから脚立を拝借するのは簡単だったろう。
『上野? あんた、上野から来たのか? オレはてっきり、竜真の親分がどこぞの債務者から、子供を買い取って連れてきたのかと思ってたが』
「違う! オレは、上野で盃事の約束だってしてたんだ」
『じゃあ、オレ達の仲間じゃないか。ん?あんた――――男か!? 』
脚立を使い、窓際まで寄ったところで、ようやく聖の正体が分かったらしい。
少女にしては胸が平坦だし、全体的に体の線がシャープだ。
薄紅の頬は、絹で作られた柔らかな人形というより、硬質な陶器のようである。
そして何より、その強い意志を宿す瞳と、蓮っ葉な口調は男のものであった。
儚げな美少女かと思ったが、それは勘違いだったらしい。
だが、だからと言って、それで興味が削がれる事はなかった。
男の身の上で、このような仕打ちに耐えていたのかと思うと……それはまた、違った意味で同情を禁じ得ない。
『あんた、ツラがいいから、あんな関西野郎の相手に選ばれちまったのか? 』
「ムカつくが、そうらしい。オレはこんなの全然望んじゃあいないってのに」
『そうか――気の毒に……』
相手はそう言うと、聖の現状に同情したらしく、窓ガラスをドンと叩いた。
『戸の方は鍵が掛かっていて入れないんだ。だから、このガラスを割って、あんたを助けてやるよ』
「そんなの――やれるもんなら、とっくにやって逃げてる。上野の親分が人質になっちまってんだ。上野に鉄砲玉が潜り込んでいるって、散々脅された。だから、オレは――」
『なんだって!? そんな不義理なマネを、竜真の親分が? 」
だが、それは決して、今まで天黄組が手を出そうとしなかった禁忌である。
(だから、いつまでも天黄組は上野の地回りなんだよ。それでも昔より、正弘親分は組を大きくした方らしいが――結局それも、下町止まりじゃないか。だから、あの人はダメなんだ)
内心で吐き捨て、竜真は隣に座る東堂へグラスを傾けた。
この車には、ミニバーが取り付けてあった。
「それじゃあ、お互いの目的は大体合意したようですね。一杯やりますか? 」
「そうですねぇ……あと、どのくらいで到着しますか? 」
予定を変更して、今日は横浜まで車を走らせた。
道は、思ったよりも混んでいる。
「――ええと、一時間は掛からないと思いますが……」
「そうですか」
そう言い、東堂は逸る気持ちを抑えるように息をついた。
「……では、先に祝杯を挙げておきますか」
「ええ、我々の発展を祈って」
「フフフ。私はもう、想像しただけで爆発しそうですよ」
膨らんだ股間を隠しもせずに、東堂はそう言ってきた。
――――この、変態野郎が。
内心の罵倒を隠し、竜真は微笑みを浮かべて「乾杯」と言った。
◇
窓の外に潜む影に気づき、聖はハッとした。
「だ、誰だっ!? 」
『オレは、あんたを助けたい。仲間の眼を盗んで、戻ってきたんだ』
声の主は、聖の美しさに魅せられて、最後までその場を動かなかったあの人物である。
彼は一人、塔に閉じ込められたラプンツェルを助ける王子のような気持ちで、脱出のための様々な道具を用意して、ここへ戻ったきたのだ。
『早くここを逃げ出すんだ。オレの弟で了ってヤツがいるんだが、そいつの面倒を見てくれている、優しい叔父の家が近くにあるんだ。いったんそこで匿ってもらおう』
ガラス越しに聞こえる声に、聖は一縷の望みを覚えるが――――だが。
「……どこの誰かは分かんねぇが、やっぱりオレはここを動けねぇ……すぐにでも出て行きてぇが、上野の事を考えちまうと――だから、あの野郎を何とか説得して、大阪に帰ってもらうように竜真の親分を説得してくれねぇか?そうしたら、オレは自由になれる約束なんだ」
窓の外の人物は、どこからか脚立を都合して堀に架けているようだ。
ちょうど今は、屋敷は大掛かりな改装中である。
職人たちが大工道具を持って出入りしているのだし、そこから脚立を拝借するのは簡単だったろう。
『上野? あんた、上野から来たのか? オレはてっきり、竜真の親分がどこぞの債務者から、子供を買い取って連れてきたのかと思ってたが』
「違う! オレは、上野で盃事の約束だってしてたんだ」
『じゃあ、オレ達の仲間じゃないか。ん?あんた――――男か!? 』
脚立を使い、窓際まで寄ったところで、ようやく聖の正体が分かったらしい。
少女にしては胸が平坦だし、全体的に体の線がシャープだ。
薄紅の頬は、絹で作られた柔らかな人形というより、硬質な陶器のようである。
そして何より、その強い意志を宿す瞳と、蓮っ葉な口調は男のものであった。
儚げな美少女かと思ったが、それは勘違いだったらしい。
だが、だからと言って、それで興味が削がれる事はなかった。
男の身の上で、このような仕打ちに耐えていたのかと思うと……それはまた、違った意味で同情を禁じ得ない。
『あんた、ツラがいいから、あんな関西野郎の相手に選ばれちまったのか? 』
「ムカつくが、そうらしい。オレはこんなの全然望んじゃあいないってのに」
『そうか――気の毒に……』
相手はそう言うと、聖の現状に同情したらしく、窓ガラスをドンと叩いた。
『戸の方は鍵が掛かっていて入れないんだ。だから、このガラスを割って、あんたを助けてやるよ』
「そんなの――やれるもんなら、とっくにやって逃げてる。上野の親分が人質になっちまってんだ。上野に鉄砲玉が潜り込んでいるって、散々脅された。だから、オレは――」
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