8 / 23
8 聞けば聞くほど
しおりを挟む
「お茶を淹れるのが上手いね。それにここに来てもそうそうお菓子まで出ることは無かったんだけど」
「あ、いえ私が好きなのでつい作ってきてしまって」
「ほう! 君が作ったの!」
そう言いつつ、にこにことスリール子爵は私を眺める。
しかし眺められているだけでは間が保たない。
だったらいっそ、もう最初に感じた疑問を口に出してしまおうと思った。
「あの、本当にさっきから私の顔をよくご覧になってますが……」
「ああごめんごめん。君があまりにもうちの母親の若い頃によく似ているから」
ほらどうだい、とスリール子爵は私に手帳に挟んだ写真を見せる。
かなり古いものだ。
「両親が揃った写真というのがあまり無いのでね、つい若い頃のものでもいいから、と母に頼んだんだ」
「え、では今は子爵には」
「父はもうずっと前に亡くなってね。母と二人暮らしなんだ」
「二人暮らし、ですか」
「まあ、子爵とは名ばかりの貧乏学者のところにはそうそう嫁の来手がなかったからねえ」
そしてふっ、と遠い目をした。
「子爵様は学者様なんですか」
「そう。母にどれだけお前はもてないだ、と嘆かれたよ。付き合ったひとも殆ど居なかったし」
私は何度も写真と子爵の間に視線を往復させてから、こう切り出した。
「でも全く居なかった訳ではないのでしょう?」
「うん、まあ。でも向こうは遊びだったんだろうねえ。私は好きだったけれど。彼女を狙っていた男は結構居たし」
「もしかして、そのひとってアルマヴィータって言いませんでした?」
子爵はカップを置いた。
「え?」
「お付き合いしていたのって、十五年かもう少し前のことでは」
「君……」
緊張した空気が私達の間に漂った。
その時。
「ただいまミュゼット! アリサに頼まれた資料、ちゃんと見つけたよ」
キャビンさんが戻ってきた。
「ミュゼット?」
その名前にスリール子爵は更に目を見開いた。
「君の名前、ミュゼットって言うのかい?」
「え、ええ…… ちょっと変わっていると言われますけど」
そう。
この国の名前らしくないのだ。
まあそれを言ってしまえばファデットにしてもマルティーヌにしてもフランス人だし、ドロイデはドイツ方面の名だ。
ハッティはわからないが、ロッティはシャーロットで普通の名だ。
なのだけど。
マルティーヌに言わせると、
「わたしの国でそういう音楽が流行ってるとかどうとか」
そう言っていた。
「もしかして、君、アルマヴィータの娘なのかい?」
「はい」
それは事実だからうなづいた。
「そうか…… それで彼女は離れていったのか……」
「離れていった?」
「ああ。16年前、私は大輪の花の様な彼女に恋してね。数回ようやく付き合ってもらったんだ。人気者だったからね」
「え…… と」
つまり、だ。
「貴方は私の本当の父かも、ということですか?」
「あ、いえ私が好きなのでつい作ってきてしまって」
「ほう! 君が作ったの!」
そう言いつつ、にこにことスリール子爵は私を眺める。
しかし眺められているだけでは間が保たない。
だったらいっそ、もう最初に感じた疑問を口に出してしまおうと思った。
「あの、本当にさっきから私の顔をよくご覧になってますが……」
「ああごめんごめん。君があまりにもうちの母親の若い頃によく似ているから」
ほらどうだい、とスリール子爵は私に手帳に挟んだ写真を見せる。
かなり古いものだ。
「両親が揃った写真というのがあまり無いのでね、つい若い頃のものでもいいから、と母に頼んだんだ」
「え、では今は子爵には」
「父はもうずっと前に亡くなってね。母と二人暮らしなんだ」
「二人暮らし、ですか」
「まあ、子爵とは名ばかりの貧乏学者のところにはそうそう嫁の来手がなかったからねえ」
そしてふっ、と遠い目をした。
「子爵様は学者様なんですか」
「そう。母にどれだけお前はもてないだ、と嘆かれたよ。付き合ったひとも殆ど居なかったし」
私は何度も写真と子爵の間に視線を往復させてから、こう切り出した。
「でも全く居なかった訳ではないのでしょう?」
「うん、まあ。でも向こうは遊びだったんだろうねえ。私は好きだったけれど。彼女を狙っていた男は結構居たし」
「もしかして、そのひとってアルマヴィータって言いませんでした?」
子爵はカップを置いた。
「え?」
「お付き合いしていたのって、十五年かもう少し前のことでは」
「君……」
緊張した空気が私達の間に漂った。
その時。
「ただいまミュゼット! アリサに頼まれた資料、ちゃんと見つけたよ」
キャビンさんが戻ってきた。
「ミュゼット?」
その名前にスリール子爵は更に目を見開いた。
「君の名前、ミュゼットって言うのかい?」
「え、ええ…… ちょっと変わっていると言われますけど」
そう。
この国の名前らしくないのだ。
まあそれを言ってしまえばファデットにしてもマルティーヌにしてもフランス人だし、ドロイデはドイツ方面の名だ。
ハッティはわからないが、ロッティはシャーロットで普通の名だ。
なのだけど。
マルティーヌに言わせると、
「わたしの国でそういう音楽が流行ってるとかどうとか」
そう言っていた。
「もしかして、君、アルマヴィータの娘なのかい?」
「はい」
それは事実だからうなづいた。
「そうか…… それで彼女は離れていったのか……」
「離れていった?」
「ああ。16年前、私は大輪の花の様な彼女に恋してね。数回ようやく付き合ってもらったんだ。人気者だったからね」
「え…… と」
つまり、だ。
「貴方は私の本当の父かも、ということですか?」
13
あなたにおすすめの小説
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
妹のために犠牲になることを姉だから仕方ないで片付けないでください。
木山楽斗
恋愛
妹のリオーラは、幼い頃は病弱であった。両親はそんな妹を心配して、いつも甘やかしていた。
それはリオーラが健康体になってからも、続いていた。お医者様の言葉も聞かず、リオーラは病弱であると思い込んでいるのだ。
リオーラは、姉である私のことを侮っていた。
彼女は両親にわがままを言い、犠牲になるのはいつも私だった。妹はいつしか、私を苦しめることに重きを置くようになっていたのだ。
ある時私は、妹のわがままによって舞踏会に無理な日程で参加することになった。
そこで私は、クロード殿下と出会う。彼との出会いは、私の現状を変えていくことになるのだった。
生まれたことが間違いとまで言っておいて、今更擦り寄ろうなんて許される訳ないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
伯父である子爵の元で、ルシェーラは苦しい生活を送っていた。
父親が不明の子ということもあって、彼女は伯母やいとこの令嬢から虐げられて、生きてきたのだ。
ルシェーラの唯一の味方は、子爵令息であるロナードだけだった。彼は家族の非道に心を痛めており、ルシェーラのことを気遣っていた。
そんな彼が子爵家を継ぐまで、自身の生活は変わらない。ルシェーラはずっとそう思っていた。
しかしある時、彼女が亡き王弟の娘であることが判明する。王位継承戦において負けて命を落とした彼は、ルシェーラを忘れ形見として残していたのだ。
王家の方針が当時とは変わったこともあって、ルシェーラは王族の一員として認められることになった。
すると彼女の周りで変化が起こった。今まで自分を虐げていた伯父や伯母やいとこの令嬢が、態度を一変させたのである。
それはルシェーラにとって、到底許せることではなかった。彼女は王家に子爵家であった今までのことを告げて、然るべき罰を与えるのだった。
婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。
将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。
レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。
義妹がいつの間にか婚約者に躾けられていた件について抗議させてください
Ruhuna
ファンタジー
義妹の印象
・我儘
・自己中心
・人のものを盗る
・楽観的
・・・・だったはず。
気付いたら義妹は人が変わったように大人しくなっていました。
義妹のことに関して抗議したいことがあります。義妹の婚約者殿。
*大公殿下に結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい、の最後に登場したアマリリスのお話になります。
この作品だけでも楽しめますが、ぜひ前作もお読みいただければ嬉しいです。
4/22 完結予定
〜attention〜
*誤字脱字は気をつけておりますが、見落としがある場合もあります。どうか寛大なお心でお読み下さい
*話の矛盾点など多々あると思います。ゆるふわ設定ですのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる